ep13導きの水晶、三つの魔力と眠れる力
翌朝、洞窟の隙間から差し込む鋭い朝光がベガの瞼を叩いた。
「……ん、ふわぁ……」
大きく欠伸をしながら身を起こすと、視界の端で何かが規則的にまたたいている。
ミラだ。彼女は早朝だというのに、科学銃を改造している。その指先は相変わらず正確で、迷いがない。
視線を外へ向ければ、朝霧が立ち込める訓練所で、一振りの剣を振るう人影があった。シリウスだ。
「……おい、シリウス。お前、いつも朝起きるとそれやってるよな」
ベガが声をかけると、シリウスは切っ先をぴたりと止めて振り返った。額には薄っすらと汗が浮かんでいる。
「ああ、おはようベガ。……これか? 子供の頃からの癖なんだ。体を動かさないと、一日が始まった気がしなくてね」
ベガは岩壁にもたれかかり、シリウスの持つ一振りの剣をじっと見つめた。
「そういや、お前の剣……二本にしないのか? 昨日の戦闘じゃ、二本だったり一本だったりしてたよな」
「それなんだけど……」
シリウスは困ったように眉を下げ、手元の剣を見つめた。
「昔は一本で鍛えた後、この『重い星の剣』とおじいちゃんから貰った剣で、二本振ってたんだ。一本になってからは、朝はこうして一本で素振りをしているのが日常さ。……二本にする方法、実は未だによくわからないんだよ。どうも、自分の中で『二本』っていうイメージがしっくりこなくてね」
「ふーん、イメージか。……まあ、お前らしいな」
ベガが短く応じると、背後から賑やかな足音が近づいてきた。
「お! 起きたか、お前ら!」
やってきたのは解放軍のリーダーだ。豪快な笑みを浮かべ、三人の顔を見渡す。
「お前らにも『魔法』を教えてやろうと思ってな。魔法を使えれば魔法大国側でも歓迎されるだろう。まずは適性を見てやる。こっちに来な」
案内されたのは、拠点の一角にある古びた天幕だった。そこには一人の老婆が鎮座しており、目の前には淡く光る水晶球が置かれている。
「……まずは、お前からだ」
老婆に促され、ベガが水晶に手をかざす。すると、水晶の中に激しい紫の火花と、透き通るような白光が渦巻いた。
「ほう……『雷』と『光』か。破壊の資質じゃな。しかし、こんな光りかたしてたかのぉ」
次はミラだ。彼女がデバイスを片手に水晶へ触れると、内部がボッと赤く染まった。
「お嬢さんは炎?……。情熱的というよりは、全てを焼き尽くす効率的な火じゃな、しかし、光ったり光が弱くなったりなんじゃろうなぁ、わからん。それに、朝だからかのぉ、わしには随分眩しい光じゃ」
「うん。ミラのオーラも赤だったし、あれは炎をまとってたのかなぁ……巨大ロボのシールドを突き破って破壊してたしね!」
「そんな怖えぇのかよ! この女はっ」
最後にシリウスが手を置く。水晶は半分が、穏やかな青色に染まったが、その横に黒いものがうつし出されていた。
「おぬしは……『水』、いや『氷』かの。……だが、もう一つ……何かわからんが、底知れぬ『黒いもの』が見える、しかし、これも。こんな光りかたじゃったかのぉ……なんだか、光の本質が違うように感じる」
「黒いもの? なんだろう……」
「シリウスが青だってのは分かるけど、黒はないと思うわ。ベガが黒って言うなら分からなくもないけどね」
「おい、ミラ! 俺が黒とはどういう意味だよ! 光と雷。王子の俺にぴったりじゃねーか!」
老婆の言葉に、シリウスは自分の手を見つめ、わずかに表情を曇らせた。
「よし、素質は分かった! ならば実践だ!」
リーダーが強引に三人を作業場横の訓練所へと連れ出す。
「いいか、イメージしろ! 理屈じゃねえ、お前は魔法が使えるんだ。さあ、あの的に向かって放ってみな!」
「……そんな簡単に使えるものなのか?」
「そういうものだ。適正がない魔法は使えない。これがこの世の理だ」
ベガが半信半疑で右手を突き出す。だが、先ほどの「適性」という言葉が脳裏に焼き付いていた。
(雷……俺の剣に宿る、あの感覚を……手から直接!)
「くらえッ!」
ベガの叫びと共に、彼の素手からバチィィィッ! と激しい紫電が走り、標的の木人を粉砕した。
「すごい……それなら、私も」
ミラが冷静に腕を伸ばす。彼女の脳内では既に「燃焼」のプロセスが演算されていた。
「ファイアボール」
彼女の腕から放たれた火球は、一直線に空気を焼き、鮮やかな着弾音を響かせる。
最後に残ったシリウスは、目を閉じ、自分の中にある冷たい感覚を探った。
(水が、凍りつくイメージ……)
彼が手をかざすと、周囲の気温が急激に下がり、空間に巨大な氷の塊が生成された。それは朝日を浴びて、鋭く、そしてどこか悲しげに輝いている。
「……できた」
シリウスの呟きに、リーダーは満足げに頷いた。
「ハッ、上出来だ! だが、お前らの魔法ってなんか出てるところが違うんだよなぁ。よくわからんが、普通はそんな出方はしない。なんだか、お前らから出てるって感じに見えるんだよなぁ。まあ、できるんだから何の問題もないだろう……」
三人の手には、新しい「力」の感触が残っていた。しかし、シリウスだけは、老婆が言った「黒いもの」の正体が何なのか、拭いきれない不安を感じていた。
「よし、朝飯だ。戦時中でも飯だけはあるんだ。食ってきな!」
「うん」
「頂くぜ」
「ありがとう」




