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虎は旅する  作者: しまもよう
アヴェスタ教国編
185/450

闘技大会二日目

次は4月18日の投稿を予定してます。

ちょっと確約は出来かねますが。


 闘技大会の二日目は午前に昨日消化しきれなかった団体戦が五つ、そして午後に個人戦トーナメントが行われる。昨日の今日で忙しないことだが、それも戦いの内だと思っておく。自業自得? まぁ、確かにそうとも言えるな……。ともかく、俺は昨日の早い内に団体戦デビューも済ませているから今日は午後まで時間がある。


「あ、シルヴァーさん。早いですねー」


「ああ。先にギルドへ行っておこうと思ってな。朝食はその後の予定だ」


「じゃあ、待っていますねー」


 いつもより早めに起きたと思っていたのだが、俺よりも早く起きていたらしいのがリリだ。朝食の準備を手伝っているらしい。食事を後回しにすることを伝えて宿を出るとギルドへ向かった。早朝だが、トーナメントの組み合わせが掲示されているはずだからだ。


 早朝のギルドは閑散としている…ことはなかった。意外と人混みとなっている。おそらく早朝のうちに出された割の良い依頼を受けるためだろうな。闘技大会の参加者だって連日宿に泊まれるほどの金を持っているところばかりではない。冒険者は意外と出費が多いので時間があれば依頼を受けるのが通常だ。

 俺は今日の午後に試合があるから何か依頼を受けるつもりはないが。

 依頼の取り合いのような様相を示しているギルド内を慣れた様子で進み、闘技大会関係の情報が上げられている掲示板のところへ向かう。


「あ…早いですね。組み合わせを確認しに来たんですよね? まだ貼っていませんよ-。少し待っていてください」


 小脇に丸めた紙を抱えた少女が掲示板前に椅子を置いている所だった。彼女はギルド職員だ。俺がここに来て最初の日に闘技大会の参加表明をした際に受付にいた子だな。最初は窘められたのだが、最後には可愛らしく怒りながらも諦めてくれた。一応、見たところ今は怒ってもいない。普通の対応だった。


「お待たせしました。両方とも進められたということは、やはり私の目が曇っていたのでしょうね……。トーナメント進出おめでとうございます」


 自分が貼った紙を眺めてから、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべて最初のふるい落としを生き残ったことへの祝いの言葉を贈ってくれた。


「ああ、ありがとう」


 俺は少し意外に思いながらも頷いた。最初の印象が強かったのでまた突っかかられるのではないかと思っていたのだ。杞憂だと分かってホッとしたような、張り合いが感じられなくて寂しいような……?


「また私に何か言われるかと構えていたのですか? そんな心配は必要ありませんよ。ええ、あなたの知り合いだという方から簡単にですが聞いたので。実際に勝ち抜いていますし、信じざるを得ません」


「……俺の知り合い?」


「はい。……すぐに分かると思いますよ?」


 彼女はそう言って悪戯っぽく笑うと仕事へと戻っていった。俺は首を傾げてそれを見送ると掲示板を見上げる。あの言葉の意味がすぐに分かるとは思えなかったので、考えるのを後回しにしたのだ。


 さて、トーナメント表だ。個人の方は八人での勝ち抜き戦になる。その八人はそれぞれ番号をふられ、1と2、3と4……というように対戦する。俺は4番で、試合は二番目になるようだ。


「というか8番のって……まさか?」


 8の番号の下にある名前は『アン』だった。俺が知っているアンはアンさんしかいない。それに、彼女ならばギルド員としてあの少女と話す機会があるかもしれない。教国にまで来ているならば、だが。

 しかし……俺は間違いなく個人戦も全て見たのだ。勝者も遠目にだが確認していた。その中に俺の知っているアンさんはいなかったような気がする。

 ……まぁ、顔をしっかり出している面々の中ではということになるが。

 冒険者の中には顔を隠すような仮面をつけている者もいる。それは人目が気になる神経質な人だったり、子どもに怯えられたくないからだったりする。仕方なしにつけている人も居るだろうな。ドクロとか。精巧な豚面とか。大熊猫とか。

