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虎は旅する  作者: しまもよう
アヴェスタ教国編
154/449

セイジョーの町5 外出組その2

次は8月30日の投稿を予定してます。

お盆シーズンは比較的涼しくて良かったのですが、雨でじめじめしているのはノーサンキューです……。

 観光することを選択したヨシズはシルヴァーを見習って町中で済ませられる依頼をさっさと受けてから繰り出した。ギルドで起こっていた騒動にはノータッチだ。ウェアハウスの中で最も冒険者歴の長いヨシズからすると、冒険者の喧嘩など、勝手にやってろと唾はいてスルーするようなものである。


「とはいえ、本当に妙な内容ではあったんだよな。まぁ、頭の片隅には置いておくか」


 今日のヨシズは雑用依頼をこなしに来ているのだ。町の中で関係があるとは思わない。


「ええと…ここか」


 今日ヨシズが受けた依頼は大工依頼とでも言えば良いのか。壊れたものの補修の依頼だった。こういった雑務依頼は放っておかれることが多いので危急のものは少ない。急ぐなら多少根が張っても職人に頼めということだ。まぁ、その職人は自分の分野と違えば頓着しないため、冒険者ギルドによく依頼が貼られている。


「いらっしゃいませ!」


 店先で看板を見上げていると中から少年が出て来て勢いよくそう言った。丁稚だろうか。


「ああ…悪い、客じゃないんだ。オレは冒険者をしているヨシズだ。親方を呼んでくれるか?」


「親方ですか? どんなご用でいらっしゃったのでしょうか?」


 ヨシズが親方を呼ぶように言うと少年はすっと笑顔を消して困惑したような顔になり、探るようにそう問い掛けてきた。

 甘いな、少年。表情はあくまでも笑顔で固定しておいた方が相手をひるませることが出来るぞ。


「依頼を受けてきたんだよ。ほら、早く早く」


 口元に笑みを浮かべながらそう言うと少年はパッと表情を明るくした。分かりやすい。


「ああ! あの依頼を受けていただけたのですね! ありがとうございます。案内します」


 少年の案内でヨシズは店の奥へ歩いて行く。この店は所謂金物屋だ。鍋や包丁など、日常生活における金物を作製・修理している。燭台なんかも意外と多くあるのはここが教国だからだろうか。そして、作業場には修理を待つ金物が多く置かれていた。今日は鍋・包丁が多いようだな。奇妙に歪んでいる物や刃こぼれがひどい包丁がたくさん置かれていた。これを全部直すのか…金物屋って意外と忙しいのな。


「親方-! 修理の冒険者が来てくれましたよ-!」


「おおーう! 先に案内してやってくれ! これを仕上げたらワシも行くからなぁ!」


 鍋らしきものをカンカンと叩いて直している親方は少年の言葉に叫び返した。ここで作業しているのは親方だけではないので複数の金属を叩く音が響いて騒がしい。この中でよく聞き取れるものだと思う。耳が慣れているのだろうか。そう言えば魔獣の中でも咆哮が大きく、耳がいかれそうになることがある。こういう所で修行すると楽になるのだろうか。盾として魔獣と最も近い場所にいることになるヨシズからすると、そのスキルは魅力的だ。とはいえ、音に鈍感になるということは索敵の精度が落ちるということだ。


 パーティを組んでいられるうちはいいだろうが、ソロになった途端詰むだろうな。


「……オレはあいつ等みたいには絶対ならねぇ」


「ヨシズさん! こちらです」


「っ! ああ」


 ……いけない。トラウマが顔を出していたようだ。

 追いついてこないヨシズを心配してか戻って来た少年が扉からひょっこりと顔を見せて呼んできた。それのおかげで我に返ってヨシズは金属音が響く作業場よりも奥へと進む。


「その…ここなんですが……」


「……ああ、これは確かに自分達でやるのは時間が掛かるし骨が折れるだろうぜ……」


 感傷的な気持ちが吹き飛ばされた。

 ヨシズが今日受けた依頼は台所の掃除・整理整頓・場合によってはリフォームである。リフォームという言葉に少々違和感を持っていたが、目の前の惨状を見れば納得がいった。


「ちなみに、これは何年放っておいたんだ?」


「ええと…あ、親方。ここって何年使っていないんですか?」


「何年……? 何年だろうなぁ…女房が出て行ってからだから…ざっと三年くらいか?」


 遠い目をしてそう言う親方。女房…出て行ったということは逃げられたのか? こちらがほろりとしてしまうな。


「パッと見たところ、水回りは完全に新しくしないとならないと思う。他は積もりに積もった埃を除去してからだろうな」


 冒険者の一部は掃除が得意なのはこういった依頼を受けるからである。大工系の依頼は討伐系に比べれば確かに報酬は少なめである。しかし、ある程度の技術さえあればこなせる上に、丁寧な仕事であれば割り増しで報酬をもらえることが多い。たまの小遣い稼ぎにはもってこいなのである。


 ヨシズも大工系の依頼は得意になった。パッと見て分析できる程度には回数をこなしている。


「親方と少年は自分の仕事に戻っていいぜ。あとはちゃちゃっとやっておくからな。だいたい…三時間ほどで終わると思うぜ」


「ほう…まぁ、それなりに丁寧にやってもらえると助かる」


 そこは心配要らない。冒険者であってもオレは職人魂を持っているからな。

 早速動き出す。

 まずは掃除だ。埃を取って本来の姿を露わにする。これだけで一時間も掛かった。埃が積もりすぎなんだよ。ところによって人差し指が埋まるって…放置するにも程があるというものだ。



