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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
132/458

シルヴァーの寄り道3


「ごめんよ、シルヴァー。やっぱりちょっとズレていたみたいだね」


「おかげで酷い目にあったぞ……」


「それにしても、ずいぶん魔力を消費しているね。フィル、何が起こったのか後で報告してね」


「はい!」


 道中にフィルという、俺を助けてくれた妖精と自己紹介しあった。彼は妖精達の長の息子なのだそうだ。彼の案内ですぐにデュクレス帝国に辿り着いた。俺はあの四匹に惑わされて同じ所をぐるぐる回っていたらしい。それが妖精の悪戯魔法だという。


「魔力はここの水を飲めば回復するから」


「……は?」


 確か、ここの水は飲むと魔力基盤が狂うかもしれないという話だったはずだが……もしかして、改良したのか?


「普通の人が飲めば少し危険かもしれないけど、君は普通じゃないから大丈夫だよ」


「え……いや、俺が普通じゃないって……「普通じゃないよね?」


 俺の言葉に被せるようにして話し、俺を否定するヘヴン。そう断じた理由はすぐに話してくれた。


「だって君さ~、今の身形は虎人族だけど本性は虎じゃん。しかも、もともと白銀の毛並みだったんでしょ? 魔力も通常よりかなり多く持っていたわけだよ」


「そうなのか?」


「あれ、君は普通の虎を知らないのかな? まぁ、白銀の動物は聖獣と呼ばれるけど要は異常に魔力を持っているということなんだよね。ついでに賢いから尊ばれるんだ」


 確かにその話からすれば俺は普通ではなさそうだ。しかし、それが水を飲んで大丈夫だという理由にはならないと思う。


「まぁ、騙されたと思って飲んでみて」


「いや、あのな、飲んだら冒険者人生が終わりそうな物を簡単に飲めるわけがないっ」


「ほーれ」


 こいつ……反論した俺の口に無理矢理水を流し込んで来やがった!!


「……むぶっ」


 確かに魔力は回復したようだ。ただ、妙な感触が体の中を巡っている気がする。ゾクゾクと肌が粟立つ。


「もし何かいつもとは違う感じがすれば遠慮無く言ってよ。手遅れになる前に対応しなきゃ」


「ヘヴン、お前、俺で人体実験したのか……!?」


 薄々気付いていたがな。吐き出さずに飲み込んだのはそれ以上に魔力の枯渇が心配だったのだ。実際、魔力は回復したから。


「ごめんって。実は、今ここにいるモノは全員普通の人とは違うから分からないんだよね。それで、おかしい所はない?」


「体の中に変な流れがある。悪い気はしないが……良い気分でもないな。あと、色んな『欲』が増幅されていると思う。眠い、腹減った、壊したい……全部お前にぶつけようか? ああ、そうしよう。きっとスカッとするはずだ」


「うっわぁ……ちょっとマズそう。これ、飲んで」


 そう言って渡された原色ピンクの液体が入った瓶を俺は無言で見る。水よりも体に悪そうだ。その衝撃で強く感じていた『欲』も一瞬引いていた。


「これを飲む方がマズいんじゃないのか!? 俺の命的に」


「これは大丈夫だよ? 伝統的な手法で作ってある万能回復薬だから」


 信じられない!


「ちなみに、材料は……」


「後で教えてあげるから。ほらほら、早く飲んで。命に危険は無いからさ、絶対に」


「絶対、なんだな?」


 その言葉を信じて俺は原色ピンクの液体を飲んだ。ゴクゴクとな。ちなみに味はない。あえて言うなら水味か?


「まぁ、いいかな? これは【妖精郷】で採ったものを使ってるよ。<傷塞草(しょうそくそう)>と<魔復草(まふくそう)>は鉄板として、加えて<妖郷(ようごう)キノコ>、<妖郷石の苔>、<幻惑草>にちょっと危険な<狂花(クルイハナ)>」


「ブフッ!!」


 ヘヴンが俺が飲んでいるときにコレの材料を挙げてくれたのだが、最後の一つを聞いて思わず口にある分を吹き出してしまった。『狂華(クルイバナ)』だって!? バルディックの話しに出てきたあの凶悪な……。どうしよう。半分以上飲んでしまったのだが。


「あー、もったいない!! どうしたの、シルヴァー。何か異物でも入っていた?」


「ちょ、お前……狂華を入れたのか!? 危ないんじゃ……」


「クルイバナ? あー、ちょっと違うよ。私が入れたのはクルイ()ナ。クルイバナは魔の森に生えている有害なもので、あそこの空気によって変異した種だよ。クルイハナはもともとこちらにあった無害な種。別物だから安心して」


 ああ……『バ』と『ハ』で違うんだな。モノも効能も違うのだろう。そう納得し、安心したら意識が飛んでしまった。ヨシズの登録をしないと……。しかし、こんなに急に意識が沈むものなのか? やはり、何かマズい成分でも含んでいたのでは。


 ブラックアウトしていく中で思ったのはやはり飲まされた薬に対する疑惑だった。



『……ヘヴン……流石にあれは……』


『あー、ちょっと自覚を持ってもらおうと思ってね』


『……それでも、……』


 夢現に話し声が聞こえていた。一人は聞き慣れた声……ヘヴンだろう。もう一人は、かすれていてよく聞き取れない。女性だと思うのだが。

 俺の髪をそっと撫でる感触がした。ヘヴンでないことを祈る。かといって、もう一人の声の主だとしたらどうしてそんなことをするのか困惑するのだが。


『命運を、それに?』


『……彼だけでは……』


『でも、猶予はないよ。スタンピードは始まっている。それに、アデル。君さ、力を使ったでしょ』


『……あれが一番だったのです……』


『可能性を見せるって言ったってね、空振りに終わる可能性もあったんだよ? まぁ、何とかなったみたいだけど。でも力の使いすぎで存在が希薄になっているじゃん。いずれ消えちゃうよ』


