王都17 試験を終えて
「ふぉっふぉっふぉ。しっかりやられてきたようじゃな。ふぉっふぉっふぉ」
戦闘を終えて、ある程度傷を治療したらまたあの光に包まれてドル爺さんの所に戻って来た。爺さんは俺達の様子を見て爆笑中だ。ちょっとイラっときた。
そして、今度はヨシズも同伴している。俺達以外にはおそらくもう来ないからいいだろう……とのこと。いいのか? それ。
「ドル爺、こうなるのを分かっていただろ。おかげでボロッボロだ」
「本当にね。事前に少しでも情報が欲しかったよ……」
明日に響くような大怪我はしていないが細かい擦り傷は残っている。アリーナには治癒結界も張ってあったんだが、完治はさせない仕様になっているそうだ。魔力消費を抑えるのにちょうどいいかららしいが、正直使いにくいのは確かだろう。
「ふぉっふぉっ。……じゃが、魔の力が強い森はかなりの確率で事前情報なしに強敵と戦うことになるじゃろうて。お主らにはその辺りの心構えをしてもらわねばな。
して、ヨシズよ。ここへ送られてきそうなのはこやつらが最後か?」
「ああ。見た所、ほかはサボちゃんと対峙する気概もなさそうだった。おそらくシルヴァー達が最後だろう。そう思ったから俺もここに戻ってきたんだが?」
「ほっほ…ならば、その辺りを厳しく指導せねばな。戦闘職員の腕の見せ所じゃ」
この言い方だと、ドル爺とヨシズは戦闘職員なんだろうな。……少々授業が怖くなってきたぞ。
「確かに。俺も気合を入れないとな。…ああ、そうだシルヴァー、寮は今日から入れるが、宿はどうする?」
「ああ……今日は宿で過ごそう。寮は明日からでいいだろう」
「うん。兄ちゃんに1票。今日は女将さんの料理を堪能したいな」
……金が吹っ飛ぶ予感。
「それなら明日からの入寮な。手続きは俺がやっておく。お前達は明日、事務室に一言声をかけてから向かえよ」
「了解」
「それと、お前達は合格だから講堂へ行け。そこで入学式を行う」
「……は? もう入学式なのか?」
「ああそうだ。試験最終日は必ず入学式だ。だからもう結構な人数が講堂にいると思うぞ。本校舎の入口で職員が案内しているはずだから、この廊下を少し歩いていけば分かるはずだ。別にドレスコードがある訳でもないし、そのままで構わないからな」
分かった。だが、サボちゃんとの対戦で服が所々破れているんだが」
この見るからにボロッボロのひどい服で行けと? 笑われるか、馬鹿にされるかの未来しか見えない。
「裸じゃなけりゃ問題ないだろ。それで笑う奴がいれば喧嘩を吹っかけるなり決闘を申し込むなりすればいい。今ならアリーナも空いているし」
……ほう。喧嘩を売ってもいいのか。相手がそれなりだったら吹っかけてみるか。
「それなら講堂に向かうか。行くぞ、ゼノン」
「……、……」「……!……!」
本当に少し歩いたところで案内所という看板があるところが見えた。職員さんも遠目に見えるのだが、どうやら言い合いをしているようだ。近付くともっと明瞭に聞こえるようになった。
「……ですから、いくらドレスコードがないとは言え、その格好では不審者にしか見えないのでせめて顔は出して欲しいのですよ」
「ドレスコードがないのなら別に良いではないですか! 私は、顔を出したくはないのです!」
職員さんらしき男性と言い合いをしているのはコートを着て、フードを深くかぶっている人物。声からして女性のようだ。
「……何故、顔を出したくないんだ?」
「! だ、誰?」
「ああ、すまない。俺はシルヴァーと言う。こっちはゼノンで、そこの狼はアル、と呼んでくれ」
「おや、4番扉に進んだ方々ですね。お疲れ様です。そして、おめでとうございます」
どうやら職員の中でも4番の部屋での試験は少々厳しい試験だという認識のようだ。
「ありがとう。……それで、貴女はどうして顔を出したくないんだ?」
「貴方には関係のないことです!」
ピシャリと言い放たれる。その取りつく島もない様子にシルヴァーの顔に苦笑が浮かぶ。
「では、私には教えていただけますか? 先程から口論をしていた関係者でしょう」
「う……」
「俺達に見せたくないなら、先に講堂へ行っていよう」
女性が嫌がることを強行するのは趣味じゃない。気にはなるが、仕方がない。
「あの……待っててくださいませんか」
講堂向かおうとした俺を服の袖をキュッと握ることで引き止めたのは何の心境の変化か、フードを取ることを固辞していた女性であった。
「俺は別に構わない。だが、見せたくないのだろう? 何故引き止める?」
「う……確かに見せたくないのですが……そう、貴方も冒険者なのでしょう! 貴方に笑われなければ、変な視線を向けられなければ…………フードをずっと取っていられる気がするのです。」
女性の素顔を、笑う? 変な視線を、向ける?
