ロータルガード6
「……まぁ、それはさておいて、どうせゴーレム狩りに行くなら、狩ったものをうちに持ってきてくれれば代金をまけてもいい。考えてみてくれ」
ファングの工房での仕事を終え、雑談ついでに俺達が午後にゴーレム討伐を考えていると話すとそのように言われた。だから俺は頭の中で算段をつける。
俺達の装備が何で作られているのかは知らないが、安くしてもらえるというならば稀少鉱石も使うのかもしれない。希少鉱石も狙うべきか? そうするとやはりそうとうな数を狩る必要があるな。
……と一抹の不安を抱いていたわけだが。いざ戦闘になったらそんな心配など吹き飛んでしまった。
「うふふふふふ……塵となりなさいっ!」
「いや、塵にされるのは困るから」
ロータルガードの近くには岩山があるのだが、ゴーレムはそこによく出没する。まぁ、森でも出てくるには出てくるが、効率的なのはやはり岩山である。それに、ここの住人が森に向かうことは滅多にないので依頼を出されることもない。
岩山に来た当初はラヴィさんも少し緊張していたようだった。しかし、ファングのところでラヴィさんが言ったこと…ゴーレムを丸焼きにして弱点を晒させるというそれを試してみたとき、驚くほど嵌まった。あまりにも簡単に倒せたから俺とラヴィさんは数秒くらい固まってしまったな。
それからだ。ラヴィさんがくるっt…人が変わったようにゴーレムを蹂躙しだしたのは。あの状態は何と言ったか…そう、マジックハッピーだな。
「あははははっ! 相手が悪かったわね!」
「……本当にな」
ラヴィさんがハイテンションで倒しまくるので俺がやることがほとんどない。まぁ、ゴーレムの解体だとかはやっているが、正直にいうとそれしかやることがない。俺が攻撃するために近付く前にラヴィさんの魔法で倒されているからな。
「【ファイアボール】! ……え!? 効いてないっ」
「ミスリルゴーレムだ! ラヴィ、下がれ!」
ミスリルは魔法が効きにくい。ゴーレムともなればその防御力と合わせて厄介きわまりない存在になる。ここは伝統的な方法が一番だろう。
ようやく俺の活躍を見せられるな!
ここまでで溜まった鬱憤を晴らそうと拳を握りキッとゴーレムに目を向ける。ミスリルゴーレムはその体に似合わない速さでこちらに飛び込んでくる。
定番のやり方はそれを避けながら各所に攻撃をして弱点を洗い出すのだ。ゴーレム系はその特徴から剣や槍は効きにくい。一番役立つのはハンマーなど打撃系の武器だな。だから定番のやり方においては俺の戦闘方法はベターなのだ。
今、だっ!
ドッガアアアン
高速で何かが飛んできてゴーレムを吹き飛ばした。
「……は?」
妙に体を固くした状態のまま俺は固まる。何が起こったのか分からなかった。どうも、俺が避けようとするのと同時に何かがゴーレムにぶつかっていったようだった。ミスリルゴーレムは十数メートルほど飛ばされている。その傍らに巨大なハンマーが落ちている。
なるほど、あれがぶつかったのか。あそこにある以上、ミスリルゴーレムとともに飛んでいったのだろうが、そうなると相当な勢いがあったということになる。一体何者が投げつけたのだろうか、と背後を見てその正体を知った。
「あー…っと、ごめんねっ。あ、ゴーレムに止め刺して!」
「あ、ああ。……ケイト…どうしてここにいるんだ?」
この場に新たに現れたのはケイトただ一人……いや、少し向こうから誰かが走ってきているな。もしかして、あれはゼノンか?
「ちょっとアダマンタイトが欲しくてねっ」
ちょっとアダマンタイトが欲しいとか、それだけでここまで来るか? まぁ、ケイトは戦闘種族と名高い魔人族だから戦えないわけではない…むしろ、ゴーレム相手には無双すらしそうだが。
「……そうか。で、あそこで走っているのは」
「ゼノンくんみたいね」
やはりそうか。ケイトはともかく、ゼノンまでここに来たのはなぜだろうか。シスターからの伝言関係だろうか?
「はあっ……ケイトさん、速すぎるよ!」
「いやぁ、ごめんね。アダマンタイトゴーレムは滅多に出てこないからさっ」
「だからって……あれ、シル兄ちゃん。ラヴィさんも。討伐依頼でも受けてきたの?」
今ようやくそれを聞くのか。ここまで俺のことが目に入っていなかった証拠だな。それだけ急いでいたのだろうが……だとすると、ケイトはどうして気配を感じさせずにここまで来たんだ?
