表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブリタニア竜騎譚  作者: 丸い石
一章:アウロと竜の少女
2/107

1-1

『こちら通信室。アウロ、こっちの声はちゃんと届いてるかな?』


 ヘルムの内側から響く音声に、アウロは手綱ハーネスを握ったまま答えた。


「こちらアウロ、感度は良好。魔導回路マギオニクスにも問題はない」

『分かった。ところで新型機の動きはどうだい? 悪くないだろ?』

「そうだな。特に加速が素晴らしいよ。ついさっき高度10000を越えたところだ」

『できればもう少し上へ行ってみてくれ。高度20000フィートに耐えられるかどうかテストをしたい』

了解ラジャー


 アウロはハーネスをぐっと手元に引いた。


 たちまち急上昇した機体が、ものの数秒で白雲を突き抜ける。

 青空の中。眩い太陽に照らされ、アウロはかすかに目をすがめた。


 今、彼がいるのは高度10000フィートを超える上空だった。

 当然、生身で空を飛んでいる訳ではない。アウロの体はアダマント鋼の装甲に守られている。

 日の光を浴び、鈍色に輝くのは四本腕のプレートアーマーだ。

 その下には翼を広げた竜のシルエットがあった。


「こちらアウロ、目標高度を突破した」


 アウロはバイザーに映る数字が20000フィートを越えたところで、通信室に声をかけた。


『こちら通信室、機体の方は大丈夫か? あまりは無茶しないでくれよ』

「問題ない。で、次はどうする? 25000を目指すか?」

『いや、とりあえずは20000フィートで機体の動きを見てくれ』

了解ラジャー


 応答したアウロはハーネスを片腕で引き、ペダルを軽く左足で踏み込んだ。


 すぐさま機体が旋回を始め、全身に横向きの重力が襲い掛かってくる。

 アダマントに覆われた騎士甲冑ナイトアーマーも、空中動作によるGを全て減殺することはできない。

 それでもアウロは顔色一つ変えぬまま、ヘルム越しに眼下の光景を見た。


 翼を広げた機体の下では白い雲が猛スピードで流れている。

 時折、雲の間にできた隙間からは地上の風景を望むことができた。


 ――ログレス王国はアルビオン島の西部、カンブリア地方に広がる国である。


 国土の大半は山で構成され、その間を縫う形で人間の居住区が広がっている。

 ところどころ金色に輝いて見えるのは、秋の収穫期を迎えた麦畑だろう。

 そこから少し離れた位置には三重の城郭に囲まれた山城と、赤いレンガの家が立ち並ぶ王都カムロートを望むことができた。


「……絶景だな」

『ん? アウロ、なにか言ったか?』

「いや、なんでもない。とりあえず旋回性能は問題ないようだ。現行の《ワイバーン》と同等か、もしくは少し上回るくらいだな」

『そうか。反応速度はどうだい?』

「少なくとも、《ワイバーン》よりかは機敏だ。今度は降下を試してみよう」


 言いつつ、アウロは手綱を引く手をわずかに緩めた。


 即座に揚力を失った機体は急降下を始める。

 ぐっと内臓が押しつぶされる感覚の中で、アウロは器用にハーネスを操り、そのまま雲を突き抜けて機体の上下を逆転させた。

 ひっくり返った機体は空中でアフターバーナーを吹かせると、今度は再び上方に向けて雲の間を突き抜ける。


 結果、機体は見事な円を描いて水平飛行に戻った。

 と同時に、全身に押し付けられていたGが消滅する。

 アウロはハーネスを握り直し、胸の奥から深々と息を吐き出した。


「……悪くない」

『って、こらアウロ。いきなり逆宙返りなんてすんなよ。テストフライトってこと分かってますかー?』

「ああ。それにしても、こいつは随分と運動性が優れているな。エンジンを変えたのか?」

『まぁね。そいつには新型のV型液冷エンジンが搭載されてるのさ。あと機体内の魔導回路マギオニクスにも手を加えたから、《ワイバーン》とはほとんど別物になってるはずだよ』

「なるほど。ただペダルの反応は少し悪いな。それと機体内に熱が溜まっている。冷却が上手く行ってないんじゃないか?」

『んー、その辺は要調整ってことで。まぁ、とりあえず色々と試してみてくれよ』


 「分かった」と言って、アウロは再び機体の操作へと意識を傾けた。


 それからアウロは水平飛行、左旋回、右旋回、上昇、降下を幾度か繰り返した。

 更に機体を緩やかに横方向へローリングさせ、螺旋を描きつつ青空を駆け抜ける。

 開発科の作成した機体はアウロの手綱さばきによく従った。

 彼は上機嫌のまま宙返りして、乗機ごと雲の下へと突き抜けた。


「ところでシドカム、こいつの名はなんて言うんだ?」

『《ホーネット》だよ。まだ開発段階での仮名だけどね』

「なるほど。機動力の高いこの機にはふさわしい名前かもしれない」

『ありがとう。で、そろそろ時間もやばいし基地に戻ってきて欲しいんだけど』

了解ラジャー。アウロ・ギネヴィウス、《ホーネット》帰投する」

『うわ……。ノリノリだよ、この人』


 シドカムの呆れ声を余所に、アウロはハーネスを緩めた。

 今度は機首を下げた機体がゆるやかに降下し、地上へと近づいていく。


 アウロが目指すのは王都の郊外にある、長方形の形に拓けた飛行場だ。

 その飛行場に並んで建つ一際大きな砦が、今の彼の住処。

 カムロートの王立機甲竜騎士養成所だった。











挿絵(By みてみん)

掲載したイラストは天酒之瓢さんから頂きました『機甲竜騎士』の全身像です!

天酒さんが執筆中のKnight's & Magic(http://ncode.syosetu.com/n3556o/)は、私が最も尊敬する作品の一つなので感無量です!

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