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ブリタニア竜騎譚  作者: 丸い石
一章:アウロと竜の少女
14/107

1-13

 アウロはハーネスを握り締めたまま敵編隊の動きを確認した。


 現在、敵機は小隊長であるルシウスを先頭に、その右後方に分隊長であるハンス。

 そして、左右の両端には僚機であるジョンズとケインが付き従っている。

 上方から見ると、丁度いびつなVの字を描いた形に見えることだろう。


(教科書通りのシュヴァルム戦術……。ルシウスがジョンズと、ハンスがケインとそれぞれ分隊ロッテを組んでいるわけか)


 シュヴァルム戦術とはすなわち、四機二組の小隊によって敵と交戦する戦法である。

 フォーメーションを組んだ二機の分隊は、互いに連携を取りながら戦うことができる。

 東大陸からもたらされたこの戦法は現在、ログレス機甲竜騎士団の基本戦術として用いられていた。


「カムリ! 敵はフィンガー・フォーと呼ばれる編隊を取っている! まずは敵の左方から背後に回りこむぞ!」

【らじゃー!】


 アウロがハーネスを左腕で引くと、それに答える形でカムリも左方向へと旋回した。

 途端に襲いかかってくる横向きのGに、アウロは歯を食いしばって耐える。

 と、そこで敵編隊がいち早く先制攻撃を仕掛けてきた。

 パッパッとガンランスの先端が瞬き、真っ白に燃える魔導弾が射出される。


【て、敵の攻撃が来る!】


 カムリが叫んだ直後、機体の上下を通過する形で光の弾丸が尾を引いた。

 その内の一発が右翼の先端をかすめる。ジジッと導火線の燃えるような音が、アウロの耳に届いた。


【ぴあっ!?】

「うろたえるな! 単なる牽制だ!」

【で、でもちょっと翼にかすったよ! それにちゃんと避けたはずなのに、手前で曲がったような……】

「ガンランスから発射される魔導弾には全て、微弱なホーミング機能が付いている! 紙一重で避けようとすると直撃を食らうぞ!」

【そういうことは早く言ってよ!】


 カムリは悲鳴を上げながら、接近する敵編隊と交錯した。

 すかさずアウロはハーネスを右腕で引く。手綱の指示に従い、カムリは右方向へと旋回を開始した。


【敵の後ろに回り込んだ! でも――!】


 敵機の背後を取ろうとしているのは相手側も同じだ。

 ルシウス・ジョンズ組は右方向に旋回し、ハンス・ケイン組は左方向へと旋回している。

 敵が二手に別れたのを見たアウロは機首を左に向けた。ハンス・ケイン側の分隊を追撃する形である。


「カムリ、まずは敵の第二編隊を狙う。どうも奴らは連携を取りやすいよう、腕前の近い人間同士で組んでいるらしい」

【えーと、つまり第一編隊が強くて第二編隊が雑魚ってこと?】

「そうだ。それと第二編隊を追尾している間、第一編隊から攻撃を受けるはずだ。正面以外の状況も把握しておけ」

【わ、分かった。頑張るよ】


 「よし」と頷いた後で、アウロはハーネスの操作に意識を集中させた。


 機甲竜騎士ドラグーンによる格闘戦は一般にドッグファイトと呼ばれている。

 これは機竜同士が互いの後方を取ろうと、激しく旋回を繰り返す様子が犬の喧嘩に似ているためだ。

 そもそも、ガンランスの攻撃範囲は前方のみ。敵を照準に捉え続けるためには、どうあっても相手の背後――距離にして1000~3000フィートのポジションを占位しなくてはならない。

 これ以上遠ければ発射した弾丸はなかなか当たらないし、近ければ自ら放った魔導弾の余波で機体がダメージを受けることもある。


(問題は……)


 この後、敵がどのような動きに出るかということだ。


 現在、相手は二機一組の分隊を構築したまま二手に分かれている。

 そしてアウロはこの内、第二編隊に対して格闘戦を仕掛けている。

 当然、第一編隊は自由な状態のまま捨て置かれている形だ。


 となると、ここで第一編隊が取れる選択肢は二つある。

 一つは第二編隊を囮にして敵の背後から機竜を撃墜するという選択。

 もう一つは積極的に手を出さず、第二編隊に敵を追い込ませるという選択。


(実戦であれば味方を守るため、間違いなく前者の選択肢を取る場面だが――)


