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僕の願いが世界を変える──泥より出でて、泥に染まらぬもの  作者: 露隠とかず
サイドストーリー

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迷い子 ** 第13話 刧奪 えいじ目線 **

「ゔ、ぁ…っ」

「……」


 しんたろうの潰れた喉から、掠れた嗚咽が漏れる。

 乱暴に腰を掴む手に力を入れると、拒絶の言葉の代わりにしんたろうの体が震え、その度に涙が溢れていく。


 どうしたら俺は。

 どうすれば俺はお前のようになれる。

 どうして俺はお前と違う。


 お前から全て奪えば、お前も俺と同じように、同じ地獄へ堕ちてくるのか。


「寝てんじゃねえ。何度も言わせるな」

「あっ……ぅ…」


 頬を張って叩き起こすも、反応が鈍くなってきた。

 目から少しずつ光が失われていく。それは心が折れたのではなく、意識が途絶えようとしているからだ。

 無理やり自分を見るように何度も叩き起こしても、激痛が走るように壊し続けても、しんたろうの目の奥の光だけは消えなかった。

 全てを捨ててまでしんたろうを守り抜こうとした真一郎。そいつに育てられたしんたろうの心は少しも汚れない。どこまで痛めつけても折れない。


 散々俺を嬲った久是を殺せば、少しは気も晴れると思っていた。だが胸がすくどころか、更に澱が重なっただけだった。



「……胸糞悪い……やっと殺したのによ」


 呟くような小さい独り言を聞いたのか、しんたろうは目線を俺に向けた。

 涙に濡れ、視線が(うつろ)になりつつあるその目は、それでも強い力を失うことなく俺を見た。



 ──その、目が。


 人の心を知ろうとするその目が、心底気味悪くて余計に苛立つ。

 何故自分を貶める相手の心を知ろうとする。知る必要なんざねえだろ。

 お前も俺を憎めばいい。心から憎んで殺したいと願えばいい。そうなれば俺と同じになるのに。

 俺は何もいらない。何もかもぶち壊して焦土の上で世界を嘲笑ってやる。


 口を開こうとしたしんたろうの頭を思い切り殴りつけると、とうとう気を失った。


 目を閉じたその顔に、涙で濡れたその頬に、俺は無意識に手を伸ばしかけて力尽くで止めた。

 手を引くとそのまま頭を両腕で覆う。


 もう、これで。

 これでしんたろうは、二度と俺の心を知ろうとなどしなくなるだろう。自分の心を壊した男のことなど、知りたくもない、はずだ。


「……畜生…」


 胸の奥から込み上げる暗澹としたものを、歯噛みしながら飲み込んだ。



 ***



 俺を抱きしめる寿の背を軽く撫ぜる。子どものように高い体温が心地いい。


 寿の肩越しに最期に見た世界は、夜明けの空は、水面のように蒼く美しかった。

 温かな光が満ちて、俺は目を細める。



「こと、ぶき…お前に」






(心を奪われるとはな)

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