生贄派と魔獣掃討戦
次は3月20日の投稿を予定してます。
無理ならあらすじの上部にその旨を書きますので。
鳥人族の里は少しだけ慌ただしい様子を見せていた。俺が転移したのは朝のことだが、そのときはもう既に騒がしさがあった。というか、そのせいなのか門に誰も居なかったりする。
「入っていいかー……いいぞー……」
自分で聞いて自分で許可を出す。誰も反応してくれないし、気にされない。一体何が起こっているのか。
「というか、誰も居ないからな……」
相当なことが起こっているのだろう。まずはモズを探してこの状況について聞いてみるか。出歩いているのはだいたいガタイの良い男のようだ。おそらく兵士とかその辺りの存在だろう。モズもいるかもしれない。
そう思った俺は近くで走って行った鳥人族の一人を捕まえようとする。通りざまに腕を掴むのだ。羽の方が掴みやすいのだがむしってしまったら悪いからな。
「うぎゃっ」
少し位置がずれて襟元を掴むことに。ちょっと首が絞まったかもしれないが許せ。俺はそのまま鳥人族の青年を引き倒し事情を尋ねることにした。
「な、何だっ!?」
「ひとつ、聞きたい。この里で何かあったのか?」
「本当に一つだな……だが、余所者には教えられん!」
「そうか。それなら、他の人に聞こう。強引に止まらせて悪かったな」
「イテッ」
パッと手を離せば鳥人族の青年はうっかり地面に頭を打ち付けてしまう。わざとじゃないからな……。しまったと思いつつ立ち上がらせようと手を差し出した。
「悪い」
「……どうも。ったく、この忙しいのに……」
ぶつぶつ文句を言いながら砂を払っている彼を背に俺は里の中心の方へと向かうことにする。次に誰か捕まえられたらモズの居場所を聞くとしよう。その方が情報源的にも良いだろう。
そんな風に考えて青年から離れようとすると、慌てて引き留められる。
「ま、待て待てっ! 今の里の状況を良く分かっていないんなら外からの人だろ!? いつ里へ入り込んだんだ!」
「いつって……つい先程だな」
「つい先程ぉ!? 門番が居たはずだろ、何やってんだ。危ないじゃねぇか」
その危ないという言葉には“里が危ない”と“俺の身が危ない”の二つくらいの意味が込められているようだった。まぁ、易々と外の者に侵入されるようでは里の防衛が心配になるのは間違いない。そして、どうやら本当にこの里では物騒な何かが起こっているらしい。
とはいえ、困ったことに今は侵入が容易なんだよな。
「門番は居なかったぞ? だから、俺はここにいるんだが」
「あの野郎っ……サボっちゃならない時にサボりやがって!」
彼は状況を理解したのか、怒りの感情を爆発させた。頭を抱えてそう叫ぶとこうしちゃいられないと言って門の方へと走って行ってしまった。俺については放っておいて良いと判断されたのだろうか。まぁ、とにかくモズを探そうと思って俺は歩き出した。
そして、少し先で道を横切ろうとする影を見つけて捕らえた。
「モズがどこにいるか知らないか?」
「うぎゃ! な、何だ何だ。モズ?」
「どこにいるか知らないか?」
「い、言うから首から手を離してくれないか」
同じように引き倒したら、今度は中年っぽい男だった。言う、との言質を取ったので手を離してやる。だが、男は俺が手を離したのを見て俊敏に飛び上がった。
「モズの居場所は……俺が知るかよ。死ね! 【ウィンドエッジ】」
「うぉっ」
俺は慌てて転がって避ける。だが、いくつか偏差で襲いかかってきて足を少し切り裂かれてしまった。なぜ唐突に殺意を向けられた? 俺はそこまで恨まれるようなことをした覚えはない。
「あいつの知り合いだっていうならお前も邪魔をする者ってことだ。恨むなら自分を恨め!」
追加で飛んでくる風の刃に俺は戸惑いつつ対応する。モズの知り合いであるということが殺意の原因? だとすると……今モズと敵対しているのはおそらく生贄派とか言う頭のおかしい集団のはずだから……つまり。
「お前は生贄派の奴か!」
ピンときて叫ぶが、男は鼻で笑い見下ろしてきた。
