表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
134/458

帰還:ハタの町3

 

 結論。寄生しているかどうかは実際に中まで見ないと確信はできない。だから目に映る魔獣や動物は全て狩った方が最終的にはかかる時間が短くなる。


「……それって結局いつもとやっていることは同じだよな」


 俺は向かってきたエイプの頭を掴むとその頭を地面に叩きつける。今、俺の周囲にはエイプの死体がごろごろ転がっている。


「あとは、これらを解体すれば良いだけか。言葉にするのは簡単だが……全てアイテムボックスに入れてしまってギルドの人にやって貰った方が楽だな」


 しかし、ここに転がっている分はアイテムボックスに入らなかった(・・・・・・)ものだ。何故入らなかったのか。


「……やはり寄生されていたのか」


 アイテムボックスには生きている物は入れられない。そして、何故か寄生している睡眠キノコは生きている扱いらしい。だからエイプの死体がアイテムボックスに入らなかったのだ。


 目につくものを全て狩ったのでいつものように狩りすぎだと怒られるレベルの量になってしまった。だが、良い運動になったな。今回はカニ装備は防具も武具も一切使っていない。そして規定の量を少し超えた程度になったので帰ることにする。今回は黄昏を忘れることはしなかった。


「お? シルヴァーか。こんな時までギルドの仕事か?」


 門番に紛れて隊長がいた。トップがこんな所にいていいのだろうか。まぁ、トップだからこそごり押しできるのだろうな。


「まぁ、稼げる内に稼いでおかないとな」


「お前はそんなに焦る年齢だったのか?」


「まさか」


 虎人の肉体的には20代ちょっとだと思う。焦る年齢ではない。というか、もしかしたら元聖獣ということも相俟って通常よりもかなり長く生きるかもしれないのだ。


「まぁ、何にせよ最近増えた気がする魔獣を狩ってくれるのは助かる」


 あっさりと通してもらった。俺は特に悪いことをしたわけではないので、そうでなくてはおかしい。

 そのままギルドへ向かう。規定量の睡眠キノコを提出して残りを領主の屋敷(宿)に持ち込むか。その他の肉類は……ブレードラビット・ミュータントを夕飯にしてもらってもいいな。


「討伐・採取依頼を達成した。確認を頼む」


「はい。依頼は睡眠キノコ20個ですね。……はい、ピッタリです。依頼達成となります」


「他にも狩ってきたものがあるから売りたいのだが」


「それは売却カウンターでお願いします。左手奥の通路を少し進んだ先の部屋です」


「ああ、あそこか。分かった。ところで、今は睡眠キノコの繁殖期なのか?」


 俺は少し気になっていたことを聞いてみた。睡眠キノコに限らず繁殖期となっている魔獣や魔物についてはギルドでも注意喚起が張り出される。俺も普段は見ないが今日は念のため見ていた。だが、睡眠キノコについては何も書いていなかったのだ。俺が見落としているのかもしれない。だが、もしそうでなかったら今の森は駆け出し冒険者にはきついだろう。


 果たして、受付嬢の返答は……。


「睡眠キノコの繁殖期ですか……この辺りは早いほうですが、流石に今の時期はそう多くは見られないと思いますよ。もし異変を感じたのなら売却カウンターの方に相談してください」