 アウロは「カムリ」と自らのパートナーに声をかけた。


「ルシウスがいる第一編隊の動きを確認できるか?」

【え、えーと、さっきからずっと距離を取ってこっちを追尾してきてるみたいだけど】

「速度と高度は?」

【全然変わってないと思う。いや、むしろ高度を上げてるような……】


 その報告にアウロは口元をつり上げた。


(ルシウス、やはり最も安全な方法を取ってきたな)


 確かに、味方を囮とする戦法は迅速に敵を仕留めることができる。

 が、一方で相手を仕留めきれなければ、無駄に空戦エネルギーを浪費してしまう結果に終わってしまうのだ。

 どうやら、ルシウスはじわじわと真綿で相手の首を締め付ける戦法を選んだらしい。

 つまり猟犬である第二編隊で敵を疲弊させた後、狩人である自分自身――第一編隊による攻撃を敢行するというわけだ。


【ねぇ、主殿。これ、なんで相手の第二編隊は高度を上げてるの?】

「ん……? ああ、それは空戦エネルギーを稼いでいるんだ」


 言いつつ、アウロは機首を左方へと向けた。


 追尾されている二機は今のところ、きちんと並んで旋回を継続している。

 どうも相手方もアウロの出方を伺っている段階らしい。

 とはいえ、カムリの運動性は《ワイバーン》より上だ。いたちごっこを続ける中で、着実にお互いの距離は迫りつつ合った。


【えーと、空戦エネルギーって?】

「位置エネルギーと運動エネルギーの総和だよ。ドラグーン同士がドッグファイトを続けていると、旋回の影響で徐々に速度が低下してしまう。だから、パイロットは位置エネルギー(高度)運動エネルギー(速度)に変換して、敵を追尾し続けなくてはならない。逆に速度を犠牲にして高度を得ることもできるが、一瞬で空戦エネルギーを確保する手段は皆無だ。ある意味、この空戦エネルギーってのはドラグーンにとって第二の燃料タンクと言ってもいい」

【う……そ、その主殿、もうちょっと分かりやすく……】

「またいずれちゃんと説明してやる。とりあえず、今は空戦エネルギーの低い方が不利。高い方が有利とだけ覚えておけ」

【わ、分かった】


 カムリは混乱した様子ながらもそう答えた。

 どちらにしろ今はきちんと解説をしている暇もない。

 先ほどの会話の間に、敵の第二編隊は緩やかに機体同士の距離を離そうとしていた。


「……カムリ、第一編隊はどの位置にいる?」

【わらわたちから見て五時の方角。高さは大体こっちの二倍くらい】

「そうか。こちらの高度が8000フィートだから、連中は約16000フィートの位置を陣取ってる計算になるな」

【こ、これやばいんじゃないの? 空戦エネルギーうんぬんの話はよく分からないけど、竜騎士同士の戦いで頭をとられるのはまずいよ。それになんだか追い込まれてるような――】

「その通りだ。恐らく、そろそろ仕掛けてくるぞ」


 カムリは【え?】と声を漏らした。

 丁度そこで、アウロの追尾を受けていた二機が二手に分散した。

 左手の一方は右旋回。右手の一方は左旋回。互いに僚機の内側へ回りこむ形だ。


【主殿、相手が左右に別れた! どっちを追う!?】

「左だ」


 アウロはすかさずハーネスを左腕で引いた。

 直後、ぞっとナイフを突きつけられたような感覚が背筋に走る。

 状況を確認するより先に、アウロは左ペダルを思いっ切り足で踏み込んだ。


【う、わぁっ!】


 途端、左に傾いていた機体は横向きに回転ローリングしてしまう。

 しかし、結果的にこの判断は正解だった。アウロが緊急回避を行った刹那、ロールする機体の真横を、上空から急降下してきた《ワイバーン》が猛スピードで通過したのだ。


(ランスチャージ……!)


