虎人族の里2
「「「シルおじ……シル兄~」」」
こやつら……まだ俺をおじさん扱いするかっ!
朝早く、目覚めるか目覚めないかといった時間に突撃してくる小虎ども。毎回おじさん呼ばわりするから1度軽く締めたんだが、全く懲りていない。一応俺がギロリとにらむとすぐさま訂正するようにはなったがな。出会い頭に必ず『おじ』まで言いかけるのはたぶんわざとだろう。なめやがって……まぁ、そう強く叱りはしない俺も悪いとは思うが。
「まだ起きてねぇの?」
そう言って(確認もせず)棍棒を降り下ろしてくる。起きてるよっ!
一つは避けて二つは手で掴む。
ここまでがこの三日の朝の恒例になっている。
「おお~お見事ーっ!」
「お見事、じゃないっ! 寝起きに襲撃するな!」
怒ればわぁ~っと散っていく。全く、懲りていない。
「はぁ……」
後から知ったのだが、俺と魔物狩りの勝負をしなかった一人は村長さんの孫らしい。そして残りの二人は幼馴染みとしてちょくちょく遊びに来ているそうだ。だから勝手知ったるとばかりに侵入してくるのである。
……ちゃんとしつけろよ、大人ども。子供は宝だというのは分かる。しかし、なんでもかんでも許していちゃいけない。
*******
朝食を食べ終えたら俺達は虎人族の戦闘技術を学びに向かう。俺の場合は村長さんだ。この人、見た目は言い方は悪いがヨボヨボである。剣など握れなさそうなほどである。しかし、一度剣を持つとその印象は一変する。視線はより鋭くなり、足腰もしっかりしだす。人体の不思議を目の当たりにした気分である。
「なんじゃ、ちっとも腰が入っておらぬ! 昨日教えたことの実践も出来んのかっ!」
「やば……」
一週間という短い時間で双剣の技術を磨くのだ。必然的に実戦から学ぶ方式になった。そして、村長さんは意外に厳しい。思わずゼノンのような口調になってしまう。
「左が甘いぞっ! しっかり握っとれぃ!」
俺は右利きだから左の握力は右に劣る。しかし、そこまでの差はないと思うのだが、村長さんから見ると甘いらしい。
「左右のズレをなくすのじゃ。細かい技はそれからではないと意味がない」
一旦対戦を止めて村長さんが確認してくる。ここ数日でもっとも聞いている台詞だ。
「もちろん、了承している。しかし、左が甘いというのはただの握力の問題と言うわけでもなさそうだが?」
「そうじゃの。利き腕というものがあることの弊害じゃな。無意識に右腕を使う癖ができておる」
「無意識レベルでの修正か……面倒な」
確かに殴りかかる時も右からだった。攻撃は右からという癖がついているようだ。
「筋肉はしっかりついておるようだし……あとはどれだけ練習するかじゃな。ということでさっそく対戦じゃ」
ポンポンと俺の腕を叩いてそう言うと同時に目の前に剣を突き出してきた。危ねぇ。そしてそのまま戦闘に突入。
虎人族ってかなりの戦闘民族なんだと悟った。
午後は俺は教える側になる。俺が教えるのは普通の水魔法と雷魔法だ。魔法の理論については初日にラヴィさんが教えたそうだ。だから基本的なことは皆分かっているはず。だが、これだけで使えるようになるわけがない。もし、使えたならばそいつは天才だろう。まぁ、案の定、理論だけで使えるようになったやつはいない。これは予想通りだ。俺達は予定通り手分けして教えることになった。ちなみに、魔法を使えそうだったのは里の中でも五割に満たない。意外と少なかった。
「なあなあ、もっと派手な奴はねーの?」
簡単なものから教えていたら子虎の一人が近寄ってきた。派手なと言われても水は攻撃性は微妙だ。しかし、雷はどうだろうか。そこそこ派手な攻撃が出来ると思う。
「雷は派手だろ」
「でも俺使えないもん! 水でさ、もっとこう……ズバッと攻撃できたりとかないの?」
ああ、こいつは得意属性に偏りがあったやつか。
「水は俺も補助に使っていたからな。攻撃性があって派手なのはあまり思い浮かばないな」
