珍しく真面目な
次は6月12日の投稿を予定してます。
妙な文章が入って矛盾があったので急遽手直ししました(__;)
魔力過多だから魔力を授けるって……私、寝ぼけていたのでしょうか
デュクレス内の聖堂は、日のあるうちはどこからかステンドグラスを通して鮮やかな明かりが落ちる。魔法か、偶然か、それは分からないが不思議なものだと思う。
そんな聖堂へはヘヴンに言われたから立ち寄った。普段だったら俺はこんなところへは来ないだろう。何せ、神様を信じているかと聞かれれば信じてはいると答えるが、祈る対象、縋る対象としては考えていないからだ。
「シルヴァーは、女神様を信じているのかなっ?」
「いや、信じてはいないな」
まるで俺の考えを読んだかのようなタイミングだった。こんな聖堂に来ていてなんだが、本当に神様は信じていない。神術なんてものを使っていながらも、俺はどうしても信じられなかった。神術はきっと昔の人が神を騙って作ったに違いない。
「ふーん、シルヴァーはそう思うんだね。ちょっと意外かなっ」
「なぜだ?」
「シルヴァーはさ、たぶん一番魔法とか魔力の不思議を体感していると思うんだよねっ。……その魔法や魔力、自然に現れるものだと思う?」
「違うのか?」
「よく、考えてみて。そうだね……例えば、変化は魔力を使って行うものなんだよ。君の姿を完全に別のものへと変える効果がある。でもね、それって本来はとても不自然なものなんだよねっ。自然と言うならば君は虎の姿をしているのが自然だ。魔法は自然を歪めるものになるね。では、自然を歪める魔法、つまりは魔力になるけど、それは自然のものなのだろうか?」
「さぁな。今普通にあるんだから自然のものとして良いんじゃないか」
俺は途中で頭が痛くなった気がして思考を放棄する。正直、ヘヴンが言っていることも言いたいことも良く分からなかった。
「こらこら、考えることを放棄すると今後困るよっ。まぁ、私もしっかりと考えられているわけではないから、分かりにくかったかもしれないけどね。この話はこれからするものにも関わってくるんだ。スパッと結論から言えば、魔力はもともとあったものじゃない」
「そうなのか?」
「そうなんだよっ。私が生きていた頃の、そのまた昔の話になるけど……」
そして、ヘヴンによる神話が語られる。見てきたような話し方で、ひどく奇妙な感じだった。だが、ヘヴンは生きているときと死んだ後のことと合わせれば相当な時間を過ごしているからな……。
かつて、世界には魔力が無かった。その代わりに自然の力を最大限に使う技術が発展していたという。その仕組みについてはヘヴン自身も詳しくは分かっていないらしいが、人は馬車よりも速く空を飛べていたそうだ。
そんな衝撃の世界だが、長くは続かなかったらしい。ヘヴンが言うにはおよそ500年ほど経った頃に大地が怒りをみせたのだという。自然災害という言葉で表されるそれは雨は降り続き川や湖は氾濫し、そうかと思えば日照りが続き、異常気象に食物は死滅してしまう。大地は揺れ動き、地の底が見えそうなほど割れてしまったところもあったという。
そうして、世界は一度滅びた。今あるような太陽も月も見えない暗闇になったという。
「誇張じゃないのか?」
「本当にあったことだよっ。私はその様子を見ていたんだから」
滅びたと言っても生き物は少しは残っていたらしい。というのも、暗闇を抜けた世界でそういった存在が気ままにいたからだ。ヘヴンも気付いたら明るい場所に立っていて驚いたという。
その明るさをもたらしたのは女神様達だった。
「達?」
「そう。アデライドとエヴィータだねっ」
「……おい、主神と邪神じゃないか」
俺は怪訝な顔をヘヴンへ向ける。
