ロータルガード3
宿を出て俺は町を散策する。ロータルガードは鉱業都市なだけあって鍛冶産業が盛んだ。そして、ここの職人は誰もが良い腕をしていると評判である。だが、その中でも俺達が依頼したファングは特に腕が良いらしい。町の人の話を聞いて分かった。フラウが町一の工房だと誇るだけあったのだ。
散策していると、今まで行った町とは異なるところがちらほらと目に付く。この町は食堂通りのような通りはないようなのだ。食堂など、料理屋はどこも工房の間にあったり、飛び飛びに店を構えている。職人が中心の町だからだろうか。食事に向かう時間さえも惜しんでのことかもしれない。
「おや、兄さん見ない顔だねっ! 旅人かい?」
そうして散歩していると人のよさげな男が話しかけてきた。肌が浅黒いから魔人族かもしれない。こんな職人の町にも魔人族がいるのだな。俺の知っている知識だと魔人族は魔の森の番人のような存在で戦闘能力に秀でている種族だということくらいだから知らないことの方が多い。魔人族と言えども手先の器用な人も居るのだろうな。
「冒険者だ。旅人というと少し違う気がするな」
「へぇ! 冒険者なんだ。……もしかして、南方諸国に向かっている?」
「何故そこで声を潜めるんだ? ……まぁ、確かに南方へ向かっている。依頼を受けたからな」
「えっとねー。この町からも南方へ向かった人はかなり居るんだけど、一部以外は戻ってきていないからちょっと面倒事に巻き込まれてしまうかもしれないんだよねっ。実際私もある人の安否を知りたくてここに来たし」
俺達が南方諸国に向かうと知られたら、家族の安否を確かめて欲しいと言われ続ける羽目になるかもしれないということだろうな。それにいちいち応えていたらきりが無いし本当に安否を確認したとしてもここまで聞いた話の通りの状態だったら死亡死亡死亡……ばかりの可能性が高い。そうなるとこちらの精神が壊れそうだ。
「忠告感謝する。ああそうだ、俺はシルヴァーという」
「ああ、私はケイトだよっ。見ての通り魔人族で一応魔道具師を名乗っているよ」
瞬間、俺は凍り付いた。まさか、店を探すより先に本人に遭遇するとは思いもしなかったからだ。
「どうしたの、シルヴァー」
「あ、ああ……ええと、俺達が探していた相手に出会ったものだから驚いていたんだ」
「君、私を探していたのかい? ……もしかして、アーリマ公国から来た?」
アーリマ公国は五大公が分割統治している国で、魔の森の入り口がある。そこの住人はほとんどが目の前の彼のように魔人族だ。自分を探していたと聞いてすぐに故郷であろう国をだすとは、この男は追われてでもいるのだろうか? 少し心配になる。
「いや、クナッススからだ。それと、探すように頼まれたのは俺の仲間のゼノンで、メンヒルの教会のシスターからだそうだぞ」
「メンヒル……クナッスス王国の?」
「そうだな。クナッススの王都からだいぶ北西方向に行ったところにある町だ」
「行ったことがないからよく分からないんだけどねっ」
それならどうして説明させた。いや、勝手に説明したのは俺の方か。
「とりあえず、詳しい話を聞きたいところだけど君は内容を知らないんだよね?」
「そうだな。それとは別口で話……というか、依頼があるんだが」
ただ、これも俺以外にも関係しているからな……。
「そっか。じゃあ、一応私の店に行こうかっ」
俺はケイトについていく。ケイトの店は俺が歩いていた通りを少し行った路地裏にあった。
「……シル兄さん……この人は誰ですか? あと、どうやって僕を拉致したんですか!?」
「悪いな、ロウ。この人はケイトだ。ゼノンが探していた相手で俺達の防具のメンテが出来そうな魔道具師らしい」
ケイトについていく途中でロウを見かけたので通り様に拐ってみた。俺だけだとケイトのテンションについていけなくなってポカやらかしそうだったからだ。ロウならしっかりしているし、頼りになる。
「ここが私の店だよ。【流星】へようこそ! って、あれ? いつの間に同行者が増えたのかな、君」
