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虎は旅する  作者: しまもよう
アーリマ五公国編
359/458

知るべきこと、やるべきこと

次は10月20日の投稿を予定してます。


 デュクレスに戻ってきた。転移ではなく転移門を使ったのは俺のなかで何となくここに来るのは転移門だという意識があるからだろうか。

 何しろ、仰々しい杖を使うので心が決まるというか、心の準備ができる。

 城とかいまだに慣れない俺は根が冒険者だからに違いない。


「戻ってきたな……」


「シル兄ちゃんはそうかもしれないけどさ、俺達はここを潜ってすらないんだよね」


 つまり戻ってきた感が薄いと。

 確かに、言われてみればそうだ。ここに来てすぐにあの邪悪樹の森について説明をし、そのうちにフィルが来て、例の四匹を捕まえる流れになったのだったか。

 今思えば妙にフィルの準備が良かったかもしれない。ヨシズ達に渡していた妖精捕獲用の金棒とか。


「さてさて、ここから城まで歩いて行く? それとも、転移しよっか?」


「俺はどちらでも構わないが、ヘヴンが転移陣を使うのか?」


「そこはシルヴァーでしょっ。というか、城に直接飛ばなかったのは何でなのかな?」


「城内についてはブレインとも話して直接転移門を開いて入ることは出来ないようになっているんだ。出る事は可能だがな」


 城下その他の場所については、一度行った事がある場所でないと開けないという以外には何の制限もない。


「ふぅん。敢えて制限しているんだ」


「というか、城はどうもいろいろな魔法的な要素があるからか転移門を開くのに妙に疲れるんだ」


 休みたいのに疲れる事をするとか、俺は絶対したくない。


「さて、歩いて行くか転移でパパッと行くか、どちらにする?」


「ええと、シルヴァーさん。転移は疲れるのでは……?」


 話の流れに違和感を覚えたのか、フィルが恐る恐るといった体で尋ねてくる。


「ああ、今城の入口のホールは転移陣を繋げやすくなっているんだ。そこなら消耗もほとんどない。この人数を一度で運んだとしてもな」


 代わりにと言ってはなんだが、世界各地へスタンピードの対処に向かわされた英雄が若干殺気立っている場面に遭遇する可能性がある。


「でしたら、シルヴァーさんも休みたいと仰っていたので転移でお願いできますか?」


 フィルの言葉を聞いて、他のメンバーも俺をちらりと見てから転移が良いと言う。


「あぁ……そうだな」


 俺の本音ではあったが、ばっちり気にされていたようだ。というか、俺以上にヨシズ達の方が疲れていそうなのだ。

 さっさと話をまとめて休む事に否やは無いので黙々と転移陣を用意した。

 すぐに城に向かう事になるなら城の入口に転移門を開いた方が良かったか。


「やあ、おかえり~」


「ラプラタ」


 城のホールについてすぐに出迎えてくれたのはラプラタ。ヘヴンと同じ幽霊だ。


「どうしたんだ?」


「ヘヴンを待っていたんだよね~。あと、そろそろ神樹の方に行っていたディオール達が戻ってくるらしいからさ、その出迎えにね? 今回ちょっと長引いたみたいだしさ~」


「まだ帰ってきていなかったのか?」


「まぁね。あっちは獣人の里があるから体を休める環境があるんだよ。だから、少し休んでから戻ってくるって連絡があったのが昨日だったかな?」


 ラプラタから、本当にもう来るころだから転移陣の上から離れてくれと頼まれてしまう。俺達がこのままここに立っていると転移が出来なくなってしまうからだ。

 慌てて魔法陣から離れると、その直後に光を放ち始める。そして人影。


「あー、疲れた! 生き残れてよかった-! 隊長、やっぱ素の戦闘力は見直さないとねぇ」


「獣化できないのが……こんなに大変だとは。分かっては……いましたが……これから生き抜くのに必要なものが……見えてきましたね」


「頑張ればタブレットなしでアグレッサーに立ち向かえるってか」


「そんな場面、間違っても遭遇したくない。だいたい、僕の立場で遭遇しちゃマズいやつ」


「こっちにいる間に絶対無いとは言えませんから。まぁ、向こうでももしかしたら同じ感じかもしれませんし」


 イェーオリ達だ。シルキーの言葉だけで転移先での戦闘の激しさが察せる。

 それでも疲弊しきった様子はないので何とかなったのだろう。

 ヘヴンが勝手に送ったときは(しかも誰の心の準備もなしに!)本気で怒りが沸いたが、こうして無事に戻って来たのを見ると、イェーオリ達も弱いわけではないんだよな、と改めて思う。


