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虎は旅する  作者: しまもよう
アヴェスタ教国編
153/449

セイジョーの町4 外出組その1

次は8月23日の投稿を予定してます。

皆様も夏バテ・熱中症にはお気を付けください。水分補給、塩分補給は大切です。

 一方で、森へ行く…おそらく討伐依頼でも受けるつもりのゼノン、アルは同じく町に繰り出すことにしたヨシズ、ロウと一緒に歩いていた。


「シル兄ちゃん一人で大丈夫かな」


「大丈夫だろうよ。オレ達の中ではシルヴァーだけがアリウムの事情を知っているようだったからな。そこまで悪いことにはならないだろうさ。それに、教国の奴等は腹に一物あるのがほとんどだ。腹の探り合いくらいこなしてもらわないとなぁ」


「それでは、教国では交渉ごとが難しいのですか?」


 ロウがヨシズの袖をついついと引っ張って注意を引いてそう尋ねた。ウェアハウスのメンバーで最も交渉ごとが得意で任されてきたのだ。腹の探り合いと言われて気にならないはずがなかった。


「難しいというか…聞いた話だと交渉スキルを必要とするのはその団体の長も同じらしい。何らかの代表であるというだけで表に引っ張り出されることがあるらしい。それを考えるとシルヴァーだと不安だろう。もちろん、交渉専門の人物も忙しくなるぞ」


「がんばる」


 その様子を見てヨシズは複雑な顔をした。ロウは随分と大人びているがまだまだ子どもなのだ。今更だが

 交渉事が得意だからといって子どもが背負わなくてもいいものを背負わせていたのではないかと思ったからだ。


 もう少し楽させてやらないとな。

 シルヴァー、少しは期待しているぞ。


 とは、ヨシズが内心で思っていたことだが、ゼノンもまた同様に思っていた。互いに言葉には出していないが、何となく何を考えているのか分かった二人は視線を交錯させる。


「ロウ、市場へは確かこの道から行ける。だが、まだだいぶ時間があるんだったか? 時間つぶしがてらギルドへ一緒に向かうか? ここは教国だから多少は独特な依頼があるかもしれないぜ」


「そういえば依頼はしっかり見ませんでしたね。僕も行きます」


「それじゃあ全員でギルドだな。アルはどうするか…どうせ門でシルヴァーが大騒動を起こしたし、いまさら一つや二つ(騒動が)加わっても大して変わらないよな」


グルルゥ《ならば、一番過ごしやすい大きさになっていて構わないか?》


「あ、悪い。狼語は習得していないんだ」


 片手で軽く謝るヨシズ。アルはそれを受けて項垂れた。尻尾もへにゃりと地面に垂れてしまった。

 相変わらずアルの念話はシルヴァー以外に届かないようだ。仕方がないので人目が無いことを確認するとアルは大きくなったり小さくなったりして見せる。


「大きさのことみたいだね。人の背丈を超えない程度であれば大丈夫だと思うよ」


ガルゥ


 成人男性の腰程度までの大きさになったアルを連れてギルドへと向かう。すれ違う人達がアルを凝視していくが、声を掛けてくる強者はいなかった。何故か祈っていく人はいたが。


