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妖使いのはがゆさ  作者: 雪月葉
巡る小ヘビと回る外道
21/30

巳の十七

 ピコン、ピコン、と音をあげるレーダーを片手に俺は走っていた。この方角からして真水の行こうとしている場所は明らかだ。そう、明らかなんだ。

「ってか、止まってるのはなんでなんだ?」

 さっきまでは元気いっぱいに動いていたってのに今はなぜか止まっていた。俺の頭にいやな予感が過ぎるが、頭を強く振ってそれを振り払う。

「なんにせよ、急いだ方がいいんじゃないか、これ?」

 走るスピードを気持ち一つ分くらい上げ、と同時になにかに躓いて顔面から地面に激突した。

「い、いはい……。誰だこんな所におっきな石の欠片置いたのは!! ……えっ?」

 うん、確かに石に足を取られた。それも結構大きなやつ。しかもそれだけじゃなく、道が所々ひび割れていて、まるで隕石でも降ってきたんじゃないかと思われるほどだ。

「これって、もしかして真水が? いやいやいや、流石に真水でもこんなことできないよな? ってーと……」

 学校で見せた彼女の力は確かに凄かったが、岩を砕くようなものではなかったはずだ。ほんの少し思考に耽り、考えが纏まらないうちに駆け出した。ぞわぞわとした感覚が背中をなで、すごくいやな予感がする。

 砕けた地面に足を取られながらも走り続け、ようやく見えた曲がり角を曲がり、

「マイスウィートハニーけーなさーん!! その豊満なお胸でぼくを窒息死させてー!!」

「現れるなりなにかましやがるか人類の敵ぃいいいいい!」

「愛が痛い!!」

 目に入ったふつくしい女性に大きく手を広げてダイブをしてみた。案の定消火器で殴られたけど。というか、どこから消火器を出したのだろうか。

「なんでてめぇがここにいやがる!?」

「ふっ、怒った顔も素敵ですよ、京奈さん。でも一番は、やっぱりベッドの上で見せてくれる乱れた表情ですかな」

「うわっ! 今ゾクってした! 濡れて寒いとかとは別に生理的嫌悪でゾクってした!」

「濡れ……? はっ! どうしたんですか京奈さん! そんな水浸しのすけすけで! これはあれですね? 合意と見てよろしいですねー!!」

「寄るんじゃねぇええええええ!!」

「ぞげぶ!!」

 今日も冴えてる消火器捌き。一秒間に五発もフルスイングした京奈さんはきっとプロ野球で活躍できる逸材だろう。

 それにしても、と俺はもう一度京奈さんをジッと見つめる。ピッタリと肌に吸い付いた白地のシャツ、そこから見えるうっすらと赤みがさした肌。そしてなによりあの大きな山の頂きにそびえるポッチ。ま、まさか……。

「ぐっ、まさか……着けて、いないのか?」

「な、なんなの? この蟻が肌を這いずったような気色悪さは……」

 体を隠すように腕を回すが、それが余計に俺の心を奮い立たせる。やっぱり羞恥心は良いものですな。いやまあ、現状では若干関係ないかなと思わなくもないけど。

 と、京奈さんを十分に眺めていると僅かに殺気を感じ、本能のままに飛びのいた。

「……。チッ」

「ちょっとぉおおお!? いきなりなにすんですかお義兄さん! って、なにその馬鹿でかいハンマーみたいなの!?」

「……気のせいだ」

「おもっきし舌打ちしてなおかつ凶器を隠そうともしないくせになんたる言い草!」

 間一髪だったのか、俺のいた場所は見事なクレーターができていて、そこにはメチャデカなハンマーっぽいものが存在感を醸し出している。こんなの喰らったらいくら俺だって死んでしまう。

 ……えっ? おまえ消火器でボカスカ殴られてただろうって? 

