王都……まだ着きません!
王都クナッスス。そこは、クナッスス王国の中央に位置する。住人は人族が大半を占めている。人中心の社会において、特に国の貴族には獣人を見下す輩も稀に見かけるが、幸いにも王や高位貴族にはその気配は無いそうだ。むしろ獣人の受け入れを推奨する王は獣人達にも人気で、都は過ごしやすいと評判である。そのため、割と高ランクの冒険者も集まり、治安も良い。冒険者が目指す魔の森とは最も遠い都だと言うのに冒険者の比率は高めである。これは非常に珍しい状況だと言えよう。
……と言うのが今俺たちが向かっている国の概要だ。
「自分のいる国くらいは知っておこうぜ、シルヴァー」
ヨシズから耳の痛い言葉が飛んでくる。まぁ、俺虎だったし? 人が定めた国のことなど関係無かったから知る必要が無かったというか、教えてくれるものなどいなかったからな……。そうも言っていられないのが現状か。いずれ何かボロを出すかもしれないな。……もう遅いかもなぁ。
「俺に常識を期待しないでくれ。そこら辺はちょっと込み入った話があるからな」
「深く聞こうとは思わないさ。オレ達に言えると判断出来たら言ってくれ。本音では早く知りたいが……そこまでの信頼は無いか」
「あ、すまない。最後何て言った?」
「いや、なんでもない」
「……そうか」
一行は王都まであと1日の辺りまで来ている。順調に行けば明日の夜に着くだろう。ヨシズとシルヴァーは2番目の火番であり、辺りはすっかり暗くなっている。見上げた先には満天の星空が広がっている。
グルルゥ……
森の中から何対かの視線が向けられ、獣の唸り声がきこえてきた。ウルフだ。
「起きろ! ウルフだ!」
冒険者が眠るテントの入り口が勢い良く開いて皆出てきた。騒ぎに気付いてガーリックさん達も顔を出して周りを確認している。
「どこだ!」
「森の中のようだ」
数人はガーリックさん達の盾となる様な位置を取り、両者は睨み合いを始める。
程なくして……
グルラァ!
両者の間の緊張の高まりに耐えられなくなったのか、一匹のウルフが飛びかかって来た。
「ハァッ!」
応戦するはヨシズ。だが、先ほどのウルフがきっかけか、後続のやつらも次々と森から出て来て一気に乱戦となった。
「チィッ。ガーリックさん達の所まで下がれ!」
ギャンッ
俺達と同じ様に依頼を受けたもう一つのパーティのリーダーのゼアがウルフに剣戟を叩き込みながら指示する。ウルフは群れで連携して攻撃してくる。下手に攻撃して引き離されるよりましだろう。
何より重要なのは依頼主を守ること。次点で積荷や馬車か? ともかく、俺達はガーリックさん達のテントの周りで応戦することになった。
「おかしいわよ……! どうして退却しないの?」
ウルフの襲撃からもう既に一時間は経った。こちらの体力も限界に近付いているが、ウルフもかなり倒されている。普通ならこれだけ同胞が倒されたら退却するのに、今だ攻撃が止むことはない。本当にどうなってるんだ。
「レラ! 無駄口叩くな! 体力を温存しろ!」
「分かってる……」
二人の会話を尻目に俺は襲ってくるウルフを迎撃しながら注意深く観察してみる。
見た目は普通のウルフだ。灰色の毛に黄土色の瞳。暗くてよく分からないがおそらく雌雄で色が僅かに違うはず。
「【サンダー】」
「【ライトエクスプロージョン】」
魔法に照らされてウルフ達の姿が浮かび上がる。
「「あ!」」
「どうしたシルヴァー、ゼノン!っと」
「あいつらの首に何かついている!」
「【【ライト】】」
俺ともう一人の魔法使いの魔法が辺りを照らす。ウルフ達の首に赤い石がはめてある首輪が見られる。
「あれを壊してみる……か」
俺達は唯ウルフを倒すのでは無く、ウルフ達の首輪を狙った。すると、首輪を壊されたウルフから地面に倒れて行った。
そして、襲撃が収まった。俺達はウルフ達の状態を確認する。
「まだ生きているね。でも、倒れたのは無理に体を動かし続けたことの反動だね。というかこの個体……本当にウルフかな?」
「どう言うことだ?」
ゼノンの言葉に疑問をこぼすゼア。
「ウルフとしては体が大きいし、回復力は普通ウルフの倍以上。あと数十分で動けるようになると思う。毛も灰色じゃなくて、これはむしろ白銀……」
「亜種じゃないの?」
「違う。こいつらは多分幻獣の一種だ」
気配が獣のそれと違う。
「何か知っているのか、シルヴァー」
「白銀の毛を持つ獣は総じて聖獣や幻獣かそれに準ずる魔獣だ。動物でも魔獣でもないなら、確か自分が認めた相手で、特別な儀式を経たら意志疎通が出来たはず」
「その通りだよ。死なせると教国から睨まれちゃうからさっさと手当しよう。幻獣だと言うならかろうじて死んではいないはず」
「マジか。……確かに死んではいないみたいだな。レラ、任せたぞ!」
「ハイハイ。ポーションとか持ってたら出して」
「スペル【キュアー】」
スペル……?
