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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都28 救出に向けて3

 

 イルニーク伯爵と話し終え、俺は学院に向かう。この時間からだと戦闘授業に間に合うかどうか。食堂での昼食は食べ損ねることになるな。どこかで食べていこう。


『時間を忘れて一人でゆっくり。お一人様レストランへどうぞ!』


『都レストラン分店、都カフェ 特別メニューもあります!』


 常設の店はやはりこの時間だと混み合っている。いくつか気になる看板もあったが、並んでいる時間はないよな。


「へいらっしゃい! 多種多様な串焼きだよ! 肉も野菜もあるぞー!」


「惣菜パンはいかがですかー! 歩きながら食べれますよ!」


 ふむ。今日は手軽な露店ものにするのが無難だろう。だが、種類が多いよな。どれにしようか。


「秘伝のタレ、特別な調理で仕上げた熊肉だよ! 1人3個まで!数量限定だが腹持ちはいいぞ!」


「おじさん、それくれ!」


 腹持ちがいいとな? これからハードな戦闘授業を受ける身としてはこれほど良いものはない!


「はいよ! 幾つだ? ニイちゃんはガタイが良いから上限まで買ってくか?」


「ああ。3個頼む。」


「よし、これで3個だ。合わせて360ハド。……まいどありー!」


 ハグハグ

 モグモグ


「ドリンクはどうだい? 今日はレモン水だよ。脂っこいものを食べたらこれ一杯! 安くしとくよ、何と80ハド!」


 ちょうど欲しいと思っていたところに飲み物を売っている露天の前に差し掛かっていたようだ。ここで買える飲み物は日替わりで、安いと評判だ。


「1杯。これで頼む」


「はいよ、お釣り20ハドだよ」


 ごくごくごく


「っはぁーー、口の中がスッキリしたな」


「良い飲みっぷりだね。良ければ味の感想を聞かせてもらえないかい?」


「ふむ。個人的にはもう少し濃い方が良いな。初めて飲んだからだとは思うが最初はレモンらしさが感じられない。だがアイデアとしてはとても良いと思う。出来れば他の味も試したいな」


「うんうん。そこはやっぱり課題だよねぇ。ありがとね、今度はスモモ味を試す予定だよ。もしまたここを見つけたら是非寄っておくれ」


「是非寄らせてもらう」


 さて、学院に行くか。



 *******



「ほらほらぁ♪ 反撃しないとすぐやられちゃうわよ〜。 一撃でもワタシに入れることが出来たらハグしてあげるわ♪ ……失敗したら、分かっているんだろうな?」


「「「ハグもいらねぇよ!!」」」


 俺達は懸命に飛んでくるファイアーボールを避ける、避ける、避ける!!


 今日の午後の授業は飛んでくる魔法を避けながら反撃出来るようになること。この手の授業は先生のスタミナ切れを待って終わるというパターンが多い。だが、それだといつまでたっても攻撃するタイミングが分からないままだから俺はいつもなんとかして反撃する。ただ、この先生だけは気軽に反撃もできない。

 なぜなら、たとえ反撃が成功してもその後に待っている『ご褒美』が恐ろしいからだ。そして、失敗した時のO・SI・O・KI☆も半死半生の目にあうので、手を抜くわけにもいかない。なんというジレンマか。

 ……ちなみにゴディラ先生はいわゆるニューハーフ。察してくれ。


「あらん♪ これはカマイタチね。ちょっぴり未熟な味だから……ゼノンくんね。オメデトォ♪」


 避け続けること数十分。唐突にファイアーボールの雨が止んだ。先生に攻撃できたのはゼノンのようだ。流石だな。ゴディラ先生も隙は出来るんだがなかなかそれをつくことが出来なかった。目に見える魔法じゃ相殺されてしまうからな。というか、ちょっぴり未熟な味って……個人の判別の仕方がおかしくないか?


「ゼノンくん、ワタシのハグを受けにおいで♪」


「結構です!」


 ゴディラ先生が約束のハグをしようとゼノンを呼ぶがゼノンは頑として断っている。そりゃそうだ。誰が好き好んでごつい男(しかも話しているのは女言葉)のハグを受けたいと思うのか。


「良いから良いから……来いよオラ」


 ひぃっ

 誰かが思わず悲鳴を上げる。気持ちは分かるぞ。それほどちょっと間を置いた後の『来いよ』はドス(・・)が効いていた。


 あわれ、ゼノン。仕方がなく先生の元へ向かい、ハグを受けていた。俺達は出来る限り遠巻きにそれを見つめる。


「あとは、自由にしていいわよ〜。それと、創作魔法の実験はいつものようにワタシかドル爺に相談してね」


 それが、ゴディラ先生のいつもの解散の言葉だ。今日は早くに終われたな。



「……ゼノン、大丈夫か?」


 やけに眉根を寄せて難しい顔になっている。先生のハグは結構なダメージを与えていたのだろうか。


「ん、大丈夫。ゴディラ先生って何者なんだろうね」


「男らしい見た目のオカマさんでしょ? 個性的な人よね。あの人、女子には意外と優しいのよ」


 オカマさんって……笑う子も泣き出しそうなあの先生をそう呼ぶとは。勇気あるな。それで、女子には優しいのか。


「意外だな。漠然と女子は目の敵にしていると思ってたよ。

 ……だがゼノンが聞きたいのはこう言ったことじゃないんだよな?」


「うん。えっと……ちょっとこの教室を借りよう」


 そう言って近くにあった教室で今日はもう使われない教室に入っていった。俺とラヴィさんは慌てて追いかける。


「ゴディラ先生関連の話ってそこまで警戒するものなのか?」


「うーん。あまり広めないほうがいい類のものではあるからね。とりあえず、誘拐事件について新しい情報。

『隠れた宗教は寂れた光の下にある』

 だってさ」


 隠れた宗教……邪神教か? 寂れた光……? 光が寂れるってどういう事だ。


「ねっ、ゼノンくん。それってさ……」


「うん、多分? 本当なら大進展だよね」


 2人だけで分かっているようで面白くない。一体あの謎の言葉は何を指しているんだ?