「俺達はゴーレム討伐依頼を受けてきた。ついでに稀少鉱石を狙っていたんだが」
「あっ……じゃあ、あれはケイトさんが横槍を入れちゃったってこと」
「そうなるな」
せっかく俺が攻撃できるいい機会だったのに。
「えーと、シルヴァー達は何のために稀少鉱石が必要なのかなっ?」
「俺達の武器の修理代を安くすると言われたんだ。どうやら多少は稀少鉱石を使うらしい」
「えー……じゃあ、やっぱりファングも使うんだねっ! 実は、防具の方も稀少鉱石……ミスリルを加工したものとかが必要になりそうなんだよね。在庫はあるから心配はいらないけどねっ」
一瞬ヒヤリとした。ケイトのところでも必要だとしたら今日中に間に合わないところだったな。
「それなら……あれはケイトが持って行ってくれ」
仕留めたのはケイトで間違いないからな。惜しいと思うが、仕方が無い。
「じゃあ、もらっていくよ」
ケイトがミスリルゴーレムに掛かりきりになっている間も新しくゴーレムが襲ってくる。一体どこからわき出てくるのかと問いたい。
「きりがないな……というか、ケイトが来てから襲ってくるペースが上がっていないか?」
休憩できないほど頻繁に襲われている。流石にこれは異常だろう。
「私ってばゴーレムに人気だからっ……というのは冗談としても、全体的に見ても最近は遭遇が多いらしいよっ。冒険者は大変だよね」
「こっち見るなよ」
どこでも魔生物大発生を匂わせる状況になっているみたいだな。極めつけは南方諸国ってことか。
「この辺りの魔物が大発生したらまずいんじゃないか」
鉱業都市だからかなりの職人が住んでいる。魔物が町に入り込んだりしたら…職人だって戦えないわけじゃないから少しの間は何とかなるかもしれないが、長くは保たないだろう。
「まぁ、鉱業都市の囲いが頑丈だから大丈夫だと思うけどねっ」
それでも警戒はするべきだろうな。
「シルヴァーさん、何かものすごく魔力のあるモノが近付いているわ! 気を付けて!」
突然のラヴィさんの警告に俺達は警戒レベルを上げて対応する。
「シル兄ちゃん! 来るよ!」
細かいタイミングはゼノンが取る。
ゼノンの言葉を聞くと同時に視界にアダマンタイトの輝きを捉えた。
「速いっ! あと固すぎるっ!」
正面から受け止められないと悟り受け流そうとするが、骨がミシリと嫌な音を立てた。
「魔法は効くはずだよっ。ミスリルとは違ってねっ!」
あ、マズい。スイッチが……
やる気スイッチが入った音が聞こえた気がした。
「へぇ~。なるほど、アレには魔法が効くのね。良いことを聞いたわ☆」
次の瞬間、俺をかすめて魔法が飛んだ。俺の顔の真横を通り過ぎたのは巨大な火球だ。
「うあちぃっ!」
肌がピリピリする。今のは本当に危なかったと思う。
「……ラヴィさん……直線上に俺がいたことに気付かなかった訳じゃないだろう?」
これには流石の俺も頭にきた。冗談じゃ済まさないぞ。
「ええと……ごめんなさい」
真っ青になってシュンと謝る姿にラヴィさんがちゃんと反省していると分かった。俺も怒りを抑え込もうとする。
「次はない。もし相手が複数だったらおそらく俺は死んでいただろう。ラヴィさんのせいで隙を見せてしまったということでな」
「ごめんなさい……」
こういった事故は戦いの中ではままあることだと思う。だが、今回は本当にふざけて注意力も散漫になっているまま魔法を使っていたのだ。そんな流れでパーティメンバーが大怪我したり死んでしまったらものすごく苦しむことになると思う。下手すれば一生消えない傷になる。
幸いゴーレムが複数で襲いかかってくる状況じゃなかったから俺は生きている。取り返しの付かないことにはなっていないから、ラヴィさんには深く反省してもらって再発の防止に努めてもらわなくては。
「あ、シル兄ちゃん! 危ない!」
ゼノンの声に俺は顔を上げて反射的に振り向く。そう言えばラヴィさんの魔法はゴーレムを吹き飛ばしはしたが止めを刺すまでにはなっていなかった。
アダマンタイトゴーレムが俺に迫っていた。
「くっ」
避ける余裕がなかった俺はとっさに足を振り上げることだけは出来た。
アダマンタイトゴーレムは一瞬固まると先程のスピードが嘘のようにゆっくりと倒れ込んできた。
「ぐぇぇ」
その重量に押しつぶされて俺も地面に倒れる。変なうめき声が聞こえたが……気にしないことにした。
というか、倒したのか? そう思ってゴーレムの重みに耐えながら先程の自分の行動を思い出す。そして、一つの結論に行き当たった。弱点は、まさか……
俺が足を振り上げた先にあったのは人体の急所がある場所だ。……男の。
「嘘だろ……」
モノはついていないのだが、場所が場所だ。それに気付いて変に力が抜けてしまい、せっかく持ち上げた体が再びベシャッと地面にダイブすることになった。
そして何が起こったか分かった者達の爆笑が響き渡る。その口を捻ってやりたかったが、俺にはもう立ち上がる気力もなかった。




