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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
117/449

進展……?

 

「ゼノン、さっさと食べろ」


「むぐごごっ」


 ……ああ、首がしまっていて食べられないのか。気付かなかったな。

 パッと離すと突然だったからかゼノンはべしゃりと落ちた。滅多に見られないほど反応が鈍い。


「んぐっ……ひどいよシル兄ちゃん!」


「悪いな。ちょっとルウスに話したいことがあってな」


「ここのは純粋なスタンピードじゃないってこと?」


 流石にそこは気付いているか。


「そうだ。それともう一つ、クナッススでのあの組織のことも、だな」


 全ての情報をまとめて持っているというならば、俺達の持つ情報も出してその上でルウスからここでの話を聞いた方が良さそうだと思った。よく知らない土地はやはり調査しにくい。普段なら大量の情報を持つギルドの力を借りるのだが、ここはその肝心のギルドが機能していないからな。


「まさかっ!?」


「可能性はあるのではないかと思っている。魔獣を操る研究もしていたようだしな」


「そういえば一人逃していたっけ。そいつが研究成果を持ち出していたら」


 例え持ち出せていなかったとしてもどのように操るのか程度は理解しているだろう。みすみす逃したのが惜しいな……。


「とりあえず、ルウスさんを探すぞ」


 そのまま二人で歩く。たまにこちらに声をかけて料理を渡してくる人もいる。回収できた鳥は全てこの鳥鍋パーティに預けた。それを知っている人は俺が……俺達が功労者だと分かっているから好意的だ。


「鳥料理にもいろいろあるんだな」


「でも、怨念がこもっていそうなのはいらないよ」


 妙に丁寧に挽肉にされていたりとかな。良い笑顔だったのが余計に怖く感じる。


「なぁ、ルウスさんを知らないか?」


 目視では見つからないと悟り、食べながらそこら辺を歩いている奴に聞く。


「ルウスさん? そういえば見ないな。鳥鍋パーティには参加しているはずだけど」


 そりゃあそうだろうな。宿だって今日の夕食は鳥鍋パーティに出す物だけだと言っていたからな。


「あ、俺見かけたぜ。南門の近くに居た」


「南門? 何だってそんなところにいるんだ?」


「知るかよ」


「まぁ、助かった」


「おう」


 ということで俺とゼノンは南門の方へ向かう。この町の南門はもっとも魔獣が近付く門だと言える。例の森があるのがこの方向だからだ。そのため今あの辺りに住んでいる人は少ない。


「襲来がないかの確認でもしているのだろうか」


「どうだろうね。何か怪しいと思わない? 今日だってちゃんと見張りをする人がいるのに。わざわざ行く必要があるのかな?」


 そういうのは疑い出したら切りがないから程々にな。まぁ、確かに怪しいと思えば怪しいが、こう……気が緩んでいるところを注意しに向かったと思えばそうおかしくはないのではないか?


「いた。あれだな」


「ね、兄ちゃん、何をしているか聞いてみない?」


 ゼノンの得意分野だが、俺はそこまで得意じゃないぞ。


「大丈夫だって。俺の歩く通りに着いてきてくれればさ」


「分かった。へまするなよ」


「それ、シル兄ちゃんの方に言いたいなぁ」


 口調は軽いが、雰囲気は一変した。何気に本気モードを至近で見るのは初めてか?


「……か、帝都……なしと」


 途切れ途切れだが、声が聞こえてくる。だが、何を言っているかまでは分からない。もう少し近づきたいところだな。


(兄ちゃん! 落ち着いて!)


 急ぐ気持ちもダメか。注意力が弱まるからな……。ゼノンに注意されたので心を落ち着ける。そして、そのまま聞き耳を立てる。


「……よし、ちゃんとサイガへ届けてくれよ」


 サイガ、と言ったな……人名か? どこかで聞いたような気がするが、思い出せないな。

 とはいえ、ルウスが誰かと何らかのやりとりをしていることが分かったわけだ。これは怪しいよな。


「さて、そこに隠れているのは誰かな? 出てこい」


 なっ!? 気付かれていたのか? どうする……。

 ゼノンを見れば先に出てみてという合図があった。俺を囮にするつもりか?


