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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
115/450

vs. スタンピード2


 人が一杯いて芋洗い状態になっている中にいると、思うように動けなくてイライラすると思う。また、人によっては気分が悪くなることもあるだろう。


 そういうときは、どうする?


 さっさと人混みを抜けるか、その混雑を終わらせるかと考えはしないか?


 好き勝手できそうにないこの戦場において俺は決めた。


「とりあえず殲滅するか……」


 ボソッと呟いただけだったのに何故か俺の周囲に空間ができた。魔物まで後退るとはどういうことだ。そして、タイミングを見計らったかのようにカニ装備が飛び出してきた。大人しく着ることにする。逃げても追いかけてくるからな、この装備。


「んなっ!? お前、まさかドクロスーツの同類か!?」


 ……ドクロスーツ?


「呼ばれて飛び出て~……って、あれ? カニ装備ってまさか……」


「久しぶりだな、ドクロスーツ。お前一人か?」


 少し見回してもドクロスーツの姿は目の前の一人だけのように見える。だが、王都でドクロスーツの活躍が何回かあったらしいが、二、三人同時に現れたとかいう話が多い。今回も一人ってことはないと思う。


「分かってますね、シルヴァーさん。ドクロスーツは!」


「「「一人いれば十人いると思え! これぞ真理っ!」」」


 わらわらとドクロスーツを着た人が出てくる。

 どこから沸いてきたんだ、お前らは。

 まぁ、予想通りだったな。複数人で組んでいたか。


「実際、ドクロスーツは一番能力が高まるのが団体行動しているときなんすよね」


 ひょっこり俺の隣に一人現れたのだが……お前、何か違わないか? ドクロスーツじゃなくて……


「誰だ? というか、頭だけドクロなのか」


「あ、ドクロ仮面って者っす。ドクロ軍団のまとめ役っす。一人だけ違うのは無理な補修を頼んで失敗したからだというのは秘密っす」


 言っているがな。


「そうか……」


 あ、緊張が緩んでしまったな。そろそろ魔獣・魔物が正気に戻ってしまう。

 それに気づいたのは俺だけではなかった。ドクロ軍団がすぐさま突撃体勢をとる。


「ドクロ軍団よ! 我らが力を見せつけるっす!」


「「「雑魚キャラなんて、言わせないっ!」」」


 心の叫びだな。


 ガルルゥ《哀れみを誘う言葉だ》


 まさしく。


「アル、俺達も行くぞ。獲物が居なくなってしまう」


 俺はカニ装備、アルはサメ装備に変わっている。身体能力が上昇している今、多くの敵と戦うチャンスだ。逃すわけにはいかない。


「イロモノどもに負けてられっかよ! 俺等もアレを使うぞ!」


 南方諸国の戦士も気合いが入っている。何か妙なことを口走っていたようだが……『アレ』って何だろうな。


「総員、【鳥頭】装着! 飛べっ!」


「「「応っ」」」


 彼等が取り出して被ったのは帽子か? というか、【鳥頭】ってひどい名前だよな。


 あんなのが切り札なのだろうか?

 ……切り札みたいだな。


 帽子はおそらく鳥をモチーフにしている。被ると翼が生えるらしい。何とデタラメな。これは……あれだな、間違いなくフォーチュンバードから得たものだろう。出鱈目加減が俺達のものと共通している。


 犬人族が飛び上がる。

 猫人族が優雅に舞う。

 象人族が勢いよく踏み潰す。

 兎人族が跳ね上がる……羽無いな。自前の能力だったか。


 帽子を持っていたのはほとんどが獣人のようだな。つまり、南方諸国に住んでいる者達だ。ここでもフォーチュンバードの襲来があったのか。帝国ではなかったようだし、発生条件は相変わらず謎だな。


 っと、考え事をしていられる状況ではない。獲物が恐るべき勢いで減っていっている。飛べる彼等の攻撃は高低差分の威力が上乗せされているからだ。俺よりも比較的身体的に劣る犬人族でさえも楽々と倒している。


「俺も負けていられないな」


 見れば、恐ろしく目立つ神々しい虹色も戦場を走っている。ゼノンやロウも参戦したか。これはますます獲物の奪い合いになるな。


 弾き飛ばされたかしてちょうど俺の目の前に来たヒギーと視線を合わせる。ようこそ、肉。


 プ、プキュゥ?


