4-17
塹壕を挟んでの攻防戦が佳境に差しかかった頃、第十九、第二十番要塞を出撃したヴェンモーズ、バルロックの両名は、自ら手勢を率いて同盟軍の本陣へと奇襲を仕掛けた。
彼らの用いた駒は、アーマー二十を含む機甲部隊およそ二百。歩兵の大半はライフルを持たせただけの傭兵である。本陣を攻略し、リカルド・ブランドルの首を取るには少々心許ない戦力だった。
ただ、リカルド側の防衛兵力も決して多くはない。
脇を固めているのはアーマー二十を含む近衛兵およそ百弱。しかも彼らが司令部代わりに用いている村落は、周囲を柵に囲まれているだけでまともな堀や防塁さえ備えていなかった。
もっとも、これはリカルドの打った策だった。彼は自らの身を囮とすることで、同盟内に潜んだ反乱分子をあぶり出そうとしたのである。
その上、彼は陣の後方に五十の兵を三隊に分けて配置していた。いざという時は本陣を下げ、この伏兵と合流し、裏切り者を包囲殲滅する手はずだった。
――そう、『だった』のだ。
しかし、現実には後退したリカルドの援護に駆けつける部隊は現れなかった。
結果、リカルドとその親衛隊は四方から押し寄せてくる敵勢に追い込まれ、村の集会所へと逃げ込む羽目となった。
集会所といっても大きな建物ではない。しかも今は茅葺きの屋根と煉瓦の壁とが砲撃で吹っ飛ばされ、広場と変わらない様相に成り果てている。
柱の陰に隠れたリカルドは、ぞろぞろ集まってくる敵を見て舌打ちをこぼした。
あらかじめ準備していたはずの増援はいまだに姿を見せない。先ほどから目に入るのは敵の歩兵ばかりだ。
残った手勢はわずか十余名。今は味方のアーマーが弾幕を張って凌いでいるものの、それとていつまで持つか分かったものではなかった。
「御館様! ここは我らが抑えます! どうか今のうちに撤退を!」
「……無駄だ。伏兵がやられたのか、それとも裏切ったのかは分からん。だが、どちらにしろ敵はヴェンモーズたちだけではない。わし一人ではこの包囲網を突破できんよ」
部下の勧告にリカルドは深々と息をついた。
ヴェンモーズとバルロックが背信するのはまだ想定の範囲内だった。
が、そのために打った布石が機能しないのは予想外だ。最前線の人間が事態に気付いたとしても、もはや救いの手は間に合うまい。
「唯一、期待できそうなのは後方に位置する要塞群だな。第十八番要塞にはケルノウン伯の手の者が詰めていたはず」
「では、お味方が来るまで凌ぎ切りましょう! 我ら剣の騎士! 御館様だけは必ずお守り――」
力強く宣言しかけた青年は、直後、柱ごと貫く衝撃に上半身を吹き飛ばされた。
弾ける鮮血。吹雪のように舞い散る木っ端。咄嗟に地面に伏せたリカルドが見たのは、集会所の入口付近に佇む二機の大型アーマーだ。
拠点防衛用重騎士甲冑、《ファランクス》。その無骨なガントレットには、本来城壁に備え付けて使うはずの弩砲が装備されていた。先ほど、哀れな騎士の体を粉砕したのはあの攻城兵器による一撃らしい。
『そこにいたのか、リカルド・ブランドル!』
『御当主よ! いい加減、諦めて降参する気はありませんかな!』
スピーカー越しの大音声が空気を震わせる。
リカルドはむくりと体を起こすなり、二機の《ファランクス》を睨みつけた。
「ヴェンモーズとバルロックか。貴様ら、よくものうのうとわしの前に顔を出せたものだな」
『勘違いしないで頂こう。我々とて挨拶をしにきた訳ではない』
『我々は投降を勧めに来たのですよ。貴殿にはまだ利用価値がある。投降すれば、命だけは保証して差し上げよう』