 ジッと音を立て、突き出された槍の先端が機竜のボディをなぞっていく。

 もし先ほどまでの位置にいたら、間違いなく右の翼をもぎ取られていただろう。

 遅れて敵機からの通信がアウロの耳に届いた。


『ハハハハ! よく避けたな、ギネヴィウスぅ!』

「……ジョンズか」


 機体を立て直しながらアウロはかすかに目をすがめた。


「随分と野蛮だな。決闘で急降下突撃ダイビングチャージを行うなど」

『別に構わんだろう? どうせ養成所の機竜ではないんだ。機体を破壊したところで王国の損失にはならないさ!』


 哄笑しながら、下方へ突撃をかけた機体はVの字を描いて急上昇していく。

 そのまま、ジョンズの《ワイバーン》は一瞬にして16000フィートの上空まで逃れた。

 アウロにそれを追う術はない。彼が第二編隊と追いかけっこをしている最中に、彼我のエネルギー格差は絶望的なまでに広がっていた。


【あ、主殿! い、今の……!】

「悪いな。あと一秒反応が遅れていたら、お前の翼を折られていた。本来、こんな模擬戦もどきの決闘で危険なランスチャージを行うことはない。そう思って油断したようだ」

【い、いや、わらわも相手の攻撃に気付かなかったし……。それにしても相手の機体、一瞬でスピードが上がったように見えたけど】

「恐らく、アフターバーナーを使ったんだろう。急降下すると同時に魔光砂を燃焼させて、一時的に凄まじい加速力を得たんだ」

【なにそれ……。機竜ってのはそんなことまでできるの?】

「できる。だから常に相手の動きには警戒しろ。前方だけでなく、前後左右上下の全てに意識を張り巡らせるんだ。一瞬の隙が命取りになるぞ」

【ら、らじゃー……】


 カムリの返答は涙声になっていた。案外、窮地には弱いらしい。


(だが、今の突撃でこちらにもランスチャージを使う大義名分ができた……)


 決闘において機体を破壊するランスチャージは忌避されている。

 が、それはあくまで暗黙の了解だ。ルールとして明文化されている訳ではない。

 相手が先に危険を侵してきたのであれば、アウロとしてもチャージをためらう気はなかった。


 そうこうしている間にも、上方からルシウス機とジョンズ機による砲撃が降り注いでくる。

 どうやら敵は空戦エネルギーを稼ぐ作業を取りやめ、積極的に相手へ攻撃を仕掛ける段階に入ったようだ。

 こちらの後方めがけて降下してはガンランスをぶっ放し、上昇。再び相手の砲撃が届かない上空へと逃れていく。

 この一撃離脱戦法を断続的に繰り返されるのだから、アウロとしては溜まったものではない。


『フハッ! 早くも詰みかよ、ギネヴィウス!』


 ヘルム内に響く笑い声。そこには勝ち誇るような気配がある。


 だが、アウロはまだ冷静さを残していた。

 上空の第一編隊には今のところ手の打ちようがない。

 これは第二編隊を追うと決めた時から分かりきっていたことだ。


「……さて」


 アウロは呟いた。

 にぃ、とその口元が獰猛につり上がる。

 その錆色に濁った瞳は、反転し、こちらに向かってきつつある敵機の姿を捉えていた。


『ギネヴィウス、覚悟!』

『このまま終わらせてやるぜ!』


 どうやら味方の有利を見て、第二編隊の二機も逃げ回ることをやめたらしい。

 僚機と連携を取りつつ、こちらの正面から砲撃をかける狙いと見える。

 無論、彼らの判断は間違いではない。ただ、それはアウロの想定内でもあった。


(お前たちならそうしてくれると思ったよ!)


 計器を見れば、高度は5000フィートを下回りつつある。

 反撃をかけるとしたらこのタイミングだ。

 アウロは笑みを浮かべたまま、ハーネスをわずかに緩めた。


「カムリ、急降下しろ!」

【らじゃー!】


 がくりと機首が下がり、真紅の機体はみるみる下方へと沈んでいく。

 直後、敵の第二編隊による砲撃がアウロの頭上を通過した。

 二条の閃光が虚空へと消える中、ヘルム内に驚愕の声が響く。


『なっ、この高さから更に下に……!?』

『ギネヴィウスの奴め、正気か!?』


 機体の高度は一瞬にして500フィート近くまで低下していた。

 視線を下に向ければ、高速で流れる大地の様子を伺うことができる。

 この数字は機竜が航行する上で安全とされるギリギリのラインだ。

 当然アウロもこれ以上、下に降りて胴体着陸するような真似はしたくない。


(しかし、この程度のリスクは受け入れなくてはな……!)


