敵に容赦は必要なし
次は6月3日の投稿を予定してます。
武器を持っていないという冒険者はいない。
だが、“今”武器を持っていないというやつは何人かいた。そういう彼等にはジンや枢機卿の許可を得て教会騎士が使っているという剣が渡されていた。
「本当の本当に良いんだなっ!?」
「マジかよ……騎士が持つような剣っていうから高品質だとしてもたいしたことないと思っていたけど」
「かなりいいやつだよな、これ」
うっかりものというかいろいろと巻き込まれた感がある彼等は新しいおもちゃを与えられた子どものように目を輝かせていた。
騎士の剣と言われて実用性にたるものだとは思っていなかったらしい。まぁ、目立つ近衛騎士なんかは儀礼用の剣をよく持っているそうだし、そちらの印象が強いのだろう。
「これで、武器の問題は解決したな。あとは防具か……」
「防具も武器ほどの品質は保証できないが、貸すことができるぞ?」
冒険者が戦いに出るにあたって武器と防具、最低この二つは揃えたい。それは、街中での戦いだとしても。
だが、防具はなぁ……個人個人の体格に合わないと逆に動きを阻害するから難しいところがある。
武器は良いんだ。冒険者なら自分の実力で使いこなせるだろうから。そう、何らかの形でな。
果たして、防具の貸借については……あまり手を上げる者がいなかった。
「こうしてみると、アイテムボックスを使える冒険者というのは少ないんだな」
「練習すれば小さい容量のものが使えるようになったりしますが、それに割く時間がもったいないということでしょう」
わふ《結局のところ、勉強嫌いが多いということだろう》
身も蓋もない。だが、アルの考えが正しいと俺は思う。
さて、準備に割く時間はこれくらいにしておこう。ここでもたついて肝心の敵を逃がしましたじゃ困るからな。依頼料を減らされたらたまったものじゃない。
「さて、適当に分けたし、早速向かうとするか」
「シルヴァー、それぞれの場所には聖獣もそうだが、教会騎士もいる。適切に協力して当たってくれ」
「ああ、わかった」
武器よし、防具よし。俺、よし。
いろいろと面倒なことを引き起こす邪神派のやつらを一掃してやろう。
「さぁ、行くぞ!」
ここまで展開が早すぎるが、まぁ、お偉方の意見ひとつで事態は急変するといういい事例だろう。俺達としてもエヴィータ派にはいろいろと思うことがあるのでちょうどいい。
アル、ロウのガス抜きにもなる。
俺達はじゃんけんで決めた通り、それぞれの方角へ散る。場所的に最も近いのは俺が担当する闘技場かもしれない。
だが、闘技場は広いし細かい部屋が多いので調べるのも戦うのも大変だ。壊していいなら遠慮なくやらしてもらうが、よほどの事情がない限りはダメだろうからな。
「闘技場組は全員ついてきているな?」
適宜振り返り突発依頼を受けた面々を確認しながら進む。ここで妙な動きを見せたら捕らえるためだ。別れ際にジンがこそっと告げていったのはエヴィータ派および獣人排斥派と見られる者を捕らえた場合、追加報酬を出すという話だった。
金になるならしっかり捕まえるぞ。
と、そんな俺の邪な思いに気付かれたわけではないと思うが、闘技場につくまでに変な動きを見せた奴はいなかった。こいつらはシロだろうか。
「ところで、ここからは先に待機している者達と合流するらしいが……」
そして、行けばわかるとの話だったのだが、どこにいるのだろうか。
確か、聖獣とかいっていたよな?