「その保証期間がいつまで続くか分かったものではないな。どうせ、わしを人質代わりに利用しようという魂胆だろう。くだらん連中め」
リカルドは罵詈雑言で応じつつ、対話の時間を引き延ばそうとした。
が、その間にもヴェンモーズたちの周りには敵兵が集まりつつあった。ライフルを携えた歩兵だけではない。陸戦型の《センチュリオン》までもが、番犬よろしく二人の脇を固めつつある。
「おのれ、不忠者ども! 貴様ら、恥ずかしくはないのか! 御館様から受けた恩義をこのような形で裏切るなど――!」
『うるさい』
怒声を上げる騎士に対し、ヴェンモーズは容赦なく極太の矢を撃ち込んだ。
バリスタの矢弾は不気味な唸りをと共に飛翔すると、立ち上がった騎士の体を鎧ごと真っ二つに引き裂いた。無惨に飛び散った臓物の欠片が、リカルドの左頬にべったりと張り付いた。
「……貴様ら」
『ふん、尻尾を振るだけしか能のない駄犬め。忠義や信頼がどうやって腹の足しになるのだ。巧妙に他人を出し抜いてこそ、より多くの財貨を得ることができるというものよ』
ヴェンモーズはバリスタに矢弾をつがえ直しながら、くつくつ笑みをこぼす。
次いで、その隣に控えたバルロックがこれみよがしなため息を漏らした。
『あなたもいけないのですよ、リカルド・ブランドル。ケルノウン伯のような……どこの生まれとも知れない馬の骨を重用し、我ら一族の者を蔑ろにするなど。当主のやることとは思えない』
「貴様らとわしとの間では認識の齟齬があるようだな。有能な人間を然るべきポストに用いてなにが悪い」
『あなたや、同盟軍の御歴々にとっては良いことかもしれません。しかし、我らのような――いや、自分で言うのもなんですがな。血統以外にまともな美点のない人間にとっては、決してありがたいことではないのです』
『これは視点の問題だよ、叔父御。我々の曇った目にはあなたより【白老侯】の方が魅力的に映る。宰相殿は我々にブランドル家の有する土地全てを分け与えると約束してくれた』
「要は餌に釣られた、ということか。ガーランド家のモーディアのように」
『あなたはもう少し足元を見るべきだったのですよ、御当主』
そこで二機の《ファランクス》はほぼ同時にバリスタを構えた。
『さて、おしゃべりはこのあたりでよろしかろう。あなたが降伏しないというのなら我々のすべきことは一つだ』
『なに、心配なされるな。すぐにジェラードの坊っちゃんや他のご家族もそちらへ送って差し上げる。後のことは我々に任せ、叔父御はゆっくりご隠居生活を送るがいい』
あざ笑うような台詞と共に、二人はトリガーを引き絞った。
発射された矢弾は風を切り裂きながら、標的めがけて牙を剥く。
リカルドは思わず目を閉じかけた。だがその瞬間、バリスタの弾道を阻むように黒い影が降り立つ。次いで、空中に二筋の剣閃が刻まれた。
――バキィン!
戦場に響く乾いた破砕音。
断ち切られた矢の破片がむなしく地面を抉る。
リカルドは無傷だった。その眼前に立ちはだかったアーマーが、両腕甲に握った短剣でバリスタによる射撃を防いだのだ。
猫のようなシルエットをもった尻尾付きのアーマーは、正面の敵を警戒しつつ、呆然と佇むリカルドに振り返った。
遅れて、若い娘の声がバイザーの奥から漏れ出た。
『……間に合った』
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戦場に降り立ったハンナは、一度安堵の息をついた後、改めてリカルドに尋ねた。
