王都へ……
王都へは俺とゼノン、ヨシズの三人でパーティを組んでついでに依頼も受けて行くことになる。野営具、薬類に加えて俺とゼノンは防具なども買うことになったのだが……
「俺とゼノンの装備の分でかなり所持金を削られたなぁ」
俺、ことシルヴァーはろくな装備を持っていなかった。ゼノンも防具が無かった。そのため、鍛冶屋のツテ……ラグールを頼ったのだ。
「少し割り引いてくれたがそれでも金がかかったな」
初日のお詫びと言って俺の装備の分だけは割り引いてくれた。正直に言うとラグールに言われるまでその事はすっかり忘れていたのだがな。気のいい職人だよ。しかし、それでもタダではない。この数日は魔獣を乱獲した。昨日などアンジュさんに怒られてしまったほどだ。売却カウンター嬢が軽く涙目であった。悪いことしたな……。
「まさかお前が割引の約束を取り付けていたとは思わなかったぞ。羨ましい」
ヨシズは修理した盾を先日に受け取りにいったのだが思った以上に脆くなっていたらしく、追加料金が発生し、金欠に喘いでいる。
いや、まて。ヨシズは討伐系依頼でかなり稼いでいるはずなんだが……。
その疑問が顔にでていたのか、ヨシズは俺から視線を外して静かに呟く。
「酒代って、結構するよな……」
……ふぅ。なるほど、酒代か。あれだけの金額の殆どを酒代に使ったのか。
「なんて贅沢な使い方してんだよ! そっちの方が余程羨ましいわ!」
「ムゥ……」
その時、丁度ギルドに着いた。ゼノンとはここで待ち合わせており、その後王都への護衛の依頼者の元へ向かうのだ。
「あ! 来た来た。シルヴァー兄ちゃん! ヨシズさん!」
ギルド前には俺達を見つけて手を振っているゼノンの姿が見える。
「早いな。ゼノン」
「いつも思うんだが何で俺はさん付けなんだ?」
「ヨシズさんって何処かお父さん的な雰囲気だから?」
「俺まだ20代……。そんな老けてねぇ!!」
ズズーンと落ち込むヨシズ。まだ若者気分でいたいなら堪えるだろうなぁ。言われた相手がゼノンだと言うところが特にな。
「さて、集合場所の変更などが無いか見てこよう」
「そうだな。任せた」
「兄ちゃん、行ってらっしゃい」
「おい、お前ら……」
白い目を向けるが動じず俺を送り出そうとするヨシズとゼノン。まぁ、この騒がしい中に行きたくないのは分かるが。つか、俺も行きたくないのだが。
ギルド内は今日も大変賑わっている。特に殆どの冒険者が依頼を受けに来るこの時間はルーキーもベテラン勢も集中する時間だ。そして、ここ一週間で俺の名前はかなり広がっていた。いや、俺達の名前だな。以前ヨシズがガードン達との対戦を広めた影響と魔獣を乱獲した事が広まった結果だろう。
ザワザワ……
「……おい、魔獣の天敵が来たぞ……」
「……王都へ向かうとか言っていたな」
「……ヨシズさんがパーティにいるってよ」
「……一昨日は人気受付嬢三人と何か話してたって」
「羨ましいことで」
「爆発しちまえ」
お前らの陰口は聞こえているぞ! 誰が魔獣の天敵か! ……と、声を大にして言えたらいいんだがなぁ。もはや止めようがないところまで来ている。この町では噂の広まり方が尋常じゃない。
俺はギルドへ入って右にある掲示板へと向かう。そこに護衛依頼者が指定した集合場所についての情報が貼ってあるのだ。
『ドルメン〜王都へ 護衛
2〜3パーティ募集 4人と馬車2台の護衛
馬車内就寝不可 野営具を持参してください。
追記 : 募集終了 集合場所は正門すぐの馬房へ
ガーリック』
これだな。集合場所は正門すぐの馬房か。よし、覚えた。
俺は踵を返し、ギルドを後にしようとしたところで、最後に挨拶するべきかなと振り返ると、アンさんと目が合った。この時間はあちらも忙しいだろうから一礼して外へ出る。ビオラさん、トリシアさん、アンジュさんとは昨日の内に挨拶出来たがアンさんとは会えなかったから丁度良かった。他に挨拶していない人はいないかな。
「……シュトゥルムもそのうちに王都へ来るんだな。また会おう。じゃあな。……おっ! 来たか。結局集合場所はどこだ? 」
