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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
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エルフの住居攻防戦4


 俺達はアルに加勢する。それぞれがフォーチュンバードから得た装備に変更していた。ちなみに、ニットーさんのものは蛇をモチーフにした装備らしい。防具の方は急所をカバーするだけらしいが、魔力を流すことで全身を防御することが出来るらしい。彼の武器は蛇が絡みついた意匠の槍だ。


「観念しろっ! カルミア!」


「くっ……負けるわけにはいかないのよっ! 【アイスランス】」


「させません、ねえさま」


 グルルゥ《噛み砕くっ》


 俺とニットーさん、ヨシズにアル、ロウはエルフに近付き、各々の武器で攻撃する。しかし、彼女は魔法と武術を上手く使ってそれら全てをいなしている。彼女は自由意志を持つことを許されているようだから出来れば改心して降参して欲しいのだが、戦いの合間に降参しろと言ってもその気配はなかった。氷の槍を放ってくるが、実体のあるものはアリアが弓で無効化し、アルも言葉通り噛み砕いている。


 こちらが致命傷を与えることを躊躇っているせいで戦いは膠着状態に陥っていた。


「何故お前達はエルフの王に背いたんだ!」


「っ、そんなの、わたくしが王になるために決まっているでしょう!!」


「ねえさまは、次期女王をやくそくされていたはずです!」


 そう、カルミアは次期女王になることを約束されていた。王になるためという理由は些かおかしい物となる。


「うるさいっ! アリアっ。あなたがいるからわたくしの女王としての治世が危ぶまれていたのよ! お前のせいでっ!!」


「……そんな、はずは……」


 アリアの矢を射る手が止まる。


「お父様もっ! お母様もっ! 期待を寄せていたのはあなたの方だったわ! 私を蔑ろにする奴らなんていなくなってしまえ! 妹なんていらなかった! あなたなんか、生まれなければ良かった!」


 彼女も相当な力を持っているようだが、潜在能力はアリアの方が高かった。おそらく、次期女王としてカルミアを指名したはいいが、アリアの方が期待できる存在だったのではないだろうか。それが両親の態度に出てしまったのだろう。


 カルミアが背いたのは両親に反発してのことだろうか? だが、何か違和感がある。


「なら、どうしてアリアに危害を加えなかった? お前達がそうなった(・・・・・)とき、アリアはまだお前に対して無防備だったはずだ。アリアを恨んでいるならばその時点で攻撃しなかったのは何故だ?」


 ニットーさんが冷静に問う。彼は何を明らかにしようとしているのか。


「ふん。じわじわといたぶってやろうと思っていたからに決まっているじゃない」


「……ちがうっ! ねえさまは、そんなことをおもうひとじゃない!」


 アリアが涙声で叫ぶ。しかし、あの子は気を失っていたから知らないだろうが、カルミアはかなり残忍な性格だと思う。ラヴィさんをいたぶって殺そうとしたあれは残酷な化物だ。


「お前にわたくしの何が分かるというの。わたくしは心の底ではずっと罵っていたわ。目障りなのよ。消えなさい、【トルネード】」


「え……きゃああああっ」


 カルミアが放った魔法はアリアを捕らえるとその体を巻き上げ窓の外へと吹き飛ばしてしまった。風の魔法だったから止めることもできなかった。


「モズ! アリアを頼むっ!」


 ニットーさんがどこかへ向けて指示を出す。その口から出た聞き覚えのある名前に俺達は驚く。それはカルミアも同じようで、両者とも戦いの手を止めることになった。ただ、ニットーさんだけは気を緩めず、そのままカルミアに槍を突き付ける。それに合わせてラヴィさんが捕縛魔法を待機させた。


「動けば槍がお前を貫く。さぁ、全てを教えてもらおうか」



 *******



 カルミアは槍を突き付けられて考えた。もうこれ以上は逃げられそうもない、と。そこで観念するかというと、そうはしなかった。


「全て? お前達が知っていることが全てよ」


「それでもいい。初めから話せ」


「無礼な羽虫ね。愚か者が、わたくしにそのような態度を取ったことを公開させてやるわ」


「アルフレートから概要を聞いてある程度の推測は立ててある。しらばっくれようとも無駄だ。お前は……」


 最後だけはささやくように告げてきた。まさしくその通りなので父王には敵わないと思った。よく娘を見ている。溜息を吐きつつ目を瞑る。全てを秘めて事を進めるか、話して巻き込んでしまうか。カルミアの中にあったのはこの二択だった。


「……まさか。けれど、気が変わったわ。話してあげましょう」


 あくまでも傲慢に、『毒花のカルミア』を意識する。


「わたくしは王となるために誰にも負けない力を求めて一人の学者をここへ招待した。彼女の研究は自然を冒涜する物だったから、父にはバレないように匿った。あるとき、その研究者は実験を成功させた。エルフと魔獣を融合させることに成功したのよ」