「はっ、生贄? いや違う! 鳥人族は鳥人族だけで暮らすべきだという自然派だ」
自然派というよりも異種族排除派と言うが正しいのだろうか。自然と言うならばスタンピードという脅威を前にして獣人が一丸となって対応しようという流れこそを自然と言うべきであり、種族ごとまとまっていることを至上としているかのような男は自然派という名称に合わないのではないだろうか。
まぁ、正直今の状況でそんなことを考える余裕はあまり無い。
「ちっ……」
予想以上に俊敏な男だ。羽を上手く使って移動の補助にして逃げるので俺の魔法が届かない。寸前で躱されること十数回。町中での戦闘であまり大きな攻撃が出来ないこともあって苛立ちがつのる。
そのとき、俺の視界に棒らしき何かが混ざり男の羽へと突き刺さった。
「ぐぅっ」
俺は反射的に足を止めてしまう。頬がちりっと熱を有しているのだ。……おそらく、あれが掠ったはず。そっと頬を押さえて驚愕と戦慄を含んだ視線を向ける。
「悪い、遅れてもうた!」
「モズ!」
形勢が逆転した要因はモズが力一杯に槍をぶん投げたからのようだ。俺の肝も冷えたが。
「うし、挽回していくで!」
やって来たのはモズだけではなかった。2、3人の兵らしき鳥人族が後に続いていたのだ。
「ナイスやシルヴァー! あいつがいっとう重要な奴やで!」
「ちっ、もう嗅ぎつけてきたのかよっ。てめぇらも死ね!」
鳥人族は潤沢な魔力を有しているのか、男は今も元気に攻撃魔法を使ってくる。だが、対するこちらもモズ達を加えて戦力が充実しているのだ。そう簡単に負けはしない。
「【ウィンドエッジ】」
俺が苦戦した魔法だが、モズを戦闘に兵達は慣れた様子で躱している。むしろ俺の方がたたらを踏んで足止めされている感じだな。
「【ウィンドアーマー】……風に負けはせぬ!」
風をまとい、風による攻撃魔法を逸らしている。そして、彼等は各々の武器を構えて突撃した。
なるほど。攻撃魔法で対応するのではなく物理で仕留めに行くのか。明後日の方向へ弾かれては困る攻撃魔法を使うより周辺環境に対して優しいな。
そして、あっけなく男は捕まる。
「魔法は封じさせてもろたで」
「くそっ、怪我さえしてなけりゃ小僧共を出し抜けたってのに」
「いやいや、ほんまに否定できへんのがなぁ……まぁでも捕まったんやから自分、きりきり吐きぃや」
苦笑いで頭を掻いた後、しゃがみ込むとモズは悪役のような悪い笑みを作る。台詞は完全に悪役だがな。
「大通りで拷問でも始める気か? というかモズ、魔獣掃討戦の方はどうなっているんだ」
「もう少しで始まるで。……予定通り、平行して行うつもりや」
里外の魔獣を殲滅すること、里内の生贄派を捕えることの二つだ。どちらも外せないらしい。
「俺は外の方がたぶん性に合っているから。そちらに向かうが、良いか?」
「そこは自由にして構へん。ただ、何かおかしなことがあったら教えて欲しいんや」
「小魔獣が自在に魔法を使う以上に?」
薄く笑って俺はそう言う。おかしなことと言っても、流石にそれ以上の異変は起こらないだろうに。そう思ったのだが、モズはまだ憂慮の面持ちをしている。
「いや、少しでも変だと思ったことは全て、やな」
「……門に誰も居なかったことは異変に入るか?」
「っ!? 異変も異変やで! あの野郎、サボりよった!」
モズは俺の言葉に慌てて立ち上がった。そして、周囲に集まってきていた兵士達へと指示を出す。
「ロビンを探せ! それと、二人ほど門へ!」
まぁ、よく考えれば外からの敵が予想されているのに門に誰もいないということはどうぞ入ってくださいと言っているようなものだ。大問題だな。
「シルヴァーはそのまま掃討戦に参加よろしく頼むで!」
「ああ、分かった」
慌ただしく門の方へと走っていった兵士を追いかけるようにして俺も向かう。その反対側へは捕まえた男を引っ張りながらどこかへ行くモズ達がいる。
一人の鳥人族が邪悪な笑いを漏らしたことは誰も目にしていなかった。