 ハッハッハッ、なにをおっしゃる。京奈さんと俺の間には熱~い愛があるんだぞ? そんな二人の愛を不粋な消火器ごときが突破出来るとでも思っているのだろうか。つまり俺たちのラブには何ものも邪魔出来ないのだ。

「ですよね、京奈さ――ラブが足りない!!」

「誰と誰にラブがあるって、この変態やろう!」

 俺をボカスカと消火器で容赦なく叩きまくる京奈さん。血が噴水のように出て頭がクラクラとする。そのまま意識が遠退くような感覚に……よーするに死ぬ一歩手前である。

「け、京奈さん……ストップ、マジで死にます……」

「ぁあ!? ならとっととくたばりやがれ!」

 最後にズバゴーン、とフルスイングして吹き飛ばすと、見下したように視線を向けてペッと唾を吐いた。それはそれでご褒美かもしれない。

「あ、愛がいたい……」

「てめぇ、また……!」

「京奈」

 京勝さんの一声で俺に突貫しようとしていた京奈さんがピタリと止まる。

「お、お兄様……ですが」

「…………」

「は、はい。申し訳ありません……」

 なにかを言おうとしていた京奈さんだったが、京勝さんの一睨みですぐに大人しくなった。

 そんな姿を見て、猛獣使い、という言葉が頭を掠めたのは、極自然なことだと思う。

「いやー、助かりましたよお義兄さん。いくら俺が愛に無限大でも物理的な手段はちょっと……いえ、京奈さんが俺を愛しているのは分かってますけど、俺は全世界の美女の味方ですからやっぱり……」

「だ、だれがてめぇのことを愛してるだぁ!?」

 俺の言葉にまたも憤怒の表情を見せる京奈さん。どこからともなく魔剣消火器を取り出し、またも一足飛びに――

「茶番は、いい」

 その寸前、割って入った京勝さんが京奈さんの肩を押さえて止めた。

「ま、またもや助けてくれるとは……これはお義兄さん公認とみてよろしいのですな!」

「なっ! そんな訳ありませんよね、お兄様!」

 心の中で舌打ちをし、京奈さんと一緒に詰め寄る。京勝さんは呆れたような表情で京奈さんを見つめ、次いで俺に視線を向けてつまらなそうに呟いた。

「……京奈。いつまでも、こいつの時間稼ぎにつき合う必要はない」

 その一言に、俺は凍りついた。

「時間稼ぎ? お兄様、どういうことですか?」

「時間稼ぎ? なに言ってるんですかお義兄さん。俺はただ愛のままに京奈さんを色々とよご……もとい、愛したいだけなのに!」

「今聞き捨てならないこと言いやがったなてめぇ! ってか、その二つは私からしたら変わらねぇ!」

「……初めて会った時から違和感を感じていた」

 おぉ、目の前で展開されている夫婦どつき漫才を無視してるぞ、この人。芸人根性からすると若干寂しいものがある。

「まるで私達の目的を最初から知っているような口ぶり、目的から遠ざけようとする動き。今考えれば全てがおかしかった」

 頭に言葉が入っていかない。驚き、というのもそうだろう。なぜなら……。

(すげぇ、あの京勝さんがこんなにたくさん喋ってる……)

 とまあ、そんなどうでもいいことを、だけど。

「あの、お兄様?」

 と、そこで控えめに京奈さんが小さく手を挙げた。その姿が堪らなく萌えたのは俺だけじゃないだろう。

「この男がそんな器用なこと出来るのでしょうか? この世の馬鹿と性犯罪者を統合したらこんな顔になりました、と言わんばかりのコレが?」

「おっとぉ、なんかすさまじくけなされた気がしたのはぼくの気のせいかな?」

「……確かに、この世全ての愚者と愚か者と衆愚を掛け合わせ、ついでとばかりに醜さをふりかけたらこうなったような奴だが、昔から言うだろう? 醜い豚は牙を隠す、と」

「なんか愚かって強調されてる! てか、どれだけ醜いのさ俺!?」

 と言うか、そんなことわざ聞いた事ないんですけど。京奈さん達がすごい勢いで俺を馬鹿にしているのだけは分かった。……なぜこんなボロクソに言われなければならないのだろうか。

「だが、愚かな豚は一つだけミスを犯した。……私達が、妖をどれだけ憎んでいるのか分からなかったことだ」

「……」

「あの蛇を逃げるまでの時間を稼ぎたかったのだろう。しかし、私達は例えアレをここで逃がしたとしても、地獄の底まで追いかけて……踏み砕く」

 一言、残念だったな、とだけ言い残し、二人の退魔士あんちくしょうは去って行った。呆然とする俺だけを残して。



 それからどれだけ立ち尽くしていただろう。結構長い間ボーッとしてたような気がするが、時計を見ると十分と経っていない。

「……はぁ、疲れた」

 その場にへたり込み。肺の空気を全て吐き出して下を向く。水が染み出しているため辺りはびしゃびしゃで、大きな水溜まりになっている。俺はその中央でただボーッと座っていた。

