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虎は旅する  作者: しまもよう
教国・救出編
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騒乱の芽が行く

次は12月4日の投稿を予定してます。

ちょっと忙しいので一週見送るかも……。


 夜のうちに、俺達は聖獣の森を後にした。ここでやるべきことはもう済ませたからだ。というか、今のうちに戻っておかないといろいろとタイミングが狂ってしまう。


「ま、夜に行っても門が開いていないと思うけどね」


 俺達を見送りがてら森の門の辺りまで来てくれたニコラがそう言って苦笑が混じった笑みを見せる。


「それでも朝に噂を拡散するには早く行っていた方が楽だろう」


「それはそうだけどね。あ、一応、念のために言っておくけど門の外でも話さないようにね?」


「あくまでも最初はギルド、だろう? 分かっているぞ」


「それなら良いわ。頑張ってね」


 にこにこと見送られて俺達は聖獣の森を後にした。最初の御者役になった俺は肩越しにティアナブルを一目見ると前を向く。聖獣としての自覚なんて欠片もないようなものだが、悪くない時間を過ごせた。


 ピチチチ《忘れ物だぜ》


 小鳥が籠を加えて飛んできた。その籠は俺の頭の上に落ちてくる。狙ったな、この野郎。とくに問題なかったから良いんだが。


「何だこれ?」


 籠の中にあったのは親指サイズの果実のような何かだった。結構な数がある。それぞれ妙な柄がついており、とても旨そうには見えない。


 ピチチチ《ティア様の忘れ物だってさ。()()()()()の実がどうたらとか言っていたぜ》


「半熟の実? 食べられそうな見た目じゃないが」


 ピチチ《あ、シルヴァー達は食べちゃダメだってさ》


「ならどうしろと」


 ピチチチ《これから会いに行くんだろう? イェオリとかいう奴らにだって。渡せば分かるからとか言っていたけど》


 イェーオリな。棒があるかないかでだいぶ違うぞ。

 しかし、ティアはあいつ等のことも知っているのか。どこまで知っているのか……。


「あいつらに? まぁ、分かった」


 ピチチチ《渡すタイミングとしておすすめなのが戦闘前だってさ》


「ドーピング剤か何かか? 体に悪い影響はないだろうな……」


 とはいえ、食べるのは俺ではないので安心して渡せる。


「ま、何にせよ渡しておく。お前もティアのところに案内してくれてありがとうな」


 ピチチ《べ、別にここの奴らなら誰だって知ってるし! 次も良い時間を教えてやるよっ》


 そういうと、小鳥は戻っていった。今気付いたが、あの小鳥、夜でも飛べるんだな。


「何あれ、ツンデレ未満の何か?」


「いえ、単なる親切な子どもでしょう。尖り損ねた感じはありますね」


 グルル《基本的に善良なのだろうな。悪いことではないが》


 好き勝手言うのはゼノンにロウ、アルだった。まぁ、アルは馬車を引いていることもあるし話を聞いているのは当然ではあるが、ゼノンとロウはわざわざ聞くために顔を出していたようだな。


「まぁ、話を聞いていたならちょうど良い。どうやらこの実らしき何かはイェーオリ達に渡さなければならないようだ。それぞれいくつかずつ持っているか」


 救出はたぶんそれぞればらけることになると思う。ニコラからの情報でイェーオリ達がいそうな方角は分かった。ただ、方角というところが肝だ。あくまでも俺の勘だが、たぶん、イェーオリ達はばらばらに捕まっている。


 なぜなら、あいつ等の戦いは闘技大会でのチーム戦が最も印象に残っているから。誰だって大体そうかもしれないが、仲間が増えれば増えた分だけ工夫もできるというものだからな。あいつ等は特にその傾向が強いように感じた。


「ということで、アル以外にはこれを持っていてもらいたい。ついでにこれも」


 俺は馬車の中に入ると特に説明なしに微妙な柄の実を配った。実自体は小さいのでアイテムボックスの容量を圧迫することはないはずだ。


「自然にはなさそうな色と柄ね」


 暗闇でも光りそうな色と菱形を敷き詰めたような柄をした実を一つつまんでラヴィが言う。確かに、外から塗ったかのような見た目だ。それぞれの色と柄が違うこともあって、余計にそう思った。

 俺自身、これを食べる勇気は永遠に湧かないだろうな。


「戦闘前に渡すのがおすすめらしい。どうやらイェーオリ達にとってはドーピング剤か何かになるみたいだな」


「これが? まぁ、いいけど……私が食べるわけじゃないのだし」


 ラヴィと俺は同じ思考回路のようだった。気が合うな。

 さて、聖獣の森から都へは設置してある転移陣を使えばあっという間につく。だが、俺達はそう急ぐつもりもないのでのんびりと行くことにした。この森は、実は意外に薬草など高く売れる物が手つかずのまま自生しているからだ。少しばかり寄り道をすることにした。