「聖獣信仰みたいなものもあるのかな」


「どうだろうな。聖獣は女神の使いということをどこかで聞いた覚えがあるから…結局のところ女神に向けて祈りを捧げているんじゃないか」


 そんな感じに雑談しつつギルドの扉を開く。もう少ししたら黄昏の時間だからか、ギルドは以外と賑わっていた。


「あ”? ふざけんなよてめぇ。斥候のくせに魔物を見逃しやがって。てめぇに分ける分はねぇ」

「そ、それはこっちだって困るんだよ! それに見つけられなかったのだってハイドウサギだったんだぞ! 上級者でもあれは見つけにくいんだよ」

「まるで自分が上級者であるようにいいますね……でも確かに、この辺りには見られないウサギでしたね」

「だからってなぁ…こっちは二人やられてんだ」


 カウンター近くでは見るからに狩り帰りだと分かる三人組が揉めているようだった。それ以外にも、受付近くで声を荒げている人が見られる。


「なーんか、不穏な感じだね」


 騒ぎを横目で見ながらゼノンがそう呟く。大して気にしていないのはこの程度の騒ぎは日常茶飯事だからだ。まぁ、内容はまちまちだが。


「妙な情報があったな」


「普段いない魔物がいたと話していました。大丈夫ですか? ゼノン兄さん」


「まぁ、アルもいるし…最悪装備を変えれば何とかなると思うよ」


 依頼が貼られている掲示板の前に立つ。この時間から依頼を受けようとする人は滅多にいないため目立つことこの上ない。


「うーん、どうしよっか、アル。浅いところでもストレス発散になるかな?」


グルルゥ《我が求めているのは狩りごたえなのだが》


「アルが狩りごたえを感じるような魔獣って…この町付近にいられるとそれはそれで困るよね」


 そう言いながら目を細めて依頼書を眺めていたゼノンはその内の一つに目をとめてサッとはぎ取った。


「これにしよう」


 それは採取依頼だった。


『採取依頼 Cランク以上

 誘魔草の採取』


「それでいいのか?」


 ゼノンがはぎ取った依頼の紙をちらりと見てヨシズが尋ねた。


「うーん…常時依頼の体をして凶悪な内容だよね。ちょっと受付で聞こうかと思って。受けるにしてもアルがいればすぐ分かるし、これは魔獣をおびき寄せるから丁度良いし」


 そう、アル(とゼノン)の目的はストレス発散がてら盛大に狩りを行うことだった。


「なるほど。確かに目的からすれば丁度良いな。ま、頑張れ」


 ヨシズもサッと依頼を確認して一枚取るとさっさと受付に向かった。


「じゃ、受付に行ってくるよ」


 ひらりと手を振ってゼノンとアルも怒号渦巻く受付へ向かう。残されたのはロウは、もう一度掲示板を眺めてから何も手に取らずにギルドを出て行った。



*******



 受付の前で先程からずっと言い合いをしている三人組の前にゼノンとアルはやってきた。


「ね、おじさん達邪魔だから外でやってよ」


「あ”?」


 ゼノンの言葉と同時に一人の男の肩にぽふんと手が置かれた。だから無視するわけにもいかなくなったため、振り返る。


「ぎっ!? うおぉっ!!」


 肩に置かれた手はアルの前脚だった。だから、振り返った男はすぐ側にハッハッと牙をむき出しにして舌を出したアルの顔を見ることになる。


 まぁ、驚くだろう。

 実際にアルに手を置かれた男は驚きすぎて尻から落ちた。


「ざまぁ。……コホン。後ろが支えているの、分かるよね?」


 ゼノンの本音が少し漏れたが、どうも男達はそれに反応する余裕が無いようだった。


「あ、ああ」


「口論しているのが邪魔で見苦しいの、分かるよね?」


「も、もちろん」


「見慣れない魔獣がいたとか言っていたけど…冒険者なら魔生物大暴走スタンピードのこと、知ってるよね?」


「あ、ああっ! そうか!」


 床に腰を落としたまま一人がそう叫んだ。


「気付いていなかったんだ。ダメだね」


「うぐ…というか、その狼は何なんだよ!」


 まだ年若いゼノンに言いくるめられそうになったことを恥じたのか、逆ギレしてきた。


「アルは歴とした冒険者だよ。ほら、ギルドカード」


「なっ!!」


 目の前の男共だけではなく近くでアルを凝視していた人達まで目を剥いた。Bランクの色であるシルバーが見えたからだった。


「どこのキチガイが許可を出したんだ……しかも、Bランクとかここにいるほとんどより上じゃねぇか」


 ついぽろりと言ってしまったのだろうその言葉に多くがうんうんと頷く。


「い、いえ、その狼様は…もしや!!」


 だが、受付の向こうにいた人達は総じて別の意味で目を剥いていたらしい。


「あ、やば……シーッ!」


 要らぬ騒ぎが起こらないように慌ててゼノンは受付の彼等に向けて黙るようにと口元に人差し指を立てて見せた。一瞬だったので冒険者達は気付かなかったようだが、その意図に気付いた受付嬢の一人が笑顔を浮かべていた。


「はいっ! ええと、依頼でしょうか?」


 そして、いっそ見事なほど輝いた笑顔でさきほどまで口論していたメンバーのギルドカードを隣のカウンターへスライドした。

 それを見てゼノンは苦笑いする。


「じゃ、この依頼書を見つけたんだけど、受けても大丈夫?」


「……これは……もちろん、受けていただいて構いません。ランク通りの実力があるなら生きて帰ってこられるでしょう。しかし、そろそろ魔獣の行動が変わりますので危険度は跳ね上がりますよ」


 ギルドの職員は流石にこの依頼のおかしさに気付いたらしい。


「まぁ、そうだろうね。それくらいはこちらも分かっているよ。それでも大丈夫だと判断したんだ」


「分かりました。それでは、採取した誘魔草はこちらの袋に入れてください。この近くには魅惑草もありますので、そちらもよければ採取なさるといいでしょう。その場合こちらの袋に入れてくださいね。くれぐれも入れ間違えないようにお願いします」


「もちろん…って、アル! 早いって!!」


 さっさと依頼を受けてギルドを出て行ってしまったゼノンとアルをその場にいた人達はぼうっと見送るだけだった。一部のまともな冒険者が「そろそろ黄昏なんだが…ヤバくないか」という思考に辿り着き顔を青ざめさせたのはそれからだいぶ経ってからだった。



 そのとき、アル・ゼノンはというと……。


グルルゥ《誘魔草はこれだな》


 アホほどいる魔獣・魔物をなぎ倒し彼等が気にしていた方向へと歩けば、目的の草が生えているのが見つかった。


「あ、これが誘魔草なんだ。実物は初めて見たかな。魅惑草の真ん中にあるとか…誘魔草も生き物の血肉をエサにしているのかな?」


グルルゥ……《待っていればいくらでも魔獣が寄ってきそうだがつまらぬな……》


 脳をしびれさせてくる誘魔草・魅惑草の匂いをフンッと鼻で息を吐いて振り払いながらアルはそう唸った。もちろん、それを言葉として受け取れる者はこの場所にはいない。それでも一緒に旅をしてきた仲間であれば何となく分かることがあるらしい。


「気を抜いた魔獣とか、狩りでがないのは相手したくないよね。さっさと引っこ抜いちゃおうか」


 結局のところ、似たもの同士であるだけなのかもしれないが。

 誘魔草はアルの鼻を使えばあっさりと見つかった。正直、鼻がいいアルは魅惑草の匂いにやられてしまうのではないかと思っていたのだが、杞憂で済んだようだ。


 そして始まるアル・ゼノンの無双劇







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