「ご無事ですか、ブランドル卿」
「……あ、ああ」
剣の侯爵は混乱した様子ながらも頷いた。
「すまない、援護に感謝する。しかし貴殿、一体どこの隊のものだ?」
「第十八番要塞守備隊、ギネヴィウス家麾下の山猫部隊です」
「リンクス? ……そうか。君たちがケルノウン伯の抱える虎の子の特殊部隊か」
「はい。私は隊長のハンナと申します。お見知り置きを」
「覚えておこう。だが、君のような娘が一人で奴らに挑むのは無謀だ」
「一人ではありませんよ」
ハンナは確信と共に告げた。
既に彼女の優れた聴覚はその音を捉えていた。
大勢の人間が集い、隊伍を組み、突撃をかける際の喚声。すなわち、戦場の音。
遅れて、リカルドも背後を振り返った。地平線の向こうには黒い獣の群れが集っていた。騎士甲冑だ。それも十や二十ではない。五十機近い奇形のアーマーが、砂塵を巻き上げながらこちらに迫りつつある。
『な、なんだ、あれは! 敵の増援!? 馬鹿な、どうなっている!?』
『あれはケルノウン伯の手の者か! 小僧、どこまでも我々の邪魔を……!』
『とにかく迎撃だ! 恐れることはない! 数はこちらの方が多いのだぞ!』
『横陣を組め! 砲撃準備! まずはあの邪魔者どもを殲滅する!』
たちまち、泡を食って喚き散らす二人の裏切り者。
その周りを取り囲むアーマーと歩兵たちが、一斉にライフルの砲口を山猫部隊の機甲小隊に向ける。その射線上にはハンナとリカルドの姿もあった。
「少々お時間を下さい。すぐにあの害虫どもを駆除いたします」
ハンナは一礼してから双剣を構え直した。
次いで、その短い刀身が音を立てて真紅の炎に包まれた。
《ミネルヴァ》の〝スピキュール〟に比べると出力が低いものの、これもれっきとした強化魔導兵装だ。
ハンナは松明と化した二本の剣を、誘導灯の如く振り上げた。追って、その喉から簡潔な命令が放たれる。
「総員に命じる! ――蹴散らせ!」
『オオオオオオオオオオオオォォォォッ!』
返ってきたのは飢えたケダモノの咆哮だ。
解き放たれた山猫部隊のアーマー群は、瞬く間に獲物へと食らいついた。地を蹴り、空に舞い上がり、野獣そのものの動きで敵を猛襲する。
反逆者たちは必死に応戦したものの、《レパルド》の分厚い前面装甲の前には、歩兵の携帯火器などなんの役にも立たなかった。
彼らはすぐさま武器を捨て、戦略的撤退に移った。うっかりその場に踏みとどまってしまった者は、イノシシの突進じみた体当たりに吹き飛ばされ、骨と内臓とをまとめて粉々にされた。逃げ遅れた者は爪で引き裂かれた。ばら撒かれた砲弾に吹き飛ばされた者もいた。それはもはや一方的な『狩り』だった。
戦闘の趨勢は最初の数十秒で決してしまった。反逆者たちの戦力は少なくなかったが、荒ぶる《レパルド》の前には生身の歩兵など物の数ではなかった。陸戦型の《センチュリオン》でさえ、クローの一撃を食らって路傍の木の如く薙ぎ倒される始末だった。
『こ、こやつらよくも!』
『まだだ! リカルドさえ仕留めてしまえば――!』
一方、ヴェンモーズとバルロックの二人は後退しつつも、再度バリスタに弾を装填し、リカルドの命を狙おうとしていた。
それを見てハンナは地面を蹴った。上体を前傾させ、倒れそうなほど前のめりになりながら疾走する。その唇から呪文のような文言が紡ぎ出された。
「ダイレクトカレントシステム起動! スラストノズル開放! 機動推進装置、出力全開!」
――がしがしがきぃっ!
