表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
140/459

お仕事します

登場人物紹介作りました。シリーズに追加してあります。


「行ったか……」


 シルヴァー達が出て行ったのを見送ってから俺はつい呟いた。


「シル兄ちゃん達には言えないことでもするの?」


 突然そう声を掛けられてオレはビクッと驚いた。そういえば、ゼノンはまだこの部屋にいたか……。南方から帰ってきて、こいつの隠形術に磨きが掛かっている気がするのはオレの気のせいではないよな。


「シルヴァー達に言えないことって……オレがするわけがないだろう。ただ今日はギルドへ行く気も仕事をする気も無いだけだ」


「ふぅん」


 ゼノンはどこか納得していない様子だったが、深く突っ込まないでくれた。

 実は、オレは帝都での獣人の扱いを知っていた。最初はどちらも共生を目指していたのだが、貴族のくだらない賭け、相容れない思想……様々なことが積み重なって大事件が起こってしまった。その責任を帝都の民の多くが新たに住み始めた獣人達に被せたのだ。今、帝都の者達からすれば、獣人は罪人の種族として扱うべき存在になっている。まぁ、全ての人がそうであるわけではない。客商売のところほどそういった意識は薄いのだ。さもなければシルヴァーがリーダーのこのグループが帝都で宿を取れるわけがないだろう。


「それじゃあ、少し散策してくる」


「いってらっしゃーい」


 ゼノンからの返事は軽かった。何か深い事情があるのだろうと察して聞いてこないのだろうとは思うんだが、ちょっと不審な人物は仲間であっても多少は警戒するべきじゃないか?

 オレがあの狂信者達と会うために出掛けている可能性は考えなかったのだろうか。


「……尤も、あちらにつくことは絶対にないけどな」


 パタン…と扉を閉めてからそれだけ呟いた。そういえば、どうも最近は独り言が多くなっている気がする。やはり……



 *******



 ニットーさんとの話を終えて、俺はめぼしい依頼は無いか物色していた。この時間はあまり残っていないだろうな、とは思っていた。


「やはり、雑務依頼が多いな」


「どこも一緒ね。シルヴァーさんは受けるの?」


「そうだな……この系統の依頼は滞ると困る人が数多く出てくるからな」


 住民からの依頼は出来る限り受けたいと思っている。ただ、心配なのは俺が獣人だということだな。ニットーさんの話しぶりでは貴族以外は差別意識が薄れてきているようだが……実際に見てみないと判断できない。 


「シル兄さん、この依頼はどうですか?」


 ロウが指さしたのは雑務依頼の一つだった。


「どれどれ……」


『墓守の手伝い

 Eランクから 種族戦闘能力問わず

 墓の掃除および周辺の草むしり程度をやってもらいます


 備考:場所は獣塚です

 まれ アンデッドの目撃情報』


 注目すべきなのは『種族戦闘能力問わず』の部分だろうか。俺達が受けても問題にはならないだろう。……裏を返せばこの文があるということは差別意識が残っているということだが。


「まぁ、いいと思うぞ。これにするか」


「そうね」


 特に問題は無いと判断して俺はその依頼を受けることにした。


「この依頼を受けようと思うんだが、注意点などはあるか?」


 受付にいた男性に少し聞いてみる。どうも帝都では俺が獣人であることも相まって気を付けるべきことが多いようだからな。まぁ、冒険者であれば問題にならない可能性だってある。


「墓守の依頼ですね。注意点は獣塚が帝都の外にあるので、一応簡単な武装を整えていくべきだというところでしょうか。この周辺に現れる魔物は大したことはありませんが、まれに強いものが出てきたりすることもあるので」


 なるほどな。どこだってそういった危険性はあるだろうな。俺はアイテムボックスを使えるからカニ装備まで揃っている。アルもアイテムボックスとは違うようだが、保管庫のようなものがあるらしい。ラヴィは魔法中心だから大丈夫だろう。ロウはとゃんと武器を持ってきている。


 問題ないな。


「このまま行っても問題なさそうだ」


「そうですか。ああ、そうでした。高ランクの方にお願いしているのですが、<闇草>や<漆黒草>、<魅惑草>を見つけたら採取してきてもらいたいのです。もちろん、依頼として報酬がありますので、ご心配なく」


 魅惑草。懐かしい名前が出てきたな。彼が挙げた三つは採取するには危険が伴う。普通に張り出すには問題があるのだろう。だから受付で言われたのか。


「ええと……質問していいですか?」


 俺がそれも受けようと言う前に、首をかしげながらロウが質問していた。


「はい、何でしょう?」


「その二つの用途は何でしょうか?」


 そういえば、三つとも禁制品の材料でもあった。ロウはそれを懸念しているのか?