「ああ。そうさせてもらう」


 俺が話している内に後ろの列も長くなっていたからな。あと、視線が痛い。殺気をぶつける必要は無いだろうが。俺はそいつを睨み返しつつ売却カウンターに向かった。


「おおーい、誰かいないか?」


 売却カウンターに来たのだが、誰もいなかった。暇なのだろうか。もしくは人手が足りていなかったりするのかもしれないな。だが、声を掛ければ誰かがやって来る気配がした。


「ああ、すみません。早めに昼食を取っていたもので」


「それは悪かったな。早速だが、今日狩ってきたものを売りたい」


「量があるならそこのスペースに出していってください。なければカウンター上で構いませんが」


 ということなので、スペース一杯に出してみた。


「意外とあったな……」


 本当にいつもと変わらない。


「うわぁ……エイプがこんなにいたんですか。ブレードラビットも……ああ、フォレストビーもいましたか。巣は?」


 彼は呟きつつも手際よく解体している。俺もエイプなど慣れたものからやっている。こうしておけば手数料を割り引いてくれるのだ。


「もちろん、取ってきたぞ。売らないが」


 蜂蜜は俺のものだ。


「それは残念です。おや……妙な跡がありますね」


 彼の手が止まり、妙な跡があると言ったので俺もその手元を見た。何のことはない、ただの睡眠キノコの跡だった。


「どれだ? ……ああ、睡眠キノコの跡だ。エイプは結構取り付かれていたぞ」


「それは本当ですかっ!?」


 手に持っていたものを取り落とすほど衝撃を受けたらしい。何故だ?


「間違いない。ほら、このエイプも似たような跡があるだろ」


「睡眠キノコが……もう繁殖期に入っているのは大事件ですよ! スタンピードの影響かもしれません」


 ああ、そうか。スタンピードで発生する魔獣が増える。つまり、睡眠キノコが取り付く相手も増えるということか。


「妙な状況になっているな……実は、ブレードラビット・ミュータントもいたんだ。繁殖期ではなさそうだったが」


「ミュータントはここ十数年周辺の森に現れていなかったはずです。異常ですね。今の森は……報告する必要があるかもしれませんね」


「提出した方が良いか? 夕飯にしてもらうつもりだったのだが」


「いえ……そうですね、討伐証明部位だけいただければ。食べる場所ではないので」


「そうだな」


 小一時間ほど掛けてようやく全ての魔獣を解体し終えた。解体作業もだいぶ慣れたので大幅に時間を短縮できていると思う。


「お疲れ様です。お金は今出しますか? それとも預金しますか」


「ああ、パーティ資金に加えておいてくれ」


「分かりました」


 どうせ個人の方も貯まる一方だからな。



 *******



 領主の屋敷まで戻ってきて、俺はまず魂を飛ばしていたゾンビ(文官)を正気に戻して厨房の場所を聞き、そこでのんびりしていた料理人に蜂蜜とブレードラビット・ミュータントを渡した。


「今日の夕飯か明日の朝食に使ってくれ」


「分かりました。この時間なら夕飯(ディナー)に使えるでしょう」


 それは楽しみだ。ところで、俺以外のメンバーは何をやっているのだろうか。ヨシズは出掛けるようだったからまだ外かもしれないが、ゼノンやラヴィについては予定を把握していなかったな。ちょっと探してみるか。


 流石にラヴィさん……ラヴィの部屋には行きづらい。特に用事がなかったからとか言えないだろう。とすると、ゼノンの部屋にでも行ってみるか。


 コンコンコン


「ゼノン、いるか?」


 ……返事がない。どうやらいないようだ。

 当てが外れたな。外に出ていないなら部屋で物騒なこと(武器の手入れ)でもしていると思っていたのだが。


 どうするか。ロウの様子を見るか? ロウの部屋は隣だ。


 コンコンコン


「ロウ、いるか?」


「はい! ……どうしましたか、シル兄さん」


「ああ、いや……変わりないか?」


 何となく言うべき事を見失った。しっかり自分の部屋で大人しくしていたロウに対して大人しくしていられなかった自分は子供以下か、と。


「侍女の方から服をいただきました。シル兄さんをイメージした紋章ですよ! 僕、嬉しくて」


「そ、そうか……」


 俺が拒否しようとしたことは絶対に秘密にしよう。こんなにロウが喜ぶとは思わなかった。久しぶりに子供らしさを見せてくれた気がするな。いや、俺達が向かう場所が場所だから子供でいられなかったのか……。もっと甘やかしてやるべきか? ……それにしても、子供の純粋さは眩しいな。


「ところで、ロウ。ゼノンはどこにいるか分かるか?」


「たぶんニットーさんの部屋です。領主様の悪ふざけに付き合ってくると言っていました」


 ニットーさんがターゲットになったのか。どんなことになっているのか興味はあるが……関わらない方が良いという予感もあるんだよな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