『……全ては私が悪かったのです』


『あんまり気負いすぎないで良いと思うよ。それに、【称号持ち】について前に話していたけど……彼等をどうするの?』


『……エヴィータの目覚めを……あら、目が……』


 エヴィータ? 厄介な奴らが信奉している女神の名前だったな……。

 俺の意識が覚醒する。同時に俺を撫でていた手の主も消えてしまったようだ。柔らかい笑みを残して淡く消えゆく姿を少しだけ見ることが出来た。


「おはよー、シルヴァー」


「ヘヴンか……ここにいた女性は?」


「何のことかな? シルヴァーのことは私がじっと見ていてあげたんだけど」


「気持ち悪い!! 男に寝顔を見られて喜ぶ趣味は俺にはないぞ」


 というか、どうして意識がなくなったのだったか……少なくとも自分の意思で寝たのではないはずだ。


「記憶はある?」


「ちょっと待て……確か、怪しげな……原色ピンクの液体だ! おい、ヘヴン。あれは本当に無害だったのか? あれのせいで意識を失ったみたいなんだが」


「あー、ちょっと回復効果が過剰だったかもしれないね」


「ちょっと!?」


 そのとき、俺は異常に気が付いた。寝ている間に髪が恐ろしく長くなっていたのだ。


「というか、何だこの髪!」


「溢れ出る魔力を蓄えるためにそうなったんだろうね。あ、切ったらダメだよたぶん。魔力を使っているうちに自然と生え替わって普通の状態に戻るから」


「不可抗力で切られたりしたらどうなるんだ?」


「どうなるんだろうね」


「……おい。こんな変な効果が現れるのなら飲ませるなよ」


「でも、あれが確実だったからね~」


 まぁ、魔力は完全回復しているみたいだからいいとするか。済んだことをごちゃごちゃ言っても意味は無い。


「ところで、ヨシズの登録に来たのだが……あれ、髪はどこへ行った?」


「ああ、もうブレインに渡してあるよ~。無事に認証できたらしい」


 確かに持っていたはずのヨシズの髪が無くなっていた。しかし、ヘヴンがあっさりとその行方を教えてくれた。


「そうか。それだけ分かればいい。帰っていいか?」


「いや、ブレインに顔を見せてあげなよ。寂しがっているって言ったよね?」


 そういえば、そのようなことを聞いた覚えはあるな。ずいぶんと人臭い感情も持っているんだな。それは驚いた。仕方が無いからブレインがいる謁見の間までヘヴンと一緒に行くことにした。一人だと確実に迷うからな。


「国王陛下~~!! お久しぶりです!!」


「あ、ああ。様子見に来られなくて済まなかったな」


「陛下が謝るような事では……グスッ」


 謁見の間に入るとブレインが姿を現し、大げさに泣いて俺の帰還(・・)を喜んでいた。少しだけ罪悪感が湧いたな。


「それより、何か問題はなかったか」


「妖精が魔力補給に来るようになりましたが、防衛の観点では問題ありません。いつでも追い出すことが可能です」


「いや、町を破壊するだとかしなければ放っておけ」


「はい。陛下、ご友人の登録は無事完了しましたが、一つ申し上げたいことがあります」


「なんだ?」


「ヘヴンさんの転移魔法でこちらに来ることは可能ですが、それ以外で例えば大人数の避難先としてここを指定することが可能です。その場合【転移門】の魔法を覚えていただかなくてはなりませんが、万が一の時はこちらの方が楽だと愚案いたしました。いかがなさいますか?」


 ……ええと、つまりどういうことだ? 誰か、翻訳してくれ。


「つまり、【転移門】という魔法を覚えておけば私の転移方法より楽だし、大人数を一度にこちらに向かわせることが出来るってこと。スタンピードで逃げ遅れた人達を助けたりできるね」


「なるほど。しかし、ここがばれては困らないか?」


「大丈夫だよ。知っての通り、ここには腐るほど英雄がたむろしているからね。武力面では問題なし! 政治面でも……そもそもこの場所を見つけられるかな? 唯一心配なのはシルヴァー、君なんだけど……女神様の加護があるからそこまで運が悪くなることはないはずだし大丈夫でしょ」


「根拠を話せ。……というか、女神様の加護? 一体いつ……」


「あ、加護については秘密だっけ。聞かなかったことにして」


「いや、それ不安になるから」


「悪いものじゃないからね~……まぁ、生き残る方向で運が良くなっていると思っておけばいいよ。正直に言うと私も詳しく教えられるわけじゃないからさ」


 それで納得してやるか。


「陛下、【転移門】についてはどのようになさいますか?」


「ああ、放っておいて悪かったなブレイン。【転移門】は覚えたいと思うが、どれくらい時間が掛かる? そろそろ帰らなくてはならないのだが」


「陛下ならば一瞬かと。こちらの杖を持ってください。腕を伸ばして掲げて……では、行きます。術式付与【転移門】。仮起動いたします……」


 その魔法の情報が俺の頭に入ってきた。この杖を使えばそこまで魔力を消費するものでもないらしい。

 そして、ブレインの「仮起動」という言葉に杖が熱を持ち、カッと光るとその先に門が現れた。その向こうはどうやらヨシズの部屋のようだ。唖然としてこちらを見ている。


 俺はニヤリと笑ってやった。あいつの鼻を明かした気分だ。そして、歩を進める。


「ああ、そうだ。ブレイン、行ってくるな」


「いってらっしゃいませ、陛下」






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