「申し訳ありませんが、それはお答えできません。ただ、懸念されているようなことはないとだけ言っておきます」


 違法に使われることはないだろうということか。


「ロウ、その辺りの事は考えても仕方ないことだ」


「そう、ですね……」


 採取難度の高いものは実に儲かるのだ。採るだけなら違法にはならないし。


「では、<闇草>、<漆黒草>、<魅惑草>はこちらの三つの袋に分けて入れてください。見分け方は知っていますね? では、門のところで止められた場合はこちらのメダルを見せてください」


 メダルには、麦に鎌のリリーフがあった。



 そして、俺達は帝都の外までやって来た。ここに来る途中で獣塚の場所を人に聞いたのだが、それを教えてくれた人は俺達を見て微妙に心配そうな顔をしていた。それが印象に残った。


『ああ、獣塚に行くの? それなら西門を出て城壁沿いに少し北へ行ったところで分かれ道があるんだ。そこで、帝都から離れる方を選んでしばらく歩くと墓場になる。その墓場を突っ切った奥があんた達の目的地になるね。だけど……ほんとに行くのかい? そりゃあ、あんた達は獣人だから大丈夫かもしれないけどさ……』


 何を懸念しているのか分からないが、何とも不安になる言葉だった。


「おっ……ここが分かれ道か」


「帝都から離れる方って話だからこっちよね」


 ラヴィが指差した方は鬱蒼とした森だった。それでいて思った以上に生き物の気配がない。妙な森だ。

 しばらく歩けば、傷塞草に魔復草の群生地があった。魅惑草がこれらに紛れて生えているかもしれない。確か、魅惑草の見分け方は魔力を当てて甘い匂いがするかどうかだったはずだ。


「薄く広げればいいわよね?」


「そうだ」


 魔力を当てるのはラヴィがやってくれるらしい。魔力操作に長けた彼女の方が無駄がなくて良いのか。お手並み拝見だ。参考に出来ればしよう。


 ラヴィから魔力が波のように広がっていく。それに反応して草が色を変えていく。恋緑に、紫に……甘い匂いも立ち上る。


 魅惑草がここにある。


「っ、これはキツいわね……」


 この甘い匂いの中に居続けるとまず平衡感覚が狂う。そして、意識が朦朧としていく。場合によっては幻覚を見ることもある。その人の欲に直結した幻覚を。当然、そこまでいくと逃げる思考もなくなるから棒立ちになってしまう。そして、いずれは養分となるのである。


 魅惑草の問題点はその匂いだ。それが生き物の脳を狂わせる。だから、採取するときは鼻に詰め物をしたり、匂いが届かないようにするのだ。


「やはり、詰め物じゃ誤魔化せないな」


「魔法を使わないとね」


「……おかあさん……」


 ロウの返事だけおかしかった。俺はバッとそちらを見る。視線が中空を向いて、目の焦点があっていない。まずい。利きすぎる鼻の調整が出来ていないのだ。


「ロウ!」


 慌てて風魔法を使って周囲の匂いを取り除く。


「気付け薬。まだ間に合うはずよ」


「ああ……うっ」


 蓋を開ければツンと鼻にくる刺激臭。獣人には1.5倍の効果だ。


「正気に戻れ、ロウ!」


「うぇっ! けほっ! ごほっ!」


 先程までの甘い匂いから一転して刺激臭を受けることになったロウはすぐさま正気に戻った。


「だ、大丈夫か?」


「ごほっ! 大丈夫……シル兄さん、ラヴィ姉さん、ごめんなさい」


「いえ、謝らなくていいわ。私達が慣れていない貴方にもっと注意すべきだったのよ」


 その通りだ。そういえばロウは魅惑草の危険性を話にしか知らなかったのではなかったか。俺が気を付けておくべきだった。


 グルル《シルヴァーよ、自分で気づかせることも大切だぞ》


「だがな、アル……」


 グルルゥ《親がすべてをやるのは違うだろう? 今回はロウの失敗でもある。そこをしっかり押さえてやって学びを促すのだ》


 俺はアルの立派な訓示に目をぱちくりとさせる。まさかこのフェンリルからそんな言葉を聞くとは思わなかった。


 だが、もっともな話だな。


 俺は反省して泣きそうな顔を俯かせたロウに視線を戻した。この子はまだ10を越えるか越えないか辺りの子どもだ。そんな子に完璧を求めるのは間違っている。失敗を重ねて次へ繋げる……そういった時期にある。


 だったら、俺がやるべきは……。


「ロウ、今回は幸い正気を取り戻せた。俺達が適切な処置をしたからな。次は、同じ失敗をしないように気を付けておくんだぞ」


 しゃがんでからそう言って、ポンッとその頭に手を置いてゆっくりと撫でた。少しぎこちなかったかもしれない。


「うぅ……今度は同じ間違いをしない。ごめんなさい、シル兄さん……」


 ポロリと涙が流れた。俺はそれを見なかったことにした。男は涙を見せるのが恥ずかしいんだ。


「もう謝らなくていい。それより、別の言葉があるだろう?」


「あ、ありがとうございます!」


 よくできました、と言うように俺はぐしぐしとロウの頭を撫でた。実は、こちらはだいぶ慣れている。




Secret Title : 両親と子どもとペット






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