帰還:ハタの町2
俺が完全に向こう側に出ることで門が閉じるらしい。【転移門】か……確かに大勢を助けたいときに活躍しそうだな。その場合、俺はかなり危険なことになりそうだ。俺は一番最後に潜らなくてはならないということだからな。
「お……おい、シルヴァー……。どうやって戻ってきたんだ!? いや、見れば分かる……あそこはどこなんだ!」
襟首を掴まれてユッサユッサと揺らされる。せっかく格好良く門を潜ったというのに台無しだ。
「ちょ、待て……説明……するから……」
「ああ、オレが納得するまで説明して貰うぞ!!」
ということで一から十まで詳しく説明することにした。ユモアの森のくだりで目を輝かせたのは巨大な果物を想像したからだろうか。そして、肝心のデュクレス帝国の話しに移るというところで……
「ヨシズ様。外出着をお届けにまいりました。入室してもよろしいでしょうか」
「ああ、どうぞ」
気勢を削がれたヨシズが訳の分かっていないまま入室を許していた。『外出着』と言っていなかったか? ヨシズは貴族でもないのにどうしてそのようなものを持ってきたのだろうか。
「失礼します。ベネディクト様より通達があります。本日および明日の出発の際にはこの外出着を着てもらいたいとのことです」
「それはまた何故なんだ?」
侍女の人が広げたソレは短時間で作ったにしては素晴らしい出来のものだった。青地に金の刺繍が入っている。それだけだ。それだけなのだが……いかにも貴族というような感じだ。
「残念ながら私どもは教えていただいていません。どうしても気になるようでしたらベネディクト様に取り次ぎますがどうしますか?」
「いや、いい。これを着ていれば外に出掛けられるということだけ分かればな」
「では、ご試着ください。ところで、そちらはシルヴァー様でよろしいでしょうか」
「ああ。そうだが。俺にも何かあるのか?」
「はい。部屋に別の子が外出着を届けに向かっていると思われます。ヨシズ様さえよろしければこちらに運ばせますが」
俺はヨシズの方を向く。「構わない」と言うように頷いたのでこちらに運んで貰うことにした。
「お待たせしました。こちら、シルヴァー様のものとなります」
俺のは黒地に金の刺繍だった。柄はヨシズのものと同じだな。しかし……
「着てはみたが、これはなぁ……」
ヨシズと俺の感想は同じだろう。
「「驚くほど似合わない」」
冒険者のラフな格好の方が着慣れているだけあってよほど似合っていると思う。
「いいえ。よくお似合いですよ。御髪を整えればもっと似合うと思います。よろしいでしょうか?」
「うーむ……まぁ、一応頼む」
侍女が言うには髪をとかせばマシになるらしい。俺は先程のデュクレス帝国で髪がかなり伸びたから余計におかしく感じるのかもしれないが。
ヨシズとともに髪の毛を整えてもらうと、まぁ見られない感じはなくなった。服に着られている印象は残っているが。
「……ちょっと待て。これで外に出るのか? 俺達は冒険者であって貴族ではないのだが。誤解されないか?」
ふと正気に戻った。貴族からしてみれば俺の着ているものはそこまで派手ではないかもしれないが、俺のような庶民から見れば十分にきらびやかな服だぞ。かなり動きやすいという不思議はあるが。
「こちらは貴族の方々の服には入れられない紋章を背中に入れさせていただきましたから、問題ありませんよ」
「背中?」
「ブッ……お、おい……これ。なかなか良いデザインだな」
「ニットー様に考案していただいたものです。一目見てリーダーが分かる冒険者の紋章だとおっしゃっていました。全員同じ紋章ですよ」
嫌な予感がした。
「ヨシズ……少し背中を見せてくれ」
「ああ、いいぜ」
それは、銀の糸で刺繍されていた。大円に虎の横顔と二本の刀……俺と俺の武器を意識していることがありありと分かる。
「最悪だ……」
町を出歩けないかもしれない。俺のことだと一目瞭然だから恥ずかしすぎる。
「オレは良いと思うがな。一冒険者がこんな紋章を背負える事なんて滅多に無いぞ。貴族のなんちゃって冒険者ならあり得るだろうが」
「だから、馬鹿にされるんじゃないか?」