 今までは散々相手のいいようにやられてきた。だが、次はこちらが反撃する番だ。

 固く手綱を握り締めたままアウロは吼えた。


「行くぞ、カムリ! 速力を限界まで上げろ! 反転して奴らを叩き潰す!」

【お、おう!】


 どもりながらも返ってくる威勢のいい返事。

 アウロは間髪入れずに、ハーネスを思いっ切り自らの手元へと引いた。


 すぐさま機首を引き起こされた機体は急上昇し、地面と垂直状態になる。

 次いでアウロは背面飛行に移ると同時に、機首の方位を百八十度反転させた。

 傍目には、真紅の機体が横を向いたUの字の軌道を描いたように見えただろう。


「く……!」


 襲いかかるGに全身がみしみしと不気味な音を立てる。

 世界の上下が逆転し、地面が空へ、空が地面へと切り替わる。

 この瞬間、アウロの中の平衡感覚は消滅した。それでも、バイザー越しの視界には先ほど頭上を通過した《ワイバーン》の機影がはっきりと映っていた。


『い、インメルマンターンだと!?』

『そんな……この高度! このスピードで!?』

『なにをやってる! ハンス、ケイン、さっさと逃げろ!』


 恐らく、チャンネルを切り替え忘れているのだろう。

 ヘルム内には相手側の通信がガンガンと音を立てて響いている。

 しかし、アウロの意識は目の前を飛ぶ二匹の獲物だけに向けられていた。


 どうやらこちらの挙動に気付いた相手は、再び旋回してガンランスの照準から逃れようとしているらしい。

 だが、あまりにも反応が遅すぎる。敵機との相対距離は2000フィート。

 既にこちらは相手の追尾可能領域トラッキングゾーンに潜り込んでいるのだ。


(馬鹿め。戦闘中に冷静さを失うとは……)


 アウロは背面飛行の状態から機体をローリングさせ、水平飛行に戻った。

 ガンランスの落ち窪んだ砲口が隙だらけの《ワイバーン》に狙いを定める。

 十字の照準がぴったり敵機と重なった。ピィーッと音を立て、ガン・クロスが真っ赤に染まる。


「落ちろ」


 すかさずアウロはガンランスのトリガーを引いた。


 直後、立て続けに放たれた白色の光弾が《ワイバーン》のボディへと吸い込まれた。

 着弾と同時に、炸裂した魔導弾が周囲に眩い閃光を散らす。

 花火のように広がる烈光の数は五。五発の模擬弾が直撃した証拠だ。


『がっ!? ギネヴィウス、貴様……!』

『ハンス・エアーズ。三発の被弾を確認した。直ちに着陸せよ』

『……くっ』


 機械的な裁判官の指示に従い、撃墜扱いの《ワイバーン》が機首を下げ、地面へと降りて行く。

 真紅の機竜は速度を落とすことなく、その頭上を通過して行った。


【や、やった! すごい、主殿! 一機落としたよ!】

「油断するな。敵はまだあと三機も残っているんだ」


 快哉を上げるカムリに対し、アウロの反応は淡々としたものだ。


「カムリ、第二編隊の残る一機はどこにいる?」

【九時の方角! 旋回してこっちの後ろにつこうとしてる!】

了解ラジャー。また下から回りこむぞ」

【分かった! あ、あとまた上からランスチャージが――!】


 カムリが言い終わるか言い終わらないかの間に、アウロは再び手綱を緩めた。

 しかし、今度は同時に左ペダルを踏み込んでおく。結果、機体は左旋回をしながら下方へと沈み込んだ。

 やや遅れて、先ほどまで機体のあった位置をガンランスの穂先が切り裂いた。


『ギネヴィウスゥゥゥ!』

「悪いな、ジョンズ。今はお前に構ってる暇がないんだ」


 アウロはそっけなく言い捨てると、機体を旋回に合わせて急上昇させた。

 ロースピード・ヨーヨーと呼ばれる、相手の背後を占位するための空戦機動マニューバだ。

 高速飛行による煽りを受け、ボディのすぐ下で養成所近くの森がざわざわと震えた。


(本来、高度に余裕がないこの状況ならば、上方から回りこむハイスピード・ヨーヨーを使うべきだが……)


 ルシウスの第一編隊に頭上を取られた状態で、高度を上げるのは自殺行為だ。

 だからこそ、例え危険と分かっていても高度を速度に変換し、下方から回りこむしかない。


 ギギギギギッ!