「なぁ、詳しく教えてくれないか? 『隠れた宗教』は分かるんだが『寂れた光』って何だ?」


「あー、シル兄ちゃんは南街区は行ったことある?」


「王都のか? 行ったことはあるがどこに何があるとか詳しいことは覚えてないな」


「それならちょっと分かりにくかったかもね。あのね、寂れた光っていうのは廃墟になった教会を指していると思うのよ。ね?」


「多分そうだと思う。邪神教は今は開けっぴろげに出来ないからいわば影の宗教で、その反対に殆どの人が信じている女神教は光の宗教ってことになるから、あの場合、光っていうのは十中八九女神教でしょ。で、南街区には廃墟になった女神教の教会があるわけだ」


 なるほど。光=女神教、寂れた=廃墟となった教会ってことか。それなら『寂れた光の下にある』というと、その廃墟の教会の地下に邪神教信者がいるんだな。


 待てよ? ゼノンの様子からしてその情報はゴディラ先生からもたらされたってことにならないか? 確かに何者か疑いたくなるな。


「話だけで判断するのも早計だ。確か今はアルが街に出ているはずだから確かめてもらうか?」


「出来るの?」


「ああ。この前アルがドル爺に教えてもらったらしい。【伝話】という技能で、特定の人物と念話のような会話が出来るらしい。相手が遠くにいる時に使うものだそうだ」


 ともかくやってみるか。


『アル。聞こえるか?』


『聞こえるぞ。何か用事か?』


『ああ。新しい情報が入ってな。敵は南街区の寂れた教会の地下にいるらしい。俺達は話に聞いただけだから信用しきれないんだよ。確かめてもらえるか?』


『承った。……ムグ』


 ……食事中だったか。悪いことしたかな。


「アルは何だって?」


「確かめて来てくれるそうだ。もう少し待ってろ」


「じゃあヨシズさんとか参加してくれる皆を呼んでくるね」


「分かった。あ、まずヨシズの所に行って皆を呼ぶのはそのヨシズから許可をもらってからにしておけよ」


「は〜い」



「 ……………。」

「 ……………。」


 き、気まずい…2人きりになると途端に会話がなくなる。何か話題は……。


「あの……」

「ラヴィさん……」


 互いの言い出しの言葉がかぶった。それに驚く。


「「っつ!」」


「……先にどうぞ」


 こういう時は先を譲るのがマナーだよな。


「あ、ありがとう。その、大したことじゃないんだけど、誘拐事件についてどう思っているのかな、と」


「どう思っているか? まぁ、誘拐されているのが子供のようだから早く助けてやらなきゃならないと思っている。小さい時にひどいトラウマを植え付けるわけにはいかないだろ? ……もう遅いのかもしれないが。情報が入ってきた時にすぐさま探したほうがもっと早く解決できたのだろうかとちょっと後悔している」


「いえ……シルヴァーさんの行動は間違ってなんかいないと思うわ。後悔する必要なんてない。……助かればたとえトラウマになっていたとしても傷は浅いもので済むはず。私みたいに克服することもできると思うわ。

 うん、ちゃんと助けてあげましょうね」


 頑張るぞ、と胸の前で拳を握りしめる。その仕草が可愛くて、不安を感じていた心が前向きになった気がする。そうだよな、トラウマを吹き飛ばすくらい格好良く助けてやればいいんだ。憧れの気持ちに恐怖心は消えていくものな。


「ありがとう」


「? どういたしまして?」


「疑問系じゃなくていいだろ」


 何故か笑いがこみ上げてきて2人して笑う。



 *******



「……青春してるね〜」


「ゼノン、そんなこと言ってるとシルヴァーより早く老けるぞ」


「ちょ、冗談に聞こえないよ。ドルメンにいた時も妙に老成した所があるってからかわれていたのに」


「ハハッ。まぁ入るか」


 教室に入ると驚いたことに既にシルヴァーが先ほどの笑いを消して真面目な表情になっていた。


「……そうか、情報は確かか……子供も? 先走るなよ、アル。……ああ、戻ってこい」


 話し終わったのを見計らって話しかける。


「よぉ、シルヴァー。今のは何だ? 念話にしちゃアルがいないが」


「伝話だよ。アルは今南街区にいる」


 伝話だと? 聞いたこともない…いや、ドル爺が知っていたのか?


「……知らないな。今度教えてくれ。パーティ内で使えたら便利だし。それで、途切れ途切れだったが、アルは南の教会が黒だと確認出来たのか?」


「間違いなく黒だ。子供の気配もあったらしい」


「聞いたか、明日向かうのは南街区の廃教会だ。各々必要になりそうなものを用意しておいてくれ。出来る限り身軽でな」


 割と無茶な要求だがそうしないともしかしたら瓦礫の下で果てることになるかもしれない。


「「「了解です!」」」


「集合はここの門のところで」


「「「ラジャー」」」


 これだけ連携取れれば最悪のことにはならないだろ。











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