ロータルガード5
昨日はゼノンがポカをやらかしたことを一通りからかって終わった。
さて、今日はどうしようか。ギルドへ行って依頼を受けようか。
朝早くに目が覚めてしまった俺は頭の回転が速くなるのを待ちながら予定を立てていた。いつもの通り雑務系を受けるか、討伐系を受けてゴーレム相手に肉弾戦か。どちらかというと後者の方が楽しそうだ。
「ふぁぁああ……もう起きていたんだ、シル兄ちゃん」
「たまたま目が覚めたからな。ゼノンは今日はどうする?」
「【流星】探しだよ……まったく、面倒な店だよ」
今日も探す羽目になったのはゼノンの自業自得だがな。
「俺は午前雑務、午後討伐にでもするか」
「この町は雑務系の依頼はキツイものが多いって噂だけど」
「鉱業都市だからな。力仕事が多いのではないか?」
どうしようか。俺は体力には自信があるからさっき考えたとおりに受けてみようか。
ギルドについて予定通りに依頼を受ける。今回はラヴィさんと一緒に行くことになっている。だからあまり難しいものは避けようと思っていたのだが……。
「シルヴァーさん、フラウの工房からの依頼があるわ」
「資材の搬入か。もしかしなくても俺達が持ってきたものだろうか」
「ああ、確か昨日ゼノン君がやってくれたっけ」
「そうだったのか? 気付かなかったな。まぁ、積み込んだのが少し減っているとは思ったが」
「ちょっと無頓着すぎない? あなた、リーダーなんだから……」
「今度から気を付けよう」
真面目な顔をしてそう言ったはいいがたぶんまた同じことをやりそうだな。
「じゃあ、この依頼を受けるか。一つだけで良いだろうか」
「誰かに聞けば? すみません」
そう言うが早いか、ラヴィさんはたまたま近くに居た男に聞いていた。俺達がいるのは雑務依頼が多く貼ってあるところだからこの男も雑務依頼を受けるのだろう。聞く相手としては適切だな。
「うん? なんだい、お嬢ちゃん」
「この町の雑務依頼はどういう風に受けていますか? 二つ三つ同時に受けられそうですか?」
「うーん……人に寄るが複数は難しいんじゃねぇか? 例えばそれはファングんトコの依頼だろ? あそこは町一の評判だから仕事も多くなる。前に見習い程度の奴が受けたとか言っていたが、昼過ぎまで掛かったらしいぜ。あんたがたがどれくらいの技量かは分からねぇが…そっちの兄ちゃんはともかくお嬢ちゃんは厳しいだろう」
「そうですか。それなら、一つだけにしておきます」
やはり他の町より仕事量が多くなりそうだ。覚悟して向かおう。
ということでファングの工房までやって来た。今度は表から入る。
「おや、一昨日ぶりだね。今日は何の用だい?」
「フラウさん。今日はここが出した依頼を受けてきたのだが、どうすればいい?」
「ああ、あれかい! ありがとね。助かるわぁ。とりあえず裏へ行ってくれるかい」
裏に行くと何故かファングがいた。彼はここの工房主だろうに、何をやっているのだろうか。
その疑問に気付いたのか、ファングは憮然とした感じに答えてくれた。
「……休憩だ」
どうして工房主が休憩で資材整理なぞしているのだろうか。
俺のその疑問を察したようにファングは言葉を追加した。
「……追い出された」
誰に?
「弟子たちにな。清掃作業をするらしい。俺は清掃すると色々壊すからな。鍋とかだったら壊しても俺が直すからいいだろうと思ったが、壊して直すにしても限度があると言われてな」
俺はその弟子の意見に賛成するな。確かにファングは鍛冶職人だから金属製のものなら直せるのだろうが、自分が壊したものを直すとか、微妙な気分だろう。というか、掃除していて鍋などを壊せるものなのか?