「まぁ、俺だって頑張ったもんな、うん。今日はもう疲れたし、いつもみたく飯食って寝よ……」


 ――ん、今日は唯火の好きな豚カツだのー。ありがたく食べやがれ、のー。


 一瞬、そんな映像が頭を過ぎった。

「……う、今日はちょっと冷えそうだな、布団をもう一枚出して……」


 ――なんだ、そんなに寒いなら早く言えばいいのー。みが温めてやる、のー。もちろん素肌で。


 また、同じようにその光景が見えた。

「……いやー、明日からまた学校か、めんどいなー」


 ――唯火、早く起きないと遅刻するのー。……仕方ない、みの熱いキッスで起こしてやるのー。


 止まらない。今日まで一緒に過ごしてきた真水との思い出が泉のように溢れてくる。

「はは、困ったな、こりゃ。知らないうちに俺の中であの暮らしが気に入ってたんかな?」

 まあ、今さらもう遅いし、関わるような気はないけれど。だって怖いのは嫌だし、痛いのはもっと嫌だ。とかくそれを嫌うのは人間にとって当然の感情。必然なのだ。

「……どうでもいいか。さってと、帰るか」

 やれることはやったんだし、もうこの件に関わる気はさらさらない。だって俺は別に全てを救える神様でもないし、世界を救う勇者様でもない。ただ人から嫌われているだけの、子供なんだから。

 水に濡れたズボンが少し気持ち悪いけど、もうどうでもいい。俺は立ち上がり、真水がいるであろう方角へ向けて一言囁いた。

「じゃあな、真水。嘘吐きな、かわいい蛇さん」

 ふと、体が止まる。……嘘吐き? なぜ?

 自分で言った言葉に疑問を感じてしまう。俺はなにについて嘘吐きと言ったのだろう。俺から離れたことか? 勝手にいなくなったことか? 多分、そのどちらでもない。だって俺と真水は……。

「俺と、真水は……」

 俺と真水は、なんだ? あいつと過ごしたのはほんの一月程度のはず。いや、待て、最初? 初めて? 俺はなにか忘れてないか? それも、とても大切なことを。

「なんだっけ? 真水との初めてはー……いや初めてって言ってもそういう意味じゃないからね! ほんとだよ!?」

 だれに言い訳してるのかブンブンと大袈裟に首を横に振る。確かに少しピンチな場面はあったけど、貞操は見事に守りきったのだ。

「いやーあそこで押し倒しちゃえば良かったなんて思って……って違う! 俺はロリコンじゃないんだぁああああ!」

 不意にいけない思考が脳内に浮かび、それを阻止すべくガッツンガッツンと塀に頭をぶつけて妄想を霧散させる。ダラダラと滴る赤い血が水溜まりを染め上げるほど、傍目で見ると危険かもしれない。なんか段々意識が遠退いてく気がするし……そんな時だった。

「あ、れ……?」

 遠退く意識とは別に、古めかしい記憶が少しずつ少しずつ、コップの水が零れるように溢れてきた。

「あ、あ、あ、あぁあああああああ!」

 その記憶は俺が子供の頃、まだばあちゃん家にいた時の記憶だった。緑が俺を見下ろしていて、綺麗な水がつま先に触れる。柔らかな風は優しく頬をなで、俺とあの子を……あの子? そうだあの子だ。とても大切な、俺の――

「ま、まずっ! 行かないと!」

 パシャパシャと俺が走るのに合わせて水の跳ねる音が聞こえる。けどそんなこと気にしてる余裕はない――って、あれ?

「おぉう、世界が回るー?」

 走り出して数歩のうちにふらふらーっとバランスを崩してしまった。やっぱり血を流し過ぎたのが原因だろう。眼下の水は赤く染まり、これでは水溜まりか血溜まりか分からない。

 倒れる直前にギュッと目をつむり衝撃に備える。

「……うん?」

 けれど待てども待てども冷たい衝撃は来ない。むしろふわふわであったかくてやーらかくて……このまま昇天してしまいそうだ。

 そっと目を開けてみる。

「ふう、なにをどうしたらそんな重傷になるんだ、お前は?」

 そこにいたのは、そこにあったのは、最早間違えようがなかった。そこは俺の、俺の……っ!

