閑話休題、とあるスラムの店にて
今回はひときわ短いです。すんまそん。
Side,???
―――遂にあのエドガーがくたばったよ。
ある日、客の一人がニヤニヤとした顔で私にそんな事を話した。
とてもどうでも良い話だと思った。その話が本当だろうが本当でなかろうが、どちらにせよ私は元より彼の生き死にに関してはまるで興味がなかったからだ。
ただ、彼が死んだとしたらこの店に彼がツケていた代金は果たして誰が払うのだろうかだとか、これからあのスラムの子供達を一体誰がまとめていってくれるのだろうかだとか。そんな事を考えてしまい、少し表情がキツくなってしまっていたらしい。
そんな私の顔を見た客が、明らかに何かを履き違えている事が分かる下品な笑い声をあげた。馬鹿な客だ。誰があんな男に好き好んで抱かれていたというのか。
今まで彼と体を重ねた回数はもはや数える事も億劫な程であったが、その今までの行為の中で一度たりとも私は彼に愛情と呼べるものを抱いた事はなかったし、それは彼も同じだった事であろう。
彼は私を体の良い性処理の道具として扱い、私もそれを受け入れるしかなかった。ただそれだけの事だった、私と彼の関係はただそれだけの、ただただそういう物だったのだ。
しかし、周りの人間は私と彼をまるで好き合っている恋人の様に扱った。
それは恐らく彼が私以外の女を決して抱かず、私も彼以外の男には決して抱かれようとはしなかった事が原因だったのであろう。
彼は愚かではあったけど馬鹿ではなかった。素性の分らないそこらの女を抱いて性病を移されるより、私という一人だけを相手に性欲を発散させていた方が安全で面倒も少ないと知っていただけだったのだ。だから私が他の男に抱かれる事を嫌っていたのも、私が他の男に無闇に触られる事さえ嫌っていたのも、きっと単純に、恐らくただそれだけの理由なのだ。そうに決まっている…そうに決まっているのだ。
目の前で未だ下品な笑みを浮かべ続けているこの客は、前からしつこく私に言い寄ってきていた男だった。これまではエドガーの存在を怖れ、露骨に口説いてくる事はなかったが、エドガーが死んだ事を知っていよいよ私を、今日こそ自分の物にしようという腹積もりなのだろう。本当に馬鹿な男だ。
男は続けて、まるで自分がエドガーを始末したかの様に傲慢な口調で話しを続けた。
―――何でもエドガーを倒したのはスラムの子供だったらしいぞ。それもまだほんの赤子だって話だ!今ではそいつがスラムのガキ共を仕切っているらしいぞ。はっはっは!飼い犬に手を噛まれるどころか喰い殺されちまうとは全くもって馬鹿な男だよ。
その話を聞いて、思わず私は手入れをしていた商品を落としそうになった。
…スラムの子供が、エドガーを殺した?
Side Out