 わたくしは王族としての誇りを捨てる決意をした。


「まずは、わたくしの騎士に。次にわたくしの侍女に、そしてわたくしに。力を求めてわたくしの元に集まった者達にも施術してもらったわ。彼女によれば最高傑作だというのがこのわたくし。魔法の力も強まり、身体能力も驚くほど高くなったわ」


 力を手に入れた。けれど、力に飲み込まれるわけにはいかなかった。


「ふふっ……力を手に入れてわたくしは早速目障りな者達を追い出すことに決めた。わたくしが王となる場に必要ないもの。ただ……そこで邪魔が入った。『博士』が実験用に残しておくように頼んできたのよ。だからわたくしは一部を牢に閉じ込めた。もっとも、わたくしとしては出て行ってもらった方が助かるから見張りも甘くしておいたのだけどね」


 わたくしの計画が遅れる原因の一端だった。


「案の定、邪魔者は居なくなってくれたわね」


 ニットーと呼ばれている男は何の感情も浮かべない。後ろの者達は嫌悪感を出しているというのに。もしかして、本当にわたくしの理由がバレているのではないだろうか、と少し焦る。


「それはちゃうやろ、カルミア姫さん」


 奇妙な話し方の鳥人族の男性がアリアを小脇に抱きつつ舞い降りた。見覚えはある。


「お前は……モズ。その男の方についていたのね。この、裏切り者が」


「あー、まぁ、実際どういう立場か分からなくなっとりまっけど……」


 頬をかきつつ悪びれない様子に苛立つ。この男にだけは行動の理由がバレてしまっていたのだ。たまたま二人きりで会ったときに直球で聞かれて思わず動揺し、口止めを命じた。ある意味自分からバラしてしまったようなものか。


「そちらにつくがいいわ。どうせ、アリアの方が人望があるのよ」


「カルミア、誤魔化そうとするな。アリアから聞いてお前が悪人だとは思えなくなっている」


「彼等はそうは思っていないようだけど」


「彼等は『博士』の被害者だから仕方ない。話をそらすな」


 まったく。大人しく話を聞いていたと思ったのに。わたくしが悪人ではない? まさか。少なくともわたくしは従兄弟とはとこをこの手にかけたわ。


「……はぁ、わたくしが完全に善人とは言えないわ。魔獣と融合したせいで時折記憶がなくなるの。後から聞いた話だと、そのときのわたくしは理性のかけらも無かったそうよ」


「だが、殺人は犯していてもそれは犯罪者相手にだろう。お前の従兄弟とはとこを除いてな。まぁ、そいつ等も悪人一歩手前のようだったが……」


 一体どこまで知っているのだろうか。


「なぁ、ニットーさん。この人がこんな行動をした理由は結局何か分かっているのか?」


 虎人族の男がニットーに聞いていた。


「さてな。そこまでは分からない。カルミア、教えてもらえるか」


「エルフではないあなた達には関係のないことよ」


「では、おねえさま。アリアにはおしえてくれるのですね」


「アリア……目が覚めたのね。揚げ足を取られたかしら……はぁ、簡単に言うと宰相一派を滅ぼすためよ。お父様なら知っているでしょう。……ゲイル! フィル!」


 わたくしの合図に合わせて強化エルフになってからはファイ、カイと呼ばれるようになった騎士が飛び込んできた。これで『毒花カルミア』の最後の戦いに向かうことが出来る。木に残っている人が予定より妙に多くなってしまったが、運が良ければ生き残ってくれる。


「さぁ、仕上げといきましょう。……皆さん、ちゃんと生き残ってくださいね」


 十分ほど動けなくする魔法を彼等にかけてわたくしは最後の仕上げを行いに『博士』の部屋へと向かう。博士はわたくし達が危害を加えることを恐れていくつかの門番を仕込んでいる。実際、それらはわたくし達の反乱を抑えるだけの力がある。しかし、身を賭して向かうわたくし達を押さえることは出来ない。


 エルフ達を追い出したのは全てこのためだった。博士に向けた攻撃できっと神樹は倒れてしまう。それに巻き込まれないように無理矢理追い出した。鳥人族もモズに誘導させた。


 目標はのんきに部屋で研究しているだろう。けれど、あのような自然に反する研究はその存在すらも許してはいけない。全てを無に返させてもらう。


「ゲイル、フィル、ブラン、クリフ……ベニタ、カミラ、デラ。わたくしのために、死んでもらうわ」


「「「「我らが命は好きにお使いください」」」」


 騎士達が跪く。


「「「私達の命はカルミア様に捧げます」」」


 侍女達も礼をする。


「ありがとう……では、行きましょうか。最後の戦いに」


 彼等には辛い思いをさせてしまうわ。けれど、今更元に戻ることは出来ない。

 強すぎる力は精神をも蝕む。そして、わたくし達にはもう時間がない。


 精々華々しく散りましょう。



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