「ざっくざくだな」


 魔力を当てたら傷塞草は緑色にぼんやりと光り、魔復草は紫にぼんやりと光ったので夜でも採取は可能だった。もちろん、他にも珍しいものを採ってある。


「ポーションの材料は教国で売るよりも公国で売った方が高いかもしれません。ただ、魔復草は都では高めに買い取っているようでした」


「たぶん、明後日か明明後日くらいになればどちらも都の方で買い取り額が上がるでしょ」


「そうでしょうか?」


「ほら、オレ達の予定を考えるとな……たぶん、需要が高まるだろ」


 苦笑いをしてヨシズが言う。

 ここで俺達の予定を考えてみよう。ちょっと噂をばらまく。勢いに乗って皇宮突撃。

 とても怪我人を生産しそうな予定だ。きっと薬屋が儲かる。


「言われてみれば確かに。ですが、売りに行けそうにありませんね」


 マッチポンプというか何というか。疑いを持たれたらこちらが一気に悪者になりそうな話だ。


「まぁ、そんなに心配するほど貯金がないわけでもなし、気楽に行けば良い」


 そうして、俺達は度々採取をしつつ都へたどり着く。

 夜のうちはどこもあまり門を開かない。余程緊急性のある伝令がやって来るとかそういったことがない限りはぴったりと閉じたままであるのが普通だ。

 俺達も開門待ちの列に馬車を並べて日が昇るまで一眠りすることになった。



 *******



 それなりにお金を掛けてきれいに保っているその部屋の中で、一人の男が机に肘を立てて手を頭に当てて沈黙していた。つまり、頭を抱えているのだ。

 何に頭を抱えているのかといえば、注目していた冒険者パーティの行方を辿れなくなったからだった。

 いなくなってしまうと、やっぱりもう少し交渉しておいた方が良かったのではないかと思ってしまう。自分の勘でしかないのだが、あれを研究すれば他国に先んじて今世界中で起こっているという異変に対応出来る力を得られるような気がするのだ。

 というか、彼等との対話でその予想は正しいと思うようになっている。


「異変に飲まれて民が傷付くのは困りますからね……可能であれば穏当な手段でやりたかったのですが。逃げられてしまったのでしょうか」


 軽い様子見のつもりで出した依頼があった。しかし、対象パーティが一定期間ギルドに来なかったため普通依頼としての振り分け許可申請として戻って来たのだ。そのため、彼等につなぎが取れないことが発覚したのだった。


 したがって、買い取りたい例の石の行方も分からなくなってしまった。

 皇弟直属の騎士まで使って探させたが、彼等はとある依頼を受けて開拓村へ向かったところまでは情報を引き出してきた。しかし、そこから先の足取りは掴めていない。ギルドも簡単に情報を漏らしてはくれないのだ。


「さて、こう考え続けていても意味はないですね。気を取り直して、あの石に似たものでも良いので手に入れる方法を考えましょうか」


 全ては今起こっている異変に対応するために。

 彼の瞳の中には、確かな信念と強い決意があった。

 そのとき、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。


「どうぞ」


「失礼します、キリトです」


 やって来たのは黒の騎士。この色をまとうのは皇弟直属の騎士だけだった。


「君は確か、アリウムのところの……何か進展でもあったのでしょうか?」


「はい。シルヴァーのパーティについてですが、聖獣ディオンによって依頼の達成報告がされていたようです。しかし、当パーティは帰還せず。何らかのイレギュラーな事態が起こったと推測されます」


「それはいつ頃のことでしょうか。確か、開拓村は既に再開していましたね」


「はい。およそ……2週間前になるでしょうか」


「なるほど、分かりました」


 情報が古すぎて知ったところでどうにもならないということが。思ったよりもギルドは情報の扱いを心得ているようだ。教皇は冒険者ギルドの評価を上方修正する。


「それと、併せて報告したいのですが、どうやら教会の一部の動きに違和感があります。まだ確証を得てはいませんが、何らかの動きがあるかもしれません」


「そうですか。引き続き動向の調査をお願いします。くれぐれも、踏み込みすぎないように。教会は闇を抱えています」


「はい」


 一礼して去った黒の騎士を教皇はもう思考のうちに含めていなかった。彼には他に考えるべきこと、やらなくてはならない仕事が山ほどあったからだ。


「はぁ、国というものは火種がありすぎますね……」


 この数日後、新たな火種が投げ込まれることを予想できたものは誰一人としていなかった。



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