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二振りの剣と星の航跡 〜次元を越え、時を超える少年の物語〜  作者: @SsRay
少年編

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2/17

ep2.運命の出会い

 たった五分前まで、そこは陽光が木々の隙間からこぼれ落ちる、穏やかな山道だったはずだ。

 だが、道の真ん中に、空間を切り裂いたような漆黒の亀裂が浮かんでいた。

 覗き込もうと一歩、その境界を跨いだ瞬間だった。

 内側から溢れ出した不思議な力に背中を押され、シリウスの身体は吸い込まれるように闇の中へと転じ、光と影が反転する。


 ――そこは、ただの『夜』だった。


 だが、見上げる空はあまりに異常だった。

 太陽の残滓すら残っていない真っ暗な天頂に、見たこともないほど巨大な星々が、宝石をぶちまけたように不気味なほど近くで瞬いている。星座の形も、星の色も、シリウスが今まで見てきたものとは、何一つとして一致しなかった。


 混乱で足がすくむシリウスをあざ笑うかのように、闇の奥からカサカサと不気味な音が響いた。


 現れたのは、岩のような外殻に覆われた、手のひらより二回りほど大きいだけの丸い魔物だった。だが、それが十数匹。赤く光る目を向け、シリウスを包囲するように集まってくる。


「くっ……これなら!」


 シリウスは、おじいちゃんから貰ったばかりの剣を、震える手で抜いた。


 まだ10歳の細い腕には、鋼の重みすら頼りない。

「くるな! くるなよ……っ!」


 一番近い一匹が、弾丸のような速度で跳ねた。


 ――ガツッ!


 必死に剣を振るうが、もらったばかりの剣術は空を切り、魔物の鋭い外殻がシリウスの右足を深く切り裂く。


「いたっ……!? がぁっ……!」


 激痛と共に膝が折れる。小さな魔物たちの群れが、傷ついた獲物を仕留めようと、一斉に回転を上げて加速を始めた。10歳の少年には、あまりに絶望的な包囲網。


「師匠! こっち、こっちから子供の声がしたよ!」


 その時、静寂を切り裂くような、鈴を転がす少女の声が響いた。


――キーン!


 直後、銀色の閃光が闇を薙ぎ払い、シリウスを襲おうとした魔物たちが一瞬で弾け飛んだ。二振りの剣を構えた男が、守護者の如くシリウスの前に舞い降りたのだ。


「危なかったね、君、大丈夫!?、こんな夜中に森の中を歩くなんて危ないよ」


 駆け寄ってきたのは、二振りの剣を構えた男とシリウスと同じくらいの年齢――十歳ほどの少女、ミラだった。


「怪我をしてるのかい? これは、ミラにお願いしようかなぁ」


「はーい。丁度持っててよかったわ、わたし特性の回復薬よ! テストはしてあるから大丈夫!」


彼女はシリウスの足の傷を見るなり、背負った奇妙な筒――科学銃を迷わず引き抜き、シリウスに銃口を向けた。


「え! えぇぇぇぇ!……っ」


シリウスはとっさに手を上げた。


「大丈夫よ! 動かないで! これ、回復薬を詰めた特製なんだから。……いくよ!」


「いや、そんなこと言われても、動けるなら動きたいよぉぉぉぉ!」


 ――パシュンッ!


「うわああああぁっ!? 痛ぇぇっ、何すんだよ」


 着弾の衝撃にシリウスが叫ぶ。だが、ミラは腰に手を当てて、勝ち気な笑みを浮かべた。


「うるさいなぁ、痛くない! ほら、よく見てみなさいよ、治ったでしょ?」


 見れば、傷口は見る間に塞がっていた。痛みは引き、温かく不思議な力が巡っている。


「……治ってる!」


 震える声でまくし立てるシリウスを、男――師匠が静かに遮った。


「君はここで何をしていたんだい?」


「あそこの穴から来たんだ! いつも町へ行く道を歩いていたら、変な穴が開いてて……。気になって入ってみたら、朝だったのにいきなり夜になっちゃって、見たこともない魔物に襲われたんだよ!」


