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虎は旅する  作者: しまもよう
アヴェスタ教国編
149/449

竜峰ルートを抜けて

次は7月26日の投稿を予定してます。

夏のホラー2017の参加作品を投稿しています。題名は『遺されたDVD』です。

そちらも隙間時間に読んでいただければと思います。ついでに評価をポチポチとしていただけると嬉しいです。


 あれから、俺達は魔獣達と連戦し、訪れた平穏な時間に馬車を進めるといった行動を繰り返すことになった。意外にハードだったと言っておこう。俺ですらこうなのだからラヴィやロウは相当きつかったのだろう。ラヴィもロウも馬車の中でダウンしている。ロウは疲れからか、まだ眠っているが、ラヴィはどうやら目を覚ましたようだ。


「大丈夫か、ラヴィ」


「……はぁ、物凄く疲れているけど、大丈夫よ」


 馬車の中で身体を横にしながら俺を少し睨んできたラヴィの魔力がかなり減っていることに俺は気付いていた。あれは相当辛いはずなのだが…やせ我慢しているのか。いや、やせ我慢させてしまっているのか。


「悪かったな。無理させてしまった」


「いいえ。私がペースを間違えただけよ」


 長めに目を瞑ってからフッと鋭く息を吐いてラヴィは身体を起こした。心配になって俺は彼女の肩を抱く。


「シルヴァーさん、ヨシズさんと御者交代した方がいいかしら。ずいぶん休ませてもらったし」


「そうだな…まぁ、もう少し休んでいて良いと思うぞ。どうせあと少しで教国だから、俺が御者を代わることになる」


「あら…もうそんなところまで来ていたのね」


 そう。(俺にとっての)楽しい時間は過ぎ去るのも早かった。魔獣との連戦はなかなかスリルがあって良かったが、戦い終わってからの無戦時間に商隊は驚くほど早く進んでしまったのだ。最短ルートとはよく言ったもので、それを複数回繰り返しただけで竜峰ギリギリの危険地帯を抜けてしまったのだ。


 さらば、竜峰。可能ならそこに住まうという竜を見てみたかった。今回の旅では咆哮らしきものを一回だけ普通の人は聞こえないほど遠くに聞いただけだったからな。


「あー! その顔、またろくでもないことを考えている顔だっ!」


「ゼノン……なぜ断言できるんだ?」


「顔がヤバかった」


 顔が……そんなに変な顔をしていたか?

 俺は自覚がなく、首を捻った。その俺の様子を見て、ゼノンは呆れた顔をして頭を振っていた。


「シル兄ちゃんは戦闘のことを考えると捕食者の顔になるんだよね。ちょっと歯を出してペロリと唇を舐めるあたり本当に怖いから」


 そんな動作していたか? 唇を舐める癖は知っていたが……。

 そう、唇を舐める癖は虎時代からのものだから知っているのだ。こう……獲物を前にするとついやってしまうよな。


「それはそうと、あと少しで教国だろう。普通はどれほど時間が掛かるんだ?」


「うーん…俺もそんなに詳しく知っているわけじゃないんだけど、シスターがポロッと話してくれたものによると大体一、二週間らしいよ。馬車でね。竜峰ルートほど強い魔獣が出るわけじゃないけど、普通の街道だってそれなりに出るからね」


「特に今は闘技大会が近いから破落戸も多くなっているって話だし、向こうは遅れが生じるのではないかしら。本当に、出てこられると厄介よね。ああいった存在は」


 幽霊の話ではない。魔獣や魔物、あと盗賊などの破落戸のことだ。というか、幽霊はヘヴン以外に見たことがないな。あれは一種の魔物ではないだろうか。魔物化した人間? まさか。しかし…敵に回られたら勝算がないような。あれ、絶対に物理攻撃が一切効かないタイプだろう。


 それはともかく。


「教国ってどういった国なんだ?」


「今それを聞く!?」


 普通は帝国を出る前に情報を調べておくものらしい。いや、俺だって教国の特徴ぐらいは知っているぞ。ヨシズから少し聞いたからな。だが、今の状況は知らないのだ。


「おーい、シルヴァー、表出ろ」


「ん?」


「御者交代だ。もう少しで教国だからな」


 残念ながら情報を仕入れる前に交代する時間になったようだ。仕方ない。

 少し残念に思いながらも俺は立ち上がってヨシズと交代しようとした。


「少し話を聞かせてもらった。教国についてオレが教えようか? 二人で座る程度の場所はあるし」


「助かる」


「おう」


 教国は、そのトップである教皇の性格によってその国自体の雰囲気も変わることで知られている。良くも悪くも頂点に立つ人物を中心としたトップ―ダウン型の社会を形成している。そして、国名からも分かるようにかなり宗教家の力が強い。

 そんな教国は魔の森とこちら側とを隔てる大障壁の維持管理に余念が無い。あそこは昔からそうだったらしい。実際に、ヨシズをのぞく俺達が遭遇した英雄達との腕試しアンデッドフェスティバルで出会ったヴェトロが生きていたときもそんな様子だったという話を聞いた。実際に魔の森と触れるくらい近いのはアーリマ五公国という国だが、そこと連携して教国は魔の森を押さえるように動いているという。


「魔の森へ向かう切符をくれるのが教国だな。あの国で認められたらその南東部に広がる森に住まう聖獣から加護をもらうわけだ。それは三回まで魔の森の攻撃を防いでくれるそうだ。実力のある冒険者が可能な限り生きて戻ってくるようにという措置だな」