 度重なる上下運動によって、アーマーを固定するワイヤーが悲鳴じみた軋みを漏らす。

 アウロは歯を食いしばり、全身を押し潰される感覚に耐えた。

 視界が段々と灰色に染まり始めるがまだ視野喪失ブラックアウトするほどではない。


【あ、主殿! なんかやばそうだけど大丈夫!?】

【問題ない!】


 声を出す余裕はなかった。返事は念話によるものだ。

 やがて、アウロは5000フィートの高度に帰還したところで手綱を緩めた。

 途端に全身を襲うGが消滅する。肺の奥から息を絞り出しながらアウロは尋ねた。


「カムリ、ケイン機の位置は?」

【十一時の方角! また旋回して逃げようとしてる!】


 色彩を取り戻し始めた視界の中、鈍色の《ワイバーン》が側面へと逃れていく姿が見えた。

 パニックに陥って鴨撃ちにされたハンスと違い、ケインはきちんと冷静な思考を残しているらしい。

 下方から背後に回り込んできたアウロにも慌てることなく、機体を八十度バンクさせ、急速旋回して逃れようとしている。

 このまま相手を追尾すれば、また無駄に空戦エネルギーを消費することになるだろう。


 アウロの決断は速かった。


「カムリ、推力最大! ランスチャージを敢行する!」

【ら、らじゃー!】


 おっかなびっくりながらも、カムリは機首を旋回する敵機の進路へと向けた。

 次いで、凄まじい加速を得た真紅の機体が流星のような勢いで《ワイバーン》へと襲いかかる。

 アウロは身を伏せながらもガントレットを操り、ガンランスの鋭く尖った穂先を相手へと突き出した。


『う、うわぁっ!?』


 ケインはその瞬間、恐怖に我を忘れた。

 恐らく、そのまま旋回を続けていればランスの直撃を受けることもなかったはずだ。

 だが、彼は迫り来る機甲竜騎士ドラグーンのプレッシャーについ手綱を緩めてしまった。

 結果的にそれが《ワイバーン》のスピードを鈍らせ、勝負の明暗を分けた。


 ――ガガガッ!


 耳障りな破砕音と共にガンランスの先端が敵機の左翼を抉る。

 真紅と灰色の機体が十字を描いて交錯し、その内の一方が下へ落ち、もう一方が上へと飛び立った。

 当然、黒い煙を上げながら墜落しているのはハンスの《ワイバーン》だ。

 アウロのランスチャージによって彼の機体は完全に航空能力を喪失していた。


「チャージ成功。敵機の撃墜を確認」

【やった! 残りふた――つあっ!?】


 歓声を漏らしかけたカムリだが、その直後、アウロの右横で白い閃光が弾ける。

 どうやら後方から発射された魔導弾を右の翼に食らったらしい。

 カムリは一転してばつの悪そうな声を漏らした。


【う……ごめん、主殿。一発貰った】

「いや、むしろ一発で済んで良かった。突撃の後はどうしても隙ができるからな」


 なにせ、ランスチャージでは機竜同士が正面から激突するのだ。

 もしランスが敵機に直撃した場合、反動で攻撃側も大きくスピードを失ってしまう。

 計器を見れば高度は4000フィートまで低下しており、速度も100ノットを下回っていた。かなり危険な状態だ。


『おのれ、ギネヴィウス! よくもハンスとケインを!』


 怒り狂ったジョンズが、上方から立て続けに魔導弾を打ち込んでくる。

 アウロは小刻みに旋回を繰り返して、敵の狙いを左右に散らした。


 首尾良く第二編隊を撃破したとはいえ、ルシウスとジョンズの第一編隊は未だに健在。

 おまけに満身創痍のアウロと違い、相手は十分な空戦エネルギーを確保したままだ。


(さて……)


 本当に厄介なのはこれからだった。

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