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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
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エルフの住居攻防戦2

先に謝っておきます。血生臭い話でごめんなさい。


 ゼノンが俺達の気配を全力で遮蔽してから、追っ手らしき存在はこちらの気配を見失ってしまったようだった。ラヴィさんがそれを感じ取った。


「……私達を探しているみたい。逆に言えば今いるところは補足されていないわ」


「……不幸中の幸い、か」


「……シル兄ちゃん、入り口が近いよ。でも、本当に行っても大丈夫?」


「……命の保証はないが……もはや後に退けないだろう」


 どちらかというと進んだ方が危険だと思うが、逃げるために下がるのもまた大変だと思う。俺の勘は進むべきだとささやいている。


「行くぞ」



 *******



 巨木の住居に入ってすぐに俺達は思わず足を止めてしまった。入ってすぐに目に入るのはとても広い空間だ。そして、その中央におそらく天辺まで続いているだろう一本の棒とそれの周りには螺旋階段がある。この螺旋階段を上って上に向かうようだ。階段はこの広間の天井に開いている穴の向こうに続いている。先は見通せないが、外から見たあの巨木の様子を思い出せばこの階段ははるか高くまであるのかもしれない。


「すげぇな。エルフってのは」


「まだ決まったわけではないだろうが」


「そう言うなよ、シルヴァー」


「でも、この螺旋階段は不思議ですよ。真ん中の棒と繋がっているわけでもないのにちゃんと階段になっています」


 魔法的な力が働いているのだろうか。俺は何も感じられないが……。


「ノンビリしている暇はないな。追っ手が来るだろう」


「上るのか?」


 表情を陰らせてヨシズが聞いてきた。気持ちは分かるがな。


「逆に上らないでどうしろと? 今戻っても追っ手と鉢合わせするだけだろう。まぁ、上下から奇襲をかけられたら詰みそうではあるが、一連の事件の黒幕を仕留めるならば行かなくてはならないぞ」


 ここまできたら覚悟を決めて行くしかない。死にたくないから全力で攻撃は防いで、敵は滅する勢いで。


「悪いな。冒険者としてはオレの方が長いのに」


「気にするな。本当に死ぬかもしれない相手に突撃する覚悟を決めることなどそうないだろう」


「それにしちゃあ、不安を表に出していたのはオレだけだったじゃねぇか……」


 軽口を言い合うのもこれくらいで止めておこう。今は攻撃を警戒しつつ階段を上ることだけを考えろ。


 シルヴァー達はすぐに広間を抜けた。少し暗闇を上った先は赤絨毯の部屋だった。


「やけに高級感のある絨毯だな……」


「エルフだからかな?」


「いや、エルフ関係あるのか?」


「さあ?」


 俺なんかはその部屋を見た感想はそんなものだったが、ラヴィさんやロウは別の所を見て顔を青くしていた。それに気付いて俺も視線をたどってみると、その原因が分かった。


「……悪趣味な」


 部屋の最奥だった。そこには人を磔にする器具があった。そして、その下にはそうして(・・・・)死んだのであろう人骨も積み重なっていた。


「あれはエルフか? それとも、人か」


「エルフじゃないかな。耳のところが普通の人の骨よりも少し飛び出ている」


「どういう組織関係なんだろうな。エルフは完全には向こうに従っていないのか……滅ぼされたのか」


「そもそもエルフが存在しているのかというところから分からなかったんだけどね」


「この骨は普通の人のものとするには不自然なところがあるんだろう?」


「まぁね。いる、と断定は出来ないよ」


「だろうな。とりあえず、先へ急ぐぞ。ここの研究者なら知っているかもしれないからな」


 俺達はまた階段を上り始める。次の部屋は牢獄が置かれていた。大半は空だったが、奥の方には捕らわれている人がいた。


「ニットーさん!?」


 ヨシズがそう言うのだからこの人がニットーさんという人なのだろう。行方不明になって相当経っているが、そこまで消耗していないように見える。彼は鋭い視線をこちらに向ける。


「何者だ」


「オレは、ヨシズ。で、こいつらはオレのパーティメンバーだ」


「……確か、ジズールとヨランダの息子がそんな名前だったな」


「オレはそのジズールとヨランダの息子で間違いないぜ」


「あいつ等の息子は邪神側についた、ということか?」


 力なく言われたその言葉にヨシズは強い怒りを感じた。自分の両親は邪神側の手によって命を奪われた。それを知っているのにそちら側につくわけがない。


「まさか。オレ達はニットーさんを探しに来たんだよっ! あんたの娘に頼まれてな」


 怒りで我を忘れかけていたヨシズの肩をシルヴァーは掴み、落ち着くように言う。


「ヨシズ。あまり大きい声を出すな。気付かれる」


「……悪い、シルヴァー」


「ゼノン、この牢を開けられるか?」


「お前達は、一体……」


「ニットーさん、でいいか? ヨシズの言う通り、俺達は帝都のギルドを代行しているあなたの娘に頼まれて探していた。ここに来るまでの過程は後で話す。とりあえず、逃げられる状態にしないと」


「それは、助かる。恐らくだが、私以外は皆死んでしまっただろう。可能ならば、彼等の仇を討ちたい。力を貸してくれないだろうか」


 やはり、そうだろうな。ほんの僅かな人影しかなかったことからも予想はついていた。


「……難しいな。俺達はここにいる戦力を把握していない。もし、エルフが向こうについていたらこちらは死ぬしかなくなるぞ? まぁ、全てのエルフが敵対しているとは限らないようだが」


 俺の視線の先にはニットーさんの影に隠れるようにしながらも好奇心からか頭をちょこんと出している女の子がいた。彼女の容姿は恐ろしいほど整っていて、耳が実にエルフだった。