「木材?」


「やはり水回りは完全に新しいものにするしかないから、材料がいるんだ。使わない家具とか、壊れた家具があればそれをバラして流用できるし、材料費もかからないから良いと思ったんだが…ないか?」


 埃を完全に無くしたら割と綺麗な台所になったが、水回りだけは腐っていた。そこだけを新しくすれば良いと思う。多少新しく直したところと以前のままのところと違いが出てしまうだろうが、他人に見られるわけではないのだ。その辺りは雑でも良いのが冒険者への依頼だ。


「あー、そういえば屋根裏に封印した物があったかもしれない」


 封印な……。本当にヤバいものだったらどうしよう。しかし、こういう場所にお宝が眠っていることが多い。ここで怖じ気つくようじゃ三流の冒険者だ。一般の人の屋根裏に大した物はないはずだ……。

 多少不安があってもお宝の気配がする場所には嬉々として突入するのが冒険者だ。


「見てもいいのか?」


「……ああ、もちろんだ! にょ、女房の恨みの手紙があろうと、藁人形があろうと…ワ、ワシは動じんぞ!」


 思い切りどもりながら言われても全く説得力が無いのだが。一体親方は女房さんに何をしたのか。恨まれている自覚をするほどのナニをしたのだろうか。ひょこっと興味が出てくるが、そこは恐らく踏み込んではいけない危険地帯だ(デンジャーゾーン)


「ああ、親方がついてきてくれるんだな。本当にバラしてもいいかはやっぱり親方がその場で判断してくれた方がいいから助かるぜ」


 ニヤリと笑ってヨシズは親方の腕をがしっと掴んだ。掴まれた腕を見て親方は顔を青ざめさせる。


「あ…ええと……」


「少年。屋根裏へ案内してもらえるか」


「……は、はいっ!」


 親方の子犬のような目から視線を外して少年は諾の返事をし、屋根裏部屋へ案内してくれた。

 扉にはデカデカと『封印』と書かれた紙が貼ってあった。物言いたげな目をそれに向けるヨシズと少年。その隣で親方は視線を明後日の方向へ向けていた。


「ここもまた…埃がすごいな」


 『封印』されていただけあって台所と大して変わらない惨状を見せていた。だが、そっと歩けば埃もそこまで巻き上がらない。ゼノンから教えてもらった歩法がここに活かされた。


「親方。使っていい家具は?」


「……これだな。ワシとの共有箪笥だった。ワシのへそくりも何から何まで持っていかれてしまった……」


「なるほど。辛い思いしかなければバラしても心が痛まないだろうな」


「まぁ、そうだな…ああ、解体するなら中庭を使えばいい。出来る限り作業場に埃を持ち込まないでくれると助かる」


 そう言われてはアイテムボックスを使うしかないな。


「おお…アイテムボックスを使える人だったのか。レアだな!」


「レアですね!」


「ああ、やはり珍しいんだな……」


 それはともかく、作業をしなくてはならない。

 親方と少年を仕事へ送り出し、ヨシズは中庭で箪笥の解体にかかる。大工系冒険者舐めるな。箪笥なんぞ瞬時に解体してやるよ!

 宣言してしまった三時間を越えないためには一瞬の時間も無駄にできない。


「……ん?」


 それに気が付いたのは突貫で(しかしちゃんと使える)台所を仕上げ、そのままの勢いで箪笥の残った部分をさらに材料に分解している時だった。抽斗の奥に隠されるようにして何かカサカサしたものが貼り付けられていたのだ。


「紙か……?」


 便箋のようだった。


「ジジへ

 十二年恨み節……?」


 恐らくジジというのは親方の名前だ。ということはこれは女房さんからの手紙か……。本当に恨まれていたんだろうか。十二年の恨み節か…それは見るのが怖くなる。


 まぁ、そこで渡すのが出来た人間というものだ。


「親方~こんな手紙が箪笥に……」


「ひぇっ! 止めてくれ女房に恨まれてんのは知ってるからさぁ……」


 ぴらりと見せるだけで親方は恐慌状態になってしまった。本当に一体ナニをやらかした。


「読まなきゃ朗読するぞ」


「それはダメ!」


 ということで親方は恐る恐る手紙を開いていた。中から出てきたのは両面に『怨』と書かれた呪いの手紙…ではなく、これまでやらかしてきたことを淡々と綴っているものだった。親方はそれを青くなったり、胸を押さえて崩れ落ちたり、口の端から白いものが抜けたりしながらも読み進めていた。


 その様子をヨシズは台所へ続く扉に背を預けて見ていた。


 やがて、手紙からの攻撃に膝をついた親方の手から封筒が滑り落ちた。その中にまだ何か入っていたようで、少年がそれを取り出す。メッセージカードのような小さい紙に見えた。


「あの、親方…これ」


「ああ、まだあったのか…次はワシへの謝罪の要求でも……っ!?」


「どうしました、親方?」


「ワシは…行かねばならぬようだ」


「へ?」


「まだ居るかもしれん! ヨシズよ、感謝するぞ! とりあえずギルドカードを出してくれ」


 ササッと依頼達成の証明を刻み、ヨシズに返してから親方は先程の小さい紙を握りしめて外へ走り出て行ってしまった。とりあえず、これでヨシズは依頼から解放される。







『ジジへ

 私に悪いと思うなら、さっさと迎えに来ることね

 あんたが名前のようにじじになったとしても、待っていてあげるわ アイダ』



 ヨシズが知ることはなかったが、小さなメッセージカードにはそんな言葉が書かれていた。







何かちょっと書き方変わったかも? メインがシルヴァーじゃないからかしら……。

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