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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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ドルメン2 依頼 鍛冶屋へGO


 宿を出た俺は最も近い鍛冶屋へ向かう。割とギルドの側だ。まあ、主に鍛冶屋を利用するのは武器防具を求める、もしくはそれを修理に出す冒険者がほとんどだろうからな。初めて人里に下りた所ではあまり大きくは無かったが……。町にあるなら多少は大きいだろうか。


 大通りに出たが、人の通りはまばらだ。今更だが、この町の特徴は昼と夜のみ開く食堂の多さだろう。人通りも食堂が開くのにつれて増えていく。


 何故このような特徴が出ているのかと言うとそれは冒険者の行動にある。


 この町は割と若い冒険者が多く集まる。採取依頼が多い。始めに経験を積む場としてギルドからも勧められるそうだ。採取依頼は時間が掛かるような物ではないので、午前中に一つ受け、午後にもう一つ受けることが定石となっている。それにはある注意点があり、それは午前に受けた依頼は正午まで、午後に受けた依頼は夜6時までにギルドへ提出しなければならない。よって、食堂に客が多くなるのは正午と夜六時なのでその時間に開くようになったそうだ。


 今は大体十時だろうか。人通りはこれからがピークだな。そう考えつつ歩いていると声をかけられる。


「あ、シルヴァーさん!」


 ヘレナだ。彼女は俺に【ネコ居つく亭】を勧めてくれた少女だ。


「三日ぶりか? その様子をみると、怪我はもう問題無いようだな」


 この町に来る途中で拾ったときはなかなか痛そうな怪我だったが。


「あの時はありがとうございました。怪我の方は心配ありません。今日までは念の為店番です」


 店番と言いながら俺目指して走ってきていたな。良いのだろうか。

 少し苦笑する。


「大人しくしておけよ、怪我人。店番って事は外に出ちゃまずいんじゃないか?」


「今は大丈夫です。……多分。ところで、何か依頼を受けて来たのですか?」


 ヘレナは少々バツが悪そうに笑った後、尋ねて来た。


「町の散策がてら弁当の配達の依頼を受けて来たところだ」


「えっ……。なら引き止めたのはまずかったですね。すみません。どこを回る予定ですか?」


「鍛冶屋と魔道具屋と薬屋に診療所、あとは教会だな。十二時にならずに回れると思うが」


「全部を一人で回るのですっ? 痛、舌噛んじゃった。ええと、地図ではそんなに離れてなくても、実際は結構距離がありますよ? ここから近いとなると鍛冶屋へ向かうのですよね? 店主のラグールさんは呼んでも出てこない事の方が多いので隣の花屋のジニアさんに依頼について話すといいですよ。きっとなんとかしてくれます。一人でやるなら急いだ方がいいです。引き止めてごめんなさい」


 痛そうにしながらもヘレナはアドバイスを言い切る。


「いや、そうか……。なら、少し急ぐか。ありがとな。怪我ちゃんと治すんだぞ!」


「はーい! シルヴァーさん頑張ってくださいね! ……やっぱりいひゃい……」



 *******



 通りが空いているのをいい事に鍛冶屋まで走る。

 歩いている人は奇妙な物を見るような視線を寄越したような気がするが急いでいる俺が気にすることではないな……。

 まあ、疑問に思う気持ちも分からなくない。今の俺は手ぶらでただ全力疾走しているように見えるはずだ。町中で走るなど何か起こったのかと思うのが普通だよな。


 少しして、俺は人の目を盛大に集めながら鍛冶屋に着いた。流石町の鍛冶屋。辺境の村とは比べものにならないほど大きい。入口だけでも2倍くらい違う。

 中に入ったが人影も見えない。


「ラグールさん! 弁当の配達に来たんだが! ……聞こえていないのか?」


 呼びかけても返事は聞こえない。奥から音はしているので居るのは確かだが……。


『隣の花屋のジニアさんに依頼について話すといいですよ』


 ヘレナの言葉が浮かぶ。隣の花屋ね……。俺は花で溢れるその店へ入る。


「いらっしゃい。何をお求めですか?」


 出迎えてくれたのは優しげな方だった。この人がジニアさんなのだろうか。


「少し聞きたいことがあって来たのだが、貴女がジニアさんで間違いないか? 俺はシルヴァーと言う。ヘレナから鍛冶屋のラグールさんの応答が無かったらジニアさんに聞いてみろと言われて来たのだが……」


「おや、またラグールは奥に篭りっぱなしですか。全く。毎回私が引っ張り出さないとならないのはどうにかなりませんかね? それと、シルヴァーさんでしたか? 私をジニアと呼ぶのはいいですが、本名はジニアールです」


