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虎は旅する  作者: しまもよう
クナッスス王国編
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ドルメン12 昼食→採取依頼

 

 今日は宿で食べないと言ったので町の食堂で食事をすることになる。少し早いかと思ったがちょうどいい時間だったようだ。食堂が多く集まっている通りに着くと冒険者の人通りも増えていてそれに合わせるかのように食堂も開いていっている。

 呼び込みをしている人も見られ、賑やかになっていた。


「今日は特盛を割り引くよ! ドカンと食べて行きな!」


 特盛か……。これから体力を消費する依頼を受ける俺から見れば大変ありがたい。ああ、想像したら腹が減ってきた。

 同じように感じたのか、男性冒険者がその店に入っていく。だが、他にいいところがあるかもしれない。我慢だ。


「栄養バランスを考えて作ったご飯はいかがですか! カロリー控えめなのにボリューム大です!」


 こちらの店では可愛い子が呼び込みをしていた。栄養バランス、カロリー控えめと言う言葉から女性向けだろう。今も女性冒険者が入っていく。ダイエット目あ……こほん。言ってはいけない言葉だったか。店の方から幾つもの視線が刺さった。女性の怒りは買うものではない。


「オリジナルレシピのハンバーグはいかがですか!」


 俺の気を引いたのはこの言葉だ。確か、普通の宿ではこういったものは手間がかかるから出されないのだそうだ。俺は食べたことがないから分からないが、やみつきになると言っていたな。冒険者仲間が。

 ふむ。そろそろ我慢も限界だし、ここにするか。


「席は空いているか?」


 俺は呼び込みをしていた人に話しかけてみる。


「はい! どうぞ中へ!」


 店の中に入ると、それなりに賑わっていた。見たところ、何処が空いているかは分からない。


「あちらの窓側の席へどうぞ」


 窓側という、いい席が空いていたようだ。早速席に向かう。

 席にはメニューが置いてあったが、俺はどれがなんだか分からないのでとりあえず一番先に目に入った物を頼む。


「定食セットを一つ」


「かしこまりました」


 他のウェイトレスさんがやってきて水を置いて行った。どうやら、水は自由に飲んでいいそうだ。

 10分ほど待って、料理が来た。


「お待たせいたしました、定食セットです。料金はこちらになります」


『テイショクセット 250ハド』


 今更だが、お金について説明しよう。

 青銅貨1枚 1ハド

 銅貨1枚  1ヤヌス = 100ハド

 銀貨1枚  1ネルウァ = 1万ハド

 ・

 ・

 ・

 その上に金貨や星貨、神月貨なんてものもあるが、そんな大金に関わるとは思えないので割愛する。暴走竜を狩れば金貨くらいは動かせるかもしれないが。


「これで」


「3ヤヌスですね。50ハドのお返しになります」


 青銅貨は真ん中に穴が空いているからそこに紐などを通しておくことで持ち運びしやすく、数えやすくなる。


 さぁ、食べようか。ハンバーグは出来たてで、とても熱いが美味しい。やみつきになるというのも頷ける。これぞ、カウとピギー7 : 3の味だ! ……そんなこと、この俺が分かるわけがないだろう。極論、美味しければ気にならないな。

 一部の人を敵に回しそうなことを思って俺はそれを完食した。


「美味かった。これで午後も頑張れるな」


 次に向かうのはギルドだ。いい依頼があるといいが。



 *******



 ギルドに着いた。流石にお昼時だけあって混雑している。俺はこういった混雑が好きではない。何故か視線が集中するからだ。特に討伐後。


「ご用件は何でしょう」


 俺の番になった。今回はアンさんではないが、朝に会った受付嬢だった。


「依頼の完了報告と午後の分として何か受けたい」


「かしこまりました。ギルドカードを預かります」


 少し待った後、どんな依頼があるか聞いてみる。


「何かオススメのものはあるか?」


「そうですね……昨日上位種の出現情報が上げられたので討伐系は軒並み報酬増額傾向にありますね。それと…あぁ、討伐以外で一つ、薬師のマチルダ様とクランチ様からの共同依頼で、〈傷塞草(しょうそくそう)〉と〈魔復草(まふくそう)〉の採取があります。森の奥へ行く必要が出る可能性が高いので、実力がある方を求めていたんです。余剰分があれば、簡単なポーションの作成も教えていただけるとのことでしたので、それも合わせてオススメですね」


