ドルメン9 マルバツテスト?
ギルドの受け付けロビーに着くとそこは不気味な冒険者達の溜まり場となっていた。
あ、売却カウンターでは特に何かあることもなく、ピギーの討伐証明部位を提出し、十二体を売ることが出来た。まあ、その数には驚かれたがな。
さて、目を戻してもその先には怪しげな集団と化している冒険者しか見えない。何かをやり遂げたような感じで汗を拭う仕草をしている人もいれば、黒いオーラをまとって笑っている人もいる。うち何人かは俺に向けてドヤ顔をしてくる。いったい何なんだ。
「フフフフフ……ってシルヴァー。やっと来たか。さっそく……この紙の設問に答えてくれ」
と、渡して来た五枚には裏表びっしりと常識について書かれている。これを書き切ったならそりゃあやり切った感があるよなぁ。ようやくあのドヤ顔に納得がいった。
とりあえず、やってみよう。
1『王国周辺にいる魔獣はソロで狩るには最低でもCランク相当の実力が必要である』
なんだこれ……本当のことなら俺が思うより大分平均した実力が低いんじゃないか?
「何を驚いているんだ? とりあえず合っていると思うものにはマル、違うと思うものにはバツを書いてくれ。今日のところはそれでいいにしてやる」
「今日のところは……。まさか、明日も何かやるのか?」
「それは明日のお楽しみってな。」
何かあるんだろうな……。
1『王国周辺にいる魔獣はソロで狩るには最低でもCランク相当の実力が必要である』…○
これだけは帰る寸前のヨシズに聞いた。本当の事だそうだ。
2『王国周辺の魔獣は家畜化が可能なものが多い』…○
ピギーやカウがその代表だな。初めに着いた村の人たちが教えてくれた。
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(魔獣関連の問題が続く)
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15『冒険者からギルド職員になるにはBランク以上の実力が必要である』
ここでギルド関連の問題か……。本当に一体何問あるんだ?
アンさんはBランクだ。全員が全員Bランクである必要があるだろうか?
これはバツだな。
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50『魔力を持っているのは特殊種族及び先天的に持っている人のみである』…○
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多分、魔道具が作られた背景の一つにはこれが有るのではないだろうか。確かヘヴンも魔法を使えない人のために魔道具を作ったと言っていた。
さて、全て解き終わったし、そろそろ宿へ戻ろうか。ちょうど夕方だし、シュトゥルムにピギーを渡さないと。
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【ネコ居つく亭】前
「少し遅れたか。すまないな」
「いや、こちらも今来たところだよ」
寒々しく感じるが、何処かのカップルの様な会話をしたのはシュトゥルムのリーダーと俺の二人である。
「マルバツは付け終わったんだね。回収を頼まれているから出してくれるかい?」
「五枚もあるとは思っていなかったぞ。実に骨の折れる作業だった……」
「あははは。五枚も作っていたんだね。お疲れ。そうそう、ピギーはここの主人に渡してくれ。話はついているはずだ」
「分かった」
俺は厨房へと向かう。そこでは、ここの主人が待ち構えていた。
「ピギー二頭あるんだろう? 出せ」
一歩間違えれば恐喝と受け取られかねないセリフを言い放ったが、この場にいる皆は気にも留めない。良くも悪くも慣れている。俺も同じく、何かリアクションを起こすでもなく普通に特に大きかったピギーを出した。
「おお!」
主人ことラハムが声を上げる。その驚きの声に釣られてくつろいでいた皆が目を向け、続いた言葉に顎を落とすことになる。
「こりゃあピギーの上位種だな。キングまではいってないはずだが」
「「「……上位種……」」」
この町に滞在、もしくは住んでいる冒険者は基本的にピギーを狩るのにもしもの事を考えて二、三人でかかるのが普通である。そして、上位種ともなれば、対策がないなら即座に逃げろと言われる代物で、ギルドも報告があれば直ぐに討伐の準備に入る。
だが、上位種など滅多に見られるものではないため皆疑いの目を向けるが、見てみれば、なるほど。普通のピギーより大分大きい。
きっと戦闘に夢中で気づかなかったのか、直ぐアイテムボックスに入れて分からなかったんだな。……いや、気付けよ!