ヨシズはシュトゥルムの一人ラリュルミュスとユリウスに別れの挨拶をしていたようだ。ユリウスはゼノン関係で来たのだろう。仲良いな、この似非師弟ども。
「正門すぐの馬房だ。今から行って十分間に合う」
「そうだな。ゼノン、またな」
シュトゥルムの二人は去って行く。ここて立ち止まっているのも迷惑だから俺達も歩き出した。何故か話題は俺関係へ。
「そう言えばシルヴァーは挨拶は済ませたのか?」
「ああ。昨日、一昨日の内に殆どな」
「ちなみに誰に?」
「朝にビオラさん、依頼で行った宿でサーナさん、ラグール、ジニア、エレンさんのところで魔道具の買物ついでに言って、教会のシスターのシアさん、診療所のコンラッドに薬屋のクランチ、昼にアンジュさん、エリアス、ウォーレン、キリクに挨拶出来たな。討伐から帰って来てトリシアさん、ウェガ、ソルムに言って宿に戻ったところでシュトゥルムメンバーと女将さんに挨拶した」
「よくそんなに細かく覚えていられるね」
「それより、ギルドの人気三嬢と話せたのか。……アンさんは?」
「そこは気にする所じゃないと思うけど。アンさんと話したのは一昨日が最後だ。さっき会釈だけして来た」
ヨシズの言う人気三嬢とはアンさん、ビオラさん、アンジュさんだ。魔獣乱獲の際にお世話になったから礼を言いに行っただけだがな。
「何か問題でもあったか?」
「「多分みんなに嫉妬されるんじゃない(か)?」」
「「主に人気三嬢と親しく話せる点で」」
そう言えば陰口の中に嫉妬めいた台詞があったような? まさかな……。
そうしているうちに三人は馬房に着いた。
「ガーリックさんはどこにいる?」
「おれがガーリックだが。冒険者の方で?」
「そうだ。この三人だ」
「実力があるなら人数については文句は言わんが、野営具などはどこにある?」
「「「アイテムボックスに」」」
「そうか。なら助かるな。アイテムボックス持ちが三人もいるとは……君達が噂の魔獣の天敵か? 噂はかねがね」
「かなり広まってるな」
俺はハハハと、乾いた笑みしか出ない。やはり金になるからと魔獣を狩りすぎたか……。
「今更だな。ああ、俺達のパーティ名は『ウェアハウス』だ。よろしく」
ヨシズが続ける。ちなみに、ウェアハウスは俺達が皆アイテムボックスを使えることから連想して辿り着いた言葉だな。キリクの所の『ムッキリ』よりはマシだろう。
「よろしくはむしろこちらの台詞だな。護衛を頑張ってくれ。とはいえ、街道沿いに行くからそんなに危険では無いが」
「まぁ、油断せずに行くさ」
「うむ。戦闘に関しては無知でね。冒険者の方が素早い対応が出来るだろう。そうだ、もう一つのパーティは既に乗り込んでいる。そちらも乗ってくれ。すぐ出発だ」
「分かった。そう言えば、王都へは何日で着く予定なんだ?」
「大体一週間はかかるね。ここはかなり辺境だから」
馬車に乗り込みつつも話す。情報は多ければ多いほどいい。
それにしても、一週間か……。まぁ、食料は問題ない、いざとなれば狩って来ればいいことだしな。野営具で、テントはバラして二つ分ある。寝袋は各々が持っていたか。
出立寸前にちょっとした出来事があった。
「シルヴァーさん! 気を付けてくださいね! ありがとうございました〜!」
ヘレナの声だ。窓から外を見て手を振る。向こうも手を振り返してくれた。これで暫くのお別れだ。
改めて思うとこの町の人はとても親切だったな。言われてようやく忘れていたことに気付いたものも少なくない。
もう少し立派な冒険者になった暁にはまた立ち寄ろう。目下の目標は目指せ、Bランクだな。
シルヴァーが決意を新たにしているときに背後では
A 「……シルヴァーのやつ、ヘレナちゃんにあんな風に声をかけてもらえるなんて、バクハツしろ」
R 「……あのヒト、ギルドの人気受付嬢の皆と知り合いらしいわよ」
A 「ぬぁんだってー! ……あ、すみません」
R 「……ばかね」
B 「……詳しく教えてくれ!」
R 「……どうやらね、アン、ビオラ、アンジュ、トリシアの4人と仲良く話してたって。雰囲気も悪く無かったってウ・ワ・サ ♪」
A・B「 「ぐぬぅ……バクハツしちまえ!!」」
ガ「変な呪文唱えるな、何かあったらどうする」
こんな会話があったりw