ep8.未来都市 千年前の記憶3
漆黒の巨人が、最期の悪あがきと言わんばかりに全身の出力を上昇させる。駆動音が耳を刺す高音へと変わり、紅いモノアイが血のような光を放った。
「これで、終わりだッ!!」
シリウスは二本の剣を十字に交差し、全魔力を星の剣へと注ぎ込む。呼応するように、ミラの周囲の赤いオーラが爆発的に膨れ上がった。
「やぁぁぁぁぁぁ!」
ミラが地面を蹴り、巨大ロボの懐へと飛び込む。漆黒の巨人が展開した重圧な障壁を前に、ミラの右拳に凝縮された赤き魔力が、さながら小さな太陽のように膨れ上がった。
「――『天体衝突』!!」
その小さな拳が放った渾身の衝撃。
直撃した瞬間、物理法則を置き去りにした爆発的な振動が、巨人の障壁をガラス細工のように粉砕し、強固な胸部装甲を内側から歪ませた。
「今だ、シリウスッ!!」
生じた一瞬の隙間。
シリウスは二本の剣を一点に重ね、全魔力をその先へ集中させる。呼応するように星の剣が激しく蒼く励起した。
「いっけぇぇぇぇぇ!!」
シリウスが蒼い閃光となって突っ込む。
ミラの衝撃波で浮き上がった「核」へと、二振りの剣を重ねた渾身の突進突きが突き刺さる。
――ズバァァァッ!!!
脳天から中枢までを一気に貫かれた漆黒の巨人は、断末魔のような駆動音を響かせ、眩い光と共に霧散した。
静寂が訪れる。
それと同時に、シリウスのペンダントから蒼い光が引いていき、ミラの体を包んでいた赤いオーラも、霧が晴れるように消えていった。
「……終わったのね」
ミラの瞳は元の色に戻り、いつもの穏やかな表情になる。
シリウスはふと手元の剣に違和感を覚えた。
「うおっ……!? お、重っ……!」
さっきまで羽のように軽かった星の剣が、突如として鉛のような元の重量に変わったのだ。シリウスはたまらず剣先を地面に突き立てた。
「ふむ……どうやら、今は、いわば『鞘』に入っている状態なのだろう」
「さっきのロボットはなんだったんだ!?」
師匠が双剣を納めながら、感心したようにうなずく。
「……はぁ、はぁ……。博士! 無事……だったんだ。よかった……」
10歳の少年にはあまりに重い疲労の中、シリウスが真っ先に確認したのは、一緒にこの世界へ飛ばされてきた博士の安否だった。
「わ、わしも……心臓が止まるかと思ったぞ。二人とも、大丈……夫か? 」
博士がおぼつかない足取りで駆け寄り、おろおろと二人を見つめる。
「……うん、なんとか。でも、ごめん……少し休ませて。なんだか、力があまり入らなくて……」
ミラが地面に座り込んだまま、震える自分の手を見つめる。10歳の小さな体には、先ほどの「アステロイド・ブレイク」の反動はあまりに大きかった。
「……無理もない。あんな規格外の一撃を放ったのだ。全身の神経が悲鳴を上げているのだろう」
師匠はやはり驚く様子もなく、冷めた目で戦場を分析し続けていた。博士はその師匠の様子を見て、不思議そうに首を傾げる。
「……あのロボットはわしの世界のロボット工学では説明がつかん存在だったぞ」
「つまり、この世界のロボットではないと言うことか、しかし、1000年たってるからなぁ」
「いや、そもそも、この施設の生き残りはこの施設の状態からおらんはずじゃ、1000年であんな戦争に使うようなロボットを作るはずがないんじゃ、作るとしてもこのような廃墟では作る意味がないじゃろう」
「確かに、その通りだな」
師匠はことの異常さを再認識した。
数分間の沈黙。10歳の二人にとっては、この静寂さえも痛みを癒やす薬のようだった。
「……よし。シリウス、そろそろ行こう」
シリウスがふらつきながら鞘に収めた星の剣を腰に装備し、おじいちゃんから貰った銅の剣も反対側の鞘へ収めた状態で立ち上がる。
「ミラ、大丈夫……?」
「……うん。でも、足が動かなくなっちゃったみたい」
悔しそうにするミラの前に、師匠が背中を向けた。
「ミラ、俺が運ぶ。乗れ、先を急ごう、原因を調べた方がいいだろう、それに恐らくここより先の部屋の方が安全だ」
「うん」
シリウスは鉛のように重くなった星の剣を、歯を食いしばって持ち上げた。剣先が床を削る鈍い音が、静かな廊下に響く。
師匠におんぶされたミラ、重い剣を引きずるシリウス、そして自分の世界の知識が通用しないことに困惑する博士。
一行は、歴史の深淵が眠るメインコンピュータルームへと、再び歩み出した。
◇◇◇◇
「むう、やはり認証が通らん! ……いや、違うな。認証システムそのものが、外側から『侵食』されて書き換えられておる!」
「ミラ、さっきのあの凄い力で……これもどうにか出来ない?」
シリウスの問いに、ミラは困ったように自分の手を見つめ、扉にそっと触れた。
「……うーん、ダメみたい。さっきは、なんだか頭の中が真っ赤に燃えてるみたいだったけど……」
ミラが「えいっ」と扉を拳で叩くが、コンコンと乾いた音が響くだけだ。
「そんな……。じゃあ、力技は無理か」
「……博士。このロック、中のボルトが歪んで噛み合ってるだけかも」
ミラが端末をのぞき込み、冷静に構造上の欠陥を指摘した。
「何? ……おお、それならば、わしではなくあんたら二人の出番じゃな」
「えええーーー!? 結局、最後は筋肉なの!?」
シリウスと師匠が扉の隙間に指をかけ、顔を真っ赤にして踏ん張る。
「ぬ、ぬおおおおおっ! 重すぎるだろこれ!」
「気合を入れろシリウス! 剣の修行だと思え!」
「師匠、きつすぎだよ!」
ミラが腕のリングから、怪しい両腕のロボットを取り出し扉の前に配置する。
「ミラ、そんなものがあるなら先に出してくれ」
シリウスと師匠の声が重なる。
ズズ……と、ミラの取り出した両腕のロボットが重い扉を軽々と強引に開いた。1000年の沈黙を破り、巨大な扉がゆっくりと開き始めた。




