2-26
アウロは《ブラックアニス》を撃墜した後、カムリと共にラグネルの森へと着陸した。
鬱蒼と生い茂る木々の中を、重い空戦型騎士甲冑で動き回るのは難しい。
そのため、アウロはアーマーから降り、インナースーツ一枚という格好で真冬の森を探索することとなった。
「……寒いな」
「あったり前でしょ! 本来なら、主殿もゆっくり体を休めるべきなのに!」
ぶつぶつ不満をこぼしながら、カムリは空中に浮かぶ光球で辺りを照らした。
こちらも竜の姿からいつもの赤いワンピースを身につけた格好に戻っている。
一応、服自体はアウロの着ているスーツの方が耐寒性に優れているはずだ。
しかし、カムリはこの冷気の中でも全く寒そうな様子を見せていない。普通の人間とは根本的に体の作りが違うのだろう。
「うー、やっぱりわらわは賛成できないよ!」
むしろカムリは頭に血が昇った様子で、アウロの顔を振り仰いだ。
「主殿、本気? あのネコミミ男を探すなんて!」
「本気さ。奴はここに不時着しているはずだ。生きているかどうかは微妙なところだが」
「別に、あいつの死体を確認するだけならいいよ。でも、主殿の目的は違うんでしょ?」
「そうだな。できれば、ダグラス・キャスパリーグを部下に加えたい」
アウロの言葉に、カムリは「無理無理無理」と首を左右に振った。
「いやいや、絶対無理だって。あのネコミミ男、誰かの下に付くようなタイプじゃないもん」
「どうかな? あの男は一度、王国に恭順の意を示したはずだ。それに今回の戦争でもアクスフォード侯爵と手を組んでいる」
「だけどさー、ちょっと危険過ぎない? なにしろ相手は国中のお尋ね者だよ? そんなのを部下にするなんて――」
「危険は承知の上だ。あれだけの男を単なる逆賊にしておくのは惜しい」
アウロは口元から白い息をこぼしながら、勾配のきつい坂を昇った。
そもそも、アウロがダグラスを部下に欲しいと思ったのは昨日今日のことではない。
アルビオン島の統一という野望を果たすためには、カムリ以外にも多くの協力者が必要だ。
武力に優れ、実戦経験豊富な人間は貴重である。その上、ハンナたちキャスパリーグ隊の面々を仲間に引き込めるなら、多少のリスクなど安いものだ。
(まぁ、問題はダグラス自身にその気があるかということだが――)
アウロは一度丘陵の上で足を止め、闇に覆われた森を見渡す。
その横に立ったカムリは、指先に灯した炎で周囲を照らし出した。
「ん、主殿。あれって」
「……ああ」
アウロの目に映ったのは、背の高いオーク樹の下に転がっている機甲竜の残骸だ。
墜落時の衝撃によるものか。《ブラックアニス》の機首は完全に潰れ、胴体はシートの辺りを境に前後真っ二つの状態となっていた。
恐らく、ほとんど減速できず頭から地面に突っ込んでしまったのだろう。極めて堅牢な造りをしているはずの骸装機が大破している。
「うーん、ひどい状態だね。これは乗ってた奴も死んでるんじゃ……」
「どうかな。少なくとも、アーマーの中から這い出る力はあったらしいが」
機竜の残骸から少し離れた位置には、キャノピーが開いたまま放置されているアーマーが見えた。
ただし、こちらの被害も甚大だ。両腕は取れかけ、本体に至っては腰の辺りから上下に引き裂かれてしまっている。
更に、丘を降りたアウロたちの前に広がっていたのは、どす黒く変色したおびただしい量の血液だった。
「うわ、機体の回りが血だらけだ。あいつ、よくこんな状態で動けたな」
「まだ遠くへは行っていまい。血痕を辿れば後を追えるはずだ」
「でも、主殿。この血の量は――」
「行くぞ、カムリ。どちらにせよ、奴が生きているかどうか確認する必要があるんだ」
