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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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王都27 救出に向けて2

 

「……以上より、私が彼から聞いた事実です。こちらの手の者でも確かに貴族、それも伯爵以上の者の使用人の子供が行方不明になっているとの報告がありました」


 その報告に王は静かに殺気立つ。この王を怒らせて無事であった罪人(バカども)はいない。それ以前に自分の住む地域での不始末、我らが貴族が許しはしない。


「……随分と、舐められたものよの。犯人の特定は」


「かねてから追っていた者共であると推測されます。組織の特定は容易いですが、奴らの拠点の捜索に難航しております。現在、冒険者ギルドにも協力を打診したところです」


「ふむ……それも無理はなかろう。半世紀以上にわたってトカゲの尻尾である末端しか掴めぬような組織だからな。しかもここ数年は全く音沙汰もないときた。だが、今回のことで進歩はあるだろう。徹底的に囲い込んで叩け。『全能』の力、目に見せてやるがいい」


「はっ!」




 王への謁見を終えたイルニーク伯爵は早足に王城を歩く。優秀な家臣はそろそろ成果を手に屋敷で待機しているだろう。

 此度の事件、ただの誘拐ではなく、邪神信者が関係している、解決に不安が残るようなものだ。確証がなかったため王には告げていないが、かの集団は人体実験の試料を求めているという情報が上がっている。奴らならやりかねない。


「場所から言っても、黒だからな……。間に合えばいいが」


 城の外へ出て、待たせていた馬車に乗り込む。行き先は自分の屋敷だ。



「それで、どうだった?」


「はい、まずギルドですが、無事に協力を取り付けることができました。報酬もあの金額で足りるそうです。どうやら私が向かう前に誰かが打診していたようで、話自体はスムーズでした」


「そうか。よくやった。おそらくヨシズがあらかじめ話していたんだろう。次、カストル公の反応は?」


「はい! カストル公爵はやはり知らなかったようです。そのため、使用人も同席させて話をしました。怒り狂っておりましたが作戦には応じるようです」


 やはり、怒り狂っていたか……。私でもおそらくそうなるだろうからな。カストル公のような人物ならば言わずもがな。彼が暴走しないうちに成果を上げねばならんな。


「では、今日の夕方訪ねると伝えておいてくれ。その時に行動のすり合わせをしよう。お前たちはこの後も動いてもらうから今は休んでおけ」


「分かりました」

「了解です!」


 この2人は私の家に仕えている、隠密を得意とする家の姉弟だ。今現在の私の家で1番隠密に優れている。

 私と歳が近いからという理由で私付きになったのは確か……5年前か。私が領主の座を父から受け継いだ(奪った)のはほんの1年前であるのだが、本来なら1番隠密に優れている人物は領主付きになるので2人は5年前に父に付けられるはずだった。しかし、あの2人の家――ハイド家の現当主オルグランドは何を思ったのか私個人に仕えさせたのだ。わざわざその力を秘めさせてまで。今思えば、私が父の傀儡にならないように守るという意図があったのだろう。ともかく、5年間私の目となり手となった2人に私は全幅の信頼をおいている。今回もいい働きをしてくれるだろう。


「オルド」


「失礼いたします。どのような御用でしょうか、坊っちゃま」


 オルド――オルグランドはこの家を取り仕切る有能な執事であるのだが、小さい時から世話になったので今でも坊っちゃま呼びされている。いい加減にその呼称はどうにかならないものか。


「……オルド。そろそろその坊っちゃま呼びはやめないか?」


「ふむ。坊っちゃまが奥方様を得られた暁に卒業といたしましょう。それまでは坊っちゃま呼びを続けさせていただきます」


 ……まだ当分先だな。今の家の状態で妻を娶る余裕はない。そもそも、すぐ傾きかねないこの家に嫁いでくれるような剛の者はいないだろう。親しくしている女性もいないしな……。


「……まぁいい。私はしばらく執務室にこもる。夕方に呼んでくれ」


「かしこまりました」


 私が部屋を出ると、オルドの気配もフッと消える。この現象に遭遇する時はいつも思うのだ。ハイド家筆頭隠密はユリアとルドではなくお前なのではないかと。本人は筆頭は間違いなくあの2人だと言うがオルドも相当なものだぞ。