「俺のサンクチュアリィイイイイ!!」

 目の前に銀色の髪の天使がいる。そのエンジェルこと一条先輩は真正面から俺を優しく抱きとめている。そのため豊満なおムネ様が顔に当たって……つまり、この状況は念願のおっぱいダイブ! 我が人生に一片の悔いなし!

「…………やれやれ。心配してみればすぐそれか。……少し、反省しようか?」

「へっ? ってへぶ!」

 瞬間、俺の視界はグルリと回転し、気づいた時には水溜まりに顔を突っ込んでいた。

「がばぼ!? がぶぶ!」

「ああ、暴れるな。あと十分くらいしたら放してやるから」

「がぶばぁあああ!!」

 日本語に訳すと、死ぬわぁあああ! となる言葉を発しながら必死に手足をばたつかせる。しかし背中には一条先輩が乗っているため上手く抜け出せない。

「ははは、頑張れ頑張れ。私がここにいてやるから精々もがくんだな」

「ばぼべばびぃいい!」

 人でなしぃいい! と叫んだところでこの人がやめるはずもなく、俺の頭を掴んで水溜まりに顔を沈める鬼畜っぷり。

 あ、やば、意識が遠退いて……。


「なんだ、五分ともたないのか。お前にはガッカリだよ……」

「それが殺人未遂犯の言うことですか!?」

 ギリギリのところで顔を持ち上げられ、事なきを得た。けど、そのギリギリまで持って行った張本人さんが優雅にコーヒーなんて飲んでるってどうなのだろうか。軽く殺人未遂ですよね? もっとすまなそうな顔してもいいと思うんですけど!

「おいおい、勘違いしているかもしれないが、私のは罪にならないぞ?」

「なんでです!!」

「だって羽臥野を殺しても罪にならないのは万国共通の認識だからな」

「あまりにもひどい!!」

 衝撃の新事実発覚! どうやら羽臥野唯火に人権はないらしい。……そういえばあの子やその子や他多数も似たようなこと言ってたっけ。

「うぅ、俺はいらない子なんだ……」

 余の不条理に俺の心はブロークン寸前だ。

「……少しやりすぎたか?」

「あいきゃんふらーい……」

 どよーんとジメジメした雰囲気を撒き散らす俺を見て流石にやりすぎたと思ったのだろう。一条先輩は頬を掻きながら苦笑している。

「ま、まあ、そんなことよりもだ、羽臥野。こんなところでなにをしているんだ?」

「そんなこと……。うぅ、気にせんといてください、ちょっと用事が出来ただけですから……」

 まだダメージが残っているが、よろよろとしながらもなんとか立ち上がる。おっぱいの衝撃に忘れていたが、急がないといけないのだ。

「ふぅん……。どこに行くんだ?」

 俺は一条先輩をもう一目見るために振り返り、弱々しい笑みを浮かべて言った。

「ちょっと悪の味方にでもなりに」



「で、ほんとーになんなんですかこのメカ? ついでにこれってどんな状況?」

「細かいことは別にいいだろう。それに、お前も役得だろう?」

「いやまあ、確かにこのさらさらの髪に触れられるのはかなりキュンと来るものが……いやだがしかし!」

 ぬおぉお、と身悶えしながら足元を見る。一般道を走る車の窓からビックリしたようにこっちを見ている人多数。ってか、高くてむっちゃ恐い。なぜって?

 ――今現在の俺達の状況、バイクっぽい二輪車で空を爆走中。

 うん、よく分からない状況だ。当人である俺にも全然分からない状況である。

「ことの始まりは数分前だった……」

「どうした、遂に壊れたか? あんな無茶をするから……」

「俺なにしました!? ちょっとさっきのこと思い出してるだけっすよ!」

 回想しようと虚空を見ていると一条先輩が可哀そうなものを見る様な瞳で眺めて来る。

「ああ、そうなのか? てっきりあの時の傷がまだ癒えてないかと思ったのだが」

「あの時ってどの時!?」

「そう、あれは数時間前。女に振り向いてもらえないショックにより男に走ったあの時だ」

「走ってねぇえええええ! 俺は今も昔も女体にしか興味ないですからね!? 先輩が言ってるのがなんなのか分かりますけど、あれはあの変質者が襲い掛かってきたんですからね!」

