王都14 敵は
「お! ヨシズ。用事は済んだのか?」
俺とゼノンはアルを回収したあとギルドに来て内部にある喫茶店で一息ついていた。カウンターでヨシズの動向を聞いたらおそらく昼前には終わるだろうと言われたのでヨシズを待ちがてらここで昼食にすることにしたのだ。……食堂通りまで行くのがしんどくなってここで済まそうとしたということは秘匿させてもらおう。体が資本の冒険者が言うことでは無い? いや実のところ、アルがいた貴族街と食堂通りは本当に離れているんだ。冒険者になった者はともかく、今貴族として生活している人達がやっすい食堂( あ、これを食堂の女将さんに聞かれるとぶっ飛ばされるから注意な )を利用すると思うか? いや、利用するわけが無い。貴族とは、皆プライドが高いものだからな……。まぁ、その中でもイルニーク伯爵は好感が持てたが。
……話がずれた。ともかく、俺達はギルドでヨシズを待っていたんだ。
「ああ。マグルスはオレ達が持ってきた案件についての資料を集めていたみたいでな……悪いが、食べながらでもいいか? 空腹が限界だ」
持っていた書類をどさりと置いてヨシズが席に着く。その腹からぐぅ〜という音が響いた。
「「……」」
「な? 悪いが限界だ。何か頼んでくれ……」
俺は苦笑してウェイターを呼ぶ。俺もデザートを頼むか? 貯蓄を考えなければ大分金はあるから出来なくは無い。それに、人が食べているのをただ見ているのも大変だしな。
「追加でご注文でしょうか? お伺いいたします」
「ああ。このチキの定食を一つとオランジのゼリーを一つ、あと……」
俺は勝手にデザートを追加注文してしまったがゼノンはどうするか聞いていなかった。それを問う意味も含めて言葉を切って目を向ける。
「ベリータルトを一つ!」
やはり追加注文するようだ。ま、何が悲しくて皆が食べている中自分一人食べずにいるんだってことだな。
「かしこまりました。確認しますね。チキの定食を御一つ、オランジのゼリーを御一つ、ベリータルトを御一つで間違いありませんか?」
「ああ」
「では、料理が来るまで少々お待ちください」
さて、少し時間があるからヨシズがどんな情報を持って来たか聞いてみるか。
「なぁ、どんな情報があったんだ? 俺達が持ってきた案件ってことはアル関係のことだろ?」
「ああそうだ。オレが持ってきたその書類が資料だな。まだざっとしか読んでいない」
ふーん。ざっと見るに、先代ギルマスが書いたっぽい書類がほとんどのようだ。だが年月日も記入されている正式なものだから有力な情報源ではある。
「ちょっと待ってよ。書類を持ち歩いていいの? ギルマスが集めたんでしょ?重要書類なんじゃないの?」
「まぁ正式な書類と言えばそうなんだが、よく見てみろ、それはオリジナルじゃないからな? 複製魔術で作られたものだ。なくされても困るが何とかなるものだな。……とはいえもし無くしたらギルドカードの没収くらいの罰は受けるが」
「「怖っ」」
ギルドカードの再発行にはたしかかなりのお金が必要だった。冒険者が絶対にカードを無くさないと決心する程度には。
「そういうことだから無くさないように頼む」
「お待たせしました。チキ定食にオランジのゼリー、ベリータルトです。合計410ハドになります」
「これで」
「4ヤヌス10ハドいただきます。ごゆっくりどうぞ」
定食にデザート2つにしては普通の所より若干安い。ヨシズに頼んだチキ定食はだいたい280ハドだが、ここでは250ハドだった。デザートもオランジのゼリー、ベリータルトともに80ハドであった。これも普通の食堂で頼めば100ハドくらいか? こんなに安いのは確か食べれるが高くは売れない材料を中心に買い付けしているからだとか。そんなことを言われても意味がわからないというのが俺の本音だ。
「さて、食べるか。ってもうだいぶ食べているな」
「ん? ほういえばアルは? ムグ……」
「アルはもうさっきたらふく食ったからいらないってさ。むしろ、ヨシズが得て来た情報を聞きたいらしい」
わふっ!
「おお、そうか。じゃあ、ざっとだがまとめたことを話そうか。
オレがしっかりと見てきたのは先代ギルマスのマリーネさんが記録にまとめておいてくれたものだ。……そう、その書類だな。
これによると、アル達を捕らえていた奴等は女神エヴィータを信奉しているらしい。女神アデライドが調和の女神と呼ばれるのに対する存在だから破壊の女神とでも言えるだろう。奴等は女神エヴィータの下で国という区分をなくし、女神の力で魔獣を従えることが出来るとほざいていたそうだ。心引かれる言葉だが、現実的ではないな。国をなくすと言っているあたり、おそらくすでに従えた魔獣使ってクーデターを起こし、力を見せつけて自分達のほしいままにしようといているのだろう。どう考えても争いの目にしかならないだろ。そもそも力が欲しいなら自分で研鑽を積んで聖獣と契約すればいいことだ。奴等がどんなことを考えているかは知らないが、魔獣を使役するということが気に入らん。魔獣は倒すべき存在だ。味方になど思えるかって」
「うーん。……つまり、こいつらは、国という秩序を壊し、多くの人を路頭に迷わせた後、魔獣を従えていることで力を見せつけ、覇権を取ろうという考えなのか?」
ヨシズにならって書類を見て導き出せた推測を口に出す。書類の著者のマリーネさんやヨシズと同じ結論だった。
「つまりも何もそう言っているぜ。ついでに、女神エヴィータの信奉者は各国に広がっているようだ」
「嘘じゃないんだよね?」
「ああ。怖じ気ついたか? ゼノン。オレ達が相手しようとしているのは意外と大きい組織だ。無理そうならオレも諦めるが」
こんな言い方されれば売り言葉に買い言葉で引けなくなる。ゼノンの気質は俺と似ているように感じるから十中八九そうなるだろう。
「なっ何を言っているんだよ! 俺は怖じ気ついてなんかいない! やってやろうじゃないか!」
ほらみろ。ヨシズの術中に見事にはまっている。少し前の俺を見ているようでいたたまれない。俺は完全に空気である。話をこちらに向けるなよ〜。
「言ったな? ちゃんと動いてもらうからな。もちろん、シルヴァーもな?」
「「ハイ……」」
これはもしや……俺がこの件についてほとんど丸投げしようとしていたことがばれてるやも?
「……とはいえ、実際は奴等を倒すどころか拠点すら分かっていないからどうにも出来ないんだよなぁ」
「つまりは?」
「マグルスからの情報待ちだ。この件に関してはこれ以上の行動は出来ないな。オレ達はしばらくこの王都で過ごすんだろう。お前ら2人は学院に行かなきゃならないからな」
「まぁ、そう簡単に解決できるとは思ってないが待つのも面倒だな」
「そうだよね。……あ、思い出した。今日、アルが東街区の外れで不穏な気配を感じたって。ただの空き地であるのにも関わらずだよ。それと、おとといくらいにシルヴァー兄ちゃんが貴族街に行った時も何か気配を感じたみたい」
をい、それは俺が言おうと思ったのに。まぁいいが。
「ふーん。あそこに何かあるのか? 今日は行くなよ。感ずかれているかもしれないから危険だ。アルも、迂闊な行動はしないでくれよ」
「「了解」」
わふっ!