 実在、していたんだな……。エルフがどうなっているのか。それが鍵なのだが、良く分からなくなってしまった気がする。


 ニットーさんは俺達の視線に気付いたようで、ちらりと自分の背後を見るような素振りをする。


「この子はアリアというらしい。見ての通り、エルフだな。エルフの勢力は二分されている。カルミア率いる強化エルフ達とこのアリアの父アルフレート率いる長老軍にな」


「強化エルフというと……まさか……」


 俺は嫌な予感がしていた。『強化』とつけたその意味はあいつらが行っている研究を考えれば推測するのは容易だ。


 決定的な言葉を聞きたくなくて思わず言葉を濁してしまった俺とは違い、ロウははっきり言葉に出して聞いてしまった。


「魔獣などと融合したエルフ、という意味でしょうか」


「ああ、その通りだ。よく知っているな。強化エルフは身体能力が大幅に上がっている。中でも『最高傑作』と呼ばれている連中は魔法の腕も落ちていない」


 嘘だと思いたい。


「……でもね、カルミアねえさまたちはいちどきずつけられるとなおりがおそいのよ。くすりをつかっても」


 こちらをじっと見るだけだったアリアが話に加わった。捨て置けない情報だ。


「そうだな。騎士達が必死に見つけた事実だ。彼等は力が強くなった代わりに一度傷付けばそれがふさがるのに通常よりも時間が掛かるらしい。ポーションも効かないと愚痴を言っていた」


 そうか。どうしても倒さないとなったら長期戦に持ち込めばこちらが有利か。エグイ戦闘になりそうだな。


「あ、開いたよ」


「助かった。ああ、そうだ。鳥人族を見なかったか? 彼等は密かに抵抗しているんだ。出来れば彼等の力も借りて一気に制圧してしまいたい」


 鳥人族が味方の可能性? 裏切っていなかったというのか。


「さぁな。俺達は鳥人族は裏切ったとしか聞いていない。ここに来るまでに見たのは男が一人だけだ。派手な化け鳥を追いかけてきたらしいが……そういえば、妨害されはしなかったな。むしろ、俺に限って言えば助けてもらった」


 なるほど、鳥人族は裏切っていないかもしれないな。


「連絡はつけられそうにないか。仕方ない。とりあえず、私の武器を回収しなければ。ちょうどこの上が没収された武器が置かれている場所だ」


 俺達はニットーさんの先導で武器が置かれている部屋へ上った。その間に簡単な自己紹介をしておいた。

 その部屋には確かに多くの武器があった。だが、少しその種類は偏っているように見える。


「弓が多いね。もしかして、エルフの弓かな?」


「そうだ。カルミア達に抵抗した際に取り上げられていたな。彼等はどうなったのだろうな……。一時期下から悲鳴が響く日が続いていたが、何かされていたのだろうか」


 もしかして、あの骨は……


「牢屋の階の下の階には磔の器具があった。そして、その下には骨もな」


「あいつら……同じ種族だった者をっ。もしそうだとしたらもうカルミア達をエルフには見られない。化物だ」


 ニットーさんはアリアに聞こえないようにして毒づいた。


「おじちゃん、このゆみアリアがもらっていい? アリアもいくよ?」


 子どもらしい脈絡のなさだが、何を言いたいのかは分かる。


「それは……」


「たぶんはなれたほうがアリアがきけんだから」


 思った以上に聡明な考えをしているようだ。確かに、外で俺達を追いかけてきた奴がここを上ってきたらこんな小さい女の子では抵抗も出来ないだろう。こちらの危険も跳ね上がるが、見捨てるという選択肢を取らないのであれば連れて行かなくてはならない。


「アリア、悪いがカルミア達に手加減するような余裕はないぞ。辛い光景を見ることになるかもしれない」


「アリアはアリアのことをいちばんにかんがえるとやくそくしたから。おにいちゃんたちをカルミアねえさまはきずつけたのでしょう? ゆるすひつようはないし、もうあともどりはできないとしっているわ。かくごはきめています」


 幼子にしては異様に達観しているというか……子どもらしさがその舌足らずな話し方にしかない。


「あの、ニットーさん。この子、一体どういう子ですか?」


「アリアはエルフの王族らしい。この子が姉と呼んでいるカルミアもな」


 ここまでの話を考えると、カルミアというエルフが離反したのだろうか。確か強化エルフと対立していたのはアリアの父……つまりはエルフ達の王だろう。


「何にせよ、我々がしなくてはならないのは強化エルフ達の撃退……可能なら捕縛と、全ての元凶と言える『博士』の確保だな。もうこの際彼等の命は問わなくていいだろう。そんな余裕はないからな」


 ニットーさんが知る限りでは、どうやら牢の階から三階ほど上がったところにまた広間があるらしい。そこが強化エルフ達の待機場所になっているそうだ。最重要目標である『博士』はおそらくそれよりも上の階にいるのだろう。


「逃がせるだけのエルフは逃がした。鳥人族もほとんどは逃げているはずだ。正直に言うとアリアも連れて行ってもらいたかったんだが、外は外で厄介な魔獣が跋扈(ばっこ)しているだろう。なかなか連れ出せなかったんだ」


「……それで今最も危険な場所に連れて行かざるを得なくなっているのはどうなんだろうな」


「アリアはゆみのうではだれにもまけません」


 それが本当かどうかは本番で確認するしかないのが不安ではある。それでも、守り切るぞ、と意気込む。


 広間が近付いてきた。ラヴィさんによれば強い魔力を持った存在反応が広間には一つだけ、その奥に四つあるらしい。そのいずれもが強化エルフだとしたら俺達はどこまで攻撃できるだろうな。今更だが体が震えてくる。


 武者震いだと思っておこう。怖じ気ついていては力が出せないから。



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