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虎は旅する  作者: しまもよう
アヴェスタ教国編
165/450

教国の都5 虎のアジト

次は11月15日の投稿を予定してます。


 宿を出てすぐに俺は辻馬車を見つけることができた。俺達は今虎道場へ向かっている馬車に揺られている。


「料金がそこまで高くなくて良かったかもしれないな」


 乗るときにゼノンが交渉してだいぶまけてもらっていた。

 実は手持ちがあまり無かったりする。まぁ、ゼノンなんかはかなり持っていそうだがな。何せ、数多くの暗器をきっちり収納しているのだ。その工夫を応用すればそれなりにお金を持つことが出来るのではないだろうか。


「仮にシルヴァーさんの手持ちがなくても私が出せたから問題はなかったのではないかしら」


 ちらちらと窓を確認しながらラヴィがそう言ってきた。滅多にこういった馬車に乗らないのでいろいろと気になるのだろうか。もう少し柔らかい表情を浮かべていればもっと可愛いのにな、と思いながら彼女の言葉には反論する。


「いや、流石にそれは…俺にも矜持というものがあるからな」


 女性にお金を出させるというのは男としてどうかと思う。自分の乗車賃程度払えないというのは情けないだろう。


「シル兄ちゃんはアイテムボックスを使えるのにどうしてお金が減っていることに気が付かないのかな?」


 馬車の入口側に座り込んでいるゼノンが会話に混ざってきた。たまに外へ向けて険しい顔を向けて御者と話しているからこうして会話に混ざる気は無いのではないかと思っていたので少し驚いた。

 だが、この話題に混ざってくれなくても良かったのにと思わなくもない。


「……ああ、そういえばゼノンは割と容量の大きいアイテムボックスを使えるんだったか」


「うん。シル兄ちゃんの方がたぶん大きいけどね。それでもそれなりの容量があると思っているよ。アイテムボックス持ちからすれば、放り込んでおけばいつでも取り出せるからお金を切らすってことが考えつかないんだけど?」


 ……話を戻されてしまった。お金の手持ちがなかったのは完全に俺のうっかりミスなのだがはっきり認めたくはないのだ。だが、ゼノンのこの様子だと認めない限りはどれだけ話を逸らしても戻って来そうだ。


「まぁ、あまりしっかり確認していなかっただけだ。あると思い込んでいた」


「羨ましいわ。私のはあの装備と非常食くらいしか入らないのよね……」


 ラヴィがそう言って溜息をついていた。どうやら俺のアイテムボックスに対する考えが贅沢な物に思えたらしい。


「でも、後天的に使えるようになったのは珍しいよね。容量は…先天的に使える人との差なのかもしれないね。生まれつきの天才には努力してもなかなか追いつかないみたいな感じで」


「そうかもしれないわね。魔力量がアイテムボックスの容量と関係しているんじゃないかと思っていたからそれが否定されたような気がして残念に思っていたのだけど、後天的に使えるようになった人が…居るかは分からないけど…皆容量の小さいものだった場合、ゼノンくんの仮説は正しいということになるわ」


 小難しいことを言っているように聞こえるが…アイテムボックスの容量については研究しないと分からないということだ。


「それより、まだ着かないのだろうか」


 俺がそう呟いて窓から外を見たときだった。


「お客さん、着いたぞ」


 御者がちょうどそんな言葉を掛けてきたのだ。俺達はさっと立ち上がって馬車の外へ出た。


「ここが……?」


 馬車が停まっていたのはどうみても普通の一軒家の手前だった。まかり間違っても“道場”ではないだろう。


「どういうことだ?」


 首を捻りながら御者を探して見回したのだが、すでに居なくなっていた。見れば、すでに道の向こうへ馬車が遠ざかっているところだった。あれが俺達の乗ってきた馬車だとすると、驚くほど早い方向転換だ。


「まぁ、あまり長居したくなかったんだろうね」


 俺と同じ方向を見ながらゼノンがそう言った。口元に薄ら笑いを浮かべながらそんなことを言うので少しだけ背筋が寒くなる。何か、怒らせたのか……?