アウロは血の跡を追って大樹の裏へと回り込んだ。
ダグラス・キャスパリーグの姿はすぐに見つかった。
オーク樹の根本には、頭部から猫の耳を生やした大男が、幹に背を預けるようにして眠っていたのだ。
顔を俯かせているため、その表情がどうなっているのかは分からない。だが、投げ出された四肢は病人のように青白く染まっている。
(いや……)
病人ではなく死人かもしれない。
インナースーツの内側から溢れた血液は、男の下で泥のような血溜まりを作っていた。
ぱっと見ただけでも致死量なのが分かる。アウロは強烈な血臭に、思わず口元を覆ってしまった。
「カムリ、これは治せるか?」
「……流石に無理。完全に命の灯火が消えちゃってるもの。わらわも死人を蘇らせる術までは知らないよ」
「そうか。どうやら、アーマーの外に出たところで力尽きたらしいな。ここまで動けただけでも大したものだが」
「うん。というか、こいつちゃんと死んでるよね?」
身を屈めたカムリは恐る恐るダグラスの顔を覗き込む。
途端、闇の中で男の双眸がかっと開いた。左右で色の違うオッドアイが、真っ正面から少女を睨みつける。
「ぴゃっ!?」
「勝手に人を殺さないで貰おうか、小娘」
口元から血をこぼしながら、低い声で告げるダグラス。
アウロは思わず目を見張った。
「驚いたな。そんな状態でまだ生きていたのか」
「俺は普通の人間より、少しばかり体が頑丈なのさ。もっとも、この怪我ではもう長くないが」
ダグラスは苦しげに自身の体を見下ろす。
墜落時の衝撃によって、既に彼の上半身と下半身はほとんど千切れかかっていた。
背骨は折れ、内蔵が傷つき、大量の血が流れた。いくら常人より生命力の高いダグラスでも、この状態ではとても助からない。
「フ……それにしても、まさか俺がお前のような小僧に遅れを取るとはな。【モーンの怪猫】も衰えたものだ」
「いいや、衰えてなどいない。俺がお前に勝てたのは乗っているモノの能力の差だった」
「能力の差、ね。まさか竜が機械に化けているとは思わなかった。あれは一体どういうカラクリなのだ?」
「上から甲冑を身に着けさせただけさ。単なる擬態だ」
「では、やはり本物の竜か。それも恐らくは古竜の類だな?」
「違う。あれは神竜だ」
アウロの言葉に、ダグラスは「なに?」と目を見開いた。
「神竜だと? この国にそんなものは一体しかいないはずだ。まさか――この時代に蘇っているというのか、カンブリアの赤き竜が」
「そうだ。別に信じろとは言わない」
「……いいや、信じよう。今更、死ぬ人間に嘘をつく必要はないはずだ」
ダグラスは深々と息をこぼすと、樹の幹に後頭部を預けた。
「なるほどな。ログレス王国に栄光を取り戻すという台詞も、単なる強がりではなかった訳だ。お前は自らの理想を現実にしようとしている。俺を部下にしようと考えたのも、その目的を達するためか」
「聞こえていたのか?」
「ケットシー族は普通の人間よりも耳がいい。嫌でもお前たちのお喋りが聞こえてくるんだよ」
男は口元にうっすら笑みを浮かべ、
「だが、ギネヴィウス。この国に栄光を取り戻すと言っても、お前は実際になにをするつもりだ? まさか、口だけで現実的なビジョンは何もないなどということはなかろう?」
「無論だ。俺が目指しているのはアルビオンの統一。アルトリウス王時代の繁栄を、再びこの国にもたらすことだ」
「ふん、アルビオンの統一ね。いくら赤き竜の助けがあるとはいえ、私生児風情が抱くには大き過ぎる夢だな。お前は一体どれだけの王がその夢に挑み、そして、破れてきたのか知らんのか?」
