王都18 入学式
俺とゼノン、ラヴィさんはともに講堂へ辿り着いた。ここまでの道でラヴィさんが自己紹介をしていないことに気付いてくれたので俺がわざわざ聞く必要はなくなった。いやほんと助かった。
「講堂はここで合っているのよね? どんな入学式になるのかしら」
「想像もできないな。なにせ、これまでずっと冒険者としてこんな所に縁はなかったんだ。しかもそういった噂には俺は疎くてな」
これも、常識がないと言われる理由の一つだろう。
「……冒険者だからこそ情報に疎いのはまずい気がしているんだけど?」
わふぅ《我もそう思うぞ》
「ゼノンくん、私もそう思うわ。私も以前にアンデッド系の依頼を受けた時、情報収集を忘れていて、討伐対象が光の攻撃でしか通用しなくなっていることを知らなくて大変な目にあったことがあるもの。その時に情報に弱いのは危険だと思い知ったわ。だから、冒険者であって、情報に疎いのはおかしいわよ」
おおう……フルボッコ。俺ってそんなに非常識なのか? 魔獣の情報はよく知っていると自負しているんだが。
「魔獣の情報は、だよね。兄ちゃんのマルバツテストの結果を簡単に教えてもらったけど常識問題が軒並みダメだったよね。だけど魔獣関連はほぼ合ってたとか?」
「自分が狩る相手くらいは知っておくべきだろ。常識はわざわざ教えてくれるような人がいなかったからなぁ」
というか、ゼノンお前、いつの間に俺のマルバツテストの結果を聞いていたんだ? 頼むからこれ以上広めないでくれよ。
「冒険者コース志望の方々でしょうか。ギルドカードを確認してもよろしいでしょうか?」
「ああ、これだ。入学式はもう始まるのか?」
「そろそろ始まると思いますよ。はい、確認しました。恐らく皆様が最後ですね」
「それなら入ってすぐに始まるかもな」
「そうだね」 「そうね」
「では、どうぞ入ってください。毎年冒険者組は学院一の騒ぎになります。覚悟してくださいね」
「は? いや、ちょっとま……」
意味深な言葉に聞き返そうとしたが聞こえていないかのように俺達を講堂内に押しやる。覚悟とかなんとか、こんなにすぐに固められるかーー!
「最後の方々が来ましたよ! 始めましょう!」
講堂は既に人で一杯だった。冗談じゃなく俺達が最後だったようだ。
「おせーんだよ!」「冒険者に遅刻は厳禁だぞ」
最後に入った俺達の中では俺が一番背が高い。だからか非常に多くの視線が突き刺さっているのがよく分かる。罵倒も俺宛だろうな……。だがその声も視線が逸れるにつれ小さくなっていった。
なんてことはなく
「おい、あれは兎人か?めっちゃ可愛いじゃん。」
「同じクラスになったら告白する!」
「気が早えよ!」
「いやむしろ俺の嫁に来てくれ!」
「冒険者にあんな子いたか? ひよこ(=冒険者になる前の人)か?」
「あ、あの子、前にギルドで見たわ。フードで顔は見ていなかったけど」
「いたか? よく分かったな」
「珍しくソロで活動していたから記憶に残っているのよね。あんなに可愛い子だとは思わなかったけど。……というか、いつまで見てんのよ! 私というものがありながら!」
「あててててっ!」
…………何故か大変な騒ぎになった。
ラヴィさんを見た人は皆黙るか騒ぎ出す。美人はその場にいるだけで大きな影響を与えるものだ。女性なら男をおとしたり、男性なら女をおとしたり……な? やはりラヴィさんは間違いなく美人だ。
というか、
なんだこのカオス。発言者その一よ、ラヴィさんが可愛いのは当たり前だ。
発言者二、四……夜道に気をつけろよ?
そしてそこの二人は付き合ってでもいるのか? 幸せにな(投げやり)
まぁこんな愉快なメンバーがいるならラヴィさんもそこまで過ごしにくいことはないだろう。今だって緊張が吹き飛ばされてしまった。この場は入学式だろ? 何故こんなに緊張が消え去る事態になっているんだ?
「さあさあ! 静かにしてください。式を始めますよ。座って座って」
その言葉を聞くと皆椅子に座り、先程までのざわめきは消えた。冒険者は良くも悪くも切り替えが早い。
「えー、まずは、学院長のお話です。お願いします」
「皆さんはじめまして。この学院の長を務めているアッシュです。冒険者コースを選んだ皆さんは半年から一年での卒業を目指し座学、実戦に励んでもらうことになります。例年一人二人は退学しているので、皆さんもいろいろ覚悟しておいてください。
ところで、先程は私は『はじめまして』と挨拶しましたが、この中の数人はもうすでに私と会っていますね」
声からして、まさかとは思うが……いや、まさか?
「その数人は私の店『オモテ』に来ていましたね。簡単に占わせてもらいました。私と会ったのは今日が初めてという方々も、ぜひ『オモテ』を探してみてください。ここに通っている間にもし私の店を見つけられたなら、その時は半額で占いを請け負いましょう。それでは、良き学院生活を送ってください」
やはり、オモテのマスターだったか。だが俺がオモテに行ったのが学院に通っている間だったら占いも半額だったのか……。損した気分だ。それにしても、学院長は暇なのだろうか。そうじゃないとあの慌しい店の経営は出来ないだろ。まぁ、ヨシズが言うにははあの店は客を集めて利益を得るなどという目的ではないそうだから兼業もできないことはないのかもしれないが。
「続いて、冒険者コース首席、ラムダさんから」
「冒険者コースを選んだ皆、はじめまして。そして、合格おめでとう。今年は学院最強であるサーベルタイガーとの戦闘で一撃を入れたという猛者もいるそうだから期待している。僕の言葉に疑問を挟みたい者もいるかもしれないが、それは全てこの入学式を終えた後にある、昼食会、その後に予定している歓迎会で先輩に聞いてくれ。歓迎会は希望者のみだが、夕飯も兼ねた飲み会だ。参加費などはとらない。ぜひ皆来てくれ。僕からは以上だ。これからの学院生活を楽しんでくれ」
冒険者コース首席……ね、流石というか、なんと言うか、隙のない身のこなしだ。首席だと、もうすでにBランクに手が届いているんだったか? 俺が目指すのはあそこだな。いつか手合わせできるといいな。
「シル兄ちゃん……なんか悪い顔になってるよ」
「悪い顔というよりは、おもちゃを見つけた獣みたいだわ……」
わふ《笑い方が怖すぎるぞ》
お前ら、言いたい放題だな。後で痛い目を見ても知らないぞ?
……また騒がしくなったな。今度は何が原因だ?
「……サーベルタイガー……」
「学院最強がサーベルタイガー……」
「しかも一撃入れただって? 今の時点ではあり得ないだろ。皆Cランク以下だろ?」
「まさか、いずれは俺たちも対戦するのか? 確かにアリーナなら死ぬことはないそうだが」
「一番の驚きはやっぱり今の時点での技術でサーベルタイガーと戦えたってところだろ。話し振りからして入学試験でのことなんだろ? よく生きていたな。あ、アリーナでは死なないんだったか……」
「お前も混乱しているな。俺もだが。なぁ、サーベルタイガーと対戦したなら装備とか全てボロボロになるよな? 対サーベルタイガーの準備など普通しないからな。で、おれは2人激しい戦闘の跡が見られる人物を見ているんだが……そうだとおもうか?」
「ああ思う」「はじめから気になっていたのよね」
まぁそれは分かるよな……。俺でも同じ結論を出すさ。