 ……さて、書類を片付けないと。シルヴァーが持ってきた件に動いている間にも書類はたまっていくのだから。



 *******



「おい、ゼノン。シルヴァーはどうした? サボりか?」


 俺は今学校に来たところだ。だが、シル兄ちゃんが一緒じゃなかったので皆不思議に思ったようだ。


「ちょっと用事があってそっちを優先しているんだよ。貴族絡みで」


「うわっ、マジか。面倒事を引っ張ってこないだろうな?」


 いや、もう遅い。


「絶賛厄介事に巻き込まれ中。勘のいい君をご招待!!」


「うげ……」


 とか言いつつ何か刺激的なイベントを求めていたのか、その目は期待に輝いている。


「なぁ、厄介事ってどんなのだ? 命の危険があるのか?」


「命の危険がない厄介事ってあるの? 今回は方々に協力を取り付けてあるからよほどまずいところに首を突っ込まなければ死にはしないと思うけど」


「そうか! なら……」


 ガラッ タイミングの悪いことに、ちょうど教室の扉が開く。


「席に着けー前を見ろー始めるぞー」


「ちっ、センセーが来ちゃったか。ゼノン、また後でな!」


「うん。昼食の時に皆に話すよ」


「おう、みんないるかー? ん? シルヴァーがいないな。風邪か?」


「用事があったらしいですよ。先生」


「ふむ。明日出す予定の課題を2倍にするか」


「「えー、ひどーい」」

 アハハハハ


 シル兄ちゃん、ご愁傷様。

 ゼノンは心の中で手を合わせておく。


「お、そういえばお前、私がここに来た時舌打ちしたよな、な? お前も課題を2倍にしてやろうか?」


「えー! そりゃないっすよ」


「アッハッハ。今度から口調には気をつけろよ? キノコ……お前、本当にこの名前なのか?」


「そうっすよ? 俺が生まれた時親父がキノコに当たっていて生まれた瞬間に立ち会えなかったらしいんす。その恨みの勢いでつけたとか」


「可哀想!」


「ぜひ親父に言ってくれ」


 再び教室は爆笑の渦に飲み込まれる。これは、いつもの日常。


 ・

 ・

 ・

 ・


「……それで、助けが必要なんだよ。救出に向かうにしても出来るだけたくさんの人手が欲しいんだ」


「当然、無報酬じゃないのよね? それなら参加するわ」


 1番先に参加の意思を示したのはラヴィさん。報酬があればとは言っているけど無報酬でも動きそう。事情を聞いて据わった目が怖い。


「あー、報酬か。参加してくれる人数にもよるんだけど、お金か宴会か迷っているんだよね。シル兄ちゃんとヨシズ先生は冒険者を雇うのにお金を出していたけど、ここのメンバーなら宴会でもいいと思ったんだけど。どっちがいい?」


「金」

「食べ放題飲み放題の宴会」

「宴会」

「宴会」

「うーん。宴会、かしら」


 金を希望したのはキノコだけだった。あいつはいつもの金欠だからなぁ。予想通りだ。


「うん。賛成多数で宴会だね。お金は俺が出すから、場所を決めておいてくれる?」


「了解。時間は?」


「あー、どうだろう。救出決行が明日の予定だけど、後片付けにどれだけ時間かかるかわからないから少し後に出来ないかな?」


「それじゃあ、【都レストラン】を明後日の昼から貸切でどう? 私の家がやっているレストランなんだけど」


「いいね! というか、商売うまいね。私は賛成」

「うん。そこでいいんじゃない?」

「あそこ、君の家だったの。あ、俺も賛成」


「……割引とかは……?」


 都レストランは大手だから料理の値段はピンキリまである。こいつらのことだから高いものでも普通に頼みそうだ。ちょっとマズイかも? ダメ元で割引の有無を聞いてみる。


「聞いてみるよ。でもゼノンくんやシルヴァーくんにはいつも助けられているからたぶん割引してくれると思うよ」


「助かるー」


 さて、これで10人は手伝ってもらえることになった。今日明日と暇なのはこれだけなのだ。まぁ仕方がない。









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