「確かに困難かもしれない。だが、それを理由に諦めるのはもうやめたんだ」
「……そうか。小僧、いい目をしている。お前はかつての俺によく似ているな」
ダグラスはふいに視線を宙へと彷徨わせた。
「我ら亜人が人間たちと穏やかに暮らせる世界。俺も、一度はそんな未来を夢見たのだ。しかし、結局は失敗に終わった。宰相モグホースとドラク・ガーグラー。そして、この国の性質に阻まれてな」
「なるほど。だからお前はモグホースを殺し、この国を変えようとした訳か」
「そうだ……ああ、そうだとも。最初の動機は、この国の腐敗を取り除くという純粋な決意だったはずだ……」
黒と金の瞳が、遠く輝く月を映したまま虚ろに揺れる。
「だが、こうして振り返ってみれば、我らの行いはお互いの間にある溝を拡大させるだけだった。怒りは憎しみを呼び、憎しみは破滅をもたらす。一体どこでボタンをかけ間違えたのか、今となっては分からん。それでも俺は――」
ごほ、とそこでダグラスは口元から血の塊を吐き出した
体力が限界に近いのだろう。もはや、声を発するだけで全身に激痛が走っているはずだ。
しかし、男は怯むことなく言葉を続けた。
「小僧……敗北者として、一つだけ教えてやる。最終的に物事を決するのは自らの持つ力だ。個人の武力だけではなく、集団としての知力、軍事力、政治力。今のお前にはそれらが絶望的に不足している」
「だろうな。だから、お前のような部下が欲しかった。欲を言えばお前の部隊も」
「そいつは欲張り過ぎだ。せめてどちらかにしておけ」
「ならば、お前の部隊が欲しい。キャスパリーグ隊のアジトはどこにある?」
「ここラグネルの森に三つ。中央市街に一つ。亜人街に一つ。……しかし、森のアジトは貴様らに見つけられまい。中央の拠点は既に潰されているだろう。となると、残るはハンナの孤児院だな」
ダグラスの台詞にアウロは軽く眉を寄せた。
「あそこは一度訪ねたことがあるんだ。もう引き払われている可能性が高い」
「地上部分は、そうかもしれん。ただ、あそこには地下室がある。せいぜい苦労して探し出せ。そして、ハンナたちと交渉するがいい」
「交渉したところで、お前を殺した俺に彼女たちが従うと思うか?」
「さぁな。どちらにせよ、死者が生者の行く末を縛ることはできん」
「だが」とダグラスは自らの背中に手をやる。
ひげのように広がった木の根の間には、一振りの剣が突き刺さっていた。
刀身まで漆黒に染まった魔剣。ダグラスは自らの愛用していたそれを掴み取ると、アウロの前に差し出した。
「その遺志を託すことはできる」
「それは――」
「魔剣エスメラルダ。お前にくれてやろう。俺にはもう必要のないものだ」
「………………」
アウロは無言のまま剣を受け取った。
巨大な剣だ。ダグラス用に作られたそれは、アウロにとって重すぎる。
ダグラスは再びだらりと腕を垂らすと、肺の奥から深々と息をこぼした。
「ああ……ようやく、肩の荷が下りた気分だ。これで俺も、同胞たちの元に逝くことができる。俺は道半ばで倒れた。それでも、お前たちから受け継いだ遺志は繋げたのだと、そう胸を張って――」
そこでダグラスは再び咳をこぼした。
吹き抜ける風にも似た音がその喉から漏れ、男は最後に一度だけ唇を震わせる。
「ギネヴィウス……お前は俺のようになるなよ……憎しみに囚われ、理想を見失った、この俺の……よう……に……」
かすれた声でそう告げると、【モーンの怪猫】は緩やかに瞼を閉じた。
そうして、男はもう二度と目を開くことはなかった。
眠るように息を引き取ったその顔は、生前と比べてひどく安らかだ。