「……どういうことだ?」


 本当に全く訳が分からなかった。だが、隣を見ればラヴィもゼノンと同じように冷ややかな目をしていたことから、この場で状況を理解していないのは俺だけのようだ。

 誰か、俺に分かるように説明してくれないだろうか。


「シル兄ちゃんはやっぱり気が付いていなかったんだ。どうりでぽやぽやしていると思った」


 酷い言いぐさだ。

 そんな風に思ったが、ゼノンのこの言い様だと馬車に乗っているだけだったのに何か危険があったということだろう。全く危機感を抱かずに馬車に揺られていた俺は反論できない。


「何があったんだ?」


「何かがあったというか…うーん…最初からね、あの馬車おかしかったのよ」


 ラヴィが言うにはまず俺達が見つけた馬車の御者が名乗らなかったから不信感を抱いて、注意していたらしい。すると辻馬車の値段にしてはかなり高い料金を最初に提示してきたのだという。高いとは思ったが、やはり値段を誤魔化していたようだ。


「それでもゼノンくんの交渉で正規の値段まで下がったからまぁいいかと思って乗ったんだけど、時々挙動がおかしくなることがあって……。変なところへ連れて行かれては困ると思って景色を確認していたのよ」


 それでラヴィは度々窓を確認していたのか、と俺は納得した。いつ正規の値段なんて調べていたんだろうな、と思ったが俺が別行動をしているうちに話題になっていたのだろう。この分だとだとゼノンの行動も何か理由がありそうだ。

 そう思ってみれば、俺を見て一つ頷くとゼノンはラヴィの話の続きを話すようにして自分の行動の理由を語った。


「だけど、俺等はこの街のことを知らないじゃん。懸念が消えることはなかったからまぁ…褒められたことじゃないけど御者を威圧して正しい道を進ませたんだよ。一応道程は教えてもらったから分かっていたし」


 辻馬車というのはその街のことを良く分かっている連中が御者をしているから近道をしてくれることもある。だが、俺達が乗った馬車については信用ならないと判断したということだろう。


「二人共があの馬車を危険だと感じたのなら、その行動は間違いではなかったのだろう。確かに俺は危機感がなかったみたいだな」


 謂われ無き疑いという可能性もなくはないが、俺は仲間であるゼノン、ラヴィを信じる。きっとあの馬車は危険だったのだ。


「普段馬車を使わないから危険だという意識も薄れていたんだろうね」


「今回は何とかなったのだし、もう行きましょう。このままじゃ私達、誰かの家の前を陣取って何かを話している不審者よ」


 そう言って迷い無く歩き出したラヴィの後を追いながら俺は思った。

 流石にあの家が虎道場のはずがなかったな……と。

 宿で場所を確認したにもかかわらず場所が分からなくなっているという事実には蓋をすることにする。俺が分からなくてもゼノンかラヴィが分かっているのだからいいだろう。


 そして小道に入ってしばらくしたところで門が見えてきた。


「あれか?」


 見えた建物はそれなりに大きく、普通の家という感じはしない。だが、別の意味でも普通の家には見えない。


「たぶんそうでしょうね。……見た目には信じられないけど」


「廃墟と何が違うんだろうね。ボロくない?」


 見えてきたその建物はどこか既視感を覚えるような廃墟具合だった。宿といい、この建物といい、流行っているのだろうか。


 廃墟外装。

 もっとも、中がどうなっているかは分からないから何とも言えないが。こんな分かりにくい場所にあるなら、案外中もボロボロだったりするかもしれない。


「そもそも、人がちゃんといるんだよね?」


「さぁ…どうだろうな」


 虎人族の里長はきっとあそこから離れることはなかったのだと思う。だからこの場所の有り様も知らないだろう。


「人が誰もいなくても驚けないわね」


 俺だって『さもありなん』と思うだけだろうな。


「まぁ、ここまで来て確認しないわけにはいかないだろう。行くぞ」


 そして、俺は二人を促して廃墟を確認しに向かった。



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