遊び回 背景で起こっていたこと
そのとき背景ではどんなやり取りがあったのか。
読み飛ばしも可
( )ゼノン
〈 〉アル
「俺達に見せたくないなら、先に講堂へ行っていよう」
(まぁ、女の子が嫌がることはしちゃいけないよね。俺もシスターからガツンと叱られてるし。その場面に居合わせて飛び火してきたこともあるし……そう、たまたまそこにいただけなんだよ。なのに何故タゲが移って来たのか。俺、隠密には割と自信があったんだけどな……遠い目)
〈おなごが嫌がることをしてはならぬな。だが、好奇心は捨てられまい。見よ、シルヴァーの尻尾を。あれはまだ気になっている証ぞ〉
神狼様は愉快で仕方がないご様子。
「あの……待っててくださいませんか」
「俺は別に構わない。だが、見せたくないのだろう? 何故引き止める?」
(この子、行動が可愛いね。でも、掴んでいるのがシルヴァーのボロボロの服じゃなければ様になったのに。それに、シルヴァーももうちょっと柔らかい物言いというものを心得るべきだよね)
〈シルヴァー、割と余裕だな。本性はちょっとSっぽいのか? そうだとすると気弱な姿は見せぬが吉か〉
「う……確かに見せたくないのですが……そう、貴方も冒険者なのでしょう! 貴方に笑われなければ、変な視線を向けられなければ…………フードをずっと取っていられる気がするのです」
〈このおなご……面倒なものを背負っておるのかもしれんな。シルヴァーの袖を掴む手が震えておる。よく勇気を出してフードを取ると言ったものだ〉
(うわ〜シル兄ちゃんが怒ってるよ。多分あれだね、女性の素顔を笑ったり、変な視線を向けたっていう輩にイラついたんだろうな。意外とフェミニストが板についているし。
……でもね、その、獲物をどう甚振ろうか算段をつけているような獰猛な顔は女の子の前ではまずいでしょ。幸いフードで見えていないみたいだけど……)
「安心してくれ。俺はそんなバカどもとは違う。女性に失礼な態度を取ることはしない。そんなことをする奴を見つけたら俺が伸してやる」
(〈!!!〉)
(同感。俺だって参戦するからね)
〈なかなか良いことを言うではないか。いざ伸す時は我も参戦しようぞ〉
(〈だが一瞬、プロポーズの言葉でも言うのかと思った〉)
「……はぃ。じゃあ、取ります」
一同、硬直する。
「……あの、大丈夫ですか? やっぱり私が醜いからっ!」
「え! いや、ちょっと待て。どうして貴女は自分を醜いと思うんだ?」
(そうそう、すごく綺麗だよ! これで醜いんだったら世の中醜い人ばかりになるよ!)
ゼノン、全力でつっこむ。
〈人基準で守りたくなる可愛さに満ちたおなごではないか?〉
「え? どうしてって……白いこの髪も、縦に細長いこの耳も、吊りあがり気味の目に合わないし、家族の中にそんな特徴はなかったわ。私だけ、違うの。醜いの……」
白いうさ耳、今は感情に比例してか力が無い。目は紅。不気味な印象はなく、宝石のようだ……つまり、白兎を擬人化してとことんまで綺麗に、可愛くしたような姿。
(醜いとか、言った本人は目が腐っているよ! ……と、言いたいところだけど兎人族は確か、言い方が悪いけど、異物には厳しいことで有名だったね。たとえこの子が生まれが確かでもここまで違っちゃうと『異 』の認識の方が強くなって拒絶されたんだろうね)
〈ふむ。種族のどうしようも無い習性で拒絶されたのか。それは仕方が無いな。我らも本能には抗い難いものだからな。だが、本当にあのような特徴を備えた兎人族はいないのか?〉
(たぶん、ああいう特徴がある兎人がいないわけ……)
「違う。貴女は醜くなどない」
「いいえ。醜いのよ! 貴方もさっき固まっていたじゃない!」
「いや、俺が固まったのは貴女が醜いからじゃない。とても可愛かったからだ。」
「……ぁ、わたし、ずっと否定されてきたわっ……お前は可愛くない、私達の子じゃないって。でも、違うの? 私は、醜いんじゃないの?」
