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実体験

偏食な子供と父の逆転

作者: 綾小路隼人
掲載日:2026/05/31

小学校の昼休みの教室で、皆が皿とトレーを片付けている中で僕は給食の皿と向き合って取り残されていた。


「全部食べるまで昼休みはお預けです!」


年配の女性教師の厳しい声が教室に響く。

皿の上では、恨めしそうに僕を見上げる野菜や中華料理が冷めて固まっていた。


当時の僕は偏食の塊で、僕の世界にある動物性蛋白質は肉と卵と鮭の三点のみで構成されていたのだ。

納豆や中華料理に至っては匂いの時点で顔を背け、一口も口にする事なく拒絶した。

ある時は祖父母の家で出された手料理が口に合いそうもなく、齧りもせず文句を言ったら僕のあまりのワガママぶりに普段は温厚な祖母が「いい加減にしなさい!! 作ってもらっておいてそんな態度はないでしょ!」と激昂した事があった。

あの時の祖母の怒りと悲しみが混じった表情は、苦い思い出の一つとして今でも記憶に残っている。


しかし人間というのは不思議なもので、中学二年生という多感な時期を迎えた頃に僕の味覚に劇的な革命が起きたのだ。

祖父母が丹精込めて作った手料理の素材そのものの滋味がようやく理解できるようになったのか。

あるいは当時夢中になっていた漫画やアニメで、美味しそうに食事するキャラクター達に感化されたのか。

気付けば僕は、あれほど嫌だった野菜や魚を「大好きだ」と公言するほど変化を遂げていた。


「……で、当時の先生達が今の僕を見たら目玉が飛び出るだろうね。」


夕食のカレーライスを頬張りながら、僕は隣に座る父に笑いかけた。

どういう流れなのか、料理の彩りであるグリンピースへと話題が移る。


「実はさ、僕は小さい頃にグリンピースに憧れてたんだよね。」


僕のその言葉に父はスプーンを止めて、心底信じられないといった風に目を丸くした。


「……普通の子供はグリンピースを避けるぞ。」


驚いたのは僕の方だ。

確かにあの独特の青臭さと、口の中でポクポクと崩れる食感は好き嫌いが分かれるだろう。

けれど僕にとってはそれが大人の味への入り口に思えてむしろ好ましい。


「パパこそ好き嫌いが多いじゃないか。抹茶とラムレーズンと、鰻とデラウェアが食べられないんだから。」


僕が茶化すと、父はバツが悪そうに視線を逸らした。

偏食が直ってどんな食べ物も難なく食べられるようになってから数年が経ち、今度は父の方が食べ物の好き嫌いが多い事に気付いたのだ。

父が抹茶菓子(抹茶クリーム大福は別だが)やラム酒入りのチョコレートをよそから貰った時はいつも僕が食べる事になっているし、世間一般ではご馳走とされている鰻も食べられない為、父と外出している時に鰻が食べたくなったらうな重以外のメニューもある店を探さなければならない。

もっとも、通ってた小学校のクラス会で挑戦した抹茶スイーツは何とか食べられたようだが。


かつて祖母をも怒らせるほど頑固だった偏食な子供は、今や父が食べられないものを引き受ける守備範囲の広い大人へと成長した。

もしも小学校時代にタイムスリップができるなら、給食の時間に泣きそうになっているあの頃の僕にそっと教えてあげたい。

「大丈夫。いつか好き嫌いが直って、皆との食事を心から楽しめるようになるから。」と。

鰻とデラウェアが嫌いな人は、父以外で未だに見た事も聞いた事もありません(苦笑)

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