《アニシード》の手首と足首を覆う装甲が音を立てて変形。
更には背面に仕込まれたバックパックまでもが推力ノズルを展開する。
次いで、排気口から噴き出た青白い炎が、アーマーの機動力を一気にトップスピードまで押し上げた。
格闘戦用の機動推進装置。機竜のアフターバーナーを参考に作られた、《アニシード》独自の魔導兵装だ。
一瞬で絶大な加速力を得たハンナは、空を駆けるように敵機との距離を詰めた。
「やぁぁぁぁぁっ!」
一閃二閃。すれ違いざま双剣が振り抜かれる。
強化魔導兵装の赤熱した刃は、《ファランクス》の装甲を食い破り、オレンジ色の火花を撒き散らした。
構えたバリスタごと両腕甲を断ち切られ、ヴェンモーズとバルロックの二人は情けない悲鳴を上げた。
『ぐぎぁっ!?』
『う、腕が! 我らの腕が!』
陸に打ち上げられた魚のように地面をのたうち回る二機のアーマー。
不幸中の幸い――と言うべきなのか、切り落とされた両腕からは血が出ていなかった。
代わりに、熱せられた切断面からはもうもうと白煙が上がっている。あたりには脂肪が焼け、肉が焦げる悪臭が充満していた。
「投降してください、お二方。勝負は決しました。あなたたちには幾つか聞きたいことがある」
『こ、小娘が――!』
なおも切り落とされた腕で抵抗を試みた二人だが、ハンナはそこで素早く背後へと飛び下がった。
ヴェンモーズたちの反撃を警戒した訳ではない。彼女の目は横合いから投げ込まれたこぶし大の球体を捉えていた。
それは地面に落ちる寸前にかっと閃光を放つと、ニードル状のペレットを辺り一面にばら撒いた。対アーマー用の破甲グレネードだ。
『ひっ、があぁぁぁぁっ!?』
『ま、待て! 何故、我々が――』
悲鳴は絶叫に変わり、やがてそれも唐突に途絶える。
対アーマー効果を持つ擲弾とはいえ、本来なら《ファランクス》の重装甲を貫通するほどの威力はない。
ただし、脆弱なバイザーは別だ。両腕を失い、頭部を庇うことさえできないヴェンモーズたちは、たちまち顔面を針山にされて沈黙した。
『隊長!』
「私は無事です。それよりブランドル卿、一刻も早くここから退避して下さい」
いち早く安全圏に逃れたハンナは、双剣を構えたままリカルドの正面を固めた。
「敵の本命が来ます。恐らく、本陣後方にいたアーマーを撃破した部隊です。どこから出現したのかは不明ですが……」
「塹壕の側面から迂回してきたのだろう。ただ、少し妙だ。わしが後方に配置していたのはアーマー三十を含む百五十の精鋭兵。少数の敵に撃破されるような戦力ではない」
「だとしたら――」
口を開きかけたハンナは、ふいに虚空めがけて腕を振り抜いた。
同時に、その手から燃える短剣が放たれる。投擲された炎刃は、ハンナたちの元に迫りつつあったグレネードを空中で撃ち落とし、内蔵されたニードルを炸薬ごと蒸発させた。
彼女の得意とする投げナイフの技だ。ただし、強化魔導兵装には魔力供給用のケーブルが備え付けられている。放たれた短剣は柄のケーブルごと巻き取られ、再びハンナの手に収まった。
「南南西の方角、一斉掃射!」
間髪入れず、ハンナは部下に指示を飛ばした。
遅れて、リカルドの周辺を固めていた《レパルド》の一群がライフルのトリガーを引いた。砲声が轟き、廃村の一角が炎に包まれる。
直後、ハンナは紅蓮の中から黒い影が飛び上がるのを見た。それも一体だけではない。都合、三機のアーマーが地響きと共に降り立ち、焦げた砂利の上にがくりと膝をつく。
『手ひどい挨拶だな、お嬢ちゃん』
真っ先に立ち上がったのは先頭に佇む一体だ。
手には長剣。全身甲冑そのままの姿は《センチュリオン》に酷似しているが、こちらはより全身が滑らかに洗練されている。
ただ、艶のない漆黒の機体色はどこまでも不吉だった。燃える家屋を背景に佇むその姿は、地獄からわき出た悪鬼のようにも見える。
「無礼な挨拶をしてきたのはそちらが先でしょう。何者ですか、あなたがたは」
『おいおい、分からないのか? それなりに長い付き合いだってのに』
謎のアーマーはそう言って、バイザーの奥からくぐもった笑い声をこぼす。
その声色に聞き覚えはない。ハンナは軽く眉を寄せた。
「長い付き合い?」
『そうとも。ダグラスのクソ野郎が生きていた頃――お前らがまだキャスパリーグ隊の名を名乗っていた頃からの仲じゃないか』
