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虎は旅する  作者: しまもよう
ヒコナ帝国編
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ロータルガード1


 ロータルガードの利用許可(の情報が入ったギルドカード)を手に入れ、いつでも出発できる状態になった。それをメンバーに告げると皆ギョッとしてこちらを振り向いた。爆弾だと分かっているようで何よりだ。


「うそ……じゃないんだな?」


「ああ。5年の利用許可と間違いなく言っていた。危険すぎる(主に俺達が)と言ったが聞き入れてもらえなくてな」


「狙われるぞ……」


「ですが、群がってくる冒険者は僕たちよりも弱い方が多いのではないですか?」


 まぁ、そうだな。俺達よりも強い冒険者ならそもそも利用許可を欲しがる必要も無いだろう。問題は盗賊とか未熟な冒険者からのつきまといだろうな。特に今の俺達は大した実績(広範囲に知られている実績)がないから侮られやすく、こういったことへの対処法も慣れていないから揚げ足を取られるかもしれない。


「弱い冒険者が相手だとしても数が多くなる。それが続くと流石の俺も切れるかもしれない」


「何にせよ、面倒になるってことだよね。ロータルガードに着けば嫌でも知られちゃうだろうし」


 そうなんだよな。……あれ? 考えれば考えるほど自分が厄介ごとの種を持ち込んだようにしか思えないな。


「まぁ、過ぎたことは仕方ないです。ロータルガードには無事に入れることに喜んでおきましょう」



 *******



 ハタの町を出てロータルガードに向かう。町で集めた噂によると南方諸国は予想以上に厳しい状態にあるらしい。早々に魔獣を退けないとこの帝国も危ういだろう。


「どうか、ご無事で」


 俺達の役割は武器と食料を確実に南方に届けることだ。道中で死ぬつもりはない。


 ロータルガードまではのんびり歩いても半日で着く。シルヴァー達は馬車なので半日かからずに着く予定だったが、何故か魔物に襲われ続けてだいぶ時間が掛かってしまった。


「このあたりはゴーレム系が多いのか」


「しかもアイアンゴーレムとかもいるよ。だからロータルガードは鉱業都市なんだね」


 鉱山に加えてゴーレムからも金属が得られるから鉱業都市として発展したのだろう。


「そろそろ着きますよー。シル兄さん、交代お願いします」


「分かった」


 御者は全員出来ないことはないがロウが一番慣れていることもあって、かなり任せてしまっている。最近では俺は門までの少しの距離しか御者をやっていない気がするな。


「利用許可がある者は右へ、ない者は左へ並んでくれ」


「俺達は右か」


「おや、お兄さんは利用許可をもらっているのかい」


「ああ。ハタの町でもらったものがある」


「ハタの町ねぇ……それなら実力のある冒険者なんだろうね」


「一応Bランクまで上げてあるから弱いとは言えないな」


 列に並ぶと近くに居たおばさんが話しかけてきた。列の進みが遅いから暇なのだろう。左の列よりは余程進みは早いのだが、俺達が並んでいる方もしっかり審査しているようで早いとは言えない。

 おばさんと話していて分かったのだが、今この都市に来る冒険者はほとんどが実力のある冒険者らしい。それはそうだろう。南方の戦闘に参加するのならば実力が無くては生き残れないだろうからな。