「クランチなら知り合いだから受けたいが、俺に森に行けるほどの実力はないと思うんだよな。ランクも低いし」


「ランクが全てではありません。そもそも、貴方は昨日ピギーを14体も狩って来たではありませんか。ヨシズ様と一緒に狩ったものも含まれているとはいえ……いいえ、むしろあのヨシズ様が共に狩ることを認めたことから貴方が実力者であると分かりますよ。あの方は実力がなければ手出しはさせませんからね。そこまで心配でしたら、複数人で行って下さい。同じように受けた他の方がいらっしゃいますので」


 最後だけは少し棘があった。怒らせただろうか……。ここら辺で納得するべきだな。

 この時、俺は受付嬢が『他の方』と単数系で言ったことに気付くべきだった……。


「分かった。それで行こう」


「分かりました。ギルドカードをお返しします。マチルダ様の工房は4条第1ブロックです」


 ここで少し説明すると、この世界ではほとんどの町、都は計画都市であり、縦横の大通りで区切られている。横の通りを入り口(正門)の方から1条、2条と数える。また、入り口から見て左手の最奥から○条第1ブロックと数えていく。この町は4条までしかないが、王都にもなると、多いところでは12条まであるところも見られる。


 早速マチルダさんの工房へ向かう。依頼内容からして、急ぐべきだろうな。



 *******



 たまたま歩いていた人に聞いてマチルダさんの工房の位置を特定する。4条第1ブロックだけだと、ブロック自体が大きく、中にも小道があるため、大まか過ぎて分からないのだ。


「すみません。マチルダさんの工房ですか」


「あいよ! ……ジニア、出ておくれ!」


 ……今、ものすごく聞き覚えのある名前が聞こえたな。ジニアとは、あのジニアだろうか。


「遅れてすみません。ご用件は何でしょう。……って、シルヴァー? 依頼を受けて来たのですか?」


 出て来たのはやはり俺の知るジニアだった。俺を目に認めると多少驚いたみたいだが、すぐに依頼を受けて来たのだと合点して納得の声を上げた。


「ああ。だが、流石に俺一人はきついだろうということで、他の人と組むことになるのだが、いるか?」


「それは助かる。あの子は実力はあるんだけどね、戦闘方法から見るとちょっと不安があってね。まぁ、それはそうと、中へ来てくれ」


 ジニアの後を着いて行って俺は工房らしいところに着く。


「失礼します。依頼を受けたシルヴァーと言います」


「おや、礼儀正しい冒険者もいるもんだね」


 マチルダさんは作業の手を止めずに言う。少し皮肉のスパイスがかかっていた。この人がジニアの言っていた老婆様なのだろう。


「「シルヴァー……?」」


 俺が見覚えがある二人がともに俺の名前を反復した。


「あ、シルヴァー兄ちゃん」


 すぐに正気に戻ったのはつい先程会ったばかりのゼノンである。そのあとぼけっとしていたもう一人、クランチも我に返る。


「シルヴァーが受けてくれたなら安心だな。ゼノンと組んで行って来てくれ」


 クランチはそう言って急かす。


「待て待て、ゼノンもこれを受けたんだよな。ソロで行動しているのか? 若いからパーティを組んでいるものだと思っていたが」


「ソロだよ。俺、小さいから戦力にならないと思われているんだよね」


 つまり、俺とゼノンのタッグであの危険な森に挑むことになると言うことか。一人よりはマシだろうが。……そう言えば、受付嬢は他の方としか言っていなかったな。やられた……。


 さて、一体どうなるだろうか。



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