「……そうか。あなたがたは黒近衛の実行部隊ですね」
ようやく合点がいった、とばかりにハンナは呟いた。
『黒近衛』はモグホース麾下の諜報部隊だ。
ハンナの率いる山猫部隊――そして、その前身であるキャスパリーグ隊にとっては因縁深い相手でもある。
この二つの部隊はモーンの反乱が起きてから今日に至るまで、六年間近くも激しい諜報戦を続けてきた。
この間に失われた隊員の数は、両手両足の指を使っても数えきれない。いわば互いにとって互いが不倶戴天の敵だった。
(だが、今ここで奴らに飛び掛かっては侯爵を危険にさらしてしまう……)
ハンナはぐっと奥歯を噛んで自制すると、秘匿回線で部下に指示を出した。
「ルーガル、今のうちに侯爵を連れて離脱を。私はひとまず時間を稼ぎます」
『了解』
リカルドの脇に控えたアーマーが小さく頷き返す。
それを確認した後で、ハンナは一歩前へと進み出た。
「お初にお目にかかれて光栄です。私は山猫部隊隊長のハンナ。あなたは黒近衛の隊長、フェンニィ伯ベルンですね」
『おっと、いかんな。その情報は古いぜ。今は近衛騎士団の団長だ』
「そういえばそうでしたか。元傭兵をそんな要職に就けるとは、王国の人材不足は深刻なようですね」
『似合わんだろう。自覚はしているさ。が、まぁ、給料がいいんでね』
冗談めかした台詞を放ちつつ、ベルンは長剣を構える。
更に、その背後に佇む二機のアーマーもそれぞれ槍とライフルとをハンナに向けた。が、それだけだ。敵はまだ攻めてくる気配がない。
味方の手勢が到着するまで待つつもりなのか、とハンナは推測した。
ブランドル家の伏兵を倒した敵が、あの三人だけということはあるまい。百か、二百か。恐らく、黒近衛のほとんどが動員されているはず。
しかし、今の山猫部隊ならば――四十機の《レパルド》ならば、並大抵の敵には対処できるだろう。決着を急ぐ必要はない。
「あなたがたは戦いが始まる前からこの地に潜伏していたのですか? ヴェンモーズやバルロックが動くのを待って……。もっとも、その二人はつい先ほどあなた方の手で殺されてしまいましたが」
『うん? あのデカブツ二体の中身は味方だったのか。邪魔だったからつい始末してしまったが』
「白々しい台詞を」
『嘘じゃないぜ。あの二人に関しては殺せとも生かせとも言われてなかったんだ。ついでに言うと、俺たちは最初からこの近辺に潜んでいた訳じゃない。前線の連中が派手にドンパチやっている間、横から回りこませてもらったのさ』
「迂回路を? しかし、誰にも気付かれずに百以上の兵力を動かすなんて……」
とハンナが呟きかけた直後、村落の各所から黒い影が滲むように姿を現した。
アーマーだ。ベルンたちが装着している騎士甲冑と全く同じシルエット。それが二十機近くもハンナの前に集まりつつある。
『よしよし。ようやく来たか、お前ら』
「その機体は……」
『《ブラックガード》。《グレムリン》なんかと同じ隠密行動用のアーマーさ。もっとも、こいつは大陸産の兵器だ。その性能は――』
ふいに、ベルンはアーマーごと体を沈める。
その手に握られた刃がぼっと音を立てて炎に包まれた。ハンナの双剣と同じ強化魔導兵装だ。
『ダンチだがね!』
刹那、《ブラックガード》は砂礫を跳ね飛ばしながら飛翔した。
ハンナは慌てて双剣を交差させ、振り下ろされた長剣を受け止める。
魔導兵装同士の干渉によって眩い閃光が散り、追って、ハンナの体はアーマーごとずしりと大地に沈み込んだ。
細い見た目からは想像できない、異常なまでの膂力だった。ハンナの《アニシード》は推進装置を積んでいる分、やや筋肉量に劣る部分があるものの、それを抜きにしても敵機のパワーは圧倒的だ。
「く……!」
ハンナはつばぜり合いの状態のまま、機動推進装置を稼働させた。
機体各所から噴き出した蒼炎が《アニシード》を後退させる。ベルンは追撃してこなかった。その代わり、燃えるブレードを掲げて配下の兵に号令を下す。
『そら、かかれ野郎ども! 第二幕の始まりだ! 標的はリカルド・ブランドル! あの爺さんを殺した奴には金貨千枚の特別褒賞だぞ!』
『オオオオォォォォォッ!』
物欲まみれの怒号と共に、黒近衛の部隊は進撃を開始した。




