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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
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森の捜索


 予定通り俺達は森に突入している。向かう方角は東だ。ヘヴンからの情報とケイトからの情報は共にこの方向に不自然な魔獣の塊があると言うことだったからな。実際にこの方向は魔獣が多い。


「そして、ある程度種族ごとにまとまっているのか」


「襲いかかってくるときはいろいろ混ざっていたよね」


「それは恐らくあのように合流するからでしょう」


 ロウの指さす方を見る。確かにピギー(豚)の群れにウルフが合流していた。もうこの時点でおかしい。分かるだろ。どうしてウルフとピギーが一緒に居られるんだ? 狼は豚を襲うものだろう。


「もうこれ確定でいいんじゃないかしら……」


「知られざるスタンピードの特性かもしれないが」


 ……ないな。流石にピギーとウルフの組み合わせはあり得ない。


「シル兄ちゃん、よく冗談言う余裕あるね」


 冗談だと断定されるレベルの意見か。まぁ、俺も即座にないと思ったからな。


「余裕があるわけではないぞ。流石に木の上だとな……」


 今、俺達は木の上にいる。そうでもしないと魔獣に見つかってしまうからだ。まぁ、ここは森。木が密集しているし、枝同士も近いから地面に足をつけずに移動することは可能だ。だが、この場所においてはものすごく緊張する。


 なぜか?


 それは、俺達の真下を魔獣の群がひしめき合っているからだ。ピギーとか目が凶悪になっている。あと、すごく飢えているように見える。ピギーとウルフが一緒に行動していて驚いた所以だな。でも、だからこそ俺達が危険だ。仮にへまして下に落ちたとしよう。あいつ等にとって俺は餌だ。まず間違いなく飲み込まれてぼろ雑巾、の未来だろう。


「そろそろ行かないか?」


「そうだな。ここでこの光景なら目的地は近いだろう。気が進まないが装備を変えておこう」


「流石に盾は出さなくていいよな?」


 木の上であの大盾を構えられるのか? 俺だったら重さと攻撃を受けたときの衝撃を受け流せずに落ちるな。


「ヨシズ。それで動けるのだったら出しておいていいと思うぞ」


「……冗談だ。あんな重たいもんを持ってこんな場所で立ち回るのは無理だ」


 だろうな。木から木へ、枝から枝へ飛び移っていく移動方法なんだ。重ければ重いほど枝が折れて下へサヨナラの可能性が高くなる。


「じゃあ、攻撃は出来るだけ避けてよ。何か、この蜘蛛の装備はステルス機能を全員に適用できるみたいだから」


「分かりました。話の流れからして攻撃を受けてしまうとそれが解除されるのでしょうか?」


「多分ね」


 やはり見た目を考えなければ高性能だよな。見た目を考えなければ。

 そう考えながら俺は枝を飛び移っていく。そこで、進行方向に危険なものを発見した。


「ゼノン! 気を付けろ!」


「何、兄ちゃん。何を見つけたの?」


「ブレードラビットだ!」


 あれらの近くに行ってしまうとまずい。いつ足場としている木が伐られるか分かったものじゃないからだ。しかし、例によってあの兎も群れている。


「本当かよ……本当だな……」


「巣作りでもないのに木を斬り倒しているわね」


「足場がなくなる前に突破しないとね」


「そうだな」


 ラヴィさんは装備のおかげで飛べるから足場がなくなっても何とかなる。だが、他は足場がないとぼろ雑巾だ。


「行くぞ」


 一番先頭はゼノンが行く。その後をロウ、ヨシズ。ラヴィさんはこの三人の近くを飛ぶ。で、最後に俺とアルだ。ちなみに今アルは小さい姿になって俺の頭の上にいる。結構揺れると思うが何とかなっている。というか、肉球に癒やされて俺が危ない。


 さて、そんな場合じゃなかったな。最後尾である俺は一番危険な所を行かなくてはならない。現に飛び移る予定の木がゆっくりと傾いている。ブレードラビットに斬られたのだろうな。で、俺の現在位置は空中だ。


 魔獣に踏まれて圧死は嫌だな。


「って、現実逃避していられないぞっ」


 倒れかけている木をさらに足場にして跳ぶ。どこかまだ斬られていない木に届けと祈りながら。


 俺の祈りは届いたのか、何とか斬られていない木にたどり着いた。だが、妙だ。蔓がひとりでに動いているように見えるのだが……。


「兄ちゃん、それトレントだよーっ! 頑張って!」


 まさかと思っていると、ものすごく他人事な応援が聞こえてきた。その言葉に俺は顔を青くする。


 トレント、だと……。


 ギギギッ……と顔を動かして木を見る。視界の端に蔓が襲いかかってくるのが映る。ご丁寧にも棘付きで。


「ふざけるなっ」


 もちろん全力で逃げたぞ。具体的にはとにかく上に向かった。別の木に飛び移るにしろ、枝まで行かないとどうにもならない。下は未だに魔獣がひしめき合っているからな。


 トレントと戦うときに気を付けなくてはならないのは魔法で攻撃するときだ。森の中だから火を使うのは御法度だ。水はあいつ等を回復させるだけだ。土で根っこを固めるという選択肢もあるが、これをやると異変に気付いたトレントが頭を振り回すから今の俺の状態でやるとキツイ。一番効果的なのは【ウィンドカッター】で切り倒すことだろう。


