↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/1

第1話:画面の向こうの処刑台

深夜二時。六畳一間のアパートで、蓮見湊(ハスミ ミナト)は液晶画面の光に顔を青白く照らされていた。

 画面に映っているのは、かつて親友だった男、拓海の顔写真。その上には赤黒い文字で『死亡確定』のスタンプが押されている。

 一ヶ月前、拓海は死んだ。肉体は無傷だったが、社会的、精神的に完全に殺されたのだ。

 きっかけは、招待制の裏動画配信プラットフォーム『X-Stream(エクストリーム)』。

 世界中の富裕層が極上のスリルを求めて集まるその闇サイトでは、金ではなく、人間の『価値』が賭けの対象になっていた。

 拓海はそこでハメられた。過去の些細な過ちを針小棒大に暴露され、勤務先、実家の住所、卒業アルバムまで全てをネット上に晒された。秒単位で膨れ上がる数万件の誹謗中傷、鳴り止まない脅迫電話。精神を病んだ拓海は、自ら線路に飛び降りた。

 拓海をハメた張本人のアカウントが、今も画面の向こうで高笑いしている。

 チャンネル名――『マキシマム・ジンチャンネル』。

 登録者数五十万人を誇る、X-Stream内の人気迷惑系配信者だ。

「おいおいおい! 見ろよこの同接! ついに三万人突破だぜぇ!」

 画面の中で、金のネックレスをジャラジャラと鳴らした男――ジンが、カメラに向かって中指を立てている。

 ジンの配信画面の右側には、目まぐるしく流れるコメント欄。そして左側には、このサイト独自の残酷なメーターが表示されていた。

『ライフ・バリュー(生命価値ポイント)』

 視聴者からのギフト(投げ銭)や、注目度(同接数)によってリアルタイムで変動する数値だ。これがゼロになったプレイヤーは、運営によって「全個人情報の強制開示(デス・バズ)」という社会的死を処刑される。

「今日の企画はさぁ、俺に生意気なDM送ってきた、どっかのバカ動画編集者を公開処刑してやろうと思いまーす! ツールはいつも通り『ミリオン・オア・ゼロ』! ルールは簡単、十五分間の同時配信で、どっちが同接を稼げるか! 負けた方のスマホのデータは全ハッキング、ネットに全放流だ!」

 ジンの背後にあるモニターに、湊のアカウント名『ミナト』が表示される。登録者数はわずか一人。

 コメント欄が爆発的に加速する。

『草。登録者一人は一瞬で死ぬわ』

『ジンさん、また一般人一人ぶっ壊すのかよ最高』

『お、処刑ショーの時間だ!』

 富裕層たちの歪んだ欲望が、画面の向こうから熱を帯びて伝わってくる。

 湊は、静かにキーボードの前に手を置いた。

 彼の本業はデータアナリスト兼、動画編集者だ。普段は「気が弱くて愛想の良い、頼めば何でもタダで引き受けてくれる便利屋」として周囲に溶け込んでいる。しかし、その内側にある頭脳は、極限まで冷徹だった。

(ジン。お前は拓海を殺した時、視聴者の心理をコントロールして勝った。だが、お前が信じているそのリスナーの心理も、ただのデータに過ぎない)

 湊は手元のマイクを引き寄せ、自身の配信開始ボタンをクリックした。

 カチリ、と小さな音が響く。

 その瞬間、湊の脳から「感情」というノイズが完全に消え去った。代わりに起動したのは、画面上の全てのピクセル、コメントの流れる速度、ラグの秒数を計算する冷酷な論理思考(ロジック)だ。

 湊の配信がスタートする。カメラに映る彼の顔には、普段の気弱な面影は一切ない。冷徹な、獲物を狙う蜘蛛のような瞳。

「初めまして、マキシマム・ジンさん。そして、画面の向こうの悪趣味な観客の皆さん」

 湊の声は、ジンの怒号とは対照的に、低く、驚くほど静かに響いた。

「僕のライフ・バリューは、あなたの言う通り底辺です。ですが、ギャンブルとは確率のゲーム。そしてネットの世界は、アルゴリズムの奴隷だ。あなたがこれまで積み上げてきた五十万人のフォロワーという砂の城、これから十五分で、すべて叩き潰してあげます」

 その宣戦布告に、一瞬だけコメント欄の動きが止まった。

 ゲーム開始のタイマーが、画面中央でゼロを示す。

『GAME START:15:00』

 社会的死を賭けた、地獄の配信が幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。