 片眉を上げて黒いオーラを纏うジニアさんは大変迫力があった。というか、ジニアールって男の名前だよな。


「すまない。女性だと思っていた」


「皆さん何故か私を女性だと思われるのですよねぇ。何故でしょうか。では、隣に向かいましょう。ああ、シルヴァーさんはついて来てください」


 黒い笑顔だ。

 俺はジニアの迫力に大人しく着いて行くしかなかった。


「所で、どのような用件でラグールを訪ねて来たのかな?」


「猫追うネズミ亭の女将さんからの依頼で弁当の配達に来た」


「ああ、そうか。確かあそこは割符の回収もしていたよね? 置いてある場所は私が知っているから問題ないだろう」


「分かった。疑問に答えると、割符の回収はしている。ただ、本人から受け取らなくていいのかどうかは分からないのだが」


 口調はどうしても素が出てしまうようだ。いっそのこと敬語などなしにしても良いかもしれない。


「うーん……。まあ、いいと思うよ。私はラグールから頼まれているし。どうせ私が対応すると当てにしているんじゃないかな? っと、着いたよ」


 俺は再び鍛冶屋の前に立つ。ジニアは勝手知ったるとばかりに店に入り、カウンターを探り始める。


「多分ここに……。ああ、あった。これだね割符は。あいつにしては珍しく紙なんかに挟んであったから見つからないかと思ったよ。はい」


 手渡された割符を合わせ、たしかにつながるのを確認して弁当を取り出す。そこで、ジニアが持っている割符が挟んであったという紙に何か書かれているのに気が付いた。


「これが依頼の弁当だ。渡しておいてくれ。あと、その紙、何か書かれているぞ?」


「何か書かれている? なんだろ……っ! あいつめ……少し、待っててくださいね」


 紙を広げて読んだ途端、怒りが透けて見える笑顔でそう言い置いてジニアは奥へ行ってしまった。何があったのか、着いて行けず俺はぼうっと突っ立っていた。次の瞬間


「ラグール! お前メモ残すなら見える所に置けよ!」


「しまってあったか? まあ、どちらにしろジニアは見つけるだろうと思ってな。何か用か?」


「何か用か、じゃあない! ……ちょうどいい。今手が空いたよな? 表にシルヴァーって言う弁当を持って来てくれた青年がいるんだ。お礼を言って来い!」


 ここまで届く怒声。余程鬱憤が溜まっていたのだろう。ってそんな事考えている場合ではない。ラグールさんが来るみたいだからぼうっとした状態から抜け出さないと。


「……あんたがシルヴァーって言うのか。弁当の配達ご苦労だったな!」


「お前は全くもう……。ちょっとは誠意を持って礼を言えないのか!」


 晴れやかな笑顔でねぎらうラグールに呆れるジニア。彼等はきっと、昔からこんな関係だったのだろうと思う。決して、けっ・し・てジニアの背後の黒いオーラにビビってしまい現実逃避気味に思った訳ではない。


「礼を言われるまでもない。こちらは依頼で来たのだからな。所でジニア、何故あんなに怒っていたんだ? ここまで怒声が響いて来たぞ」


「そうだ、何故あんなに怒っていたんだ?」


 ラグールがきょとんとしてジニアに問う。


 その質問はマズいと思うぞ……。


「お・ま・え・が・言・う・な!! ラグール……。心当たりがあるだろう?」


 案の定、ジニアが噴火直前だ。頼むから妙な返答しないでくれと内心祈る。


「うーん……。ないな!」


 二カッと笑い言うのを見てプチッと何かが切れた音が隣から聞こえてきた。

 祈りは届かなかったな。


「これを見てもそう言えるか? 明らかに対応を私に投げている上にカウンターの中にあったんだぞ。私が切れても文句は言えないと思うが?」


 そう言ってジニアが机に叩きつけたのは『昼までに弁当の配達に誰かが来るだろうから対応宜しく』という文が書かれたメモ。まあ、自分のことなのに丸投げだもんな。しかも、見ておかないと誰かに迷惑がかかる(今回は俺)物を見えないように放ってあったら……。うん、俺だって切れる。


「一発殴らせろ!」


「ま、まて……っぐぉぉ」


 ジニアがラグールに鉄拳制裁を下す。


「ああ、シルヴァー。次もあるんだろう? こっちは放っておいていいよ。迷惑かけたお詫びに武具でも防具でもラグールに割引かせるからまたおいで。私の店でも割引きするよ」


 その言葉に感謝して俺は鍛冶屋を出る。本人たちの素が見れて良かったと言うべきか。こうやって訪ねる機会があるのはいい事だな。

 さて、ここから近いのは魔道具屋か。


 時刻は十時三十分。弁当を配達し終わるまであと四軒。



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