「……悪いな、ルウス。俺だ」


「シルヴァー? へぇ、君は一体何を思って隠れていたんだい?」


 恐ろしいほど速い動きで俺の首元に剣を突き付けてきた。これが本当の戦いだったら死んでいたな。ルウスも化物級の実力者か。

 しかし、ゼノンのことは気付いていないのか? やはりこういうことに関しては俺は足を引っ張るしかできないようだな。


「不思議に思ったんだ。皆鳥鍋パーティーで浮かれているのに一人南門に行っていると聞いたからな」


「それで、事実か確かめに来たってわけかい? それだけじゃないだろう!」


 雰囲気が一変した。その気迫は凄まじく、切られるかと思ったほどだ。ま、切られることはなかったが。だが、俺はそこに疑問を持った。ルウスが敵方……魔獣の研究をしているあいつらに与しているならすぐに俺を殺しに来なかったのは何故だろうか。俺は少し思い違いをしていたのかもしれないな。


「ただ興味があった、それだけだ」


「信じられないね」


 そのとき、ゼノンが動いた気配があった。まずい、ルウスは予想以上に能力がある。気付かれるぞ!


「誰だ!」


 案の定、ルウスは気付いた。ゼノンの方を危険視したのか俺を放ってゼノンの気配の方へ斬りかかった。

 ガキンッと両者の武器がぶつかる音が響く。俺はこの隙に刀を出しておく。


「くっ……」


「人間? 君は確か……シルヴァーのパーティメンバーだったね。もしや、パーティ全員があいつ等の方についていたのかい? ここに来た最初から?」


「待って、どういうこと? 俺達は『あいつ等』ってのが良く分からないんだけど」


「しらばっくれるつもりかい? お前達は、魔獣の研究をして意図的にスタンピードを起こしているあいつ等側だろう? ニットーさんを探しているってのもどうせ嘘だろう? そう言っておけばこちらの警戒も薄れると分かってやっていたんだろうがっ!」


 これで分かった。ルウスはどちらかと言えば俺達側の人物だ。

 俺は出した刀を地面に転がす。カラン……という音にルウスもゼノンも視線をこちらに向ける。ルウスは懐疑的に、ゼノンは少し安堵した視線で。


「俺達は、違う」


「どういうことかな?」


「俺達がニットーさんを探しているのは本当だ。『あいつ等』の存在も知っている。だが、あいつ等側じゃない」


「信じられないね……流れの虎人族なのに?」


「流れの虎人族がどうかしたのか?」


 そういえば虎人族に会ったのはあの里が最後だな。戦闘民族的な性質からして南方諸国のこういった戦場はかなり魅力的だろうに。


「その反応は本当に知らないようだね……とりあえず、君達の事情を聞かせてもらえるかな。警戒はさせてもらうけどね」


 そこで俺は重要だと思えることを話していった。どうもこじれてしまったこの状況をどうにかしたい。


「なるほどね……ロウくんは被害者だったのか。虎人族にしては妙な色合いだと思っていたけど」


 ロウが混ざっているのはおそらくは虎系の魔獣か虎自体だろう。その色は濃い灰色といったところだ。ぱっと見では虎らしい模様は分からず、狼人族だと判断される。しかし、ルウスはロウが虎人族っぽいと見ていたようだ。


「こちらからも聞いてもいいか? ルウスと『あいつ等』との出来事、それと……流れの虎人族のことも」


「もちろん。嘘偽りなく話すよ」


 そうして話されたことに俺達は驚愕した。


 ルウスによると、スタンピードも初めは指揮者の存在はなかったらしい。しかし、南方諸国の連合から行方不明者がぽつぽつと出て、それと同時に指揮個体が現れていったのだと言う。ここで嫌な予感がしたそうだ。この一連の出来事には何か裏があるのではないか、と。