 個人戦の初戦についてはそういった人が勝者だったこともある。その中にアンさんもいたのかもしれない。


「だが、仮にあのアンさんだったとして…一体どうして参加したんだろうな?」


 出来れば戦いたくないが…アンさんと戦うとすると決勝戦になる。彼女との戦闘については流石に今の段階で考えることではないだろう。

 俺は踵を返し、ギルドから出て行った。


 少し裏道を歩いて【骸に潜む蛇亭】へと戻って来た。裏道を行ったのは表通りが人で混み合い始めていて目立つ俺は身動きできなくなりそうだと判断したからだ。自分で言うのも何だが、闘技大会で初戦突破したことで少し有名になってしまったからな。


「いらっしゃー……って、シルヴァーさん。おかえりなさい」


「ああ、朝食を頼む」


「はーい。ルル、朝食一人前よろしくねっ」


 くるくると働くリリを横目に俺はパーティメンバーが集っている一角へ向かった。ヨシズの皿をちらりと見れば、ちょうど朝食を半分ほど終えたところだった。予定より少し遅れてしまったようだ。


「遅かったな、シルヴァー。また捕まっていたのか?」


「人を犯罪者みたいに言うな。まぁ、少し裏道を遠回りをして通ってきたから」


 空いている椅子を引き、どかっと座る。そんな俺が面白かったのか、ヨシズは笑いながらも手は素早く動き、食事を口に運んでいた。


「有名人は辛いねぇ」


「他人事みたいに…ヨシズ達も一歩外へ出れば囲まれるだろう」


 団体戦の勝者についても顔形を知られているはずだ。だから本来ならそんなに他人事のように言えるはずがないのだが……。


「ハッ」


 ヨシズは俺を心底馬鹿にした目を向けてきた。


「世の中には変装というものがあってな……仮面一つでも意外とバレないものだぜ。まぁ、迂闊なシルヴァーは何も用意していないようだがな」


「そんな用意するわけがないだろう……」


 俺以外はきちんと用意していた。俺には先見の明とやらがないのかもしれない。



*******



 闘技場は早くも歓声に包まれている。そんな中、早くから場所を取っていた俺達は昨日よりも見やすいところで座っていた。下で行われているのは今日行われる団体戦の二つ目だ。そして俺達の本命も二つ目のこの試合になる。


「あー、朝食のときに聞き損ねていたのだが、ヨシズにゼノン、アンという名前に聞き覚えはあるか?」


「何故今それを聞くのか分からないが……アンという名前は割とあると思うぜ。オレは結構聞いたことあるな。酒場の酔っぱらい達から」


「なるほど。ヨシズに聞いて俺の望んだ答えが返ってくるはずが無かったな」


 あらゆる酒場に出入りしているだけあって人脈と酔っ払いを利用した情報収集はなかなかのものらしい。


「酷ぇ言い様だな。ま、シルヴァーの知っているアンといえばクナッススの受付嬢くらいだろう。……もしかして、いるのか?」


「どうなんだろうな。個人戦の8番目にその名前があった。そのときに受付嬢の少女と話したのだが意味深なものでな」


「はぁ……もし、本当にアンさんがいるとなるとラルのテンションが上がりに上がって手がつけられなくなるかもしれないな」


 ラリュルミュスはアンさんを崇める勢いのふぁんだという話だ。本人を前にして奮闘しないはずがない……とはヨシズ談ではあるのだが俺としてもそれは外れては居ないように思えた。


<おおっとぉ~? ここで巨大なハリケーンが大量の脱落者を作り出しましたねー>


 戦況が動いたようだ。俺は試合に集中する。実際に戦う前にそれなりに傾向を掴んでおかないと臨時シュトゥルムと戦うことになった場合、準備が間に合わない恐れがある。


「あれはオクサナだったか……ずいぶんと強力で凶悪な魔法を使うな」


「もし戦うとなったら私が牽制に出なきゃならないかもしれないわね」


 相変わらず周りの観客は暑苦しく声を張り上げているのだが、闘技大会参加者である俺達は素直に楽しむことは出来なかった。

 これも戦いのうち……なのか?







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