教国の都7 虎のアジト3
次は11月29日の投稿を予定してます。
すみません、予約忘れてました。
「【新・虎のアジト】?」
何やら不思議なことを言われた気がして俺は単語で聞き返す。何が何だか分からなくなってきていた。虎のアジトという場所は一つではなかったということだろうか。
「ああ、お前らはこの街に来たばっかりか? それなら知らないのも無理はねぇな」
俺達の様子を見て納得したように頷きそう言うと彼は虎のアジトについて説明してくれた。
どうやらもともとはこの外観詐欺の道場で細々とやっていたらしい。だが、ここを出た面々が次々に冒険者として成功したそうだ。それからのこと、虎のアジトを訪ねる人が増えて増えすぎて収拾が付かなくなったらしい。そこで虎のアジト全体の主をしている爺さんはもう一つ道場を作ることにしたという。
「今、虎のアジトと聞いて案内されるのは向こうのはずなんだ。こっちは俺が趣味でチビどもを鍛えているってだけだからな。けどまぁ、こっちに来ても間違いだというわけじゃねぇな。ある意味正解かもしれねぇ」
「そうなのか?」
「ああ。爺さんは何故かは知らねぇけど虎人族を見るとすぐに襲いかかるんだ」
俺の脳は言葉の理解を放棄したのかもしれない。数秒間固まって彼の言葉を反芻していた。
……襲いかかるんだ……襲いかかるんだ……襲い……かかる!?
「……は?」
嬉しくない言葉が聞こえた気がして、俺は瞬きを繰り返しながら自分の耳を疑っていた。隣をちらりと見れば、二人はどこか納得したように頷いている。俺だけ別の言葉を聞いていたわけではないはずだが……。
「嘘じゃねぇからな」
そう言ってグイッとお茶を飲んだ彼を見れば、嘘をついている様子はなかった。それならば本当に新・虎のアジトへ行ったら襲いかかられるのだろうか。まぁ、もし襲いかかられたとしてもやり返すつもりだ。二倍にも三倍にもして返してやる。
「シル兄ちゃんの戦闘狂病みたいなものかな。でも、一体どうして虎人族だと襲われるの? 個人的に恨みでもあったり……」
どこかから取り出したおやつを食べながらゼノンが疑問を零した。俺はその言葉の前半部分はともかく、後半部分には同意する。虎人族だから襲うというのは本当に理不尽だ。納得のいく理由が欲しい。いや、理由があるからと行って納得できるとは限らないか。襲われる側としては。
「うーん。何だったっけな。恨みとかそういうものじゃなくて、もっと真面目な理由を言っていた気がするんだよなぁ。向こうに行ったときに聞いてみればいい」
どうやらはっきりと理由を覚えていないらしい。腕を組んで思い出そうとして上を向いていたが、すぐに諦めていた。ここで聞き出せていればあとあと楽なのではないかと少し思ったのだが、上手くはいかないものだ。
「向こうに行ったときって…襲われるんだよな?」
「ああ、話は通しておいてやるから心配するな。さっき二人が対戦している様子を見させてもらったけど、ありゃあ爺さんの管轄だから、あっちで鍛錬した方が余程身になるものを得られるだろうよ。あれよりもう少し本気で戦えば普通に受け入れてもらえるだろうけどな。しかし、本当にどうしてこっちを案内されたんだろうな?」
疑問符を浮かべてこちらを見るその顔は「誰に教えて貰ったんだ」と尋ねているようだった。秘密にするようなことでもないので俺は素直に情報源を言う。
「【骸に潜みし蛇亭】のところで聞いたらここを教えてくれた。新・虎のアジトとかは欠片ほども言っていなかったな」
だからこそ、ここを教えてもらって違和感を覚えなかったのだ。
「そうかー。あそこの主人の気遣いだったかもしれねぇな。爺さんは本当に虎人族と見れば男女関係なく奇襲するから。ところで、道場に用事があったんだよな。やっぱり闘技大会関連か?」
「ああ、そうだ。場所を借りるだけでも出来れば良いと思ってな」