「ないない。高位の冒険者は見るだけで実力のほどは分かるからな。決しておためごかしのつもりで言ったんじゃ無いぞ。俺達はこれを背負うだけの実力を有している。リーダーであるお前なら分かるだろ?」
確かに、俺のパーティメンバーはかなり実力のある人達だ。それを認めて信じてやるのもリーダーの仕事か。この場合、評価の全てが俺に集中しそうなのが怖いのだが……。
「まぁ、いいか。それで何か問題が起こるようであれば俺が戦えば良いことだからな」
「一度決めたら潔いな!」
とりあえず部屋に引きこもっているのが嫌だからだ。外へ行って体を動かしたい。
「あ、侍女さん、一つ聞きたいことがあるんだが」
「何でしょうか?」
「これのまま戦闘するのはまずいよな?」
「いえ。皆様が冒険者であることを考えて素材を選びましたのでそのまま戦闘しても大丈夫ですよ。出来れば鎧の下に着ていただきたいですが」
驚愕の事実。どうやらこれは戦闘服としても使えるらしい。
「すげぇなそれ……一体どんな素材を使っているんだ?」
「申し訳ありませんが、素材については秘密にさせていただきます」
「ああ、別に構わない。戦闘に使えるというそれだけが分かっていればな」
そもそも俺はいつも普通の服の上に簡素な革の鎧で行動している。緊急時や命の危険がある場合はカニ装備だが……。普段と比べればこの服があることで相当防御力が上がったのではないだろうか。
そして、俺は領主の屋敷を出てギルドに向かった。道中やけに視線を集めていた気がするが、やはり服の効果だろうか。
「討伐依頼はあるか?」
いつもなら町中で済ませる雑用依頼に走るのだが、この服を着たまま町中を歩く勇気は無かった。
「は、はいっ! もちろんございます。シルヴァー様は個人でもBランクですので、こちら……討伐依頼と採取依頼が同時に入っている睡眠キノコの討伐・採取依頼はどうでしょうか。ソロでは少々危険ですが、討伐履歴を確認したところ、かなり幅広く狩ったことがあるようですので、おすすめさせていただきました」
睡眠キノコもヒュプノスバタフライと同系統の魔物だ。外敵が近付くと粉をまき散らし、対象を眠らせて逃走する。繁殖期……少し語弊があるかもしれないが、睡眠キノコは一定の周期で仲間を増やそうとする。その方法は眠らせた外敵を苗床にして養分を得るというものである。
「確かにソロでは危険だな。しかし……睡眠キノコは美味いんだよな」
「はい。採取依頼の方も依頼者は【角兎の巣穴亭】の店主ですから」
もし俺が依頼を受ければ……領主の屋敷の料理人次第だが、今日の夕飯か明日の朝食で食べられるかもしれない。よし、受けるとしようか。
「その依頼を受けよう」
「はい。ありがとうございます。……ギルドカードをお返しします。その……もしよろしければ握手をしていただけませんか?」
「それくらいは別に構わないが」
どういう意図で頼まれたのか分からないが、俺は受付嬢と握手しておいた。そして首を傾げながらギルドを出る。有名人に会ったような態度だったな。俺は特に何かしたわけではないはずだが……。
とりあえずハタの町の西の森にやって来た。この奥が討伐対象の潜んでいる場所だ。
「まぁ、いつも通り、襲ってきた奴は全て倒して回収だな」
何故か帝国は魔物化した野菜が多いという話を覚えているだろうか。辺境とは言えここも帝国だった。森の中を歩いていて、普通の動物はちらほら見るのだが魔獣はあまり見かけない。それでも比較的魔獣が多いといえる。
例えば、ブレードラビットとかな。また出会ったぞ、しかも血赤の……。一応狩っておくか。こいつは繁殖前かもしれないな。ブレードラビットはかなり大きな群れを作るから。
そして、俺は目的のキノコを発見した。ブレードラビットに寄生していたのだ。
「もしかして、睡眠キノコは今が繁殖期だったか?」
少しあやふやだ。所変われば気候も変わる。睡眠キノコは生き物が活性化する時期に繁殖期を迎えるから……少なくとも冬では無い今繁殖期になっていてもおかしくはないのかもしれない。
ただ問題なのは繁殖期に睡眠キノコが単体でいることは滅多に無いことか。怪しい魔獣を狩っていかなくてはならない。予定よりも時間が掛かりそうだ。