「あなた方も大変なのね」


「昔を思い出すねぇ」


「私達は人相手でしたわね」


「人の方が脆くて楽だったかもねぇ」


 良く考えるとブラックなセリフをはきながら立ち上がったのはカルティエとディオールの二人だった。この二人は流石に疲れも見えない。


「お、ギリギリだったね! おかえりー」


「あら、ラプラタさん」


「ここで待ち構えているって、珍しいね?」


「ヘヴンから頼まれていからね~。まったく、幽霊使いが荒くて困るな。もちろん、持ち帰ってきているよね?」


「そりゃ、もちろん。我らがキング(笑)の頼みともあれば」


 ディオールの言葉に笑いが混じっているぞ。

 本人……本幽霊のいる前でずいぶんと嫌みっぽい態度だ。冗談半分なのだろうが、こういうことを平気でできる奴を心臓に毛が生えているとか言うのだろう。

 ……実態を考えると、そもそも慣用句を適用できないとも言えるのだが。

  そう、やつらはもう死んでいる。


「君たち、聞こえているからねっ!?」


「そりゃ、聞こえるように言っているし」


「正直、傷を最小限にして倒すなんて、面倒でしかないのですけど」


 ディオールの目が据わっている。

 ヘヴンは一体どんな無理難題を吹っ掛けたのか?

 俺の視線が向かうと、ヘヴンは少し下がった。


「え~、三種以上融合しているものを見つけたら持ってきてって言っただけだよっ? 傷を最小限にして、毒とか使わなけれはなお良しってね」


「無理ね」


「無茶だ」


 わふ《難題だ》


 ラヴィ、俺、アルが即座に返す。真顔で。

 そもそも、三種以上とか、確か力も相当強くなっているはずだ。滅多刺しにするとか滅多斬りにするとか滅多打ちにするとかしないと殺せない。


「でも、それができるのが英雄さっ! ということで、出して見せてもらえるかなっ?」


「ヘヴン様、この場所に出して、本当によろしいのですね?」


 カルティエが忠告めいたことをおもむろに告げる。


「ということは、よっぽど大きいとか新情報が詰まっているんだね。だったら、外かなっ。訓練場の使用を許可しよう!」


「ちょっと待てヘヴン。それができるのは俺だろう!?」


 というか、許可全般はブレインに任せてある。俺は城主だから全部の許可を出せる。ので、今度は視線が俺に集まる。


「シルヴァー、許可くれるかなっ?」


「そのまえに、何をするつもりなのか言え」


「え~? ちょっと解剖してみるだけだよっ」


 解剖か……思ったより意外性がなかった。


「おい、シルヴァー。露骨に顔出てんぞ」


「おっと」


「つまらねぇって顔だったねぇ。あんた達の関係性、ちょっと興味深いね。遠慮のない感じがなかなか面白くて良いよ!」


 イェーオリには半笑いで指摘され、シルキーにはどうも面白がられている。

 俺はむにむにと顔をほぐす。顔に出すぎるのも問題だな。


「関係性って言われてもな。別に怪しい関係でもないし、単純に持ちつ持たれつというところか? さて、ブレイン。訓練場は今は誰も使っていないか?」


《はい、陛下。第一訓練場ですと、施錠が可能なため今回の事について適しているかと思われます》


「そういえば、そうだったな。なら、そこを開けておいてくれ。それと、出入り可能な人物の制限もだな」


《かしこまりました。早速向かわれますか?》


「いや、こっちはこっちで話があるから――待てよ、第一はブレインも顔を出せるんだったか」


 ディオール達の戦果も正直、気になる。

 三種以上の混合体とか今後の俺達が遭遇しないという保障はどこにもない。今のうちにどんなものなのかを少しでも知っておくのは重要だ。

 一方で、フィル達についてもしっかり知っておかないとならない。どうやら流れ的に俺達の旅に同行する可能性が高いからな。


「ピュルテとトリッパーについてはディオール達英雄にも知っておいてもらわないとならない。それと、能力的にもしかしたら核持ちと相対することになるだろ。だから、そっちも隠す必要は特にない」


 一か所でやるべきことを全て片付けられればそれが一番良い。

 ということで、ゾロゾロと第一訓練場とやらに向かうのだった。

 ここまで一言も発していなかったティリーとかは疲れて若干眠そうで、ピュルテとトリッパーの代表、マリヤとルイは緊張しているようだった。流石に城内については妖精の侵入を許していなかったので存分に城を体験すると良いと思う。



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