レナート1・2・3
次は4月8日の投稿を予定してます。
嘘じゃないですよ……たぶん。
レナートが変化した狼魔獣は三匹いる。それぞれレナート1、レナート2、レナート3とでもしておこうか。1、2は俺達の方へ、3はラヴィ達の方へ向かっていた。
人間並みの知能を有した魔獣。決して侮れる相手ではない。
しかも、レナートらしく蔓植物を使った攻撃もできるらしい。
狼本体とはまったく違う方向から槍のように飛び出してきた蔓植物に冷や汗をかく。だが、そんな俺を守るかのように雄々しいドラゴンの意匠の盾が展開された。ヨシズの盾だ。ヨシズ自身も俺の前に立って攻撃をいなしている。
それを確認して、俺はこの皇宮を知る騎士を仰ぐ。
「キリト! この広間はどこまで耐えられる!?」
この皇宮は普通の建物よりは重厚に作られているはずだ。だが、戦いに適した場所というわけではない。遠慮無く戦った場合、崩壊は免れないだろう。それに巻き込まれるのも、その騒ぎに乗じてレナートに逃げられるのも俺はごめんだぞ。
「上級魔法は厳しいでしょう! あと、柱は当然のこと気を付けてください」
「そうか、分かった」
いろいろと気を遣って戦わなくてはならないことが決定した。
『制限された力で私を止められるとでも? 甘い考えですね』
それは俺も思っているが、場所的に全力を出せないのだから仕方が無い。だが、冷静に考えてみればこれだけの人数がいて、少し特殊だといえども三匹の狼魔獣を相手取るのに全力を出す必要はないかもしれない。
――ああ、そうだ
俺はニヤリと笑ってみせる。レナートを嘲るかのように。
似合わない? 別に奴を怒らせるためだから良いんだよ。
「お前程度に全力を出す必要はないってことだ」
『……実験体を経た暁にはなめた口をきけないように躾けてあげましょう』
「ほざけ。お前は二度と実験なんてものはできなくなるんだよっ。イェーオリ! お前達は皇妃様の方へ加勢しろ」
「おいおい、俺等、武器も何にも無いんだが!?」
「魔法があるだろう。レナート程度、それでいなせる。あとは向こうへ行けば分かる!」
とりあえず、武器がない者達には武器を返せば良い。それは、皇妃様の方にあるはずだ。少し離れていたが、ラヴィと目が合った。力強い頷きが返ってきて、俺の考えが外れていないと理解する。
『ずいぶんと、舐めてくれるものですね……っ。ガァアアアア!!』
大音量の咆哮に俺達は不意を打たれて思わず耳を塞ぎ、硬直し、大きな隙を見せてしまう。これは、【獣の咆哮】か。以前、クナッススでも人の身でありながらこの魔獣の能力を使っていた男がいた。同じ邪神信奉者であれば使える可能性を考えるべきだった!
「チッ、まずいぞシルヴァー! 蔓が邪魔で向こうと分断されて通れねぇ!」
見れば、イェーオリ達がちょうどラヴィ達がいるところまであと半分といった場所で足踏みしていた。蔓が壁のようになっており、すり抜けられないようだ。俺達が動けない一瞬を使ってこれを張り巡らせていたのか。
「燃やせないか!」
『私の蔓は特別な蔓。植物故の弱点などとうに克服しているのです。目論見が外れた心持ちはいかがかな?』
「最悪だな……」
建物内ということもあって大きな炎は使えないが、それでもと思い、森蔓には効果覿面だった炎蛇を使ってみる。しかし、思ったほど効果はない様子だ。
「シルヴァー、だけどあれ……物理には弱そうなの。半獣にでもなれれば突破できそうなんだけど」
「はんじゅう?」
「半分獣状態ってこと。ビースト・タブレット二つでなれるわ。中毒一歩手前だけど」
半獣……イェーオリ達と一緒にいると知らない単語がぽんぽん出てくるな。だが、どこかで似たような言葉を聞いたような?