全員が脳内でツッコミを入れる。
「おい、ラリュルミュス。どうするんだ、これ」
今だ固まっているシュトゥルムリーダーに声をかけるグランド。幸いにも、ラリュルミュスの再起動は早かった。
「グランド、悪いがギルドへ報告に行ってくれ。後、ミール、【猫追うネズミ亭】へひとっ飛び頼む。俺は衛兵に伝えてくる」
グランド、ミール、ラリュルミュスはそれぞれ話を伝えに行った。その速さは俺が声をかける間も無かったほどだ。
「えーっと、ラハム。俺のせいで一仕事することになったあいつらにもこれで先に何か作っておいてくれ」
そう言ってもう一つ普通の大きさのピギーを出す。特大ピギーは騒ぎになったが、こちらは騒ぎになる様な大きさではないはずだ。
「自覚は有ったのか。後で謝っておけよ。こう言うことは放っておくとロクなことにならないからな。ああ、そこの上位種のピギーは触るなよ。多分この後ギルド職員が来るはずだからな」
「ラハムの旦那! 俺らの分はあるか?」
図々しいことに、冒険者の一人が声を上げる。おこぼれにあずかろうと言う腹づもりか。
「知らん。シュトゥルムに聞いてこい。むしろ、取ってこい」
だが、ここでバッサリ切るのがここの主人だ。さらりとえげつないことを言う。
「冗談だろ……。今からだと魔獣の昼夜切り替えにぶつかるぞ。俺に死ねと?」
「冗談だ。そもそも狩の許可が出ないだろうが」
「ハハハ。早くても明日だろうな。……上位種の情報が出たんだからまた討伐依頼の報酬が上がるかな」
「そうだろうねぇ」
「げっ女将! いつから……」
「今来たばかりだよ。あの人に騒がしさを何とかしといてくれと言われてね。『そこ! あまり騒ぐと夕飯抜きだよ!』」
女将の夕飯抜き宣言は地味に効く。以前騒ぎすぎて宿のテーブルを壊した奴等がいたそうだが、その時は夕飯と朝食抜きになり、午前の時間を使ってテーブルの修理に駆り出されたため、収入はいつもより大幅に減ってそいつ等は自らの行動を心の底から悔やむことになったそうな。
「何はともあれ、また皆が討伐依頼に流れてしまうと雑務依頼が滞るんだよ。何とかならないかねぇ」
そう言いながら女将が向ける視線は間違いなく俺をロックオンしている。討伐も雑務も程々に受けているシルヴァーは女将からしてみれば、いや、町の人からすれば大変助かっている存在であることがよく分かる。
「……程々に受けるさ」
シルヴァーは苦笑しつつこう言うにとどまった。
「ハハハ。ありがたいことだね。でも、無理はしないでおくれよ」
話しているうちに宿には良い匂いが充満して来た。既に夕飯を済ませてしまった人達はまたお腹が空いてくるその攻撃から逃げる様に自分の部屋へ戻って行く。
これから食べるメンバーはそれを温かい目で見送る。自分があの立場でなくて良かったと思いながら……。
「フゥ〜! やっと説明終わった!ああ、良い匂い。今すぐ食べたい! ……けど、私達の分はまだまだ職員さんが確認してからなのよねぇ。……ハァ」
そう言いながらこちらへ来て机に突っ伏したのはラリュルミュスがミールと呼んでいた女性だった。
「今匂いがしているのはラリュルミュスとグランド、そして貴女のために作ってもらっているから、出来上がればすぐ食べられるぞ」
「そうなの! ありがたいわ〜 あ、私のことはミールって呼んでくれればいいわ」
その時、ラリュルミュスとグランドが同じタイミングで宿へと入って来た。彼等もミールと同じようにお腹を空かせていたようだ。
「これ夕飯……な訳ないか」
この匂いの元が自分達の夕飯だったら…と思ったのだろう。恨めしげな視線を特大ピギーに向けていた。
「いや、「私達の分もあるそうよ」……ああ、その通りだ」
俺が答えるより先にミールが言った。これは、余程喜んでいてくれていると見て良いのだろうか。
「出来たぞ」
ラリュルミュスが返事を返そうとしたまさにその時、ラハムの声がかかった。
「おや、取りに行ってくるね。二人とも座ってなさい」
女将が食事カウンターへ向かう。ラリュルミュス、グランドの二人は席についた。
「はい、出来たてだから火傷に気を付けて食べな」
「 「頂きます!」」
ピギーの肉をたっぷり使った料理に俺とシュトゥルムのメンバーは舌鼓を打つ。俺がピギーを持って来るのを待っていたため、お腹は大分空いていたそうだ。そこに特大ピギーの騒ぎがあってラリュルミュス、グランド、ミールの三人がもう一仕事する羽目になった。そう思い出して、改めて申し訳なさが浮かんで俺は三人に礼を言う。
「いやいや、どういたしまして。あの場では俺達が一番動けたから動いただけさ。このピギー料理に加えて確認後の上位種のピギーもくれるんだって? これはむしろ俺達が感謝するべきこと。申し訳ないなんて思うことないからね?」
俺が申し訳なく思っていることはラリュルミュスにはバレていたらしい。
「そう言ってくれるなら、気にしないようにしよう」
「ひまは食事をたのひみまひょ(今は食事を楽しみましょ)」
ミール……。料理を口に入れながら喋るから微妙に締めって感じが薄れているぞ。
こうして、夜は更けて行った。