「ああ、一般にはそうなっているみたいだね。でも、アデライドもエヴィータも一生懸命な娘だったよ。確かに神様らしく強い力を持っていたし、その威力調整を間違えて豊穣をもたらしたりうっかり災害をもたらしたりしていたけど」
「他人事な感じだな」
「災害と言っても自然災害がほとんどですでに死んでいる私自身に直接影響するようなものじゃなかったからねっ」
ともかく、彼女達が核となって世界が回り始めたらしい。当初はどちらも人の信仰を集めていたそうだ。ただ、姉妹神としての存在は、信者の分裂、争いを引き起こしてしまった。それを憂慮した二人は世界を分けることに合意したのだという。
「大障壁の向こうとこちらがそうだよっ。こちら側は姉のアデライドの領分、向こう側は妹のエヴィータの領分とされたんだ。ちなみに、大障壁はアデライドが作ったんだけど、流石にそれほど大きな創造は厳しくてだいぶ力を削ったみたいだったね」
一方、エヴィータは人間の可能性というものに注目するようになる。
だから、生き物へと魔力を授けたのだ。これは、アデライドによる大障壁と同じく神としての力を大きく削る創造だった。
「魔力はエヴィータ神によるものだったのか」
「そうそう。特にエヴィータの領分とされた大陸側は結構な変革となったみたいだよっ。ちなみに、神術はアデライドによるものだったかなっ」
ちなみに、アデライドが信仰的に支配していた方は多数の人が居た。彼女は【調和の女神】と呼ばれるようになった頃、人への干渉を減らし始める。
しばらくして、人にとって致命的な災厄が訪れる。疫病だ。人が築いた文明が壊されてしまう。
アデライドはその対策として人に『神術』を授けたのだった。その頃の人は魔力を潤沢に持っていたらしい。それが疫病の広がりにも作用していたらしいから、何とも複雑な感じだ。
と、これは余談だったらしい。
「……で、先程までの話が一体何につながるんだ?」
「うーん、と。今世界中で問題になっているスタンピードの話につながるかなっ。今のスタンピードは魔力が鍵なのさっ。シルヴァーが見つけた魔石も魔力の変質が原因だし。……おっと、この辺りからは私以外から聞いてもらおうかな」
「ヘヴン以外?」
俺達の他にも誰かいるのかと疑問に思って周囲を見回す。だが、誰もいない。人も妖精もアンデッドも。どういう意味だったのだろうかと思って正面へ視線を戻して、俺はギクリとし身構えた。
『人の子……いえ、虎の子でしたね、あなたは。私のことは見えていますか』
線の細い、美しい女性だ。顔形は教会の像で見ているものと変わらない。ただ、瞳の奥にうっすらと炎が揺らめいているように見えるのだけは当人に会っていなければ分からなかっただろう。
「……ああ、見えている」
『良かった……私は、多少力が安定したとはいえ、全盛の頃に比べればひどく薄いので……見える人が限られてしまうのです』
この声には覚えがあった。あれは確か、ヒコナ帝国ハタの町に滞在していたとき、このデュクレスへ来たときのことだったはずだ。夢現にヘヴンと話していた声が今聞いているような、温かく包み込むようでどこか頼りなさげなものだったことは覚えている。
「おい、ヘヴン、この方はまさか……」
「君の想像通りだと思うよ。シルヴァー、こっちはアデル……女神アデライドだよっ」
『ええ、私はアデライド。この世界の女神の片割れとして存在しています』
「で、こっちはシルヴァー。アデルは彼に目を掛けていたから知っていると思うけどね」
「目を掛けていた?」
聞き流せなくて、俺は復唱し疑問符を付ける。俺は神様に注目されるほどの何かをしたのだろうか?
『ふふ。戸惑うのも……無理はないですね。ヘヴンからの説明が無さすぎるのでしょう』
つまり、俺がわけわからないまま戸惑う羽目になっているのはこいつのせいか……。
俺は半目になってヘヴンを睨み付けるのだった。