「……叩けば壊れる。自然の摂理だ」
「ねぇよ。何だ、その『叩けば直る』の類語みたいなのは。内容は真逆だが」
鍋は金属だぞ? 叩いただけで壊れたら困るだろ。
「……まぁ、それはそうと、お前達が依頼を受けてきた、で間違いないか?」
「ええ。資材整理の手伝いとあったわね」
「……そうだ。この山を崩して整理する。途中放棄はダメだ」
俺達は目の前の資材の山を見上げる。午前中に…いや、今日中に終わらせられる自信がない。
「どうしてこんなに資材があるんだ?」
「……もとは半分くらいだった。ここまでになったのはお前達が来てからだな」
そういえば帝都を出るときに馬車に積み込めないほど持たされていたな。仕方がないからアイテムボックスに突っ込んできたのだったか。あれは確か……ゼノンのアイテムボックスだったか。
「何ならゼノンに来させれば良かったかもな。それに正直に言うとさ、コレの原因の一端は俺達も担っているよな」
「……そう思うならとっとと手伝え」
どうものんびりしすぎたようだ。ファングに急かされる。
しばらく黙々と作業していたが、突然破壊音が響き渡った。音源を見ればそこにはのんびりとした動作ながら武器を鉄の塊にしているファングがいた。どうも目の焦点が合っていないような気がするな。
「おい、ファング! どうしたんだ!?」
「……?」
首を傾げて見せるので前を見ろと示してやる。ファングはその茫洋とした目を正面に向ける。そしてポツリと一言言う。
「……飽きた」
つまりは、何だ、ファングは究極の大雑把だということか? 飽きると人間雑になるが、それにしても限度がある。彼の弟子の苦労が分かるな。
俺は放っておくことにした。
「あら、稀少鉱を使った武具もあるわね」
「……どこの工房にもたまに混じっているが、ミスリルなど扱える職人はそうそういないから自然とここに集まってくる」
そうなのか。その言いようだとファングはミスリルを扱えるってことだな。腕がいいという評判は間違いないと再確認できた。
「ああ、そういえばミスリルで出来たメリケンサックがあったな。あまり使っていないから忘れていた」
「……ミスリルでメリケンサックだと? 使いどころが難しいだろう。誰だ、作ったのは」
「さあ? フォーチュンバードから出てきたやつだからな。それに、軽く使ってみたが、そこまで使いづらくは感じなかったぞ。拳全体をミスリルの効果がカバーしているようだったからな」
「……流石はフォーチュンバード製だな。人が何とかして引き出した効果のさらに上をいく。これだからあの鳥から出てきた武具が出回らないんだ」
どういうことだ? その疑問をラヴィさんが聞いてくれた。
「ファングさん、それはどういうことなの?」
「……鍛冶職人の間では有名なのだが、フォーチュンバード製の武具は世界一の効果を備えている。だからそれをばらして仕組みを理解できれば、そいつは世界一の技術を持つことになる」
ああ、何か分かった気がする。
「……フォーチュンバード製の武具は職人が技術欲しさに買い漁り、ばらしてダメにして世から消えてしまうのだ」
やはり、そんなことだろうと思ったよ。
そうして俺達が資材整理を終えたときは既に太陽は真上に昇っており……。
「結局昼まで掛かったか」
「次は討伐ね。ゴーレム系はあからさまな弱点がある残念さだからいつも以上のペースで狩れるかしら」
「ラヴィさん。普通はゴーレムの弱点を晒させることも難しいはずだが?」
弱点がある位置は額だったり、腕だったりと個体によって違うのだ。一度その場所に攻撃が当たれば以降は晒されたままになるから楽なものだが、そう簡単に見つかるとは思えない。道中にゴーレムと相対したのは俺とゼノンだが、一発で弱点に攻撃を当てることが出来たのはたったの1体だった。弱点を探すより殴った方が早いという結論に落ち着いたのだが……。
「あら、わざわざ探さなくても、攻撃魔法で丸焼きにすればいいじゃないの」
なるほど、確かにそうだ、と納得した。丸焼き、もしくはゴーレムの体全体を攻撃すれば自ずと弱点の位置も分かるようになるだろうな。何故気付かなかったのだろう。
「……そもそも普通はそんな物騒な発想をしないのではないか? ……冒険者と、言えども……」
恐る恐るといった感じにファングが言う。視線はラヴィさんを窺っているあたり、今の発言のまずさに気付いたのだろう。だが、もう遅い。俺も同感なのだが、口に出しはしない。何せ……
「あら、失礼ね」
般若の笑顔を浮かべたラヴィさんがそこにいたからだ。思わず直立不動になってしまう。