「謙虚なのは良いことだ。うちは毎年数人くらいは道場を使わせてやっているんだよ。けどな、決定権は爺さんにある。爺さんと軽く対戦して認められたら虎のアジトを利用できるってことだ。話は通しておいてやるが、戦いを避けることはできないかもしれない」
虎のアジトを使いたいなら「新」の方に行かなくてはならない。俺も覚悟が必要になるな。
「では、明日行っても大丈夫か?」
「ああ、もちろん。向こうに行ったとき、もし俺がいなかったら名前を出せばいいようにしておく。いきなりの戦闘は避けられるはずだ。あ、そういえばすっかり忘れていたが、俺の名前はカイルだ」
「ああ、確かに名乗っていなかったか。俺はシルヴァーだ」
「おう。シルヴァー、特にお前は覚悟は決めておけよ。あの爺さん、見た目に似合わず強ぇからな」
望むところだ……という精神状態に仕上げなくてはな。
「分かった」
「ところで、カイルさん。魔法の訓練に良いところを知らないかしら」
闘技大会に出るのはラヴィも同じである。彼女だって大会までに調整したいのだろう。だが、魔法は威力調整を間違えると大変なことになるので普通の道場では使えない。なかなか練習場所に困るのである。
「魔法の訓練? ギルドが一番だと思うけどなぁ……あそこは……」
「むさ苦しくて嫌よ」
そう。流石は闘技大会前とでも言おうか。ギルドの訓練場はゴツい野郎共のいも洗い状態だった。俺達も少し覗いて確認して、あそこには混ざりたくないと心底思った。
女性であるラヴィはもっと拒絶したいものに映っただろうな。俺としても彼女を一人あそこに行かせたくはない。
「設備として最もしっかりしているのは教会だ。かなりふんだくられるけどな!」
「ふんだくる……」
それを言っていいのか、という気持ちを込めてゼノンが苦笑いで呟いていた。そこでカイルは自分が本音を漏らしてしまったことに気づいたのか、慌て出す。
「あ、間違えた。寄付だ、寄付」
「ふふ…でも、そこまでお金を払う気にはなれないのよね」
「うーん…やっぱり魔法は街の外へ行かなきゃ難しいだろ。中規模の魔法までなら新・虎のアジトでもなんとかなるかもしれねぇけど、流石にただって訳にはいかない」
「教会よりはましなのでしょう?」
「そりゃそうだ。けど、的当てみたいな感じになると思う。魔法については爺さんもそう詳しくねぇから」
「それについては恐らく大丈夫だと思うわ。シルヴァーさんやゼノンくんがいれば相手の確保は出来たも同然だもの」
ラヴィの言葉に俺は思わずゼノンを見た。ここまでゼノンは新・虎のアジトに行くと明言していなかった気がしたからだ。
「……まぁ、シル兄ちゃんはラヴィさんの相手までできるとは思えないし」
戦闘狂(かもしれない)爺さんとの戦闘で手一杯になるという予想は容易い。虎人族の里の長は恐ろしく強かった。あの人が勧める道場なのだ。余裕を見せることはできないだろうな。
「まぁ、頑張れ、ゼノン」
俺はそう言ってゼノンの肩をポンと軽く叩いた。
虎のアジトを後にして俺達は宿へ向かっていた。馬車は残念ながら見つからなかったのでのんびりと歩いている。
「まさか新・虎のアジトなんて場所があるとはな」
俺はそう呟いて唸った。無駄足ではなかったはずだが、宿で教えてもらえなかったことが気になる。
「まぁ、いくら宿の人だとしてもこの広い都の全ての施設の情報があるとは限らないってことじゃない?」
「それに、もし『新』の方へ行っていたら問答無用で戦闘になっていたみたいだし、あちらを教えてもらえて良かったのではないかしら」
「確かにな……」
今日の俺は結構気を抜いていたから、奇襲されたら上手く対応出来なかったかもしれない。
まぁ、街のなかで襲撃に警戒するなどということは普通しないからな。
「あれ? もしかして、シルヴァー?」
突然、後ろから声をかけられて俺は振り向いた。