……礼儀のなっていないバカもいたものだ。
「安心してくれ。俺はそんなバカどもとは違う。女性に失礼な態度を取ることはしない。そんなことをする奴を見つけたら俺が伸してやる」
「……はぃ。じゃあ、取ります」
正直なところ、俺はフードを取ることがそこまで決心を必要とするとは思えなかった。だが、目の前の女性がフードを取ったのを見て、ひょっとしたらその認識を改めなくてはならないかもしれないと思った。
「……あの、大丈夫ですか? やっぱり私が醜いからっ!」
そう言って女性は目を潤ませる。だが、俺が固まったのは別の要因だ。
「え! いや、ちょっと待て。どうして貴女は自分を醜いと思うんだ?」
「え? どうしてって……白いこの髪も、縦に細長いこの耳も、吊りあがり気味の目に合わないし、家族の中にそんな特徴はなかったわ。私だけ、違うの。醜いの……。」
この子は……差別、されてきたのだろうか。下手したら家族にまで。兎人族は色々と極端だからな……。
「違う。貴女は醜くなどない」
本当に。確かに目が吊りあがり気味かもしれないが、全体的にとても整った顔立ちをしている。白い髪に、悲しんでいる影響か、垂れている耳も俺から見ればとても可愛らしい。
「いいえ。醜いのよ! 貴方もさっき固まっていたじゃない!」
「いや、俺が固まったのは貴女が醜いからじゃない。とても可愛かったからだ」
しっかり目を合わせて言う。俺の言葉が、この子に届くように。
「……ぁ、わたし、ずっと否定されてきたわっ……お前は可愛くない、私達の子じゃないって。でも、違うの? 私は、醜いんじゃないの?」
紅い瞳を潤ませて聞いてくる。実に俺の庇護欲がそそられる子だな。
「ああ。醜くなどない。それに、白いというのは北に集落を構えている人々の特徴だ。先祖のどこかに北生まれの人がいたんだろう。貴女に現れた特徴は先祖返りしただけだ。爪弾きにされる謂れはないし、恥ずかしがるようなものでもない。堂々としていていい。俺は、貴女は綺麗で可愛いと思う」
「そう、だったのね。それなら私が自分を卑下するのは失礼に当たるわね。ありがとう。私、もうフードをかぶって隠すようなことはしない」
まだ涙が残ったままだが、浮かべた笑顔は思わずこちらも頬を緩めてしまうほど綺麗で、輝いていた。
「なんとか解決したようですね。皆様、そろそろ時間ですので、講堂へ向かってください。講堂では席は自由です。好きなところに座ってください」
俺とゼノン、アル、そして兎人族の女性で連れ立って講堂へ向かう。道中、俺は内心頭を抱えていた。
名前を聞くタイミングがつかめない!!
失敗したな……。どうしようか。講堂に着くまでに聞ければいいのだが。
シルヴァーがフードについてどーのこーのと感じたのは兎耳の女性の素顔をみて、その可愛さに思わず誰にも見られないように隠してしまおうと思ったから。
宝物を隠す子供の心理ですねw
一目惚れ? 予定に無かったけどそういうことにしておきましょう。(←をいw)