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虎は旅する  作者: しまもよう
アーリマ五公国編
426/452

ようこそ、エフラヴァーンへ!


 俺達はようやくエフラヴァーンの首都に着いた。

 エフラヴァーンは首都の周辺も自然豊かで、門の周辺こそ綺麗に空間が出来ていたがそれ以外は街が森に同化しているかのような見た目だった。

 遠くから見ると建物が森の中に生えているように見えていたのだが、近くから見てその理由が分かった。

 どうやら、どの建物も木に沿うように建てられているようなのだ。見た目は家を木が浸食しているかのような感じだ。自然と人工物が融合しているとはこのことを言うのだろう。


「ようこそ、エフラヴァーンへ!」


 やけに愛想のいい門兵はそのまま大門の列を指し、案内を朗々と告げる。

 列は4つあって、それぞれ並んでいい人が違うらしい。

 1番の列は新規の来訪者向けでエフラヴァーンで過ごす上での注意事項などを教えてくれるという。また、身分証明の出来ない者もこちらに並ぶ。

 2番の列は2回目以降の来訪者用でギルドカードや住民証など身分証明が出来る人はここに並ぶらしい。

 3番目の列は貴族用。貴族の紋章のある物を持ち、関係者であると証明できればすぐに進めるようだ。

 そして4番目の列は一風変わっていて、獣人だったり、従魔のいる者がこちらに並ぶ必要があるらしい。


 で、俺達は?


「そちらのストルートとその子犬は従魔ですね? でしたら4番の列にお願いいたします」


「分かった」


 アルは子犬ではないが、まぁ、見咎められたら正直に話すとしよう。


「獣人と従魔持ちが別枠って……何かあるのかしら」


 馬車の中でマリナがぽつりと呟いた。


「何かって?」


「そうね……例えば、獣人は差別されていて行動制限されるとか?」


「帝国じゃないんだからそれはないだろ。とはいえ小さい頃に来たときはこういう列はなかった気がするなぁ」


 とはヨシズ。

 しかし本当に何か俺達にとって良くないことがあったら困るな。


「ヨシズは来たことがあるのか」


「まぁ、本当に小さいときにな。だからほとんど覚えていない」


「実質、全員初めて来たってことか」


 俺達が並んだ列はそこまで長くはなかったので順番もすぐに回ってきた。


「ようこそエフラヴァーンへ。第四都は初めてですか?」


「ああ。何か気をつけるべきことでもあるか?」


「はい」


 あるのか。

 俺達はそれぞれギルドカードを見せて門を通り、すぐ近くの大きな建物へ馬車ごと進んだ。

 詳細についてはそこで話してくれるらしい。

 中に入ると門兵と同じ制服を着た兵士がおり、空いているスペースへ案内してくれた。

 全体的に思った以上に広く、1階部分は3分の2は馬車などを置くためのスペースになっているようだ。残りは馬などを繋いでおく厩舎のような感じになっている。


「馬車はここに置いてください。我々が定期的に見回りをしているので防犯的には問題ないかと思いますが、ご不安でしたら見張りを置いていただいても構いません」


「分かった」


 グリルとコーレに指示して指定の位置に馬車を停める。


「従魔はどうすればいい?」


「厩舎としてあちらにスペースをご用意してありますのでそちらへ。世話は慣れた者が行いますが万が一暴れるようなことがあったら眠らせておく場合もあります」


「そうか。……大人しくできるな? グリル、コーレ」


 ビャッ

 ビャー


 いつもの鳴き声だ。毎回思うが、本当に分かっているのか疑問だ。声もそうだが顔つきも呑気だからな……。


「アルはどっちに来るんだ?」


 わふ《その前にペットの連れ込みは良いのか聞いてみたらどうだ、シルヴァー》


 おっと、そうだったな。

 というかアル自身はペット扱いでも良いのか……。


「聞いてもいいか?」

「はい、何でしょう」

「あー、ペットは連れて行ってもいいのか?」

「そうですね……その仔狼くらいの大きさであれば」


 おっと、この兵士はアルが狼だと気づいているようだ。門のところでは子犬と言われたのだが。


「らしいぞ。アル、基本は小さくなっていろよ」


 わふ《もちろんだ》


 アルはそう言うと俺の足を駆け上り、肩に収まった。自分で歩くつもりはないらしい。

 兵士はそれを見て、器用ですねと感心したような顔をしていたが、すぐにその表情は怪訝なものに取って代わった。


 ビャッ?


 グリルが俺のそばにやって来てスルスルと身を縮めたからだ。どうやら話の内容が分かっていたらしいな。同行していい理由……小さければ同行していいという判断まで理解していたか。鳥頭にしては的確とも言える認識だ。


「そのストルートは……」


「ああ、ミュータント種ということになるんだろうな。大きさを自在に変えられる。もちろん、下限と上限はあるが」


 下限は恐らく生まれるときの卵の半分くらいの大きさ。上限は……グリルとコーレについては確かめていないが、これらの親鳥を思うに伸び伸びと育った樹に少し届かないくらいだろう。

 兵士は俺の言葉を聞いて沈黙し、ちらりと厩舎の方を見た。


「これは、困りましたね……その大きさでは厩舎から余裕で抜け出せてしまう。ちなみに、上限は?」


「よく育った樹木より少し低いくらいだな。親鳥はそれくらいの大きさになって襲ってきた」


 ビャー


「こら、コーレ! 大きくなって見せなくていいのよ!」


「!? ラヴィ、止めてくれて助かった!」


 コーレ、お前もか!