「ああ。醜くなどない。それに、白いというのは北に集落を構えている人々の特徴だ。先祖のどこかに北生まれの人がいたんだろう。貴女に現れた特徴は先祖返りしただけだ。爪弾きにされる謂れはないし、恥ずかしがるようなものでもない。堂々としていていい。俺は、貴女は綺麗で可愛いと思う」
(砂を、吐きたいぃぃいい! 何この甘っったるい会話! 特にシル兄ちゃん!あともう数回『可愛い』とかいう言葉が出ていたら俺は絶対砂を吐いていたねっ!というか、シル兄ちゃんがここまでさらりと可愛いとか言えるとは思わなかったよ)
〈シリアスな話だったはずだが、胸焼けが……シルヴァーが無駄に軟派な言葉を吐くからだぞ。だが、先程ゼノンが言いかけたことがわかった。おなごの特徴を持つ者がいないわけでは無いと、そう言おうとしたのであろう。白は北の方に生きる者たちの特徴であったか。確かに保護色と言う意味では納得がいく〉
無意識なのか、異様に甘い言葉を告げるシルヴァーにゼノンとアルは身悶えする。
「そう、だったのね。それなら私が自分を卑下するのは失礼に当たるわね。ありがとう。私、もうフードをかぶって隠すようなことはしないわ。頑張って前を向く」
(うわーうわー、すっごく綺麗だねぇ。可愛いね……)
〈うむ。これは危険人物が現れそうだ。我等が守らねば!〉
晴れやかな笑顔を浮かべた彼女にゼノンは見惚れ、アルは使命に燃える?
*******
シルヴァー視点
「そう言えば、自己紹介をしていなかったわね。私はラヴィーアローズよ。ラヴィでもラビでも好きに呼んで」
先程までの弱った感じはもうしない。この子…ラヴィはちょっとだけ話し方が変わった…いや、戻った?気がする。うん、調子が戻ったようで良かった。
「そうか。じゃあラヴィさんと呼ばせてもらうな。俺はシルヴァーという」
「俺はゼノンだよ。シル兄ちゃんとは同じパーティで、冒険者コースを受けるんだけど、ラヴィちゃんはどこを受けるの?」
「あ、私も冒険者コースよ。一応冒険者をやっているわ」
「へぇ……今までソロでやっていたのか? それとも、パーティメンバーはもう中にいるとか?」
「今はソロでの活動をしているわ。ここ王都の近くはそこまで強い魔物や魔獣はいないし、ソロでもできなくはなかったから。気楽でいいわよ?」
「確かにな。ソロは分配で揉めることもないからなぁ。だが、兎人族は割と辺境……強い魔物、魔獣がいるところにも集落を構えていなかったか? ラヴィさんの生まれたところは違ったのか?」
「ああ、私が生まれた村の近くにいる魔物や魔獣は強かったと思うわよ。でも、村では私と組んでくれる人なんていなかったから、ね」
「なんというか、その、すまなかった。言いづらいことを言わせてしまったな」
「気にしないで。そうだ、どうせなら時間が空いた時に一緒に依頼を受けてもらえないかしら? 今、アイネの森は2人以上でしか依頼を受けれなくなっていて、困っていたのよ」
アイネの森で妙に多くの魔獣が発生していたことから、魔獣大発生の警戒令が出され、森に行くにしても2人以上での行動が推奨されることになった。それを受けてこれまでソロで活動していた面々は揃って苦い顔をしたという。高ランクならばそれも緩くなるが、ラヴィはそこまで高いランクではないので誰かと一緒に依頼を受けなくてはならなくなったのだ。しかし、対人恐怖症に近い状態にあったので組めそうな人を見つけられなかったし、誘えもしなかった。それでもラヴィがシルヴァーを誘えたのはやはりシルヴァーの言葉が彼女に変化をもたらしたからであろう。
「それくらいならば、喜んで」
……ガウッ《シルヴァーよ、我の紹介を忘れるな 》
「あ、そうだった。ラヴィさん、この魔獣はアルという。こちらの言うことを理解しているから。気軽につきあってくれ」
「あら、そうなの。よろしくね、アルくん?」
ガゥ……
「ああ、『くん』でいい。アルは雄だからな」
何はともあれ、ラヴィさんの名前を聞けた!