 かわいく鳴いても無駄だぞ。魔獣は狩るのみ。慈悲はない。


 ブモォオオオ!


 覚悟を決めたか。だが遅い。解体してやる。



 *******



 戦闘を終えて祝勝会となっている。各々が自分の活躍を自慢気に話す。あの襲撃は本当に大規模なものだったのだろう。帝都でも大抵は二、三体と聞いていたからな。まぁ、俺達はああいった状況の方が慣れている気がするが。


「あ、シルヴァーさん。飲んでるっすか~?」


「ああ。美味しくいただいている」


 酔った様子で俺に話しかけてきた彼は誰だろうか、と考える。俺の名前を知っているのだから知り合いではあるのだろうが……。それに、少し特徴のあるしゃべりだよな。どこかで聞いた気はするのだが。


「それは良かったっす。シルヴァーさんが来てから皆競争意欲が湧いたみたいっす。助かりました~」


「そうか?」


「間違いないっすよ! お陰で早々に殲滅できて、死亡者も少数で済んでいるんすから」


 そう、少数であっても死亡者がいたようなのだ。まぁ、俺達が来る前のことらしいが。


「……ところで、お前は誰なのか聞いていいか? 知り合いではあると思うが、名前を思い出せなくてな」


「え~、何言ってるんすか? あれ、でも名乗った記憶は無いっすね? じゃあ、改めて、ロンドって言うっす。戦場ではドクロ仮面をやっているっす」


 そうだ、思い出したぞ。なるほど、ドクロ仮面な……ドクロ仮面……仮面なしで分かるわけがないだろう!


「そうだ、ロンド。お前はここに来て長いのか?」


「いや~、そんなに長くは無いっすね。何か知りたいことでもあるんすか?」


「ああ。ここにニットーさんという人が来たはずなんだ。その人の行方を探っていてな」


「ニットーさん……帝都のギルマスっすね。あの人が来ていたんすか。……初期からここに居るのは獣人の人達っす。そっちに聞けば分かりそうっすね」


 確かに、獣人の人達は元からここに住んでいたのだろうし、ニットーさんにも会っているかもしれないな。


「ええと……あ、いたいたルウスさん。シルヴァーさん、こちらはルウスさんって人で初期からここにいる人っす」


「お? ドクロ仮面か。何か用かな?」


「今はロンドって呼んで欲しいっす。あのですね、シルヴァーさんがニットーさんについて知りたいらしいんす。何か知っていることあるっすか?」


「ニットーさん? ああ、あの理不尽に強かった人か。結構前に行方不明になっているよね」


「三ヶ月くらい前らしいが、何か思い出せることがあるか?」


 何も手がかりがないと困る。しかし、経っている時間が時間だからな。状況が移ろいやすい戦場ではもう既に手がかりという手がかりが失われてしまっている可能性も考えなくてはならない。


「三ヶ月……もう、そんなに経っているのか……うん、あまり大した情報では無いだろうけど」


「構わない」



 *******



 ―――ニットーさん含む帝国からの正式な第一の応援がやってきて二週間ほど経った時だったかな。今日みたいな大規模な襲撃があったんだ。


「大変です! 森から続々と魔獣が……!」


「何だとっ! 出れる者は急ぎ対応せよ! 鳥人族は上空から偵察してくれ」


「了解しました!」


 帝国のやり方と俺達のやり方はかなり違っているところがあったから連携は無理だろうという判断で、それぞれの指揮系統があった。一応ニットーさんは全体指揮の立場として紹介されていたね。緊急時の判断は見事だった。あの時、最初はあの人の指揮で動いていた。けれど……