 こんな場所で大きくなられても困る。というか、この二羽は人の言っていることをほとんど理解しているな。


「お前達、大人しくしていろと言ったはずだぞ」


 だが、グリルとコーレは俺のそばに寄るとピギャピギャ喧しく鳴く。

 2羽からははっきりとした言葉は出てこない。感情を伝えてくるような感じだ。それでも何とか言いたいことを拾う。


「一緒にいたい? いや、ここにいたくないってことか。わがまま言うな。何も長時間放置されるわけじゃないんだぞ」


 ビャッ!


「あ? アルはそもそも別枠だろうが」


「あのー、そこまで小さくなれるのでしたら許可出しますよ。ただ、すぐそばに主が必ず控えていること、それと兵士が監視としてつくことになりますが」


「それはそうだろう。というか、連れて行ってもいいのか?」


「はい。見たところ、主に従う気はあるようですが我が強い。脱走されるなどして問題になるよりは良いでしょう」


 ビャッ!


「勝鬨を上げるな。お前達は、全く……ほら、一番小さくなっているんだぞ」


 ビャー


 いい感じに小さくなった二羽のうち、グリルを俺のフードに放り込む。コーレはラヴィが抱きかかえた。


「これでよし」


「斬新な連れ方ですね……。まぁ、いいでしょう。皆様には私が付かせていただきます。くれぐれも、妙な行動は起こさないでください」


 兵士はそう言うと、同僚に向けて非番から一人連れてきてくれと頼んでいた。彼自身はそのまま俺たちに同行するという。


「ちなみに、説明にはどれくらい時間がかかるんだ?」


「1時間程になります。内容としては、この街で過ごす際の注意点ですね。聞けば分かると思いますが、特にこのエフラヴァーンでは近年、変化が目まぐるしくて中には特定の種族に不利なものもでてくる始末でして……」


「特定の、種族……」


「はは。まぁ、気をつけていれば悪いことにはなりませんから。それについても説明されるかと思います」


 不穏なものしか感じられないが、とりあえず説明を、ということで俺達は建物の二階へ上がった。その一つの部屋に案内され、中に並んでいた椅子に座る。後ろの方はすでに埋まっており、中程から前の方に散らばる感じだ。俺に向けて奇妙なものでも見るような視線が集中している。まぁ、仔狼を襟巻きよろしく首にかけ、フードに小鳥を入れている大の男とか、不審者とまではいかずとも変人と思われるのは間違いない。


「この時間でしたら……あと十分ほどで始まりますね」


 その言葉通り、十分もしないうちに部屋に兵士を連れた文官がやって来るとつらつらと説明をし始めた。


「えー、ここにいるということは皆さん、獣人の方かその関係者、そして従魔を持っている方かと思います。皆さんは特にこの街で過ごす際の注意点がありますのでお集まりいただいています。何度かこちらの説明を受けていらっしゃる方も今一度再確認をお願いいたします」


 簡単に言ってしまえば、今は第4都において獣人差別主義者が幅を利かせているから気をつけるようにということらしい。特に教会関係者に広まっているので国家不利益等を理由に取り締まることもできないらしい。

 俺達としては実感がなかったが、今エフラヴァーンは魔獣の増加によって未曾有の危機に瀕しているのだという。魔獣の対応に怪我をする人達が増えているので、治癒のスペシャリストである神官たちの協力を得られなくなると困るという政治的な思惑もありそうだ。

 従魔については盗難騒ぎが相次いでいるので街の宿などの厩舎では不安がある場合、冒険者ギルドのものや軍のものを利用することもできるという話だった。馬車もそうだ。とはいえ馬車についてはここだけの話にしてほしいと言われた。


「さて、基本的な注意事項については以上です。ここからは別の者が最近の動向について話させていただきますが、興味がなければこの時点で退席していただいて構いません。ああ、その際にギルドカード等提示をお願いいたします」


「そうか」


 最近の動向については聞いても聞かなくてもどちらでも良さそうだ。そう思った俺は席を立とうとしたが、ふと、ゼノンやロウ達が動かないのに気付き、動きを止める。


「聞いておいて損はないと思うんだよね、シル兄ちゃん」


「そうですよ。公的なこの都市の状況を聞けるというのは助かります」


「そんなものか?」


「まぁ、でも――ちょっとコーレが飽きてきたみたいなの」


 ラヴィが抱きかかえている鳥を見下ろす。パカパカとアホらしい顔で口を開け閉めしている。それを見て、一気に気が抜けた俺は肩を落とした。


「子守りしてこいってことか。一つ聞きたいんだが、そこそこ広くて走り回れる空間は近くにあるか?」


「はい? あ、ええと……下が空いていれば。厩舎を抜けたところも空間はあります」


「そこへ案内してもらっていいか? 少し席を外すぞ。コーレ、来い」


 ビャー

 ラヴィの腕から飛び立ってふわりと俺の腕に収まるコーレ。退屈していたのは間違いないようだ。ちなみにグリルは俺のフードの中で丸まって寝ている。良い身分だな。


「あっ、お待ち下さい。ギルドカードはお持ちですか? 商人ギルドでも冒険者ギルドでも構いません」


 ああ、そうだった。

 俺はアイテムボックスからギルドカードを取り出すと出入り口に控えていた兵士に見せる。


「これで良いか?」


「はい……は、えっ!」


「何か?」


「いえ、確認させていただきます」


 ギルドカードと俺の顔を一往復してから兵士は近くにあった魔道具にカードを通す。これでギルドカードを確認しているのだ。カードが偽装だったらこれで分かってしまうのだろう。


「凄いですね。問題ありません」


 そりゃ本物だからな。

 何のことを凄いといっているのか知らないが心の中でそう返しておく。

 カードも問題なかったので俺はケモノズを連れて部屋を出た。


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