「なるほどねぇ。ここにはどれくらい滞在するんだい?」


「俺達の武具防具が大丈夫だと判断されるまでだな。特に盾はしっかり直しておきたい」


「そうさねぇ。南方へ行くなら武具防具は頑丈にしておかないとすぐにダメになっちまいそうだものねぇ」


「……そんなに状況は悪くなっているのか」


 おばさんの顔が悲しみの色を宿したのを見てそれほどまで南方諸国は厳しいのかと聞いてしまった。


「……悪いという評価以外を聞いたことがないねぇ。全体のリーダーが居なくなっちゃったからやはり大幅に戦力を削る羽目になっているらしいよ」


「そうか。なら、ニットーさんを先に探すべきか」


「あんた達、臨時ギルドマスターの行方を調べに来たのかい? 危険が跳ね上がるよっ」


 キーマンがニットーという人物ならばそうだろうな。この町の人もその人が居れば南方の問題も押し返せると言っているようだ。


「危険は知っているよ。でも、依頼だし、それが出来るだけの実力を向こうで示しちゃったから投げ出せもしないんだよ。おばさん」


 暇になったのかゼノンが外へ顔を出した。


「あれ、あなたみたいな若い子もいるのねぇ」


「成人しているけど……。それに、シル兄ちゃんが言ったと思うけど、俺達はBランクなの。心配してくれるのはありがたいけどもう引き受けた依頼を放棄することはないよ」


「立派な冒険者なんだねぇ。よし、この町に入ったら少し私についてきな。良いところを紹介してあげよう」


「へぇ。どういう場所?」


「ロータルガードで一番良いものを作ってくれる工房さ。どんな難物でもメンテしてくれるよ」


 それは助かるな。正直に言うと俺達が持っている武具……カニ装備などを見て直せるような人は居ないと思っている。それでも町一の工房なら可能性はあると思う。


「それは助かるね。でも、俺達のかなり特殊だから少し心配だけど」


「まぁ、せっかくの好意だ、甘えておこう」


「妙に心配になる会話だねぇ。どれだけ変なモノを持ち込むつもりだい? ……うちの人でもダメだったら潔く諦めるんだよ」


 そこでようやく順番が回ってきた。俺は門番にギルドカードを見せる。


「えっ!? 5年ものの利用許可!?」


「「「何だと!?」」」


 そして、まだ新人の門番だったのだろう。早速やらかしてくれた……! 


「わぁっ! ばかっ」


「あっちゃぁ~」


「いきなりこれか……」


「ちょっと動きにくくなるわねぇ」


「あんた達、意外と良いところの出なのかい?」


 そういうわけではない。あくまでもハタの町の領主の好意と期待によるものだ。そういったことを繰り返し説明して納得してもらったところでようやくロータルガードに入ることが出来た。無駄に疲れたし未だに冒険者らしき人達からの視線が痛い。


「う~ん。この様子だとその立派な馬車をうかつに放置できそうにないねぇ」


「いや、盗難防止に魔法陣を使っておけばそこまで心配する必要はないと思うが」


「独自に開発したものかい? 既製のものならこの町ではかえって危険だよ。どこにだって手癖の悪い奴はいるだろうけど、この町の場合はそういう奴でさえもかなりの技術力を誇るからね。使用方法は褒められたもんじゃないけどね……」


「既製モノも使うことはあるけどオリジナルも使うから大丈夫なんじゃないかな。念のため何重にも重ねておけば……」


「それが簡単に出来りゃ私達も苦労しないよ! 魔術陣(・・・)はそこまで万能じゃないんだ」


 魔術陣? 俺達が言っているのは魔法陣のことだぞ。


「何か食い違っているようだな。俺が言っているのは魔法陣のことだ。割と自由に使えるから重ね掛けも十分可能なんだ」


「魔法陣? 聞いたこともないさね」


「そうなのか? まぁ、俺達も詳しい仕組みについては教わっていないんだが、魔法陣は魔術陣と違って一回きりしか使えない陣だと言うことだろうか。掛けた人が死ぬか解くかしない限り効果は続くが一度でも解いてしまったらまた掛け直さなくてはならない」


「へぇ。魔術陣の劣化版ということかい?」


 最初はそう思うだろうな。だが、厳密には違う。それをゼノンが説明する。


「劣化版というのとはちょっと違うかな。持続性については魔術陣の方が軍配が上がるけど、魔法陣はその分バリエーションがあるんだよ」


「それはなんとなく分かるね。組み合わせが自由ならば基礎的な魔法陣がいくつあるかによって……いや、下手したらいくらでも作れるんじゃない?」


 流石、職人の町に生きる人だな。もうほとんど魔法陣の特徴をつかみかけているじゃないか。


「だから『魔法陣』なんですよ。何でもありの反則技です」


「それを自分で言うかねぇ。まぁ、分かったよ。ほとんど誰にも知られていない技術だということはね。それならこの町の破落戸どもも手を出さないだろうさ。……だって『魔法』なんだろう? 何でもありなんだろう? うかつに手を出したら手痛いしっぺ返しを受けそうじゃないか」


 よく分かっていらっしゃる。そして目をそらした者ども。聞き耳を立てていたな? リスクを思い知ることしか出来なかっただろうが。


「……ここは職人の町だからね。新しい技術には皆敏感なのさ。さぁ、着いたよ。ここがうちの工房だ。馬車は裏手へ停めてもらえるかい?」


 流石町一を誇る工房だ。全体的に大きい。ここならばアレのメンテも出来るかもしれない。



補足

魔術陣:魔道具などに刻んで使う。陣がかすれて消えない限りは使うことが出来る。


魔法陣:学院長のオリジナルで何でもあり。一回使うと新しく描かない限りは使えない。例えば『盗難防止の魔法陣』ならば術者が死亡もしくは解除しない限り効果が続くが、一度でも解いてしまうと効果は無くなる。『火玉の魔法陣』ならば一本のファイヤーボールを打って終了してしまう。だが、魔術陣では小規模の魔法を使えないから、そこを考えれば使い方次第で有用なものになるだろう。






と、設定しましたが深く考えると混乱してくるので面倒だと思ったらさらっと流してください。

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