闘技場の方にもいるはずだ。
俺は、この闘技場のシンボルとも言える、“老人と薙ぎ倒される若人”の銅像前で周囲を見回す。
「なぁ、どうしたんだ? さっさと入って制圧しちまおうぜ」
新しいおもちゃを使いたい子どものごとく俺を急かすのは、教会騎士が使っているという剣を持った男だ。
何か危ない人に見える。
「いや、待て。俺達が武器をもって入っていいという許可証代わりの人員がいるはずなんだ。聖獣と教会騎士だったか。彼等と合流できないと俺達が捕まることになるぞ?」
「そりゃごめんだな。皇宮に捕まっちゃあ何されるかわかったもんじゃない」
「本当にな。大勢で押し掛けなければしばらくは閉じ込められ下手したら死神マリ達の拷問を受けるはめになったかもしれない」
「ぞっとしない話だぜ」
「ああ、まったくもって面白くない話だが、だからこそ各自で対策を取らなければならないわけだ」
今回は聖獣と教会騎士がいることでその対策となる。公的な身分がしっかりあるやつがいれば少しはこちらの身の安全にもつながる……はずだ。
《あら、シルヴァーじゃない》
「その声は……ニコラか?」
聞こえた声に、俺は尋ねる。聖獣の森で何度か驚かされた、カメレオンのニコラの声に近いと感じたからだ。
《そうよ、……あら、そういえば隠れたままだったわ》
「えーっと、どこにいるんだ?」
《ここよ、ここ。上から見ると禿げてるのもバッチリわかって笑えるわね》
「そこか……!」
冒険者の一部は頭を押さえ、俺も一抹の不安を覚えつつ見上げたところで見つけた。
いつの間にかいたのは小さい白銀のカメレオン。
なぜか彼女は銅像の老人のつるつる頭の上にいた。銀のモヒカンをした銅像か……斬新だな。
「やっぱり気配がつかめなかったな……」
《精進あるのみね。それより、予定が変わったのかしら? 聖騎士の精鋭が来るって話だったのに》
「その予定は知らなかったが、俺達は皇妃、ジン、枢機卿に依頼されてここに来た。全員冒険者になる」
《そうなの……》
ニコラは少し考え込む様子を見せる。俺達が参加することは伝わっていなかったらしい。まぁ、それも仕方ないだろう。何せ、皇妃達からの依頼は本当に”突発”依頼になるのだから。
《まぁいいわ。指揮系統がしっかりしていれば烏合の衆とてなんとか使える水準に持っていけるでしょう。……一部は良い武器をもっていることだものね?》
「うへぇ。面倒なところを振るのはやめてくれよな……」
教会騎士の武器を持っているやつらは期待が重そうだな。
《ちょうどいいから一番面倒な指揮権はシルヴァーに預けましょうか。何かあったら責任はすべて彼に、ね?》
「そりゃいいな! 気楽に暴れられるぜ」
「闘技場を壊すのは止めろ、絶対にだぞ!!」
俺は慌てて条件をつける。指揮権とか冗談じゃないが、途端にやる気を出したやつらは締めておかないと後で俺が地獄を見ることになりそうだったからだ。
「「え~」」
「俺にも考えがある。余計なことしたら、控えめに言っても地獄を見せてやるからな」
具体的な考えは何一つ無かったりするが、まぁ、そのときになってから考えるでもいいだろう。大事なのは、ここでそう意思表示をしておくことなのだ。脅しでもしておかないとこいつらは絶対に大人しくしていてくれない。
「チッ、そこまで言われちゃなぁ」
落ち着いた雰囲気を出してきたので俺は少し安堵する。これくらいの状態だったら何とか操縦できるだろう。
………締めるだけじゃ良くないんだったか。
「ああ、敵に対してはどうしようとも構わない。闘技場が壊れない程度にな」
「ヨッシャ! やってやるぜ」
「よしきた! 任せとけ」
不安しかない。
俺は実質責任者であるニコラを見る。
《貴方も聖獣なら彼等程度は上手く捌かなきゃね》
「冗談じゃないぞ。俺は面倒なことは嫌いなんだ」
《あら、私だって嫌よ。そもそも彼等を連れてきたのは貴方なのだから、責任持って操縦なさいな》
「む……」
確かに邪神派根絶チームリーダーのような立場に見られている俺だ。メンバー的にも俺がやるしかないのかもしれない。
「仕方が無いな……だが、上手く指揮できる騎士がいればそちらに任せたい」
俺がそう言うと、ニコラは考えた様子を見せ、銅像の上から飛んだ。
飛んだ!?
いや……俺の頭に飛び乗っただけだ。
そして、俺にしか聞こえないように言った。
《よっ、と。シルヴァー、貴方にだけは言っておくけれど、実はこっちに来ているのはいわゆる諜報部隊で指揮するために前に出るような者じゃないのね》
「諜報?」
《シッ。本当は教えちゃいけないのだけれど、作戦に関わってくるなら仕方が無いことだものね……まぁ、そういうわけだから、表立っての制圧は貴方達頼りになるわ》
「……先頭に立てる騎士がいないって、偏りすぎじゃないか?」
個人的に、隠密系が得意なやつは攻撃や防御においてぱっとしない気がする。うちのゼノンはそうでもないが、基本的には戦力として計上しにくいだろう。
《本当なら、そこを聖騎士が担当したのよ。でも、どうも来ないみたいね。何かあったのかしら》
「とりあえず皇宮が襲撃されていて、教皇と皇弟が行方不明らしい」
《あら大変。お仕事取られちゃうかもしれないわね》
「……嘘だろう?」
《悪運が強い人っているのよね……》
教皇・アリウムが獣人排斥派や邪神派を引き寄せている可能性があるらしい。彼等の所に集ったところをドカンと一発で倒せれば楽なんだがな。
「でも、仕事をしてないとして報酬を減らされるのは困るな。急ぐか」
《幸いといっていいのか分からないけど、情報だけはかなり充実することになりそうよ。そこは安心して活用してちょうだいね》
相手を襲いやすい位置とか教えてもらえたらすごく助かるな。
……この考え方、どう考えても悪党側だな……。