 シリウスが必死に指差す先。だが、師匠は鋭い眼光をそちらへ向けたものの、怪訝そうに眉を寄せた。


「穴……? 何も見えないが、そこに何かあるのかい?」


 最強の剣士である彼の目を持ってしても、そこにはただ静まり返った夜の闇が広がっているだけだった。


「えっ、見えないの!? ほら、あそこだよ! まだうっすらと黒いモヤみたいなのが……っ」


 シリウスが焦り、何度も指を突き出す。すると、横で何やら小さな機械をいじっていたミラが、身を乗り出すようにして空間を睨んだ。


「……師匠。そこにあるわ、私も見える」


「ミラも見えるのかい? 分かった。とりあえず、夜になってしまったから、早く小屋に行こう。魔物も集まってくるかも知れないからな、もしかしたら運命の導きかな。ミラと同じ何かの運命を背負った子なのかもしれないな……」 


 シリウスはミラの治療を受け、師匠の肩を借りながら、岩壁の影に建つ小さな小屋へと向かった。

 焚き火の爆ぜる音が夜の静寂に響く中、三人はようやく一息つく。


「俺、シリウスです。じいちゃんの家から旅に出たばかりで……」


「私はミラ、この人は師匠よ! ぶっきらぼうだけど、腕だけは確かだから」


 ミラが胸を張って紹介すると、師匠は遠くの空を見つめ、静かに語り出した。


「俺は、ここで、空から降ってきた『星の剣』の様子を見ているんだ。……昔、俺の仲間が空から落ちてきた剣を抜いてしまい、その魔力に心を乗っ取られた。今もどこかの村を襲っているかもしれないが、消息は不明だ。だからこの新しい剣を見つけた時、監視を決めた。抜こうにも重くてびくともしないが、邪悪な気配は感じないからな」


「へぇ……重くて抜けないなんて不思議だね。本当に、空から降ってきたの?」


 シリウスの純粋な疑問に、師匠は立ち上がり、顎で外の岩場を指した。


「あれが俺たちの家で、あっちの岩場にあるのがその剣だ。――言葉より、見せた方が早そうだな」


 三人は夜の岩場へと歩を進める。そこには、星明かりを吸い込んだように白銀に輝く一振りの剣が、大地に深く突き刺さっていた。


「ほら、見ていろ」


 師匠がその柄に手をかけ、全身の力を込めて引き抜こうとする。だが、岩場がミシミシと鳴るだけで、剣は一ミリも動かない。


「……こんなふうに、全く抜けそうにないんだ」

「ねぇ、僕もやっていい?」


 シリウスの申し出に、師匠は思わず吹き出した。


「はははっ、そうだね。抜けないっていう体験をするのもいい勉強だ。やってみなよ、もしかしたら抜けるかもしれないしな」


 冗談めかして笑う師匠と、後ろで見守るミラ。

 シリウスはごくりと唾を飲み、両手でしっかりと柄を握りしめた。


「――よいしょぉっ!」


 腹の底から声を振り絞り、思いっきり引っ張る。

 その瞬間、剣の刀身がキィィィンと澄んだ青い光を放った。


「……え?」


 抵抗は、一切なかった。

 まるで水面に刺した箸を抜くかのように、銀の剣がスルリと抜け、夜空を切ったのだ。


「あれ? 軽い! てか、抜けちゃったよ!」


 シリウスは歓喜の声を上げ、剣を高く掲げる。だが、喜びは一瞬だった。

 掲げた瞬間に青い光がフッと消失し、代わりに――惑星ひとつの質量が、少年の細い腕にのしかかった。


「って、あれ!? お、重い! た、助けて師匠ぉっ!!」

 凄まじい重圧に足元の岩が砕け、シリウスの体が地面にめり込みそうになる。


「急に重くなった! それに、光も消えちゃったよ!」


 顔を真っ赤にして叫ぶシリウスの姿を見て、師匠は目を見開き、それから深く納得したように頷いた。


「……なるほどな。どうやら、その剣は君を待っていたらしい。君の剣だったのか、シリウス」


 師匠は歩み寄り、崩れそうなシリウスを支えながら、その剣を預かった。


「よし、決めた。シリウス、君を鍛えよう! この剣を、君が自分の力で自在に振るえるようになるまでな」


 ミラが「ええっ、本気!?」と驚く中、師匠は力強くシリウスの肩を叩いた。


 見たこともない星空の下、少年と、二刀の師匠、そして科学の天才少女。

 三人の奇妙な、けれど壮大な修行の旅が、今ここから始まった。

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