ダグラス・キャスパリーグはその生涯の中で、理想を掲げ、長きに渡る闘争を戦い抜き、そして今、ようやく剣を手放したのだ。
アウロは自らの手の中に残る漆黒の刃を見下ろした。
「カムリ」
「なに、主殿?」
小首を傾げるカムリにアウロは言った。
「ダグラスは今回の乱における首謀者の一人だ。恐らく、王国側の人間に見つかれば、遺体は辱めを受けるだろう」
「ま……これだけの騒動だもの。見せしめが必要だよね」
「ならば」とアウロは言葉を続け、
「この男の亡骸を焼いてくれ。ダグラス・キャスパリーグは大罪人だが、紛うことなき戦士だった。奴の剣を受け取った以上、その誇りを汚すことはできない」
「ん、分かった」
カムリはこくりと頷いた。
少女は前へ進み出ると、ダグラスの遺体に両手をかざした。
次いで、薄い唇が開かれる。森の中、音を奏でるのは呪詛ではなく祈りの言葉だ。
「『我は炎の巫女、ベリサマの祈り手なり。戦士の骸よ、乙女の腕にかき抱かれよ。その魂は船で運ばれ、遠く彼方、永遠の島へ流れ着くがいい。やがて来たる復活の時まで、朋友と共に安らかに眠れ』」
術式の完成と共に、ダグラスの体に赤い火が灯った。
燃え上がった炎は、背後の樹木を焼くことなく男の全身を包み込む。
火焔の中で黒い髪が揺れた。男の輪郭は徐々に崩れ、白く燃え落ちた灰に変わってゆく。
そうして、一分も経たない内にダグラスの肉体は灰となって消え失せた。後に残されたのは、地面の上にぶち撒けられたどす黒い血だけだ。
「終わったよ」
「……ああ」
アウロは黒の剣を手にぶら下げたまま、その場から身を翻した。
「行くぞ、カムリ。一度、《ホーネット》が不時着した場所まで戻って、回収班が来るのを待つ」
「らじゃー。でも、大丈夫かな。ソフィが怪しんでたみたいだけど」
「まぁ、どうにか誤魔化すさ。要はお前の存在に気付かれなければいいんだ」
言って、アウロはカムリと共に大樹の傍から離れた。
それからアウロは再度アーマーに乗り込むと、カムリの背に乗って空に飛び立ち、十分ほどの時間をかけてカムロートの郊外に舞い戻った。
撃墜された《ホーネット》は未だぬかるみの中に放置されたまま、降り注ぐ雨を浴びている。
アウロは擱座した機体の周辺に人がいないのを確認した後で、通信機のスイッチをオンにした。
「こちら、アウロ。アウロ・ギネヴィウスだ。ソフィア、聞こえているか?」
『………………』
呼びかけるも返事がない。通信機はザーッと濁った音を流したまま沈黙している。
だが、しばらくするとノイズの向こう側で反応があった。
遅れて、かすれた男の声が通信機越しに響く。
『アウロか。貴様、今どこにいる?』
「その声、まさかナーシア殿ですか?」
尋ねるアウロにナーシアは『そうだ』と応えた。
怪我を負っているせいだろうか。普段は自信に満ちているその声も、どこか苦しげに聞こえる。
『ソフィアは襲撃によって負傷した人間の収容に当たっている。今も奴の工房に続々と怪我人が運び込まれている状態だ。私も、体さえまともに動けばあの逆賊めを追えたものを……』
「その必要はありません。ダグラスは自分が撃墜しました」
『なに……? まさか、お前があの男を討ち果たしたというのか?』
「生死までは確認できませんでしたが、奴の機竜が大破したのは確実です。ただ、こちらも飛行不能の状態に追い込まれ、先ほどカムロートの郊外に不時着してしまいました」
『そうか、いや、でかしたぞ。よくやった』
ナーシアは深々とため息を。恐らくは安堵の息をこぼした。
『ダグラスをこの手で討てなかったのは残念だ。しかし、これでこの国も多少は面目を保つことができる』