湧いた疑問はさておき、俺もポーションを持ち出してウルフ(?) 達の治療に向かった。
「あーつっかれたー! やっぱりスペルは苦手よ」
「なぁ、レラさん。スペルって、なんだ?」
先ほどの疑問を口に出したその瞬間、空気が凍った。
「……スペルって言えば、大気の魔力を取り込み発動するという体系の術。回復・援護をするときに使うものよ。一応魔法の一種とされているけどね。普通の魔法は呪文を唱えるだけでいいけれど、スペルは文字を描かなくてはならないのよ。その文字も神代文字といって、今のものとは全く違うの」
「そうなのか。普通の魔法じゃないんだな。それは知らなかった」
「「……嘘でしょ(だろ)」」
戦闘技術は申し分ないのに知識が無いなんて……と、頭を抱えているレラにゼア。
「すまんな。どうやら俺はちょっとばかり常識が無いんだ」
「自覚しているのね。それなら良いかしら? 無知は時に自分に牙を向く。気を付けてね?」
その牙はもう既に首元に待機している気がするがな……。
少しして気が付いたウルフ(仮)達は周りを見回して自分達が無事だと気付くと治療に当たった人達に顔を擦り付けた後、数匹ずつ連れだって森へ帰って行った。……特に大きい一匹を除いて。
「おい、お前は帰らないのか?」
俺の横を陣取ったまま動かない最後の一匹に声をかけてみる。どこも怪我は無いよな?
グールルル《帰らぬぞ》
……………は?
「お、おい、今……」
「どうしたーシルヴァー」
長い戦闘の後でへばっているヨシズが気の抜けた声で聞いてきた。……気付いて無い? 今確かに『帰らない』って言ったよな。何が? このウルフが。
「えぇぇぇえ!」
「「「うるさい!」」」
グルルゥ!《うるさい》
「いや、さっきこのウルフが帰らないって。今もうるさいって話したんだか」
「まさか。原語付加がないと言葉として聞き取るのは出来ないって。何言っているの。それとも、兄ちゃんだけにテレパシーを送っているとか? それこそまさかだよ。それが出来る聖獣がここに居る訳無いでしょ」
「聖獣……」
ゼノンは居る訳無いと言っているが、俺のすぐ隣に寝そべっているこのウルフ、ある聖獣と特徴が一致する。
白銀の毛、俺の身長と同じ位の体高、そしてよく見ると光属性を纏っている……。
……神狼様ではなかろーか。誰も気付いていないようだが。まぁ、無理もない。聖獣クラスの存在は本当に少ないからな。
「なぁ、神狼様。ついてくるか?」
グルル♪
神狼様が仲間に加わった!
シ 「そう言えば、ついてくるならその大きさじゃ町に入れないな」
グルルゥ……。
(何か光った)
シ 「うおぅ!?」
く〜ん
(何かちっちゃくなった)
レ 「キャァァア! かーわいーい!」
!? くーん
シ 「うおぅ!?」
(シルヴァーの頭の上を陣取った)
手をワキワキと動かしてレラが近付く!
ゼ 「あまり追いかけ回すなよー」
なんて一幕があったり。