ガルゥ、ルゥ《シルヴァーよ、今言うことではないかもしれぬが小鳥からもらった物があっただろう。戦闘前とか言っていたから切り札になるやもしれぬぞ》
「ああ、“はんじゅくの実”。マリナ、そう言えば聖樹からイェーオリ達にと預かっているものがあった」
俺はアイテムボックスから“はんじゅくの実”を取り出し、渡した。ゼノンやヨシズも持っているので、彼等が自分のアイテムボックスから取り出す間は俺やキリト、シリルが頑張ってレナートを抑える。
「え? 何これ……ナニコレ? 何か情報が入ってくるんだけど」
「うぉお!? 半獣の実? これビースト・タブレットの代用品になるのか!?」
俺は何ともなかったが、どうやらイェーオリ達には何かの効果があったらしい。はんじゅくの実……聞き間違えていたんだな。正式名称、半獣の実を手にした者から驚いた様子を見せていた。
「シルヴァー! これいくつある?」
「ええと……1人8個くらいか? 色や模様が違ったりしていたから何とも言えないが」
「充分あるな……よし、《望むは古き狩猟豹の血――目覚めよ》」
イェーオリは一瞬躊躇うような様子を見せたが、その気持ちを振り切って一息に実を口の中へ放り込んだ。それを咀嚼している間に起こった変化に俺は自分の目を疑った。
イェーオリの頭には猫耳のようなものが、尻には尻尾が生えたのだ。あいつは獣人ではなかったはずだから、これはおそらくあの食いたくない見た目と色をした実の効果だろう。
「……フリオ、ライス、この実は十大氏族対応だ。象を使ってぶっちぎれ!」
「「了解!《望むは古き象の血――目覚めよ!》」」
レナートが張り巡らせた蔓のすぐ側にいた二人も半獣の実を口にして、呪文のようなものを唱えた。すると、体が一回りほど大きくなり、より筋肉質になった。
彼等はそのまま蔓に回し蹴りをする。いくら物理に弱そうと言っても、殴る蹴るで破れはしないだろと思ったのだが、予想と違って蔓はあっさり裂けていた。
ライスとフリオが回し蹴りした足を床に下ろせば、ズゥゥゥンと人の足で出せるはずがない音がしたりする。
何だあれ。床が抜けていないのが奇跡のように思える重さを感じる音だったぞ。
そして、すぐさまその破れた場所をマリナやシルキーが的確に焼いていく。傷口は弱いということなのだろう。
『そんな馬鹿な!?』
レナート1、2も唖然としていた。キリトやシリルもだ。とはいえ、彼等は狼魔獣の隙を逃さず一撃入れていたが。
そして一撃返されて我に返っていたりもしたが。
「象の血は力任せに限っちゃ氏族一なんだよな。ヨッシ、俺も行くぜぇ。最速の足を見せてやろう。しかも半獣。制御できっかな」
少しばかり不穏なことを呟きながらイェーオリは好戦的な笑みを浮かべてフリオとライスが開けた隙間目がけて踏み出す。
一瞬でトップスピードまで上り詰め、あっという間に蔓の向こう側へと到達していた。何とか目で追うことはできたが、あれと併走することは絶対にできないだろうという速さだ。
そして、再びズゥゥゥンと腹の底に響きそうな重い音が聞こえてくる。ライスとフリオもまた蔓の向こう側へ行ったようだ。これで、俺達側の戦力は分散することになったが、レナート1、2、3どれにも十分対処できるようになったはずだ。
「ここからたたみかけるぞ! ヨシズ、ゼノン、アルはそのままレナート1を抑えていてくれ。すぐに俺も加勢する! キリトとシリルはレナート2を、マリナとシルキーはその補助を頼む!」
「「おう!」」
「あとは、ラヴィにロウ! 聞こえるか!」
聞こえるわ、とだいぶ余裕のありそうな返答が返ってくる。彼女達の方の状況は良く分からないが、皇妃を除いても5人いれば大丈夫だろう。
……あの皇妃も相当戦えると思うがな。
「任せたぞ!」
下手な指示は出せないので向こうについてはお任せにする。まぁ大丈夫だろう。
『この……羽虫どもめがぁっ!!』
ガァアアアア!!……グルル《見えすいた攻撃だな》
音の衝撃をアルの咆哮がかき消した。レナートからは既に一度食らっているからな。二度目はない。
それより、獣の咆哮が相殺されたから狼魔獣が隙だらけに見える。俺達相手にそういう隙をさらすとか、そっちこそ舐めているのではないかと言いたくなるな。
「隙ありっと」
『グゥアアアアっ』
俺も刀を取り出して本格的に戦いに参加する。さぁ、タコ殴りだ!