「こいつはロウと言って俺の仲間だ。ついさっき捕獲した」
「へぇ。じゃあ、君が交渉事担当なのかなっ」
「そうですね。パーティの中では僕が一番得意でしょうから」
察しが良くて助かる。あと、このケイトの言い方だと……俺は交渉事に向いてないと思っていたのだろうな。確かに交渉事は苦手だが……。
「ま、ともかく、依頼の内容を聞こうかなっ」
ケイトに促されて俺はシオマネキ装備を出す。何度見てもこれを着るのが嫌になる見た目だと思う。カニのはさみ(兜にある)もシオマネキだからか大きさが極端に違っていてアンバランスさがある。
「これ、なんだが……フォーチュンバードを倒した際に手に入れてな」
「くくくくっ……あははははっ! カニっ! 奇抜さがいいよっ」
職人にとってこういった物はツボにはまる物なのだろうか。俺が出したシオマネキ装備を見て爆笑された。毎回俺だけ笑われているようであまり良い気分にならない。
「まぁ、笑いますよね……戦闘中でもふとすると笑いそうになりますから」
「おーい、ケイト。大丈夫か?」
ケイトは笑いすぎて突っ伏してしまっていた。余程ツボにはまったのか。
「くくくっ。だ、大丈夫だよ……コホンッ。笑わせてもらったよ。これ、魔道具だね」
「そのようだ。南方に行く前にメンテナンス出来れば良いと思っていてな」
「うーん……ファングのところにはもう行った?」
「ああ。だが、この防具の方は修復できないと言われたんだ。魔道具師なら出来るかもしれないと言われたが……ケイトでも出来ないか?」
「いや、大丈夫だよ。ファングのところの方が信頼できるだろうと思ってね」
「えっと、ケイトさん。実は、同じような装備があと五つあるのですが、それらの分もお願いできますか?」
「わぉ。あと五つも似たようなのがあるの!? うーん……大丈夫だとは思うけど納期がねぇ……ただ、このシオマネキ装備? はそこまで損傷していないからすぐだよっ」
「それなら他も同じくらいの損傷率のはずです」
そういえば、ロウはアイテムボックスを使えなかったのだったか? だとすると今トカゲ装備を出すことはできないな。
「それなら私が頑張れば一週間くらいで終われるかもしれないね。君達、今依頼したい物を持ってこれるかい?」
「難しいですね。メンバーのほとんどが町の散策に出てしまいましたから、合流はやはり夜になります」
「そっか-。じゃあ、夜にまた全員でこの店においでよ。そこで正式に依頼として引き受けよう! 今日のところはここに店を構えているから安心してねっ」
今日のところはと言う辺り、やはり【オモテ】のような移動型? の店なんだな。もしかして、受け取りの時も町中を探す羽目になるのだろうか。まぁ、後のことは後で考えておけば良い。
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「見つけたぁ!?」
「ど、どうやって? いや、偶然なんだよね」
夕食を食べる頃には全員集まったので俺はケイトを見つけたことを伝えた。案の定ヨシズとゼノンは吹き出す勢いで驚いてくれた。飲み物を口に含むタイミングで仕掛けたかいがあった。
「町を歩いているときにたまたま話しかけて来たのがケイトだった。そのままゼノンが探していたことを教えて、ついでに依頼もあると言ったら店に連れて行ってくれてな」
「その途中で僕がシル兄さんにさらわれましたね」
「そうだな。ケイトが意外にテンション高かったから、俺じゃのまれてろくな交渉が出来そうにないと判断してな」
「はー、そういうタイプの店主か……たいていは面倒くさい性格してんだよな」
まぁ、故郷であるはずの公国と何かあるようではあったな。性格は……どうなんだろうな。テンションが高いことしか分からなかったな。
「ともかく、夕飯を食べ終えてからケイトの店に向かうから」
「了解」
どうやらヨシズはケイトの性格について警戒心を持ってしまったらしい。俺としてはそこまで警戒するほどの人物では無いと思うのだがな。