 ピシピシ蔓で打たれながらも俺は木を上っていく。そしてようやく他の木に移れる場所に来た。すぐさま枝を駆けて飛び移ろうとするが、ちょうどそのタイミングでトレントが身悶えして俺は足を滑らせてしまった。


 周囲が凍り付く。俺も血の気が引く。


 ぎりぎり、本当にぎりぎりで俺は地面に落ちる前に他の木に抱きつけた。だが、アルはそうはいかなかった。


「アルっ!」


 落ちる途中でアルの前足が俺から離れていったのを感じた。しかし、振り向くことも出来ない。俺だってそんな余裕はなかったのだ。


 慌てて首だけ後ろに向けるがアルの姿は魔獣の群れに飲み込まれたのか、見つからない。


「アルっ!」


 見つからない。あの目立つ白銀はどこにも見えなかった。


「……ゼノン!」


 彼等なら見ていたかもしれないと思い俺はゼノン達の名を呼ぶ。しかし、力なく首を振るだけだった。アルが落ちたのは皆見えていたらしい。しかし、そのあとどうなったのかはトレントが動いたらしく、影に遮られて見えなかったという。


「……くそっ!」


 いくら子狼の形だったとはいえ、アルは長い時を生きてきた狼だ。そう簡単に……抵抗する間も無くやられるとは思えなかった。しかし、現実はアルの姿はなく、魔獣の群れに飲み込まれてしまった線が濃厚だ。


「シル兄ちゃん、探せるものじゃないし、先に行こう」


「そう、だな……」


 流石の俺でも眼下の魔獣の海を蹴散らすことはできない。それに、探しても骨すら残っていない可能性もある。


「すまない、アル……」


 俺達は早く元凶を止めようとその場を後にする。もともと簡単にいくとは思っていなかった。俺達のメンバーに脱落者が出ることを覚悟していた。それでも、現実にそうなるとつらいものがある。


「……もう、徹底的に潰してやる」


 元凶を許しはしない。無慈悲にその全てを壊す。魔獣を自在に操り人々を恐怖に陥れようとするその研究は余すところなく闇に葬ってやる。


「シルヴァー。冷静にな」


「敵に容赦はいらないけど、怒りに我を忘れないようにね」


「そうですよ。奴らを許せないのは皆同じですから」


「一人で殴り込みにいかないでよ。ちゃんと援護するからさ」


 怒りを覚えているのは俺だけではなかった。ヨシズは白くなるほど強く拳を握っている。ラヴィさんは微笑んでいるが目が笑っていない。ロウは唇を噛み締めている。ゼノンは表情が抜け落ちていた。


 そうだ。ここにいる全員がアルの仲間だ。仇をとりたいと思っている。それに、この馬鹿げた規模の魔獣がルウスさん達が守るあの町に行かれては困る。



 しばらく無言で進み、とうとう敵の本拠地に近付いてきた実感がわく。ここに来るまでに森の木々は次第に大きくなっていた。魔獣も少なくなっているが、一匹一匹が強い個体になっている。これだけの魔獣がいるということは、もうすぐそこだ。


 そこは巨大な木をくりぬいて作られたようだった。

 シルヴァー達も高い木の上にいるが、それでもまだ見上げなくてはならないほど巨大な木だった。


「マジかよ……」


「これだけ大きければ森の外からも見えそうなのに、気付かなかったわね」


「何か誤魔化す術でも掛かっているんだろーね。そもそも、かなり霧がかっているから見えないのかも」


「あの……ここってエルフの住居じゃないですか? 僕も文献でしか知りませんが……」


 特徴が一致していた。


「エルフ? あの伝説のひきこもりの」


 ヨシズがひどい言いようで確認している。


「だとするとあの木は神樹で、今俺達が足場にしているのが神樹の子どもみたいな樹ということになるな」


「畏れ多くなってきたわ……」


 これは本当に危険かもしれない。エルフがあいつ等に与しているとしたら、こちらは魔法的に不利なのは確実だ。さらに、魔獣と融合していた場合、エルフであっても身体能力が跳ね上がる。接近戦もこなすだろう。


「エルフいるのだろうか」


「いないと良いよねぇ……」


 エルフは伝説の存在。少なくともここ数百年はその姿を確認されていないはず。いなかったらホッと安心するか少し残念に思うだろうが、いたらいたで恐ろしい。


 俺達は複雑な気持ちで巨木を見上げた。



 *******



 森の影に隠れていくつかの人影がシルヴァー達を見ていた。ゼノンにも気付かせないその隠密性は見事だと言えよう。彼等がそこまで隠れていられるのは彼等が隠密に特化した鳥族だからだ。


「ここまで来れるってことはなかなかの実力者だろうな、モズ」


「ルウスが寄越したんやろな。無駄死にせんとええが……」


「あの人数ではな」


「子供もいるしなぁ……弱そう……痛いっ……この!噛むな、犬っコロ」


「大人しくしてりゃ向こうで合流できるんやで」




 さて、一体どうなっているのか。人物相関図が欲しくなってくる。


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