 そこでルウスは密かに調査を始めたらしい。親友のモズも快く手伝ってくれたという。しかし、事態は次第に悪くなっていった。


 まず異常が起こったのは虎人族だった。連合の依頼でやって来た者が突然居なくなるという事件が起こった。彼等は腕利きだったから一体何があったのかと連合は混乱していたらしい。ルウスも同様に思っていたが、幸運なことに調査のために張っていた網に一人の虎人族が引っかかった。


 彼が小脇に抱えていたのは犬人族の子どもだった。その場では誘拐未遂として捕まえ、人目が無いときに真意を聞きに行ったところ、件の『あいつ等』に誘われたという話を聞いたそうだ。ここでルウスはあの組織について知った。


 流れの虎人族は皆あちら側についてしまった。そうなると連合側は苦しくなるだろう。そう思ってルウスは帝都に最大戦力での助力を求めたそうだ。そのときに虎人族の里にも連絡し、物資の支援を頼んだという。人的な応援だと疑わずには居られなくなるからだ。


 少しして帝都からの応援がやって来た。数は思った以上に少なく、若干落胆したが、そのリーダーが化物だった。彼のおかげで連合側もだいぶ持ち直したらしい。しかし、彼もまた数人の実力者と共に行方不明になってしまった。


 また苦しくなる連合軍だが、そのときからスタンピードの規模が小さくなり始めたため、辛うじて戦線を保持できていた。驚いたことに、最初に俺達が参加したあの襲撃のレベルが行方不明者が頻発する前の日常だったらしい。


 しかし、さらなる苦難が連合軍に襲いかかった。何と、鳥人族のほとんどが『あいつ等』側についてしまったらしい。確かに先の戦闘でも鳥人族は比較的少なかった。だからこそ【鳥頭】を被った奴らの活躍が目立ったのだろう。それで、理由は鳥人族の里を人質に取られたからだという。仕方がない面もあったのだろう。ただ、最も困ったのはルウスの親友であるモズまで裏切ったことだった。自分が調査していることが向こうに知られたらきっと自分をつぶしに来る。そうなると連合はもうお終いだ。



「私は無茶が出来なくなってしまったんだ。もう誰を信じていいか分からなかった。でも、どうしたってこの国を見放したくは無かったんだ。祖国のために戦う人達を前にして諦めるなんて言えなかった」


「よくもまぁ、無事だったね」


 本当にな。あいつ等は敵と見なせばこちらを仕留めに来るぞ。自爆も厭わずにな。


「私も弱くはないからね。で、君達は信じても良いのかな?」


「それをこちらに聞いていいのか?」


「ハハッ。まぁ、信じるよ。彼のような被害者を連れているなら信じる価値がある」


「そうだ、ルウス。先程モズという人物が敵方に回ったことでこちらが調べていることがバレているのではないかと話していたな」


「そうだね」


「だが、それ以降確実にこちらを潰すレベルの襲来は無いんだろう? 少し前のは危なかったようだが」


「ああ、それがどうかしたか?」


「たぶんだが、情報は渡っていないぞ。もし情報が渡っていたらルウスは確実に敵とみなされる。だが、まだ生きているだろう。自爆特攻もされていない。だったらモズという奴から情報はバレていないはずだ」


「自爆特攻って……そんな危険な組織だったのか」


 ルウスの顔が少し明るくなった。親友が最悪の裏切りをしていない可能性が出てきたからだ。正直に言うと、例え人質がいるからと言っても絶対服従レベルで向こうに与する奴などいないだろう。誰が好き好んで世界の滅亡に手を貸すのだろうか。俺の希望も混ざっている意見だということは分かっている。だが、命の尊さを知りながらそれを奪う行為を簡単にできるものだとは思いたくない。


「シルヴァー。私は君達に協力するよ。今分かっている情報を出そう。だから……一人でも多くの命を救えるように頑張って欲しい」


 森へ、行って。



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