「ルウスの旦那っ。やべぇよ……魔獣が途切れる気配がないんや」


「モズ。それはマズいな……分断されないように目を配って居てくれっ」


「あいよ! とりあえず飛べる奴は全体の手助けをするように通達しまっせ」


「あ、ニットーさんにも伝えておいて。何か指示があったらまた連絡してくれ」


「あい、了解」


 これまでにないくらい大規模な襲撃だったから指揮系統も混乱していてね。とりあえず帝国はニットーさん、私達はそれまでやっていた通り……各部族の長を中心に動いていた。


 ただ、このやり方では全体を知る総司令官がいないから、混乱に拍車がかかってしまうことがあるんだよ。


 あのときは……突然帝国の兵が混乱し始めたんだったかな。そのすぐあとにモズがニットーさん不在……行方不明になっていることを突き止めた。


「旦那っ」


「モズ! 帝国兵はどうしたんだ!? 何故戻ってきている! まさか、ニットーさんに何かあったのか!?」


「よく分かっていねぇんやけど……姿が見付からねぇ。帝国兵の指揮を執れる人物がいなくなっちまっているんや!」


「何てことだ……! 魔獣はまだ続いているのか?」


「いや、そこは朗報でさぁ。魔獣の襲来は今いる分で終わりや。おそらくは」


「とりあえず士気を上げておかないとね……魔獣の追加はもうないそうだ! あと一歩、気張っていくぞ!」


「「「応!」」」


 そして、その場は収まった。ただ……


「おびただしい数の死体だな」


「恐らく、ここでかなりの数がやられたから森に逃げたやつらもいるはずや。ただ、ここまでのことができるのはニットーさんしか……」


「そうだな。一体何があったのか……」


 森の入り口にはおびただしい数の死体があった。モズによると、この辺りまで進撃していたのはニットーさん率いる帝国兵だったという。しかし、死体に残る癖を見る限り、三割ほどはニットーさんの手で倒されていた。


「あの人がそう簡単に後れを取るとは思えないけど」


「何が起こるか分からないのが戦場でっせ」


 ニットーさんの戦いの跡は残っていたけどニットーさん自身の情報は全く残っていなかった。死体も、遺品もね。ひょっとしたらまだ生きているのかもしれない。でも、それは……森の中ってことになってしまう。探しようが無いんだ。



 *******



「君はニットーさんを探しに行くつもりかい?」


「ああ。そういう依頼を受けてしまったからな」


 とりあえず一月は探さなくてはならない。しかし……魔獣は森から出てきたよな。で、ニットーさんが居るとすると、それも森だ。


 危険どころじゃない気がするな。


 まぁ、ここの魔獣襲来が単なる魔生物大発生(スタンピード)ではないことが分かれば少しは探しようがある。あまり歓迎できるものじゃないがな。



 どれだけ重くてもこれを装備すればあら不思議! 大空を舞うことが出来るんです!

 では、体験者の方にインタビューしてみましょう。象人族のマンモスさん。空を飛んでどう思いましたか?


「いやー、素晴らしいですよね。もともと我らが得意とする踏みつぶしも威力が増しまして。さらに機動力も。今までよりずっと活躍できましたよ」


 確かに戦場でもかなり貢献していましたね。空を飛ぶということはやはり戦いにおいて効果的なのでしょう。回答、ありがとうございました。


「はい、ありがとうございました」



 皆様、これを被れば誰もが戦場を舞い、活躍できます! いかがでしょうか、この【鳥頭】。今なら特訓セットもつきまして……


 ちなみにこの【鳥頭】、鳴くんです。お好みの鳥の鳴き声を手に入れられるのは今しかありません!









 ネタです。

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