「そうですね。賊の襲撃を受け、あまつさえそれを取り逃がすなど、近隣諸国の笑い物になってしまいます」
『ああ。だが、それだけではない。先ほど一つ判明したことがある』
「と言いますと?」
『公王が崩御した』
ナーシアの簡潔な台詞にアウロはしばし沈黙した。
刹那、頭の中を幾つかの思考が瞬きのように交錯する。
公王――すなわち、ドラク・ウォルテリス。
それが崩御した。いや、殺されたと考えるべきか。
ナーシアやルシウス。そして、アウロ自身の父親でもある男が。
アウロは自らの声が震えるのを抑えられなかった。
「……そんな、まさか」
『事実だ。とはいえ、陛下の死に関してはしばらく箝口令が敷かれるだろう。国のトップが賊に殺されたなどと、諸侯に知られる訳には行かん』
「しかし、何故です? キャスパリーグ隊の目的は公王を拉致することではなかったのですか?」
『そこまでは分からんよ。最初から公王の死を目的としていたのかもしれないし、なにかイレギュラーな事故が起きたのかもしれん。もしくは――』
なにか言いかけたナーシアは、そこで思い直したかのように口をつぐんだ。
しかし、アウロにもなんとなくナーシアの言いかけたことが分かる。
アウロはしばし間を置いた後で尋ねた。
「ナーシア殿、宰相はどうなりましたか?」
『残念ながら生きているよ。なんでもモグホースの奴め、影武者を使って難を逃れたらしい。全く用意のいいことだ』
ナーシアは苛立たしげに呟いた後で、『それと』と言葉を続けた。
『塔から兄上が帰還した。賊の殲滅に一役買ったそうだ』
「塔? アンプロジウスの塔ですか?」
『他に何がある。どうもあの男、城内の荒れ模様を見てしゃしゃり出てきたらしい』
「……そうですか」
ナーシアが兄と呼ぶ対象は二人だけだ。
その内の一方、第一王子ドラク・マルゴンは前線に出向いている。
となると、姿を現したのはもう片方。アンプロジウスの塔に幽閉されていた、第二王子で間違いない。
――ドラク・ガーグラー。
その名を思い浮かべた途端、アウロは急速に心臓が冷たくなるのを感じた。
アウロとガーグラーは五年以上前に、何度か顔を合わせただけに過ぎない。
が、あの男が放つ強烈な印象だけは未だ色濃く脳裏に刻まれている。
元々、ガーグラーは王家の忌子と呼ばれる存在。
ダグラス・キャスパリーグと同じ『凶眼』の持ち主だ。
その性格は凶暴かつ独善的。野獣がヒトの皮を被っただけのような男である。
アウロもガーグラーとの間には全くいい思い出がない。方向性こそ違うものの、ある意味ナーシア以上に苦手な相手だった。
『とりあえず、アウロ。そちらに回収班を出す。お前はその場で待機していろ』
「了解」
アウロはどうにか平静を保ったまま答えた。
それでも通信が途切れた瞬間、思わず固めた拳を《ホーネット》のシートに叩きつけてしまう。
人間の姿に戻ったカムリが、ぎょっとした様子でアウロの顔を仰いだ。
「あ、主殿?」
「くそ。どうも、してやられたらしい」
「してやられた? なにかまずいことでも起きたの?」
「公王ウォルテリスが殺され、アンプロジウスの塔からガーグラーが解き放たれた。おまけに宰相モグホースも健在だ。ダグラスたちの意図した結果とは、全く真逆のことが起きている」
アウロは深々とため息をこぼし、頭上を仰いだ。
未だ、東の空は分厚い雲に覆われたままだ。
雨脚は地面を抉るほどに強く、吹き付ける風もまるで止む気配がない。
冬の嵐は相変わらず強烈な勢力を保っている。恐らく、今日一杯まではこの天気が続くだろう。
「荒れるぞ、この国は……」
アウロは闇に沈む王都カムロートを見つめたまま、小さく呟いた。