 魔の森は本当に危険なのだ。魔獣、魔物はもちろんのこと、そこに住まう動物や植物さえも人を死に追いやるような存在だ。


「しかし、聖獣にそんな力があるのか?」


 我ながら、良く分からなかった。


「それのおかげで生きて戻れたという生還者がいるんだから嘘ではないはずだ。オレも聖獣ってのは良く分からないからなぁ」


 そう言いながらも、チラリと見るのは子犬姿のアルだ。フェンリルはあれでも一応聖獣だからな。確かに、分からないものだ。アルは人に加護を与えるなどということは出来ない。……俺だってそうだ。たぶん。


「国に認められるというのは?」


「そこで闘技大会の話になるんだよ。あれの優勝者と準優勝者は聖獣と会う権利をもらえるんだ。そして、その権利というのは闘技大会に限らず様々なものに付随しているらしい。もっとも、それを得るまでに相当苦労するそうだ」


 闘技大会優勝も準優勝もかなりハードルが高いよな。その他の手段にしてもどうせそう簡単にはいかないものなのだろう。これは、魔の森に行くには相当頑張らないとならないかもしれない。


「あと、聞きたいのは…政治状況とか…獣人は差別されないよな?」


「ああ、もちろんだ。今の教皇は見た目はちょっと頼りないが、聡明な人物だという評判だ。皇弟も陰日向に支えているらしいし。実は、嫁である聖女がしっかりしている獣人なんだ。だから虎人族であっても変な目で見られることはない。帝都での事件が大きく影響しているということは無いと思う」


 最大の不安点が解消されたな。まぁ、虎人族というだけで拒絶されてはいろいろと困ったことになるから、そこは安心した。


「おーい! シルヴァー!」


「ん? ゼアか。どうした? あとは教国に行くだけだろう」


 入場の列はもう見えている。


「あー、それなんだけど…ちょっとばかり騒ぎになるかもしれないんだよ。だから、シルヴァー達は先に進んでギルドでこちらの連絡を待っていてもらえないか? この割り符を持っていれば門でも話は通ると思うから。出来れば目立たないようにしてくれ」


 ……騒ぎになるかもしれない?


「まぁ、確かに騒ぎに巻き込まれたくないが…そういうときこそ護衛が役に立つんじゃないのか? それに、アリウムにも断らないと」


「暴漢騒ぎとかいうものじゃない。姐さんからの提案なんだ。ここで騒ぎになるとしたら…かなり面倒なことになる。巻き込みたくないんだよ。だから、先に行ってくれないか」


 両手を合わせて拝むようにして頼んでくるゼアの頼みを……


「分かった。先に行かせてもらおう」


 俺は快諾することにした。



 *******



「えー、次の方どうぞ…冒険者ですか。ギルドカードを拝見いたします」


 いつものようにギルドカードの提示が求められた。どこも変わらないな、と思いながら俺はカードとゼアから預かった割り符を門番に差し出した。この門番も若い人物だ。丁寧な物腰は評価できるな。


 ……『門番』『若い』の二つを思い浮かべると、少し嫌な予感がするな。


「ああ、護衛依頼を受けていたのですか。これはギルドへ持っていっていただければ向こうで報酬を受け取れます。こちらはお返しします。では、ギルドカードを調べさせてもらいます。……おや、これは……」


 彼はカードに記載されている一部分を見て一瞬固まっていた。俺は、ロータルガードのことをばらされるか? と警戒して彼が叫ぶ前に止めるべく、いつでも動けるような状態になる。


「……五年の許可はどなたにいただいたものですか?」


 彼は落ち着いた様子で俺の想像外の質問をしてきた。もちろん、近くの人に聞こえないように小さい声だ。拍子抜けしてパチパチと目を瞬かせる。


「帝都の辺境にあるハタの町の領主だが」


「……一致していますね。問題ないでしょう。失礼しました。ギルドカードをお返しします」


 その時、彼の後ろからもう一人門番がやって来た。


「おーい、リク、そろそろ交代だ……って、それは!?」


 彼は俺の対応をしていた門番(リクと言うらしい)の手元を見て、驚愕の表情を浮かべた。


 マズイ、と俺の脳内で警告が響いた。しかし、生憎と俺の体は警戒を解いてしまっていたのだ。


「五年もののロータルガード入場っ……!!」


 すべてを叫ばれる前に彼の口をバチンッと叩いて止めたのはリクだった。だが、少し遅かった。


「五年ものの……」

「ロータルガード」

「入場なんとか、だと?」

「許可証かっ!?」

「嘘だろ、冒険者は絶対もらえないとまで言われたやつじゃないか!」


 耳聡い奴等は聞き逃すことがなかった。俺の周りの奴等から動揺しあっさりと口にし、情報が広まって行く。そして、俺に向けられるギラギラとした目。



 明らかに狙われている。



 このとき俺は聞こえないことは分かっていたが、もう少し後にいる人達に謝っていた。


「……悪い、ゼア。目立たずに入るのは無理だった。むしろ騒動の原因になってしまった……」


 だが、これは不可抗力だと主張したい。








※7月後半から忙しさに殺されそうになるので(忙殺!)来週の投稿は無理かもしれません。その場合、前日くらいにあらすじのトップに書きます。

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