「分かっているさ。つまりはそういうプレイだったんだろう?」

「プレイとか言わないでぇええええ!」

 恐らく先輩が言っているのは学校で変態を殴った場面の事なのだろう。あれだけで男色と思われるのは心外である。と言うか、あれは順当な対処方法だったと思うのだが。

 このままではちっとも先に進まないような気がするので、無理やり思い出してしまおう。


 俺は先ほどまで真水の向かったであろう場所へ行こうとしていたのだが、歩き出そうとした瞬間にそこへ行くための資金が足りない事に思い至った。歩いていくには時間が掛かるだろうし、どうしようかと思案している時に一条先輩が名乗りをあげたのである。

「要は足が必要なんだろう? なら私がいいものを貸してやろう」

「先輩がですか? なんか、果てしなく嫌な予感……」

 ポソリと呟いた言葉は先輩には届いていなかったようで、なぜかウキウキしながら指を空へと突き出した。

「おいで、ブラックウィドウ改ターボツヴァイ!!」

「な、なんか空から降ってきたぁああ!?」

 すると頭上から重々しい音を響かせていつぞやのクモ型ロボが落ちて来たのだった。そのまま声を張り上げ、

「さらにっ! トランスフォームだブラックウィドウマーク2スペシャル!」

「おお! へ、変形していく!? っていうか名前さっきと違……!」

「これでよし。さあ、空を駆けよブラックウィドウスーパーライセンスX!!」

「だから名前違う……って、なんですか? 乗れ? はあ……っていきなり空を爆走!? なんすかこの空飛ぶオートバイ!!」

 大型バイクに変形したのだ。驚愕の視線を注いでいると、一条先輩は得意気に微笑む。

「ふっ、覚えておけ。変形合体自爆装置、それらは科学者のロマンなんだ!!」

「どうでもいいですよ! ってか、今すごい不吉なこと言ったの分かってます!? 最後の装置はつけていませんよね!?」

「私は……科学者だ」

「なんの答えにもなってない!!」

「もっとだ、もっと貴様の限界を見せてみろ! アトミックチューンベルセルク一号!」

「最早面影の欠けらもない名前に!?」

「あはははははははは!」

「いやぁああああ!!」


 と、そんなことがあって今空を飛んでいるのである。不平不満は受け付けない。俺だって色々とツッコミたいのを我慢してるんだから。大体今の先輩はきっと俺の言葉など受け取ってはくれないだろうし。

「で、レーダーはこっちを示しているのか?」

 空飛ぶバイクを操りながら顔をこっちに向けて問い掛けてくる先輩。いや、前向いて運転してください。落ちたらぺっちゃんこですよ、これ。

「はい、そうみたいっす。まあ、多分間違いはないと思いますよ」

「ほう、どうしてだ? なにか根拠でも?」

「根拠ってほどじゃないですけど……」

 先輩の質問にんー、と少し首を傾け、苦笑しながら呟いた。

「楽しかった、ですからね」

「楽しかった……?」

 先輩はよく分からないのか怪訝な表情で俺を見る。可愛らしく首を傾げるのは良いんですが、お願いですから前向いてくださいって。

「あそこは、俺と真水が初めて遊びに行った場所ですから」

「……なるほどな、つまり彼女にとって特別な場所だ、と?」

「特別っていうか、約束しちゃいましたからね」

「約束、ね……。よければ教えてくれないか、その約束とやらを」

 その質問に答える前にふと、前方に見えて来た建物を眺める。壮大な、白い西洋風のお城。天辺のだんごが台なしにしているが、それでも大きさは変わらない。その姿を見ながら、ニヤリと笑う。

「今度また、連れてってやる、ってね」

 鋭く目を細め、蛇のような瞳の先にはこの前出来たばかりのテーマパークが大きな口を開けて待っている。今日は休みらしく、人っ子一人いない。

 それなら、丁度いい。猛毒を持った蛇の前でバカみたいに口を広げるその行為の意味、どれだけ愚かなのか教えてやらなければ。

「まぁ、その前にもっとバカな子蛇ちゃんをなんとかしないとねー」


 三田ラシランド、そこに真水はいるのだ。

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