「ええ~。役に立たねぇじゃん」
「そんなことはないぞ。水は他の魔法の補助が出来る特別な属性だ。まぁ、火は除いてだが。確かお前は水の適性が強いが雷も使えないわけではなかっただろ。組み合わせ次第で化けると思うぞ」
魔力操作が完璧になればもっと応用で遊べると思う。そう言えば俺は出来るようになっているのだろうか。
「……ちょっとやってみるか」
「「「なにやるの-?」」」
「見てのお楽しみだが……出来るか分からないから少し待ってろ」
今から俺がやろうとしているのは水と雷の魔法を合わせることだ。それで派手な見た目になるようにすると……俺の想像力では雷をまとった水竜しか浮かばない。まぁ、派手という条件は満たすからいいだろう。
俺はシミュレーションしてみる。感覚では出来ると思った。よし、一度やってみるか。子どもだけでなく大人も飽きてきているみたいだからな。一つ派手なの見せてやる気を戻そう。
「【水雷】」
本当は『竜』を含めた方が形にしやすいのだが、そうすると初心者には厳しくなる。魔力量的な意味で。だから水と雷を用意してそれを魔力で竜の形につなげる。バチバチと音を立てる雷を身にまとった水竜が現れた。予想以上に威圧感がある。
これはこれで難しいかもしれないな。かなりの力業だし。……だが頑張れば誰でも出来るはずだ。たぶん。
「「うおぉーー! すげぇ! すげぇよ、シル兄!」」
「「わぁ……」」
「「「これは……」」」
子虎どもがようやく正しく俺を呼んだな。するとやはり朝のおじさん呼びはわざとだってことになるが……今は置いておくか。
一度で成功してよかったな。もし失敗したら俺の立つ瀬がなくなるところだった。
「これは初級の魔力しか使ってないからおそらくは誰でも使えるはずだ。ちょっと強引な魔法だが、習得できればかなりのスキルアップを見込めるぞ」
その俺の言葉に皆やる気を出したようで、気合いの入り方が凄まじかった。だが、俺は一から十まで教えることはしない。これは自分で感覚を掴むのが大切だからだ。そして、自分達で工夫するようになったため『異なる属性の魔力を合わせる』と言う感覚をつかみ始めたやつも出てきている。だが失敗も多く、皆がびしょ濡れのなか雷を落とされたときは焦ったな。俺もヤバかった。もちろん、麻痺から回復したあと皆で叱った。
*******
……というようなことが今日はあった。とパーティメンバーに伝える。夕飯を食べ終わったあとのこの時間は互いにその日の出来事や学んだことを教え合うことに使っている。
「シル兄ちゃん……それ、かなり大変じゃ」
「水雷竜みたいにすると初心者でまだ魔力量の調整もできない彼等じゃ使えないと思ったからだぞ。あれなら水と雷の魔法を使えれば修練次第で何とか使えるようになるはずだが」
「それはそうかもしれないが、その修練というのがキツいだろ。まぁ、確かに習得できりゃいろいろスキルアップが見込めるが」
では魔法の専門家、ラヴィさんはどう思っているのか。
「う~ん……一概に悪いとも言えないのよね。やる気につながるなら良いと思うし。確かに難易度は高めだけど出来るようになった際に得られるものを考えるとねぇ」
「異なる属性の魔力を合わせることを知ったから工夫次第で化けると思うぞ」
「なるほど。完璧に教えることが出来ない代わりに発想を制限されない方法にしたってことだね」
うむ……本当はそこまで深く考えてはいなかったのだが、ここで言うのは野暮か。
そんな感じで一週間、魔法を教える代わりに俺は双剣、ゼノンは弓、ヨシズは体術、ロウは武術全般を虎人族の里の人々から学んで過ごした。ちなみにアルは放流。この周辺で起こっていた異変を解決していたらしい。まぁ、例によって魔物の異常発生だったようだ。帝国においても魔獣・魔物がおかしくなり始めているようだな。変なことに巻き込まれないと良いが……。




